就業規則に更新回数の上限が設定されて雇い止めされた場合

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アルバイトやパート契約社員など、いわゆる非正規労働者として働く場合には「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」として雇い入れられるのが通常です。

この雇用形態は、正社員など終身雇用に代表される「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」と異なり、契約期間が「〇年〇月から〇年〇月まで」と一定の期間に限定されていますから、その契約期間が満了すれば退職を迫られるのが原則です。

もっとも、仮に契約期間が満了した場合であっても、使用者(雇い主)側が契約の更新を認めた場合にはその後も継続して働くことは可能ですから、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」であってもその更新を繰り返すことで正社員と同じように長期間勤務し続けることも可能であると言えるでしょう。

ところで、この「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」に関連して、ごく稀に、使用者(雇い主)が就業規則に「更新回数の上限」を新たに設定し、労働者を雇い止めしてしまうケースが見受けられます。

たとえば、「3年ごとに契約の更新」があるアルバイトや契約社員が働いている会社で、就業規則に「契約の更新は1回を上限とする」といった条項が新設され、2回目の更新が到来したときに”雇い止め”されてしまうような事案です。

このような就業規則の変更がなされてしまうと、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者は、入社する際には知り得なかった「更新回数の上限」の設定により、入社するときの期待に反して更新回数の上限に達した段階で”雇い止め”されてしまうことになりますから、その労働者の受ける不利益は甚大といえます。

では、このように使用者(雇い主)が就業規則に「更新回数の上限」を設定することにより、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者を一方的に”雇い止め”してしまう行為は法律的に許されるものなのでしょうか?

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労働者の同意を得ずに就業規則に新設された「更新回数の上限」は無効になるのが原則

このように、会社によっては就業規則に「更新回数の上限」の規定を新設し、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者を”雇い止め”してしまうケースが見られるわけですが、このような就業規則の新設がなされたとしても、その「更新回数の上限」の設定に労働者が合意していない場合には、基本的にはその規定は「無効」と判断されます。

なぜなら、労働契約法の9条で、労働者が合意していないにもかかわらず就業規則を変更することによって労働条件を不利益に変更することが禁じられているからです。

【労働契約法9条】

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

「更新回数の上限」が定められていない状態であれば「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者は「会社から契約更新が受けられる」限りにおいて契約を更新し働き続けることができますから、その「会社から契約更新が受けられる」という可能性は労働契約の内容であって労働条件の一つといえます。

しかし、就業規則で新たに「更新回数の上限」が設定されてしまうと、その上限に達した段階で無条件に”雇い止め”を受けてしまうことになりますので、その「更新回数の上限」が就業規則に設定されること自体が「労働条件の内容である労働条件」が「不利益に変更される」ことになるでしょう。

そうすると、会社が「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者から個別に合意を受けることなく一方的に就業規則に「更新回数の上限」を設定した場合には、この労働契約法9条に規定されている規定に違反して「就業規則を変更することによって労働者の労働条件を不利益に変更した」ということになりますから、その就業規則に新設された「更新回数の上限」は対象となる「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者に対しては効力が及ばない(その労働者に対しては無効になる)という結論になります。

ですから、たとえば「1年ごとの更新」で働くアルバイトのAさんが、「契約更新の上限は1回まで」というような就業規則の規定を新たに規定されたことを理由に会社から2回目の契約更新を拒否されたとしても、その就業規則の新設についてAさんが同意していない限り、労働契約法9条の規定によってAさんには効力が及ばず無効と判断されますから、Aさんは2回目以降の更新を受けて引き続きアルバイトで働くことができることになります(※ただし会社が契約の更新を承諾することが必要ですが…)。

以上が、原則的な考え方となります。

ただし、労働契約法10条の要件を満たしていれば就業規則に新設された「更新回数の上限」は有効になる

このように、労働契約法9条によって「労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更すること」が禁止されていますので、仮に会社が「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く個別の労働者(バイトや契約社員)の承諾を得ずに就業規則に「契約更新回数の上限」を設定したとしても、その上限の規定は対象となる労働者に効力を及ぼしませんので、その新設された規定に合意していない労働者は、その規定は無効なものとして会社に対して契約の更新を求めることができるということになります。

もっとも、これはあくまでも原則的な取り扱いであり、条件が備われば労働者の同意のない就業規則の新設も有効になる場合があります。

具体的には労働契約法10条に規定された要件を全て充足するような場合です。

先ほど挙げた労働契約法9条は、その但書で「ただし、次条の場合は、この限りでない。」と規定されていますから、労働契約法10条の要件を満たしている限り、会社は個別の労働者の同意を得なくても、就業規則を変更(ないし新設)することによって、労働者の労働条件を不利益に変更することができることになるのです。

