天災事変その他やむを得ない事由があれば解雇できるのか

労働基準法の第20条第1項では、使用者が労働者を解雇する場合に解雇の効力が発生する解雇日の30日前までに解雇の予告を行うか、その予告期間の30日に不足する日数分の平均賃金(いわゆる「解雇予告手当」)を支払うことを義務付けていますが、同条第1項の但書において「天災事変その他やむを得ない事由」がある場合にその解雇予告手当の支払いなしに即日解雇することも認めています。

【労働基準法第20条】

第1項 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
第2項 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
第3項 前条第2項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

そのため、この規定を「天災事変その他やむを得ない事由が発生すれば自由に労働者を解雇できる」と理解してしまい、地震や豪雨災害があったことを理由にして即日解雇を強行してしまう会社が少なからずあるようです。

では、地震や台風、土砂崩れや洪水など、天災事変その他やむを得ない事由が発生したことが起因となって事業継続が不可能になった場合、使用者はこの労働基準法第20条を根拠にして労働者を解雇することが認められるのでしょうか。

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「天災事変その他やむを得ない事由」があったからと言って直ちに解雇が認められるわけではない

前述したように、労働基準法第20条第1項但書に「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合」には「30日前の予告または30日分の平均賃金を支払わなくてもよい」と規定されていることから、「天災事変その他やむを得ない事由があれば労働者を即日解雇してよい」と理解してしまう経営者や会社があるわけですが、結論から言うとこれは明らかに間違っています。

なぜなら、この労働基準法第20条第1項の但書の規定は、あくまでも使用者が労働者を解雇する場合に義務付けられる「30日前の解雇予告」と、30日間の解雇予告期間を短縮する場合に支払いが義務付けられる「平均賃金(解雇予告手当)の支払い」について、「天災事変その他やむを得ない事由」がある場合に限りその省略が認められることを定めたものに過ぎないからです。

労働基準法第20条1項但書は、有効な解雇の要件を規定したものではないのですから、天災事変その他やむを得ない事由が生じたことを理由に解雇する場合に「30日の予告期間を置かずに解雇すること」や「30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことで即時解雇すること」が認められるにしても、その解雇自体が無制限に認められるわけではありません。

労働基準法第20条第1項但書は「天災事変その他やむを得ない事由があれば解雇してよい」ということを規定したものではないのです。

ですから、天災事変その他やむを得ない事由があったとしても、それは使用者が労働者を解雇する場合において「30日の予告期間を置かずに即日解雇すること」が許容される事由にはなっても「労働者を解雇すること」を正当化する根拠にはならないのです。

天災事変その他やむを得ない事由があったとしても、解雇できるか否かは労働契約法第16条で判断される

以上で説明したように、労働基準法第20条第1項の但書はあくまでも「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合」に「30日の予告期間を置かずに解雇すること」や「30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことで即時解雇すること」が認められることを規定したものに過ぎず、解雇自体を認めることを規定したものではありませんから、天災事変その他やむを得ない事由があったからといって無制限に労働者の解雇が認められるわけではありません。

では、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合」に行われる解雇の有効性がどの様な基準で判断されるかというと、それは労働契約法第16条に規定されています。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

このように、労働契約法第16条は使用者が労働者を解雇する場合に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を要求していますから、仮に「天災事変その他やむを得ない事由」が生じて「事業の継続が不可能になった」場合であっても、その「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった」ことをもって労働者を解雇することに「客観的合理的な理由」があると判断できる場合でなければなりませんし、そのうえでその「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった」ことで労働者を解雇することについて「社会通念上の相当性」なければなりません。その2つが認められないのであれば、その解雇は無効と判断されることになるのです。

ですから、仮に地震で会社が倒壊し会社の事業の継続が不可能になったとしても、ただそれだけで労働者の解雇が許されるわけではなく、その事由によって解雇することに「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がない限り、労働者は会社に対してその解雇の無効を主張することができるということになるわけです。

なお、具体的にどのような事案でその解雇に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」があったと判断できるかという点については、『整理解雇の四要件とは(不況・経営不振による解雇の判断基準)』のページでさらに詳しく解説しています。

「行政官庁の認定」は「解雇の有効性の認定」ではない

なお、労働基準法第20条の第3項が同法第19条の2項を準用していることから、「行政官庁の認定を受ければ解雇が有効になるのだ」と理解している人もいるようですが、これも間違いです。

労働基準法第20条は第3項で「前条第2項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。」と規定し、その「前条第2項」にあたる労働基準法第19条第2項では「…その事由について行政官庁の認定を受けなければならない」と規定していますから、使用者が労働基準法第20条の但書の規定に従って「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった」ことを理由に労働者を即日解雇する場合には、その事由について行政官庁、つまり労働基準監督署の認定を受けなければなりません。

しかし、この労働基準監督署の認定は、あくまでも「天災事変その他やむを得ない事由」にかかる事実の認定に過ぎず、その解雇自体が有効か無効を認定するものではありません(※菅野和夫著「労働法(第8版)」弘文堂446頁)。

この場合に行政官庁である労働基準監督署が認定するのは「天災事変その他やむを得ない事由」があったかなかったかという点であって、解雇が有効か無効かという点を認定するわけではないわけです。

ですから、仮に会社が「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった」ことを理由に労働者を解雇する際に労働基準監督署から認定を受けたとしても、その認定は「即日解雇する際に30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなくてもよい」ことの根拠になるだけに過ぎず、「解雇が有効になった」ことの根拠にはならないのです。

地震や台風などが発生して労働者を解雇しようとする際に「労働基準監督署の認定を受けたんだから解雇は適法だ」と主張する会社経営者が稀にいますが、そのような主張は明らかに間違っていますので、そのような主張に騙されないようにすることが肝要です。