国籍や人種を理由に面接の応募や採用を拒否された場合の対処法

イ)厚生労働省の指針も「国籍や人種を理由とした採用差別」を禁止している

このように、最高裁の判例が「採用の自由」を最大限に尊重しているとしても、採用差別(就職差別)に「違法性がない」わけではなく、公共の福祉を逸脱するケースでは「違法性はある」のですから、国籍や民族を理由とした採用差別が本来的に認められるものでないことは日本国憲法でも本来的に予定されている公共の福祉であると言えます。

この点、厚生労働省は「公正な採用選考を目指して」と表題した指針を出していますが(※参考→https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo.htm)、その中の「国籍による応募者の限定」の項では国籍を理由とした採用差別について、次に引用するような配慮が求められています。

この企業では、○○語の講師を募集する際に、募集条件をある国籍に限定し、就労資格の確認のため応募時に在留カードの写しを提出させていました。

○○語の講師は、単に国籍で判断するのではなく、語学講師としての本人の適正と能力で判断されるべきです。募集条件を見てしまうと採用検定に影響する可能性があるため、採用選考時は口頭で確認し、採用内定後に「在留カード」等の提示を求めるという配慮が求められます。

(「○○語を母国語とする者」という求人条件も考え方は同じです。)

※出典:公正な採用選考をめざして(平成31年度版)|厚生労働省

これはもちろん、憲法上の「公共の福祉」の要請から企業における「採用の自由」を制限するものに他なりませんから、国籍や人種を理由とした採用差別に法的な「違法性」があることは当然の前提となっています。

ですから、国籍や民族を理由とした採用差別があった場合、最高裁の判例の存在があることからそれをもって当然にその違法性を指摘することは困難な面がありますが、だからと言ってそこに違法性が「ない」というわけではなく、違法性自体は内在されているということが言えるわけです。

ウ)「公序良俗違反」の場合には当然に国籍や民族を理由とした採用差別の違法性を問える

このように、国籍や人種を理由とした採用差別は、直接的にその違法性を問うことが困難である一方で、「公共の福祉」の観点から見ればそこに違法性は内在していると言えますので、その採用差別の事実をもって『当然に』違法性を問うことは困難であっても「違法性がないわけではない」ということが言えます。

もっとも、この国籍や人種を理由とした採用差別を「公序良俗違反」の観点から考えれば、その採用差別の事実をもって『当然に』その違法性を問う事は可能です。民法第90条が公序良俗に反する事項を目的とする法律行為を無効と規定しているからです。

民法第90条

公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

先ほど説明したように、国籍や人種を理由とした採用差別を直接的に禁止する法律は整備されていませんが、その国籍や民族を理由とした採用差別が「公序良俗違反」に該当する場合には、この民法第90条を根拠にその違法性を『当然に』問うことは可能です。

ですから、仮に国籍や民族を理由とした採用差別を受けた場合には、その事実をもって直接的にその違法性を問うことは困難ですが、その採用差別に「公序良俗」に反する態様がある場合には、その公序良俗違反を理由に違法性を問うことはできると言えます。

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国籍や人種を理由とした採用差別に「法的な責任」を問える余地はある

以上で説明したように、労働者を雇用しようとする企業(個人事業主も含む)には「採用の自由」がありますから、たとえ国籍や民族を理由とした採用差別があったとしても、その事実だけを以て直接的にその違法性を問うことは困難な面があります。

ただし、その「採用の自由」も無制約ではなく、「公共の福祉(法の下の平等)」の観点から制約を受けることになりますので、厚生労働省の指針があることなどから考えてみても、その採用差別には違法性が内在されていると言えますから、今後の法整備によっては当然に違法と言う事が言えるようになることはあると思いますし、仮に法律の整備が追い付いていない状況が続いたとしても、裁判所がその違法性を認定する可能性は十分にあるものと考えられます。

また、その国籍や民族を理由とした採用差別が「公序良俗」に反する態様のものである場合にはたとえ法整備が追い付かない状況であったとしても当然に公序良俗違反(民法第90条)の違法性を問うことが現時点でも可能ですので、その態様によっては現時点でもその違法性を問うことは不可能ではないと言えます。

国籍や民族を理由とした採用差別を受けた場合の対処法

この点、実際に外国人や特定の民族が国籍や民族を理由とした採用差別を受けた場合にどのような対処を取ることができるか、という点が問題となりますが、当サイト筆者の個人的な見解としては、以下のような対応をとるしかないのではないかと考えます。

(1)他の企業を探す

国籍や民族を理由とした採用差別を受けた場合、他の会社を探すというのが基本になると思います。

国籍や民族を理由とした採用差別をするような会社は労働者の多様性を否定することになりますが、多様性を否定する企業に将来性はありませんので、そこに就職したところで先は見えています。

ですから、そうした差別を受けた場合は、早々と気分を切り替えて、他のまともな会社を探すのが賢明な選択になろうかと思います。

(2)労働局の紛争解決援助の手続きを利用してみる

国籍や民族を理由とした採用差別を受けた場合に、それでもどうしてもその企業で働きたいとか、国籍などを理由とした採用差別をなくしたいと考える場合は、労働局の主催する紛争解決援助の手続きを利用してみても良いかもしれません。

労働局では、事業主と労働者との間で紛争が発生した場合にその紛争解決の為の必要な助言や指導を行う紛争解決援助の手続きを用意しています。

この紛争解決援助の手続きは、既に雇用関係が生じている労働者と使用者の間のトラブルだけでなく、雇用関係が生じる前の労働者の募集や採用に係る紛争についても対象にしていますので(※ただしあっせんの手続きは除く)、採用面接や応募の際に国籍等を理由に採用差別を受けた場合には、その事実を紛争として労働局の紛争解決援助の手続きが使えます。

この労働局の紛争解決援助の手続きに法的な強制力はありませんから企業側が手続きに応じない場合は効果はありませんが、企業側が手続きに応じる場合には労働局から出される助言や指導によって企業側が採用差別を改善し、国籍等を理由に募集や採用を制限する取扱いを改める可能性もあります。

ですから、国籍や民族を理由とした採用差別を受けた場合には、とりあえず労働局にその事実を相談(申告)してみるというのも対処法として機能する場合があると考えられます。

なお、労働局の紛争解決援助の手続きの詳細は『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説していますので参考にして下さい。

(3)その他の対処法

これら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは