地震や水害などによる解雇でも解雇予告手当を支払ってもらえるか

(1)解雇自体がそもそも有効なのかを検討する

地震や台風、土砂崩れや洪水の影響など、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったことを理由に即日解雇された場合にまず検討しなければならないのが、そもそもその解雇自体が有効なのか、という点です。

なぜなら、労働基準法第20条第1項の但書の規定は、あくまでも使用者が労働者を解雇する場合に義務付けられる「30日前の解雇予告」と、30日間の解雇予告期間を短縮する場合に支払いが義務付けられる「平均賃金(解雇予告手当)の支払い」について、「天災事変その他やむを得ない事由」がある場合に限りその省略が認められることを定めたものに過ぎないからです。

労働基準法第20条1項但書は、解雇自体の有効性の要件を規定したものではないのですから、天災事変その他やむを得ない事由が生じたことを理由に解雇する場合に「30日の予告期間を置かずに解雇すること」や「30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことで即時解雇すること」が認められるにしても、その解雇自体が無制限に認められるわけではありません。

では、その場合の解雇が有効か否かがどの様な基準で判断されるかというと、それは労働契約法の第16条です。

労働契約法第16条は、使用者が労働者を解雇する場合に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの存在を要求していますので、天災事変その他やむを得ない事由があったからといって無条件に解雇が認められているわけでないのです。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、たとえ「天災事変その他やむを得ない事由」があったとしても、その事実だけで無条件に労働者の解雇が認められるわけではなく、そのために事業の継続が不可能になったと言える「客観的合理的な理由」があったうえで、その客観的合理的理由に基づいて解雇することが「社会通念上相当」と言える場合でなければ、そもそも解雇自体が認められていないわけです。

ですから、仮に労働者が使用者から「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった」との理由で解雇された場合であっても、その解雇自体に「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が存在するのかという点を検討し、それが認められないと判断できる場合には、解雇自体の効力を争って解雇の無効を主張して、継続して勤務することを求めたり、解雇日以降の出社を拒否された日数分の賃金の支払いを求めることができることもありますので、まず最初に、その解雇自体が有効なのかという点を検討することが必要となるのです。

なお、以上の点については『天災事変その他やむを得ない事由があれば解雇できるのか』のページで詳しく解説していますので詳細はそちらのページを参照してください。

もっとも、解雇自体が有効なのか無効なのかという点の判断はケースバイケースで判断するしかありませんので、このサイトの解雇のカテゴリーから適宜該当するページを参考にしていただくか、個別の事案に応じて弁護士等に相談することも考えることも検討した方がよいでしょう。

(2)「天災事変その他やむを得ない事由」の存在について労働基準監督署の認定を受けているか確認する

勤務先の会社から、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったとして解雇された場合に、その解雇を受け入れて会社を辞めても良いと考える場合には、使用者がその「天災事変その他やむを得ない事由」について労働基準監督署の認定を受けているか確認する必要があります。

先ほど説明したように、仮に使用者が労働基準監督署の認定を受けていない場合には、使用者に対して30日分の平均賃金(解雇予告手当)の支払いを求めることができるからです。

もちろん、「解雇予告手当の支払いを貰えずに即日解雇されても構わない」というのであればその必要はありませんが、労働者を解雇しなければならないほどの天災事変その他の事由が生じているのであれば、少なからず社会的な混乱が生じているはずですので、貰えるものは貰っておく方が無難です。

ですから、解雇された場合は使用者が労働基準監督署の認定を受けていないかまず確認し、その確認が取れない場合は積極的に使用者に対して解雇予告手当の支払い請求しておくようにしたほうがよいでしょう。

ただし、これはあくまでも解雇を受け入れることが前提です。会社に対して解雇予告手当の支払いを受けるために労働基準監督署の認定を受けたか確認したり、解雇予告手当の支払いを求めたりしてしまうと、仮にその解雇が無効で、解雇の無効を主張して争えば解雇されなくても済むはずであったとしても「無効な解雇を追認した」と判断されて解雇の効力を争うことが難しくなってしまう場合がありますので注意してください(※詳細は→解雇予告手当を支払ってくれない会社への対処法)。

「解雇自体が無効だ」と解雇自体の有効性を争う場合には以下の方法をとらず、このサイトのカテゴリーから解雇の無効を主張する対処法に関する記事を参照いただいて個別のケースに応じて対処するか、弁護士等の専門家に相談して解決を図るようにしてください。

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使用者が労働基準監督署の認定を受けたか否かどのようにして確認するか

なお、使用者から天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったとして、事前の予告なく即時解雇された場合に、その「天災事変その他やむを得ない事由」について労働基準監督署の認定が受けられているか確認する方法については 『災害等による解雇で労働基準監督署の認定を受けたか確認する方法』 のページで詳しく解説していますのでそちらを参照してください。

労働基準監督署の認定を受けていない会社に解雇予告手当を請求する場合

以上で説明したように、使用者は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になったことを理由に労働者を解雇する場合には、事前予告をすることなく即日解雇することが認められていますが、そのさいに30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払わない場合には、その事前に「天災事変その他やむを得ない事由」の事実があることについて労働基準監督署の認定を受けなければなりませんので、仮に労働者がそのような事由を理由に使用者から労働基準監督署の認定を受けない状態で即日解雇された場合において解雇予告手当の支払いを受けられない場合には、使用者に対して30日分の平均賃金(解雇予告手当)の支払いを求めることができます。

この場合、具体的にどのような手段を用いて使用者に対して30日分の平均賃金(解雇予告手当)の支払いを求めればよいのかが問題となりますが、その場合の解雇予告手当の具体的な請求方法については『災害などによる解雇で解雇予告手当が支払われない場合の対処法』のページで詳しく解説しています。