解雇・退職理由証明書に国籍・宗教・政治思想等が記載された場合

(2)個人的特性を証明書に記述しないよう「書面」で申し入れる

(1)のような要請をあらかじめしなかったため使用者から個人の政治思想や思想信条、国籍や本籍、病気や障害、信仰や性的特性などが記載された退職理由証明書や解雇理由証明書が交付されてしまった場合、またあらかじめ(1)のような要請をしていたにもかかわらずそのような特性が記述された証明書が交付された場合には、使用者に対してそのような特性を記載しない証明書を交付するよう求める「書面」を作成して会社に送付するというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

前述したように、労働者の個人的特性を記載する必要性がないにもかかわらずあえて記載するような会社は、労働者に意図的に不利益を与える(嫌がらせ)ことが目的となっている場合がほとんどだと思われますが、そのような不当な目的を持った会社に対して「訂正しろ」と頼んだところで相手にされないことが多いと思います。

しかし、書面(通知書・申入書)を作成して正式にその訂正や再交付を求めれば、将来的な裁判や行政機関への相談を警戒してそれまでの態度を改め、退職理由証明書や解雇理由証明書の訂正や再交付に応じる使用者もありますので、とりあえず書面でその違法性を指摘してみるというのも対処法うとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、この場合に使用者に送付する通知書・申入書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

労働基準法第22条所定の証明書の交付を求める申入書

私は、〇年10月10日、同月末日をもって退職する旨の意思表示を行った際、貴社に対して労働基準法第22条所定の証明書を交付するよう要請いたしました。

この要請に対して、貴社からは、同月31日に当該証明書の交付がなされましたが、当該証明書には、私が○○教の信者である旨記述された箇所がありました。

しかしながら、私がどこの宗教団体に籍を置いているかという信仰の問題は私の退職事由とは関係がなく、また私は当該証明書の交付を要請する際に当時上司であった○○氏に対して信仰については証明書に記入しないよう要請していましたから、かかる内容が記述された証明書を貴社が交付することは、「労働者の請求しない事項を記入してはならない」と規定した労働基準法第22条第3項に違反します。

したがって、貴社は、労働基準法第22条所定の証明書の交付を未だ履行していないことになりますから、私の信仰について記述しない証明書を直ちに交付するよう、本通知書をもって改めて申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。

(3)労働基準監督署に違法行為の申告を行う

使用者から個人の政治思想や思想信条、国籍や本籍、病気や障害、信仰や性的特性などが記載された退職理由証明書や解雇理由証明書が交付されてしまった場合において、使用者がその訂正や再交付に応じない場合には、労働基準監督署に違法行為の申告を行うというのも対処法の一つとして有効な場合があります。

先ほども説明したように労働基準法第22条第3項は「労働者の請求しない事項を記入してはならない」と規定していますから、その労働者の意思に反して政治思想や思想信条、国籍や本籍、病気や障害、信仰や性的特性などを使用者が退職理由証明書や解雇理由証明書に記載して交付してきた場合には、その使用者は労働基準法違反の状態にあることになります。

この点、労働基準法第104条は使用者が労働基準法違反の状態にある場合に労働者から労働基準監督署に違法行為の申告を行うことを認めていますが、労働者の申告によって労働基準監督署から調査や勧告が行われてその監督署の指示に使用者が従うような場合には、労働基準監督署の手続きを介して使用者の態度を改めさせ、そのような特性を記載していない証明書の交付を促すことも期待できますので、このようなケースで労働基準監督署への申告を行うというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

【労働基準法第104条1項】

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:神奈川県相模原市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 一郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:神奈川県川崎市〇町〇番〇号
名 称:株式会社 甲
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(←注1)
役 職:グループリーダー
職 種:プログラミング

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法22条第3項

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年11月10日、病気療養を理由に同月末日で退職したい旨の告知を行い、同年11月30日付で違反者を退職した。
・申告者はこの退職の申し出に際し、違反者に対して、「退職の事由について病気の詳細は具体的に記載しないでほしい」旨申し添えたうえで労働基準法第22条所定の証明書を交付するよう、総務部の○○氏に口頭で伝えた。
・違反者は同年11月31日、退職の事由について「○○病を発症したことを理由とした自己都合退職」と記載された退職理由証明書を申告者に交付した。
・申告者はあらかじめ退職の事由について病気の詳細を記載しないよう請求しているから、退職の事由として申告者が発症した病名を記入した証明書を交付した違反者の行為は労働基準法第22条第3項に違反する。

添付書類等
・違反者から交付された退職理由証明書の写し……1通(←注2)

備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(他の労働者が別件で労基署に申告した際、違反者の役員が自宅に押し掛けて恫喝するなどの事例が過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)

以上

※注1:契約社員やアルバイトなど期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)の場合には、「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。

※注2:労働基準監督署への申告に添付書類の提出は必須ではありませんので添付する書類がない場合は添付しなくても構いません。なお、添付書類の原本は将来的に裁判になった場合に証拠として利用する可能性がありますので必ず「写し」を添付するようにしてください。

※注3:労働基準監督署に違法行為の申告を行った場合、その報復に会社が不当な行為をしてくる場合がありますので、労働基準監督署に申告したこと自体を会社に知られたくない場合は備考の欄に上記のような文章を記載してください。申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は「特になし」と記載しても構いません。

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退職理由証明書や解雇理由証明書に労働者の請求に反して国籍や宗教、病気や障害、性的特性などが記載された場合のその他の対処法

これら以外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは