妊娠中または出産後の女性労働者が、従前の仕事ができなかったり、仕事の能率効率が低下したことを理由に減給や降格あるいは配置転換など労働条件に不利益な処遇を受けてしまう事例がごく稀に見られます。
たとえば、工場の組み立て作業に従事する妊娠中の女性労働者が、つわりがひどくなって従前の個数を組み立てられなくなったため作業能率が悪くなったことを理由に会社から減給の処分を受けたり、看護師婦長職にある女性看護師が産後の体調不良で婦長としての役割が十分にこなせなくなったことを理由に婦長の職を取り上げられて一般看護職に降格させられるようなケースが代表的なケースとして挙げられます。
このような労働者における仕事能率の低下や喪失はその労働者の個人の事情によるものですから、一見するとそれによって業務に支障をきたす使用者側が減給や降格あるいは配置転換などの処分をするのは致し方ないような気もします。
しかし、そのような不利益な取り扱いが許されることになれば、妊娠中や出産後の女性労働者は自分の体調を我慢して就労を強制されることになり、母子の健康に重大な危険が生じてしまわないとも限りません。
では、このように妊娠中や出産後の女性労働者が体調不良等で従前の能力を発揮できなかったり仕事能率が低下したことを理由として減給や降格あるいは配転(転勤等)など不利益な取り扱いすることは認められるのでしょうか。
また、妊娠中や出産後の女性労働者がその妊娠や出産に起因して従前の仕事ができなかったり仕事の能率や効率が低下したことを理由として減給や降格あるいは配転(転勤等)など不利益な取り扱いを受けてしまった場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。
妊娠中または出産後の女性労働者が諸症状で従前の仕事ができない又は能率が低下したことを理由とした不利益な取り扱いは無効
このように、妊娠中または出産後の女性労働者が従前の仕事ができなかったり仕事の能率や効率が低下して従前どおりの結果を出せないことを理由として減給や降格あるいは配置転換など不利益な取り扱いをしてしまう会社があるわけですが、結論から言えばそのような不利益な取り扱いは無効と考えられます。
なぜなら、雇用機会均等法第9条第3項がそのような不利益な取り扱いを明確に禁止しているからです。
【雇用機会均等法第9条第3項】
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(中略)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
【雇用機会均等法施行規則第2条の2第9号】
法第9条第3項の厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由は、次のとおりとする。
第1~8号(省略)
第9号 妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかつたこと又は労働能率が低下したこと。
雇用機会均等法第9条第3項はこのように「妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」としていますが、そこでいう厚生労働省令にあたる同法施行規則第2条の2第9号には「妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかつたこと又は労働能率が低下したこと」が挙げられていますので、妊娠中または出産後の女性労働者が「妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかつたこと又は労働能率が低下したこと」を理由として、会社がその女性労働者に対して解雇その他の不利益な取り扱いをすることは許されません。
この点、その女性労働者の賃金を減額したり、従前の役職を取り上げたり、他の部署に配置転換(転勤など)を命じることも当然その「不利益な取り扱い」に含まれますから、そうした妊娠や出産に係る体調不良で従前の仕事ができなかったり能率や効率が低下したことを理由とにそれらの不利益取扱いをすることも禁止されていることになります。
ですから、妊娠中または出産後の女性労働者が従前の仕事ができなかったり仕事の労率や効率が低下したことを理由に減給や降格あるいは配置転換などの不利益な取り扱いを受けたとしても、その不利益な取扱い自体が違法な取り扱いとなりますので、その無効を主張してその撤回を求めることもできるということになります。
妊娠中または出産後の女性労働者が従前の仕事ができなかったり仕事の能率が低下したことを理由として減給/降格/配転など不利益な取り扱いを受けた場合の対処法
以上で説明したように、妊娠中または出産後の女性労働者が従前の仕事ができなかったり仕事の能率が低下したことを理由としてなされた減給や降格あるいは配置転換などの不利益な取り扱いは違法であり「無効」と考えて差し支えありませんから、そのような不利益な取り扱いを受けた女性労働者はその違法(無効)な取り扱いの撤回などを求めることが可能です。
もっとも、実際にそのような不利益な取り扱いを受けた場合は女性労働者の側で何らかの対処を取らなければなりませんので、その場合にどのような対処を取ることができるのかという点が問題となります。
(1)妊娠中または出産後の女性労働者が従前の仕事ができなかったり仕事の能率が低下したことを理由とした不利益な取り扱いが違法である旨記載した通知書を会社に送付してみる
妊娠中または出産後の女性労働者が従前の仕事ができなかったり仕事の能率や効率が低下したことを理由に会社から減給や降格あるいは配置転換などの不利益な取り扱いを受けた場合には、そのような不利益取扱いが違法である旨記載した通知書を作成して会社に送付してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があります。
前述したように、そのような女性労働者に対する不利益な取り扱いは雇用機会均等法第9条第3項に明らかに違反するため違法ですが、違法な処分を平気で執行する会社はそもそも法令遵守意識が低いと思われますので、そのような会社にいくら口頭で「違法な処分を撤回しろ」と抗議したところでそれが撤回される希望は持てません。
しかし文書を作成作成して書面という形で改めてその違法性を指摘すれば、将来的な裁判への発展や行政官庁の介入などを警戒してそれまでの態度を改め、違法な取り扱いの撤回に応じる可能性もありますので、とりあえず書面で抗議してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。