地震などの災害で会社が休業しても賃金や休業手当は支払われるか

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地震など自然災害の影響で会社が休業になる場合があります。

たとえば、地震の揺れで会社の工作機械が壊れて作業ができなくなったり、商品が落っこちて店舗の営業ができなくなったり、道路が寸断されて原材料の搬入が困難になって製造ラインがストップしたり、津波で会社が流されたり、原発事故で会社が立ち入り禁止区域に指定されたりして、会社(個人事業主も含む)が一定期間休業するようなケースが代表的です。

このような地震の影響による休業が行われれば当然、そこで働く労働者はその休業期間仕事が休みになりますが、その休業期間中の賃金が支払われないとなれば生活費の不足に陥り生活が破綻してしまう懸念も生じてしまいます。

では、このように地震など自然災害の影響で会社が休業した場合、その休業期間中の賃金や休業手当を支払ってもらうことはできるのでしょうか?

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個別の契約や就業規則等で合意があれば地震を理由とする休業でも「賃金の全額」や「休業手当」の支払いを求めることができる

このように、地震など自然災害の影響で会社が休業になった場合に会社に対してその休業期間中の賃金や休業手当を請求することができるのかという点が問題となりますが、この点は一義的には使用者(雇い主)と労働者の間でどのような合意が結ばれているのかといった点で判断されることになります。

つまり、会社(個人事業主も含む)と労働者の間で地震の影響で会社が休業した場合にも「賃金」や「休業手当」を支払うという合意が結ばれている場合には、労働者は地震などの災害の影響で会社が休業した場合であっても、会社に対してその休業期間中の「賃金」または「休業手当」の支払いを求めることができるということになるのです。

ですから、たとえば労働者が入社する際に会社との間で

  • 「地震その他の天災事変等の不可抗力によって会社が休業した場合は当該休業期間中の賃金の全額を支払う」
  • 「天災事変等の不可抗力で休業する場合であっても会社は平均賃金の6割の休業手当を支払う」

などという内容で合意している事実がある場合には、その合意した内容が労働契約の内容となって当事者を拘束することになりますので、このような合意があるケースでは労働者は地震の影響で会社が休業した場合であっても前述した法律上の基準にかかわらず会社に対してその休業期間中の「賃金」あるいは「休業手当」の支払いを求めることができるということになります。

※この点、後述するように、地震等の災害で会社が休業する場合に「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない場合」にはその会社には休業手当の支払いが基本的に義務付けられることになりますが、その場合は労働基準法第26条の規定から最低でも「平均賃金の6割」の休業手当が支払われなければなりません。

ですから、仮に「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない場合」に該当する会社において、使用者と労働者の間でたとえば

「地震で休業する場合、会社は平均賃金の5割の休業手当を支払う」

という内容で合意されていたとしても、会社は「平均賃金の6割」の休業手当を支払わなければなりませんので、労働者はその使用者との合意にかかわらず会社に対して「平均賃金の6割」の休業手当の支払いを求めることができることになります。

なお、このような合意が雇用契約(労働契約)の内容になっているかいないかについては

などの記載によって確認できますので、地震の際の休業で会社から賃金や休業手当の支払いを拒否された場合は、これらの書面に休業期間中の賃金や休業手当の請求の根拠となる規定がないか確認することがまず必要です。

そして、その確認を行ってもそのような合意がない場合にはじめて、以下で解説する法律上の基準を基に会社から休業手当の支払いを受けられないか検討することになります。

なお、個別の雇用契約や就業規則等にこのような賃金や休業手当の支払いに関する規定があるにもかかわらず会社がその支払いをしない場合の対処法については『災害による休業で就業規則等に定められた手当が支払われない場合』のページで詳しく解説しています。

地震などの休業に関して個別の契約や就業規則等で合意がない場合、休業期間中の賃金や休業手当を支払ってもらえるか

このように、地震など自然災害の影響で会社が休業になった場合に労働者が会社に対してその休業期間中の賃金や休業手当を請求することができるかという問題は一義的には会社と労働者の間で結ばれた合意によって決定されますが、そのような合意がない場合(契約書や就業規則等に前述したような賃金や休業手当の支払いに関する規定がない場合)には法律で定められた基準によって決定されることになります。

