普通解雇・懲戒解雇・整理解雇の違いとは何か

懲戒解雇事由は限定列挙

前述した普通解雇では就業規則に規定された普通解雇事由は例示列挙と限定列挙で解釈に争いがあると説明しましたが、懲戒解雇では就業規則に規定される懲戒解雇事由は限定列挙であると考えられています(菅野和夫著「労働法第8版」弘文堂389頁参照)。

ですから、使用者が労働者の企業秩序遵守義務で懲戒解雇する場合には、その労働者の非違行為が就業規則で明示された懲戒解雇事由に該当するものでなければなりませんから、仮に企業秩序遵守義務にあたる行為があったとしても、それが就業規則に明示のない事由であれば懲戒解雇はなしえないということになります。

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整理解雇とは

整理解雇とは、企業が経営上の必要性に迫られて一方的に労働者との雇用契約を解除する場合の解雇を言います。たとえば、経営不振で事業規模を縮小するために人員削減をするようなケースがそれです。

前述した普通解雇や懲戒解雇がもっぱら解雇される労働者側の要因によって行われるのに対して、整理解雇は使用者側の理由によって行われる点にその違いがあります。

普通解雇・懲戒解雇・整理解雇における有効性の判断基準

以上で説明したように、普通解雇と懲戒解雇、整理解雇ではその本来的な性質が異なりますが、その有効性を判断する基準はいずれの解雇においても同様の基準で判断されます。すなわち労働契約法第16条の要件を満たすか否か、という点です。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働契約法第16条はこのように使用者が労働者を解雇する場合について「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求めていますので、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇のいずれの場合であっても、この2つの要件を満たしていない限りその解雇は解雇権を濫用するものとして「無効」と判断されることになります。

つまり、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇のいずれの場合であっても「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件が満たされなければ、たとえ就業規則にその解雇事由が明記されていたとしても、またたとえ経営上解雇がやむを得ないと判断された場合であっても、使用者は労働者を解雇することができないわけです。

もっとも、この「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の判断は、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇のそれぞれで異なりますので、その解雇の種類に応じて格別に検討する必要はあるでしょう。

(1)普通解雇における「客観的合理的な理由」「社会通念上の相当性」の判断

普通解雇における「客観的合理的な理由」の有無は、その労働者に生じた事象が普通解雇事由に客観的かつ合理的にあたるか否かで判断されます。

ですから、たとえば仮に「著しい勤務成績の不良」という普通解雇事由があったとしても、その「著しい勤務成績」が客観的に合理的な基準になっていなければなりませんし、その基準にその労働者が該当するか否かの判断についても客観的合理的な理由が求められることになるでしょう。

また、仮にその普通解雇事由に該当することについて「客観的合理的な理由」が存在したとしても、その普通解雇事由に該当することによって解雇することが「社会通念上相当」と判断できる場合でない限り「社会通念上の相当性」が否定されます。

もっとも、この点の判断は個別のケースに応じて判断するしかありませんので、実際の事案では弁護士に相談して事実関係を確認しながら慎重に検討する必要があります。

(2)懲戒解雇における「客観的合理的な理由」「社会通念上の相当性」の判断

懲戒解雇における「客観的合理的な理由」の有無は、その労働者に生じた企業秩序遵守義務違反行為が客観的にあらかじめ就業規則に規定された懲戒解雇事由にあたるか、またその義務違反行為を理由に解雇することが合理的かなどで判断されます。

ただし、仮にその労働者の非違行為で懲戒解雇することに「客観的合理的な理由」があると判断できる場合であっても、その非違行為をもって解雇することが社会通念上(一般的な社会通念に照らして)相当と言えない場合には、その懲戒解雇は権利の濫用と判断されます。

(3)整理解雇における「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の判断

整理解雇における「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」は、いわゆる整理解雇の4要件(4要素)で判断されます。

整理解雇の四要件(整理解雇の四要素)とは、以下に挙げる4つの要件をすべて満たした場合に限って解雇の「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を認めようとする判断基準を言います。

整理解雇の4要件(整理解雇の4要素)

  • 人員削減の必要性があったか(人員削減の必要性)
  • 解雇回避のための努力は行われたか(解雇回避努力義務)
  • 人選に合理性はあるか(人選の合理性)
  • 対象者への協議や説明は尽くされているか(説明協議義務)

ですから、この4つの要件(要素)の一つでも欠けている場合には、その整理解雇は権利の濫用が認められるとして「無効」と判断されることになります。

なお、この整理解雇の判断については『整理解雇の四要件とは(不況・経営不振による解雇の判断基準)』のページで詳しく解説しています。