『バイト・契約社員が辞めさせてくれない会社を退職する方法』のページでも詳しく解説していますが、アルバイトやパート、契約社員など、働く期間が「〇年〇月から〇年〇月まで」というように一定の期間に限定された「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者は、たとえ契約期間が満了する「前」であっても「契約期間の初日から1年が経過した後」であればその自由な意思でいつでも退職することが可能です。
たとえば、2020年の1月1日から契約期間2年の約定でアルバイトとして働き始めた場合には、契約上は2021年の12月31日の夜12時までは会社の承諾がない限り辞めることはできないのが原則ですが、2021年の1月1日以降は会社の承諾がなくても一方的に自由に退職することができるようになります。
これは、労働基準法第137条において契約期間の初日から1年を経過した労働者に退職の自由が認められていることが根拠となっていますが、会社(個人事業主も含む)によってはこの規定の存在を知らないために、有期労働契約で働く労働者からの契約期間途中での退職の申し出を拒否したり、退職を申し出た労働者に執拗に就労を求めるケースもあるようです。
期間の定めのある労働契約(中略)を締結した労働者(中略)は、(中略)民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
では、このように「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者が契約期間の初日から1年が経過したため労働基準法第137条を根拠にして契約期間の途中で退職を申し出たにもかかわらず、会社(個人事業主も含む)から拒否された場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。
期間の定めのある雇用契約で契約期間の初日から1年が経過したのに辞めさせてもらえない場合の対処法
このように、法律(労働基準法第137条)では契約期間の初日から1年が経過した場合はたとえ契約期間の途中でも自由に退職することができるわけですが、その法律に反して退職を妨害したり復職を強要するような会社(個人事業主も含む)も現実には存在しています。
仮にそのような会社で退職の妨害にあった場合、以下のような方法を用いて具体的に対処することが求められます。
(1)退職届(退職願)を提出し、以後出社しないようにする
契約期間の初日から1年が経過したにもかかわらず会社(個人事業主も含む)が退職を妨害するような場合には、退職届(退職願)を提出し、それ以降出社しないようにするのが一番手っ取り早い対処法となります。
先ほども述べたように、たとえ期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)で契約期間が満了する前であっても、契約期間の初日から1年が経過すれば自由に退職することが法律(労働基準法第137条)で認められていますから、契約期間の初日から1年が経過した後に退職の意思表示を行った労働者を引き留める法律上および契約上の権限は使用者側には一切ありません(※この点の詳細は→バイト・契約社員が辞めさせてくれない会社を退職する方法)。
また、この契約期間の初日から1年が経過した後に退職する場合は、期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)の退職の場合と異なり「2週間」の予告期間は必要とされていませんから、退職する労働者はその意思表示をしたその日に即日、退職して翌日から出社しなかったとしても法律上及び契約上の責任は一切生じません(※この点の詳細は→退職届・退職願の退職日と提出日はいつの日付けを記載すべきか)。
加えて、この場合に提出する退職届(退職願)は「〇月〇日をもって雇用契約を解約する」という一方的な意思の表示であって単なる「意思表示」の問題にすぎませんので、たとえ会社側が退職届(退職願)の受け取りを拒否したり退職に承諾しなかったとしても、それを提出した時点で「退職(労働契約の解除)」という法律上(契約上)の効果は有効に生じることになります(※この点の詳細は→退職届の受け取りを拒否して辞めさせてくれない会社を辞める方法
以上のような理由から、契約期間の初日から1年が経過した後に退職の意思表示を行って会社側から退職を拒否された場合には、退職届(退職願)を提出してそれ以降出社しないようにすること有効な対処法となるわけです。
なお、たとえば2020年の1月1日から契約期間2年の約定で働き始めたアルバイトが2021年の1月10日付けで辞めたいような場合であれば、以下に挙げるような退職届(退職願)を提出しておけば差し支えなかろうと思います。
代表取締役 ○○ ○○ 殿
退職届
私は、一身上の都合により、2021年1月10日をもって退職いたします。
以上
2021年1月10日
〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室
○○ ○○ ㊞
もっとも、退職日の当日に退職届(退職願)を渡されていきなりその日に退職されても会社側も困りますので、ハラスメントや会社の違法行為など即日に辞めなければならないような特段の事情がない限り、常識的に考えれば退職希望日の2週間程度前までに提出する必要があると思います。
仮に会社が退職届(退職願)の受け取りを拒否するようなケースでは、後で裁判等になった場合に確実に会社に到達したということを客観的証拠で証明する必要がありますので内容証明郵便で送付する方が無難です。
内容証明郵便で送付する場合は以下のような記載例を参考にしてください。
退職届
私は、一身上の都合により、△年△月△日をもって退職いたします。
以上
○年○月○日
通知人
東京都〇区〇丁目〇番〇号
○○ ○○
被通知人
東京都〇区〇丁目〇番〇号
株式会社○○
代表取締役 ○○ ○○
(2)契約期間の初日から1年が経過した後の退職が労働基準法で認められていることを書面で通知する
退職届(退職願)で退職の意思表示を行っても会社側が退職を認めなかったり妨害してくるような場合は、労働基準法第137条で契約期間の初日から1年が経過した後の退職が認められることを記載した書面を作成し会社(個人事業主も含む)に送付してみるというのも対処法として有効です。
労働基準法第137条の規定に違反してその退職を認めない会社は法令遵守意識の低い会社でブラック体質を持っていることも推測できますが、そのような会社にいくら口頭で説明しても誠実な対応は期待できません。
しかし、書面という形で正式に抗議すれば会社側としても将来的な裁判への発展や行政機関への相談を警戒して態度を改めてくる可能性もありますので、書面で通知する方法も解決方法として有効に機能すると考えられるのです。
なお、この場合に通知する書面は以下のような文面で差し支えないと思います。
株式会社 ○○
代表取締役 ○○ ○○ 殿
有期契約期間の満了前における退職について
私は、〇年〇月〇日、同月〇日をもって退職する旨記載した退職願を貴社に提出し退職の意思表示をいたしましたが、貴社は、当該退職日が有期労働契約の期間満了前であることを理由に退職を拒否されております。
しかしながら、労働基準法第137条では契約期間の初日から1年が経過した場合は契約期間の途中であっても労働者の方で一方的に労働契約を解除し退職することを認めていますから、私と貴社との間で締結された労働契約がすでに1年を経過している以上、貴社に私の退職を拒否できる法律上または契約上の根拠はありません。
したがって、私と貴社の間で締結された当該有期労働契約は、すでに提出している退職願に記載した退職日である〇年〇月〇日をもって有効に解除されていますから、今後復職を強要する行為等を一切なさらないよう、強くお願い申し上げます。
以上
〇年〇月〇日
〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室
○○ ○○ ㊞
(3)契約期間の初日から1年が経過しても辞めさせてくれない事実を労働基準監督署に申告する
退職届(退職願)を送付しても会社(個人事業主も含む)が退職を妨害したり復職を強要するような場合は、契約期間の初日から1年が経過しても辞めさせてくれない事実を労働基準監督署に申告するというのも一つの対処法として有効です。
先ほども述べたように、労働基準法第137条では有期労働契約の期間途中であっても契約期間の初日から1年が経過すれば無条件に退職することが認められていますので、それでも会社(個人事業主も含む)が退職を妨害するというのであればその会社は労働基準法違反を犯しているということになります。
この点、労働基準法に違反する事業主がある場合、労働者はその違法行為を労働基準監督署に申告することによって監督署からの調査や勧告等の監督権限の行使を求めることが認められていますから(労働基準法第104条1項)、その申告手続きを利用することによって労働基準監督署の権限行使を促し、会社の違法状態を間接的に改善させることも可能と考えられます。
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
そうすると、労働者が契約期間の初日から1年が経過したにもかかわらず会社がその退職を妨害している事実を監督署に申告すれば、監督署が権限を行使することによって退職妨害行為も改善される可能性が期待できますから、この監督署への申告も対処法の一つとして有効に機能すると考えられるのです。
なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載は以下のようなもので差し支えないと思います。
労働基準法違反に関する申告書
(労働基準法第104条1項に基づく)
○年〇月〇日
○○ 労働基準監督署長 殿
申告者
郵便〒:***-****
住 所:東京都〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****
違反者
郵便〒:***-****
所在地:東京都〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社○○
代表者:代表取締役 ○○ ○○
申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのある雇用契約
役 職:特になし
職 種:営業
労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。
記
関係する労働基準法等の条項等
労働基準法第137条
違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は2020年1月から2021年12月まで契約期間2年間の有期労働契約で違反者に勤務していたが、都合によって退職する意思が生じたため、契約期間の初日から1年が経過した2021年6月末日をもって退職する意思表示を口頭で違反者に対して行った。
・これに対して違反者は〇月〇日、申告者を会議室に呼び出して退職は契約期間の2年間が経過するまで退職を認めない旨告知し、更に半年間就労しなければ雇用契約の債務不履行として損害賠償請求する旨告知した。
・申告者は労働基準法第137条で契約期間が満了する前の退職が認められていることを説明したが聞く耳を持ってもらえなかったため6月末日付けで退職する旨記載した退職願を会社に郵送し同日以降出社しないようにしたが、7月以降も会社の役員が申告者の自宅に押し掛けるなどして復職を迫っている。
添付書類等
1.〇年6月末日付け退職願の写し 1通
2.郵送した退職願が配達されたことを示す郵便局のウェブサイトの画面をプリントアウトしたもの 1通
備考
特になし。
以上
- 労働基準法第104条1項の申告に添付書類は必須ではありませんので、添付する資料がない場合は「特になし」と記載して申し立てして構いません。
- 労働基準監督署に申告したことを会社側に知られたくない場合は備考の欄に「本件申告をしたことが違反者に知られてしまうとさらなる暴行・脅迫等を受ける恐れがあるため違反者には申告者の指名等を公表しないよう求める」などの一文を挿入して下さい。
(4)その他の対処法
以上の方法を用いても会社(個人事業主も含む)が退職を妨害したり復職を強要するような場合は、労働局の紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。