この点、この問題の法律上の基準は休業期間中の「賃金」を請求できるかという問題と「休業手当」を請求できるかという問題に分けて考える必要がありますので、以下(1)と(2)にそれぞれ分けて検討することにいたします。

(1)地震による休業期間中の「賃金」は請求できない

まず、地震など自然災害の影響で会社が休業した場合に労働者がその休業期間中の「賃金」の支払いを会社に求めることができるかという点について検討してみますが、結論から言うとできません。

なぜなら、この問題は民法の契約法における「危険負担」の問題として考えることができますが、このような契約上の債権者側に帰責事由のない事由で債務者の履行ができなくなった場合、債務者は反対給付を請求権を行使する権利を失ってしまうからです(民法第536条2項)。

【民法第536条2項】

(債務者の危険負担等)
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。(後段省略)

契約当事者の双方が権利と義務を負担する双務契約では、債務者はその債務を履行する代わりに債権者から反対給付を受ける権利を有していますが、その債務者の反対給付請求権は債務の履行と不可分なので債務の履行ができなくなったときは反対給付請求権を行使することができなくなってしまいます。

しかし、「債権者の責めに帰すべき事由」つまり債権者に帰責事由のある行為によって債務者の債務の履行が不能になった場合にまで債務者がその反対給付請求権を失うとなれば債務者に不公平な結果となって不都合になります。

そのため、その債務者に生じた反対給付請求権を失ってしまうという危険の負担を債権者側に転嫁して、債権者の反対給付請求権の行使をできるようにするために、危険負担の規定となる民法第536条2項の規定が置かれているわけです。

雇用契約(労働契約)で例えると、「会社の責めに帰すべき事由」によって休業になった場合、つまり「会社の都合で休業になった場合」であっても労働者がその休業期間中の賃金の支払いを会社に対して求めることができるということになりますので、そうすることで会社の都合で労働力を提供することができなくなった労働者を保護しているのが民法第536条2項の規定ということになります。

しかし、この民法第536条2項の規定はあくまでも「債権者の責めに帰すべき事由」によって債務者が債務の履行ができなくなった場合において債務者の危険負担を債権者に転嫁することを認めているだけですから「債権者の責めに帰すべき事由ではない事由」によって債務者が債務の履行をできなくなった場合にまで債務者の反対給付請求権の行使を認めることはできません。

つまり、雇用契約(労働契約)でたとえれば、「会社の責めに帰すべき事由ではない事由」つまり「会社の都合によらない休業」の場合にまで民法第536条2項の規定を適用して労働者の賃金支払い請求権を認めることはできないわけです。

この点、地震の影響で会社が休業する場合には、その地震という事象は会社が引き起こした事象ではなく、地震によって引き起こされた被害に「会社の責めに帰すべき事由」は存在しないのが通常ですから、地震の影響で会社が休業した場合の休業については「会社の責めに帰すべき事由ではない事由」つまり「会社の都合によらない休業」ということになりますので民法第536条2項を適用することはできなくなります。

そのため、地震の影響で会社が休業した場合には、労働者はその休業期間中の賃金の支払いを会社に対して求めることはできないという結論になるのです。

(2)地震による休業期間中の「休業手当」は請求できる場合もある

では、地震の影響で会社が休業した場合、労働者は会社に対してその休業期間中の「休業手当」の支払いを求めることができるでしょうか。

使用者(個人事業主も含む)が休業した場合に支給される休業手当については労働基準法第26条に規定がありますので、地震の影響で会社が休業した場合にもこの規定が適用できるのか検討してみましょう。

【労働基準法第26条】

(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない

(ア)地震の場合は休業手当は支払ってもらえないのが原則

この点、上に挙げた労働基準法第26条の条文を見てもわかるように、休業手当は「使用者の責めに帰すべき事由」による休業の場合に限って使用者(雇い主)にその支払いが義務付けられています。

しかし、先ほども述べたように「地震」は会社が引き起こしたものではなく純粋に天災事変という不可抗力と呼ぶことができるものですから、地震の影響で生じた会社の休業は「会社の責めに帰すべき事由」つまり「会社の都合による休業」とは言えません。

労働基準法第26条の休業手当の規定は「使用者の責めに帰すべき事由」というもっぱら使用者側の勝手な都合で仕事ができなくなって賃金の支払いを受けることができなくなった労働者の最低生活を保障するためのものですが、「使用者の責めに帰すべきではない事由」と言えるような地震という不可抗力の場合にまで使用者に休業手当の支払いを義務付けてしまうと、使用者に一方的に酷な結果となり本来公平であるべき雇用契約関係が損なわれてしまいます。

ですから、地震などの天災事変の影響で会社が休業した場合には「使用者の責めに帰すべき事由」は存在せず、労働基準法第26条の適用はありませんから、労働者はその休業期間中の「休業手当」の支払いを会社に対して求めることはできないというのが基本的な考え方となります。

(イ)「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない場合」には、休業手当を請求できる

(ア)で説明したように地震は「会社の責めに帰すべき事由」によって引き起こされる性質のものではありませんから、地震の影響で会社が休業になった場合に労働者はその休業期間中の「休業手当」の支払いを請求できないのが原則です。

もっとも、だからといって必ずしも地震によって生じる休業のすべてのケースで労働者が休業手当の支払いを請求することができないというわけではありません。

「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない場合」には、その休業は「経営上の障害」によって行われたものと評価することができ、それは「債権者の責めに帰すべき事由」による休業として労働基準法第26条の適用要件を満たすことになるからです。

(ア)でも説明したように、地震が原因で休業になった場合に労働基準法第26条を適用して休業手当の支払いを求めることができないのは、その休業の原因がもっぱら不可抗力によるものであり、「使用者の責めに帰すべき事由」には該当しないと考えられるからにすぎません。

しかし、「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない場合」には、会社は営業をしようと思えばすることができるわけですから、それでもなお休業するというのならそれは「経営上の障害」で休業しているにすぎず、地震という「事実上の障害」によって休業しているわけではありませんので、その休業は「債権者の責めに帰すべき事由」によって行われる休業と評価することができます。

たとえば、地震によって会社が倒壊したり津波によって会社が流されてしまうなど「会社の施設や設備に直接的な被害が発生している」状況で会社が休業するような場合には、その休業はという事実上の障害によってやむを得ず選択されたものと言えますから、「使用者の責めに帰すべき事由」による休業とは言えませんが、地震や津波は直接的に会社には影響を与えておらず「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない場合」において会社が「今営業をしても地震の被害でお客さんこないだろうからしばらく休業しよう」と考えて会社の業務を休業させたようなケースでは、会社は自社の理業利益の減少を目的に休業しているだけであり「経営上の障害」を理由に休業しているにすぎませんから、その場合の休業は「債権者の責めに帰すべき事由」による休業と評価することができるでしょう。

そうであれば、「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない場合」の休業を「債権者の責めに帰すべき事由」による休業と評価して労働基準法第26条を適用し会社に休業手当の支払いを義務付けても労働者との公平性を考えて会社側に一方的に酷な結果とはならないと言えます。

ですから、このようにたとえ地震の影響で会社が休業した場合であっても、「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない場合」において休業が行われる場合には、労働者は労働基準法第26条を根拠にしてその休業期間中の「休業手当」の支払いを会社に対して求めることができるということになります。

なお、このように会社の施設や設備に直接的な被害がないにもかかわらず会社が休業手当を支払わない場合の対処法については『災害で直接的被害のない会社が休業して休業手当を支払わない場合』のページで詳しく解説しています。

(ウ)ただし「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」による休業の場合は休業手当を請求できない

以上の(ア)(イ)で説明したように、地震の影響で会社が休業した場合にはその休業は「使用者の責めに帰すべき事由」による休業には当たらないので労働基準法第26条を根拠にして休業手当の支払いを求めることはできませんが、その会社の休業が「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない」にもかかわらず行われたものである場合には「経営上の障害」によって休業がなされていると言えますのでその休業は「責めに帰すべき事由」と言えることになるため、労働者は会社に対してその休業期間中の休業手当の支払いを求めることができるものと考えられます。

だだし、(イ)の例外として、地震の影響で「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない場合」に会社が休業した場合であっても、労働者が労働基準法第26条を根拠にして会社に休業手当の支払いを求めることができないケースがあります。「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」によって会社が休業するような場合です。

先ほどの(イ)で説明したように「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない場合」に会社が休業した場合には「使用者の責めに帰すべき事由」による休業として労働基準法第26条を根拠に労働者は休業手当の支払いを求めることができました。

しかし、「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない場合」において会社が休業する場合であってもその直接的な損害が「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」によるものであった場合にはその損害(障害)を原因とした休業は「使用者の責めに帰すべき事由」による休業とは言えません。「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」は会社としては避けようとしても避けることができず会社側に帰責事由はないと判断できるからです。

たとえば、地震の影響があったもののコンビニの店舗自体には何の損害も出ていないような状況で、道路が土砂崩れで寸断されたためそのコンビニに商品を輸送している運送会社のトラックが商品を配送できないためにコンビニが休業を決定したようなケースで考えると、通常は地震が起きて道路が寸断されてしまうことは予測できませんから、その「商品が配送されなくなったこと」という休業の原因は「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」ということが言えるでしょう。

会社が休業した原因が「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」によるものであればそこには会社の経営者の「責めに帰すべき事由」があるとは言えませんので労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」もないと判断されますから労働基準法第26条の適用は排除されます。

ですから、仮に地震の影響で会社が休業し、その「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない」ような状況があったとしても、その休業した原因が「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」によるものである場合には、労働者は労働基準法第26条を根拠に会社に対してその休業期間中の休業手当の支払いを請求することができないということになります。

もっとも、先ほどのコンビニの休業の例の場合であっても、たとえば道路が寸断しても他の輸送ルートで商品の搬入が可能であったり、在庫の調整で店舗の営業が可能であったりするようなケースではそのような代替え手段で休業を回避することができると判断することもできることから「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」があったとは認められず、その休業が「債権者の責めに帰すべき事由」によってなされたものとして労働基準法第26条の適用が認められ労働者が会社に対してその休業期間中の休業手当の支払いを求めることができるケースもありますので、その点はケースバイケースで判断するしかありません。

そのため、この「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」があったかなかったかの判断は微妙な部分もありますから、この点で休業手当の支払いについて会社側と意見の相違が生じる場合には弁護士等の法律専門家に相談して会社側の主張が適切なのかアドバイスを求めることも考える必要があるでしょう。

なお、以上の点については厚生労働省の作成した資料で詳しく解説されています(※参考→東日本大震災に伴う労働基準法等に関するQ&A(第3版)|厚生労働省)。

地震等の影響による休業で会社に賃金または休業手当の請求ができるか(その判断基準まとめ)

以上をまとめると、以下のようになります。

【地震等の影響で会社が休業になった場合の「賃金」と「休業手当」の取り扱い】

1.休業期間中の「賃金」を請求することができるか

(1)雇用契約書や就業規則等で賃金の支給に関する規定がある場合

  • 雇用契約書や就業規則等で規定された基準で「賃金」の支払いを求めることができる。

(2)雇用契約書や就業規則等で賃金の支給に関する規定がない場合

  • 会社に民法第536条2項の「責めに帰すべき事由」はないので労働者はその休業期間中の「賃金」の支払いを求めることはできない。

2.休業期間中の「休業手当」を請求することができるか

(1)雇用契約書や就業規則等で休業手当の支給に関する規定がある場合

  • 雇用契約書や就業規則等で規定された基準で「休業手当」の支払いを求めることができる。

(2)雇用契約書や就業規則等で休業手当の支給に関する規定がない場合

  • 原則
    会社に労働基準法第26条の「責めに帰すべき事由」はないので労働者はその休業期間中の「休業手当」の支払いを請求することはできない。
  • 例外
    「会社の施設や設備に直接的な被害が発生していない」場合には、会社に労働基準法第26条の「責めに帰すべき事由」があると判断できるので労働者はその休業期間中の「休業手当」の支払いを請求することができる。
  • 例外の例外
    ただし、その休業が「経営者が通常の注意義務を払っても予測できないような障害」によって生じたものである場合には、労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」がないので労働者はその休業期間中の「休業手当」の支払いを請求できない。