台風や豪雨災害で会社が休業しても賃金や休業手当をもらえるか

台風や大雨等の豪雨災害の影響で会社が操業を一定期間停止し、仕事が休みになる場合があります。

たとえば、大雨等の豪雨災害の影響で工場が床上浸水して製造ラインがストップしたり、土砂崩れの影響で道路が寸断され物資の搬入が困難になって一定期間休業する場合や、台風の通過が予想される時間帯に会社が休業を決定して仕事が休みになるようなケースです。

このような休業は、会社に何らかの責任があったり、会社の都合によって休業になったものではなく、ある種の不可抗力によって生じた休業と言えますから、そのような会社に帰責性のない休業の場合にまで休業期間中の賃金や休業手当を請求してしまうのは、気が引けてしまう人もいるかもしれません。

しかし、労働者は会社から給付される給料で生活を営んでいるわけですから、そのような会社に帰責性のない休業とはいっても、その休業期間中の賃金や休業手当が一切支払われないとすれば、生活が立ち行かなくなり生活自体が破綻してしまう危険性も生じてしまうでしょう。

では、実際にそのような大雨や豪雨、台風等の災害の影響で会社が休業になった場合、労働者は会社に対してその休業期間中の賃金や休業手当の支払いを請求できるものなのでしょうか。

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個別の契約や就業規則等で合意があれば台風や豪雨災害による休業であっても「賃金の全額」や「休業手当」の支払いを請求できる

このように、大雨や豪雨、台風などの自然災害の影響で会社が休業になった場合に、その休業期間中の賃金や休業手当の支払いを求めることができるかという点が問題となりますが、その請求ができるか否かは一義的には使用者(雇い主)と労働者の間でどのような合意がなされているかによって判断されることになります。

つまり、個別の雇用契約(労働契約)や就業規則等で豪雨や台風等の影響で会社が休業した場合であっても賃金や休業手当が支払われる旨の合意がなされていれば、労働者は会社に対してその休業期間中の賃金や休業手当を請求できるということになるわけです。

具体的には、

  • 「会社は天災事変などの不可抗力によって生じた休業の場合も賃金を支払う」
  • 「会社は天災事変などの不可抗力によって生じた休業の場合も平均賃金の〇割の休業手当を支払う」

などと雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書、あるいは会社の就業規則や労働協約に規定されている場合には、その内容が労働契約の内容となって当事者を拘束することになりますので、そのような規定があれば労働者は会社に対して休業期間中の「賃金」や「休業手当」の支払いを請求することができることになります。

ですから、大雨や台風の影響で会社が休業になった場合には、まず入社する際に会社から交付を受けた雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書、あるいは会社の就業規則や労働協約にこれらの規定がないか確認することがまず必要です。

※雇用契約書や就業規則などの確認方法については以下のページ等を参照してください。

そして、それを確認してもそのような規定がない場合には、以下で説明する法律上の基準に従って個別に検討し、休業手当の請求ができないか判断することが必要となります。

なお、個別の雇用契約や就業規則等にこのような賃金や休業手当の支払いに関する規定があるにもかかわらず会社がその支払いをしない場合の対処法については『災害による休業で就業規則等に定められた手当が支払われない場合』のページで詳しく解説しています。

個別の雇用契約や就業規則等で合意がない場合、台風や大雨による休業期間中の賃金や休業手当を請求することができるか

このように、大雨や豪雨、台風などの災害の影響で勤務先の会社が休業した場合に、その休業期間中の賃金や休業手当の支払いを受けることができるか、という点については一義的には使用者(雇い主)と労働者の間で取り交わされた合意の内容によって判断されますが、そのような合意がない場合には法律上の基準によって請求できるか否かが決定されます。

この点、法律上のこの論点は大雨や豪雨、台風などの自然災害の影響で会社が休業した場合に「賃金」を請求できるかという論点と「休業手当」の支払いを請求できるかという論点に分けて考える必要がありますので、それぞれに分けて検討してみます。

(1)大雨等の休業期間中の「賃金」は請求できない

まず、大雨や豪雨、台風などの災害の影響で会社が休業になった場合に、会社に対してその休業期間中の「賃金」の支払いを求めることができるか、という点が問題となりますが、このような場合「賃金」を支払ってもらうことはできません。

なぜなら、会社が休業した場合にその休業期間中の「賃金」の支払いを求める場合に根拠となる債権者の危険負担を規定した民法第536条2項の規定では「債権者の責めに帰すべき事由」がある場合に限ってその反対給付の請求が認められるからです。

【民法第536条2項】

(債務者の危険負担等)
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。(後段省略)

この民法第536条2項の規定を雇用契約(労働契約)に当てはめた場合、

「会社の責めに帰すべき事由によって労働者が働くことができなくなったときは、労働者は給料の支払いを受ける権利を失わない」

という文章になりますから、たとえ会社の都合で休業になった場合であっても、労働者はこの民法第536条2項の規定を根拠にしてその休業期間中の「賃金」の全額の支払いを求めることが可能です。

