地震や台風、土砂崩れや水害など天災の多い日本では、天災事変その他のやむを得ない事情で会社(個人事業主も含む)の事業継続が不可能になり、そこで働く従業員が解雇されるケースがごく稀に発生します。
このような天災事変その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能になって労働者が解雇される場合、その解雇は不可抗力によって生じるものと言えますから、労働者としては受け入れるしかないのが実情でしょう。
しかし、解雇される労働者としても生活がありますから、たとえ天災事変その他やむを得ない事由で雇い主の事業継続が不可能になったという正当な理由があるにしても、解雇される一定期間前までの解雇予告や、解雇予告がなされない場合の解雇予告手当の支払いなどがなされるべきとも思えます。
では、このように、天災事変その他やむを得ない事由で雇い主の事業継続が不可能になって労働者が解雇される場合、事前の解雇予告などは行われるのでしょうか。
また、事前の解雇予告が行われない場合、解雇予告手当の支払いを受けることはできないのでしょうか。
「解雇予告」「解雇予告手当」とは
天災事変その他やむを得ない事由で雇い主の事業が不可能になった場合における解雇で解雇予告や解雇予告手当の支払いを受けられるかを考える前提として、解雇予告や解雇予告手当の支払い自体を理解していない人もいるかもしれませんのであらかじめ簡単に説明しておきましょう。
解雇予告とは
解雇予告とは、使用者が労働者を解雇する場合に解雇日の30日前までに解雇の予告を行わなければならないその予告のことを言います。使用者による即日解雇を無制限に認めてしまうと突然仕事を失ってしまう労働者が不測の不利益を与えてしまうため労働者の保護のために労働基準法第20条で使用者に義務付けられています。
たとえば、会社Xが従業員のAを6月30日に解雇する場合には、その解雇日の30日前の5月31日までにAに対して「6月30日に解雇しますよ」と予告しなければなりません。これが解雇予告です。
解雇予告手当とは
解雇予告手当とは、解雇予告期間の30日を短縮したい使用者が労働者に支払う平均賃金のことを言います。労働基準法第20条第1項は解雇予告を義務付けていますが、解雇予告期間中の平均賃金を支払った場合に労働者の出勤を強制しても無意味なため、同法第2項では解雇予告期間の30日に不足する日数分の平均賃金を労働者に支払った使用者がその日数だけ解雇予告期間を短縮することを認めています。
たとえば、会社Xが従業員のAを6月30日に解雇する場合には、その解雇日の30日前の5月31日までにAに対して「6月30日に解雇しますよ」と予告しなければなりませんが、このX社が30日分の平均賃金をAに支払った場合は解雇予告をすることなく6月30日に即日解雇することができ、その場合に労働者に支払う平均賃金が一般に解雇予告手当と呼ばれています。
なお、解雇予告と解雇予告手当の支払いの詳細は『「解雇予告」また「解雇予告手当」とは何か(具体例と適用基準)』のページで詳しく解説していますのでより詳細はそちらのページを参照してください。
天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合における解雇では解雇予告手当の請求はできないのが原則
このページの冒頭でも提起したように地震や台風、豪雨や洪水等、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合に使用者が労働者を解雇する場合において、使用者に30日前の解雇予告や解雇予告をしない場合の解雇予告手当の支払いが義務付けられるかという点が問題となりますが、結論から言うとその場合には解雇予告や解雇予告手当の支払いは原則として義務付けられていません。
なぜなら、解雇予告や解雇予告手当の支払いを義務付けた労働基準法第20条第1項は、「但し書き」で天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合の解雇については解雇予告や解雇予告手当の支払いを除外しているからです。
【労働基準法第20条】
第1項 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
第2項 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
第3項 前条第2項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
天災事変その他やむを得ない事由のために事業が不可能になった場合の解雇にまで予告期間を強制するのは使用者に酷すぎると考えられることから、法律では例外としてその場合の解雇予告の省略を認めているのです。
そのため、仮に天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった使用者が労働者を解雇する場合には、事前予告をせず、また解雇予告手当の支払いもしないまま即日解雇したとしても、その使用者は労働基準法第20条違反の責任は問われないということになります。
ですからもちろん、天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能になった雇い主から「今日で解雇します」と即日解雇された場合であっても、労働者は労働基準法第20条に基づいて、その雇い主に対して30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払うよう請求することはできません。
これが原則的な取り扱いとなります。
ただし、使用者が「労働基準監督署の認定」を受けていない場合は解雇予告手当を請求できる
前述したように、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合に行われる労働者の解雇については労働基準法第20条第1項の規定は除外されますから、そのようなケースの解雇では解雇予告手当の支払いがない状態で即日解雇されたとしても、解雇予告手当の支払いを求めたり法律違反を主張して抗議することはできません。
しかし、これには例外があります。具体的には、使用者がその「天災事変その他やむを得ない事由」について労働基準監督署の認定を受けていない場合です。
労働基準法第20条第3項は「前条第2項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。」と規定していますが、20条の「前条」にあたる労働基準法第19条の第2項では「…その事由について行政官庁の認定を受けなければならない」と規定していますので、使用者が労働基準法第20条第1項但書の規定に従って「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった」ことを理由に労働者を解雇するに際して解雇予告または解雇予告手当の支払いを省略する場合には、その事由について行政官庁、つまり労働基準監督署の認定を受けなければなりません。
【労働基準法第19条】
第1項 使用者は…(中略)…30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が…(中略)…又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
第2項 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
つまり、使用者が天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったことを理由に労働者を解雇するに際して解雇予告をせず解雇予告手当の支払いもしない場合には、事前に必ず労働基準監督署の認定を受けておかなければならないわけです。
仮に使用者が、労働基準監督署の認定を受けていない状態で、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったとの理由で労働者を即日解雇した場合には、その解雇は行政官庁の認定を義務付けた労働基準法第20条第3項に違反して行われた解雇ということになりますが、その行政官庁の認定は労働基準法第20条但書の要件として規定されていますので、行政官庁の認定がない限り、使用者は原則通り即時解雇の場合には30日前の解雇予告を行うか、それを行わない場合は同法第2項に従って平均賃金の30日分にあたる解雇予告手当を支払わなければなりません。
ですから、仮に勤務先の会社が労働基準監督署から「天災事変その他やむを得ない事由」について認定を受けていないにもかかわらず、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった」ことを理由として即日解雇された場合には、平均賃金の30日分にあたる解雇予告手当を支払うよう、雇い主に対して請求することができるということになるのです。
天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったことを理由に解雇された場合に確認すべきこと
以上で説明したように、使用者は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったことを理由に労働者を解雇する場合には、事前予告をすることなく即日解雇することが認められていますが、そのためには事前に「天災事変その他やむを得ない事由」の事実があることについて労働基準監督署の認定を受けなければなりませんので、仮に労働者がそのような事由を理由に使用者から労働基準監督署の認定を受けない状態で即日解雇された場合には、使用者に対して30日分の平均賃金(解雇予告手当)の支払いを求めることができるということになります。
ですから、もし仮に労働者が勤務先から、地震や台風、土砂崩れや洪水の影響など、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったことを理由に即日解雇された場合において、解雇予告手当の支払いがなかった場合には、以下の2つの点を十分に確認することが必要です。