【労働契約法10条】

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

ですから、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者が、使用者(雇い主)が就業規則を変更し「更新回数の上限」を新たに規定したことを理由に、その「更新回数の上限」で”雇い止め”を受けた場合には、その使用者(雇い主)の就業規則の変更(ないし新設)が労働契約法10条の要件を満たしているか、という点を検証することが必要になります。

就業規則に新設された「更新回数の上限」が有効か無効かの判断基準

このように、労働契約法10条は、使用者(雇い主)が労働者の個別の同意を得ずに就業規則を変更することによって労働者の労働条件を不利益に変更した場合であっても、その不利益変更が有効になる場合の要件を規定していますので、使用者(雇い主)が就業規則を変更することによって「更新回数の上限」を設定し”雇い止め”を受けてしまった場合には、使用者(雇い主)のその就業規則の変更が労働契約法10条の要件を満たすものなのか、を十分にチェックする必要があります。

なお、この点の判断の要点については『会社が就業規則を勝手に変更しても従わないといけないか』のページで詳しく解説していますのでそちらを参考にしてください。

就業規則に「更新回数の上限」が設定されたことを理由に”雇い止め”された場合の対処法

以上で説明したように、仮に使用者(雇い主)が就業規則を変更(ないし新設)することによって「更新回数の上限」を設定した場合であっても、それが”雇い止め”となる対象労働者の個別の合意を受けて規定されていないようなものであれば、その規定自体が労働契約法9条に違反する無効になるのが原則ですし、また、仮に使用者側が例外的に労働契約法10条の要件を満たすことを理由に「更新回数の上限」を設定した就業規則の有効性を主張してきた場合であっても、『会社が就業規則を勝手に変更しても従わないといけないか』のページで説明しているように、その規定を労働者に「周知」していなかったり、労働基準法で定められた労働組合等の意見聴取や労働基準監督署への届け出をしていない場合には、その制定過程に労基法違反行為があるものとしてその無効を主張することができるということになります。

ですから、仮にそのような「更新回数の上限」を就業規則に設定されたことで雇い止めを受けた場合には、それらの点について会社側に違法あるいは不備な点がなかったか、というところを確認することがまず必要になるのは当然ですし、仮にその確認を行って会社側に違法な点がある場合には、以下の方法などを利用して具体的に対処する必要があります。

(ア)「更新回数の上限」を設定した就業規則の規定が無効であることを書面で通知する

使用者(雇い主)が就業規則に「更新回数の上限」を設定したことを理由に「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者が雇い止めされた場合(またはされる恐れがある場合)において、前述したような点を確認して会社側に不備や違法な点がある場合には、その使用者(雇い主)の違法性(ないし手続き不備)を書面に記載して会社に送付してみるのも一つの方法として有効かもしれません。

このようなトラブルに遭遇した場合、会社の上司などに口頭で抗議したりする人も多いですが、会社との関係では労働者はどうしても弱い立場にありますのでうまい具合に言い逃れされてしまうことも少なくありません。

しかし、書面という有形物が残る形でその雇い止めに異議を唱えておけば、後で裁判になった場合などに裁判を有利に進める証拠として利用することもできますので、書面という形でその規定の無効を主張しておくことは意味があるでしょう。

なお、その場合に使用者(雇い主)に送付する書面の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

更新回数の上限に関する就業規則規定の無効確認通知書

私は、〇年〇月〇日、貴社から契約期間を1年とする期間の定めのある雇用契約で採用され、当該契約の期間が満了した〇年〇月〇日に1回目の更新を受けた後、現在まで引き続き就労してまいりましたが、直属の上司である◇◇(課長)から、2回目の契約期間が満了する〇年〇月〇日をもって契約の更新を行わず契約を解除する旨の告知(いわゆる雇い止めの告知)を受けました。

この雇い止めについて貴社は、本年〇月〇日をもって貴社の就業規則第〇条に「有期労働契約の契約更新の上限は1回までとする」旨の規定を新設したことを理由に、その就業規則の規定に従って契約を解除したにすぎず、就業規則の規定が全ての労働者の労働契約の内容担っている以上、契約上ないし法律上の問題は生じない旨主張されています。

しかしながら、当該雇い止めの告知を受けて私が貴社の人事部から提示を受けた就業規則によれば、なるほど貴社の主張するように有期労働契約の更新期間の上限を1年とする規定が新たに設定されておりますが、当該就業規則が労働基準法所定の手続きを経て変更されているのであれば、当然なされているはずの労働組合からの意見聴取(労働基準法90条)や労働基準監督署への変更後の就業規則の届け出(同法89条)が行われた形跡がございませんから(※事前に貴社に対して労働基準監督署に提出した変更後の就業規則に係る届出書および労働組合の意見書の控えの写しの交付を求めていますが未だ交付がなされていないため)、労働基準法に違反する違法な就業規則の変更であるものと認識しております。