しかし、民法第536条2項の規定はあくまでも「債権者の責めに帰すべき事由」による場合、つまり「会社の責めに帰すべき事由」で休業になった場合の規定に過ぎず、「会社の責めに帰すべき事由ではない事由(会社の都合によらない事由)」によって休業になった場合にまで債務者(雇用契約では労働者)の反対給付(雇用契約では賃金)の請求を認める趣旨で規定されたものではありません(※詳細は→会社都合の休業で会社に請求できる給料の金額はいくらか)。

ですから、「会社の都合によらない休業」の場合には、民法第536条2項の規定は適用されませんから、労働者は民法第536条2項の規定を根拠にして会社に対してその休業期間中の「賃金」の支払いを求めることはできないということになるのです。

この点、大雨や豪雨、台風などの災害によって休業した場合を考えると、その大雨や台風は「会社の都合」によって引き起こされたものではなく、天災事変という「不可抗力」によって生じたものと言えますから、その大雨や台風の影響で行われた会社の休業は「会社の責めに帰すべきではない事由による休業(会社の都合によらない休業)」といえます。

大雨や台風の影響で会社が休業したことが「会社の責めに帰すべきではない事由(会社の都合によらない休業)」によるのであれば、今説明したように民法第536条2項の規定は適用されないことになりますから、大雨や台風の影響で会社が休業した場合には、労働者はその休業期間中の「賃金」の支払いを求めることはできない、という結論になります。

(2)大雨等の休業期間中の「休業手当」は請求できる場合もある

では、大雨や台風の影響で会社が休業した場合にその休業期間中の「休業手当」の支払いを使用者(雇い主)に求めることはできるでしょうか。

使用者(雇い主)が休業した場合における休業手当については労働基準法の第26条に規定がありますので、大雨や台風の影響で会社が休業した場合にその休業期間中の「休業手当」を労働基準法第26条の規定を根拠にして会社に請求できるかという点が問題となります。

【労働基準法第26条】

(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

ア)豪雨・大雨や台風による休業では「休業手当」は請求できないのが原則

この点、上に挙げた労働基準法第26条の条文を見てもわかるように、休業手当の支払いは「使用者の責めに帰すべき事由」による休業の場合に限って使用者にその支払いが義務付けられています。

しかし、豪雨災害や台風、大雨被害等の自然災害は会社が引き起こしたものではなく、純粋に不可抗力とよべるものですから、仮にその災害が原因で会社が休業したとしても「使用者の責めに帰すべき事由」によって休業になったものとは言えません。

ですから、豪雨・大雨や台風の影響で会社が休業した場合には、基本的に労働基準法第26条の適用はなく、会社は労働者に対して平均賃金の6割の「休業手当」を支払う義務を負担しませんから、労働者は会社に対してその休業期間中の「休業手当」の支払いを請求できないのが原則的な考え方となります。

ただし、大雨や台風といった天災事変などの不可抗力であっても、その休業に至った原因について会社の経営者に求められる通常の注意義務を払えば容易に回避できるものであった場合には、その休業に際して会社は休業手当を支払わなければなりません。ですから、たとえば台風が来るのが分かっていながら会社の指示で川沿いの工事現場に重機を置きっぱなしにした結果、重機が流されてしまったことを理由に休業するようなケースでは、重機が流されてしまうのは普通に考えれば予測できるのでその会社の労働者は休業期間中の「休業手当」の支払いを請求できるものと考えられます。

イ)「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない場合」には、休業期間中の「休業手当」を請求できる(場合がある)

このように、大雨や台風の影響で会社が休業した場合には、労働基準法第26条の適用は排除されるのが通常ですから、労働者は大雨や台風の影響で会社が休業した休業期間中の「休業手当」の支払いを会社に対して請求することはできないのが原則です。

もっとも、だからといって大雨や台風によって生じた休業の場合に必ずしも労働基準法第26条の規定の適用がないわけではありません。大雨や台風による休業であっても場合によっては「経営上の障害」と言える事情によって会社が休業になる場合もあるからです。

具体的には「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない(事実上の障害が発生していい)」にもかかわらず会社が休業するようなケースです。

たとえば、大雨や台風によってコンビニが休業する場合であっても、風雨の影響で開店が事実上困難であったり、コンビニの店舗自体が床上浸水したり、土砂崩れで押しつぶされたりしているような「会社の施設や設備に直接的な被害が発生している」場合には「経営上の障害」で休業するわけではなく、大雨や台風による「事実上の障害」によって休業せざるを得ない状況に置かれているといえますから、その休業は「使用者の責めに帰すべき事由」による休業とまでは言えません。

一方、これに対して大雨や台風でコンビニ自体が「直接的な被害を受けていない(事実上の障害を受けていない)」場合に来店客の減少が見込まれるために経費を削減するためにあえて休業するようなケースであれば、それは「経営上の障害」を理由に休業するということですから、「使用者の責めに帰すべき事由」による休業と判断して、労働者の生活を保護するために会社に「休業手当」の支払いを義務付けても会社に酷な結果になるとはいえません。

むしろ「会社の施設や設備に直接的な被害(事実上の障害)が発生していない」のであれば、その会社は休業しなくても会社の業務を行うことは特段の事情がない限り可能なのですから、それでも休業したというのであれば「使用者の責めに帰すべき事由」によって休業したと判断すべきでしょう。

ですから、大雨や台風の影響があったとしも、それが「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない」状況で行われた休業である場合には、労働者は会社に対して労働基準法第26条を根拠にして平均賃金の6割の「休業手当」の支払いを請求できるというのが基本的な考え方となります。

※なお、このように会社の施設や設備に直接的な被害がないにもかかわらず会社が休業手当を支払わない場合の対処法については『災害で直接的被害のない会社が休業して休業手当を支払わない場合』のページで詳しく解説しています。

ウ)ただし、「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」を理由に休業する場合は「休業手当」の支払いを請求することはできない

以上で説明したように、大雨や豪雨、台風といった天災事変などの不可抗力の影響で会社が休業する場合には、基本的に「使用者の責めに帰すべき事由」があるとは言えませんから、労働者は会社に対してその休業期間中の「休業手当」の支払いを請求することはできませんが、その休業が「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない(事実上の障害が発生していない)」状況で行われたものである場合には、例外的に労働者は休業期間中の「休業手当」の支払いを請求できるものと考えられます。

ただし、「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない」場合であっても、その休業の原因が「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」である場合には、労働者は会社に対してその休業期間中の「休業手当」の支払いを請求できないものと考えられます。

なぜなら、「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」は、会社としては避けようと思っても避けられないわけですから、そのような回避できない障害によって発生した休業の場合にまで「休業手当」の支払いを義務付けることは会社に対してあまりにも酷な結果となってしまうからです。

ですから、たとえば大雨や豪雨、台風などの災害の影響でコンビニ自体に直接的な被害が出ていない(事実上の障害が発生していない)ものの、土砂崩れで道路が寸断されて商品の搬入ができない状況がある場合において、その道路の寸断や商品の搬入困難の状況が発生することについてコンビニの経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような事情があるようなケースでは、労働者は労働基準法第26条を根拠にその休業期間中の「休業手当」の支払いを請求することはできないということになるでしょう。

もっとも、このようなケースであっても、たとえば道路が寸断されても別ルートで搬入が可能であったり、災害が発生する前に商品を搬入するなど商品の搬入に係る代替え手段の準備が可能であるようなケースであれば、その土砂崩れで道路が寸断されて商品の搬入ができないという状況は経営者側の事前の判断で避けることができたと考えられますから、そのようなケースであれば、前述した(イ)のとおり、労働者は休業期間中の「休業手当」の支払いを請求できるものと考えられますのでその点は注意が必要です。

いずれにせよ、この「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」があるかないかは判断が難しく、事案によって判断が異なりますので、大雨や台風の影響で会社に直接的な被害が生じていない(事実上の障害が発生していない)にもかかわらず休業になり会社から休業手当の支給もない場合には、弁護士等の法律専門家に相談して適切なアドバイスを受けることも時によって必要になるかもしれません。

なお、この点については厚生労働省の作成した資料で詳しく解説されています(※参考→東日本大震災に伴う労働基準法等に関するQ&A(第3版)|厚生労働省)。

豪雨や大雨、台風等の自然災害の影響による休業で会社に賃金または休業手当の請求ができるか(その判断基準まとめ)

以上をまとめると、以下のようになります。

【大雨・豪雨台風等の影響で会社が休業になった場合の「賃金」と「休業手当」の取り扱い】

1.休業期間中の「賃金」を請求することができるか

(1)雇用契約書や就業規則等で賃金の支給に関する規定がある場合

  • 雇用契約書や就業規則等で規定された基準で「賃金」の支払いを求めることができる。

(2)雇用契約書や就業規則等で賃金の支給に関する規定がない場合

  • 会社に民法第536条2項の「責めに帰すべき事由」はないので労働者はその休業期間中の「賃金」の支払いを求めることはできない。

2.休業期間中の「休業手当」を請求することができるか

(1)雇用契約書や就業規則等で休業手当の支給に関する規定がある場合

  • 雇用契約書や就業規則等で規定された基準で「休業手当」の支払いを求めることができる。

(2)雇用契約書や就業規則等で休業手当の支給に関する規定がない場合

  • 原則
    会社に労働基準法第26条の「責めに帰すべき事由」はないので労働者はその休業期間中の「休業手当」の支払いを請求することはできない。
  • 例外
    「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない(事実上の障害が発生していない)」場合には、会社に労働基準法第26条の「責めに帰すべき事由」があると判断できるので労働者はその休業期間中の「休業手当」の支払いを請求することができる(場合がある)。
  • 例外の例外
    ただし、その休業が「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」によって生じたものである場合には、会社に労働基準法第26条の「責めに帰すべき事由」がないと判断されるので労働者はその休業期間中の「休業手当」の支払いを請求することはできない。