また、仮にその手続きに不備がなかったとしても、その更新回数の上限の新設のために就業規則が変更されたことについて、書面が張り出される等の方法で従業員に公表されたり、文書で交付がなされたり、社内のPC等で閲覧可能な状態で告知されたような事実もございませんから(労働基準法106条1項、同法施行規則52条の2参照)、貴社の就業規則の変更による「更新回数の上限」の新設は労働契約法10条の要件を満たしておらず、かつ、同法9条の規定に違反するものとなりますから、その更新回数の上限を規定した就業規則の規定は私と貴社の間で締結された労働契約の内容になるものではなく無効なものと解されます。

したがって、貴社が当該就業規則の変更を理由に次回の契約期間満了をもって私との間の労働契約を解除し雇い止めする行為は、私と貴社の間で締結された有期労働契約における契約上の根拠のない無効なものであることを、本状をもって確認し通知いたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

会社に送付する前に証拠として残すため必ずコピーを取っておき、また相手方に「到達した」という客観的証拠を残しておく必要があるため、普通郵便ではなく特定記録郵便など客観的記録の残る方法を用いて郵送すること。

(イ)就業規則の変更に労基法違反があれば労働基準監督署に申告してみる

以上のような通知書等を送付することをもって使用者(雇い主)側にその違法性を説明しても理解が得られない場合には、その使用者(雇い主)が労働基準法に違反する点について労働基準監督署に労働基準法違反の申告をしてみるというのも一つの対処法として有効かもしれません。

会社が就業規則を勝手に変更しても従わないといけないか』のページで説明しているように、使用者(雇い主)が就業規則を変更して「更新回数の上限」を設定するような場合には、その変更に際して労働組合または労働者の過半数を代表する者から意見を聴取してその意見書を労働基準監督署に提出しなければなりませんし(労働基準法90条、同条89条)、その変更後の就業規則を労働基準監督署に届け出なければなりません(同法89条)。

また、その変更した就業規則の規定については全ての労働者に対して周知することも義務付けられていますから(労働基準法106条1項、同法施行規則52条の2参照)、使用者(雇い主)がそれらの労基法等の規定に違反して意見聴取や届け出、周知を行っていない場合には、その使用者(雇い主)は労働基準法違反として労働基準監督署の監督権限の対象となります。

このような場合、労働者は労働基準監督署に使用者の労基法違反を申告し、臨検や勧告を求めることができますから、労働基準監督署に申告することによって使用者(雇い主)側に間接的にその改善を促すこともできる場合があります。

もちろん、この場合に労働基準監督署に申告できるのは、あくまでもその就業規則の「変更手続きが労働基準法に違反する」ということであって、「雇い止めが違法」ということではありませんから、労働基準監督署に申告したからといって必ずしも使用者からの雇い止めが撤回されるというものでもありません。

しかし、労働基準監督署に労働基準法違反の申告をすることで会社側が不当な雇い止めを止めることも期待できますから、監督署への申告をしてみるというのも対処方法としては有効に機能すると思います。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の文面は以下のようなもので差し支えないでしょう。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:東京都〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:東京都〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社○○
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:03-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのある雇用契約
役 職:特になし
職 種:一般事務

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法89条、同法90条、同法106条1項および同法施行規則53条の2

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・違反者は、期間の定めのある雇用契約で働く労働者について、就業規則に更新回数の上限を1回とする規定を新たに新設したことを理由に、申告者を1回目の契約更新日が到来する〇年〇月〇日をもって雇い止めした。
・しかしながら違反者は、当該就業規則の新設に関して労働組合(または労働者の過半数代表者)の同意を得た事実がなく、また新設した就業規則の規定について法106条1項および同法施行規則53条の2の規定による周知義務を怠り、申告者に周知させていなかった。

添付書類等

・特になし。←注1

備考
本件申告をしたことが違反者に知れるとハラスメント等の被害を受ける恐れがあるため違反者には申告者の氏名等を公表しないよう求める。

以上

※注1:会社の違法性を示す何らかの証拠があれば添付してください。

※労働基準監督署に申告したことが会社にバレても構わない場合は、「備考」の欄の一文は削除しても構いません。

(ウ)その他の対処法

上記のような方法で対処しても会社側が就業規則に新たに規定した更新回数の上限に関する規定を根拠に雇い止めを強行してくるような場合は、会社側が自社の解釈によほど自信があり労働契約法10条の要件を満たすことに確固たる確信があるか、ただ単にブラック体質を有した法律に疎い会社かのどちらかである可能性が高いと思いますので、なるべく早めに法的な手段を取って対処する方がよいでしょう。

具体的には、労働局に紛争解決援助の申し立てを行ったり、自治体や労働委員会の”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士や司法書士に依頼して裁判を行うなどする必要があると思いますが、その場合の具体的な相談先はこちらのページでまとめていますので参考にしてください。

▶ 労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは