バイト・契約社員が期間満了後しばらく経って雇い止めされた場合

アルバイトやパート、契約社員など、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者が、契約期間が満了した日から数日が経って突然、使用者(雇い主)から呼び出され、契約期間が満了したことを理由に”雇い止め”されてしまうケースが稀に見受けられます。

たとえば、契約期間が「1年」として4月1日からアルバイトを始めた労働者が会社から更新の有無の連絡を受けなかったため1年後の4月1日以降も従前どおり出社し働いていたものの、4月2日から数日たったある日に突然、会社から「契約期間が満了してたから」という理由で雇い止めされてしまうような場合です。

働く期間が「〇年〇月から〇年〇月まで」というように一定の期間に限定されて雇用される「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者(主にアルバイトやパート、契約社員)は、その契約期間が満了すれば会社が契約を更新しない限り退職しなければならなくなることはあらかじめ承知の上で勤務しています。

しかし、このように更新の連絡がなかったため引き続き従前のまま働き続けているようなケースでは、労働者としても「契約の更新が承諾されているもの」と考えるのが通常ですから、そのような労働者の期待を一方的に裏切って、数日経ってから「契約期間が満了してたから…」という理由で一方的に雇い止めしてしまうのはあまりにも身勝手なような気もします。

では、このように契約更新の有無の連絡を受けなかったため契約期間満了後も従前と同様に勤務している労働者が、数日経ってから一方的に契約期間の満了を理由に雇い止めされてしまった場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか?

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契約期間が満了した時点で使用者が更新の有無を通知しない場合、契約はどうなるのか?

アルバイトやパート、契約社員など「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者は、契約期間が満了する際に使用者(雇い主)から「契約の更新をする」という通知を受ければそのまま契約が続けられ、「契約の更新をしない」という通知を受ければ契約が打ち切られて退職させられてしまう(いわゆる”雇い止め”)のが通常です。

しかし、使用者(雇い主)によっては、契約期間の満了日を正確に把握していなかったり、契約の更新手続きを失念してしまうなどの事情から、有期労働契約で働く労働者の契約期間が満了する際にその更新手続きをしないケースもありますので、そのような場合に契約期間が満了した従前の雇用契約がどのような影響を受けるのかという点が問題となります。

この点、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」の契約期間が満了した後に労働者が引き続き就労を継続した場合における契約解釈については民法629条の1項で以下のように定められています。

【民法629条1項.】

雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条.の規定により解約の申入れをすることができる。

つまり、有期労働契約で働く労働者が契約期間満了後も引き続き従前の職場で働き続けた場合において、その働き続けていることに使用者(雇い主)が何も異議を言わない場合には、たとえ使用者(雇い主)が「契約を更新する」と言っていなかったとしても、その労働者の雇用契約は従前の有期労働契約の労働条件と同じ労働条件で更新されたことが推定される、というわけです。

例えば、株式会社X社で2018年の1月1日から「時給1,000円」「契約期間1年」のアルバイトで働き始めたAさんが、契約期間が満了する2018年の12月31日までにX社から契約の更新について何も話がなかったため2019年の1月1日以降も同じ職場に出社し働き続け、それにX社が何も異議を唱えなかったような場合には、AさんとX社の間には従前の雇用契約と同じ労働条件の契約が更新されたことが推定されることになります。

なお、このようにして更新が推定されることは「黙示の更新」と呼ばれます。

「黙示の更新」があった後の契約は「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」となる

このように、民法629条1項では、契約期間が満了した後も継続して就労している労働者に使用者が異議を唱えなかった場合は「黙示の更新」があったものとして、従前の契約と同一の労働条件で雇用契約が継続したことが推定されることになります。

ところで、この「黙示の更新」がなされたときに重要なのが、その「黙示の更新」によって更新された契約は「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」ではなく「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」になるという点です。

例えば、先ほどのAさんの事例では2019年の1月1日に「従前と同じ条件」で契約が更新された(黙示の更新)ものと推定されますが、この場合における2019年1月1日以降の契約は「時給1,000円」という労働条件はそのまま引き継がれますが、「契約期間1年間」という”契約期間”は引き継がれませんので、その黙示の更新によって更新される雇用契約は「2019年12月31日」で満了するわけではなく、正社員と同じように定年まで勤務することが許容される”終身雇用”の契約となります。

なぜこのように解釈されるかというと、先ほど挙げた民法629条1項の後段に「各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる」と規定されているからです。

民法627条は「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」における退職の申入れを規定した条文になりますので、民法629条1項の「黙示の更新」がなされた後の雇用契約も「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」になると解釈されるわけです。

黙示の更新後の雇用契約では、賃金や有給、労働時間などは従前のまま引き継がれることになりますが、契約期間の制約がなくなりますので契約更新の必要がなく定年まで働き続けることになります。

契約期間の満了日が経過した後の”雇い止め”は「解雇」

このように、民法629条1項の規定によって「黙示の更新」として契約が更新された場合の雇用契約は従前の「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」ではなく「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」となりますから、たとえ従前の契約でアルバイトやパート、契約社員として働いていたとしても、「黙示の更新」があった後の契約は正社員と変わらない「終身雇用」が保障されることになります。

そうすると、「黙示の更新」が成立した時点で従前の有期労働契約で結ばれた「契約期間」はなくなりますから、「黙示の更新」があった後においては使用者(雇い主)はもはや「契約期間が満了した」という理由で労働者との雇用契約を解除することはできなくなります。

つまり、「黙示の更新」が生じた後に使用者(雇い主)が労働者との契約を解除する場合は、全て「解雇」と同様に扱われることになるわけです。

先ほどの例で例えると、X社で働くAさんは2019年の1月1日以降も従前の職場で雇い主から異議を唱えられることなく働いていたことによって2019年1月1日に「黙示の更新」があったものと推定されることになりますから、仮に2019年の1月2日にX社から「2018年の12月31日の時点で契約期間が満了してたから契約解除(雇い止め)するよ」といわれたとしても、それは「2018年12月31日付けで雇い止めされた」ということではなく「2019年1月2日に無期労働契約を解雇された」と解釈されるということになります。

「黙示の更新」後の雇い止めは「解雇」として無効になるのが原則

このように、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」の契約期間が満了した後に「黙示の更新」がなされた場合には、その後に使用者(雇い主)が”雇い止め”をしてきたとしても法律上は「解雇」として扱われますので、その有効性も「解雇」の有効性の判断基準に委ねられることになります。

この点、「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」の「解雇」については労働契約法16条の規定がありますが、そこでは使用者(雇い主)がその解雇を行ったことについて「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」を立証できない限り「無効」と判断されることになっています。

【労働契約法16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、使用者(雇い主)が契約期間が満了した有期労働契約で働く労働者を、その契約期間が満了した後に”雇い止め”した場合には、その”雇い止め”が民法629条1項によって「黙示の更新」と解釈される以上、その”雇い止め”したことが正当だという点について「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を立証できない限り、その”雇い止め”は「無効」と判断されるわけです。

しかし、この「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」は、裁判で主張立証することは極めて困難ですから、通常のケースではほとんどの場合「解雇」は「無効」と判断されます。

ですから、仮に契約期間が満了した後に使用者(雇い主)から「契約期間が満了してたから契約を終了するよ」といわれたとしても、その”雇い止め”の「無効」を主張して「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」が黙示の更新によって継続されていることを確認させることもできるということになります。

バイト・契約社員が契約期間が満了した後に雇い止めされた場合

以上で説明したように、アルバイトやパート、契約社員など「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者が契約期間が満了した日以降に従前と同じ職場で働き続けていた場合において、使用者(雇い主)が何ら異議を唱えずにその就労を黙認しているようなケースでは、その事実によって「黙示の更新」が成立し、従前の契約が満了した時点で「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」に契約が変更されたうえで契約が更新されたものと成りますので、その後にたとえ使用者(雇い主)が「契約期間が満了してたから…」という理由で雇い止めしてきたとしても、その無効を主張して「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」として引き続き就労することができるということがいえます。

もっとも、このような法解釈をすべての会社の経営者や役職者が認識しているわけではありませんので、規約期間が満了した後に雇い止めを受けた場合には具体的な行動をとって対処することが求められます。

(1)雇い止めの無効を書面で通知する

アルバイトやパート、契約社員など「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者が、契約期間が満了した後に「黙示の更新」が成立しているにもかかわらず”雇い止め”を受けた場合には、その雇い止めの無効を主張する通知書を作成し会社に送付するのも一つの方法として有効です。

口頭で「黙示の更新が成立してるからその雇い止めは解雇になるので無効だ!」と主張しても構いませんが、それで会社が「はいそうですか」と認めることはまずありませんし、会社と労働者とではどうしても会社の方が立場的に有利になりますから、いいように言いくるめられる恐れもあり危険です。

その点、書面で送付しておけば言いくるめられる危険はありませんし、仮に会社がその雇い止めの撤回に応じなくてもその書面をコピーして残しておくだけで将来的に裁判になった場合に「会社に説明したのに認めてもらえなかった」ということを立証するための証拠として使用することもできますから、口頭で異議を出すだけでなく書面で雇い止めに異議を出しておくことも必要になると思います。

なお、その場合の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。


○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

雇い止めの無効確認通知書

私は、〇年〇月〇日、貴社から、◇年◇月◇日付けで貴社との間に締結した契約期間を□年とする有期労働契約(以下「本件有期労働契約」という)の契約期間が◆年◆月◆日をもって満了したことを理由に、契約解除の通知(いわゆる雇い止めの通知)を口頭で受けました。

しかしながら、確かに本件有期労働契約が◆年◆月◆日に満了していることは事実であるにしても、私は◆年◆月◆日が経過したあと本日まで1週間以上従前の職場に出勤し就労を継続してまいりましたから、私と貴社の間には、民法629条1項の規定により「黙示の更新」があったものとして従前と同様の労働条件で雇用契約(以下「黙示の更新後の契約」という)が更新されている状態にあります。

ところで、この黙示の更新後の契約については、民法629条1項後段が民法627条の「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」における退職の規定に準ずることを明記していることから、「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」として更新されているものと解釈されますが、貴社は本件有期労働契約の期間満了日が経過したことを理由にその期間満了日が経過した後に”雇い止め”を行っておりますので、貴社の雇い止めは「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」の雇い止めではなく、「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」における「解雇」と同様の扱いを受けることになります。

しかしながら、「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」における解雇については労働契約法16条において「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が要求されるところ、貴社は「黙示の更新」があったことを一切無視し、黙示の更新後の契約ではなく、黙示の更新によって既に消滅した本件有期労働契約について”雇い止め”したことを理由に「解雇」を命じているわけですから、その解雇について「客観的合理的な理由」も「社会通念上の相当性」も存在しないといえます。

したがって、貴社の行った黙示の更新後の契約にかかる解雇は、労働契約法16条に違反する解雇権を濫用した違法・無効なものと判断されますから、直ちに当該解雇を撤回することを求めるとともに、本状をもって貴社との間に「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」としての雇用関係が継続されていることを確認いたし通知いたします。

 

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞


会社に送付する前に証拠として残すため必ずコピーを取ったうえで送付するなり上司に手渡すなりしてください。また、郵送する場合は会社に送付されたという記録が残される特定記録郵便などを利用する方がよいと思います。

(2)その他の対処法

上記のような通知書を送付しても会社側が雇い止めが正当だと主張して終了を拒否するような場合は、会社側の意思として絶対に退職まで追い込みたいと考えていることが想定されますので、なるべく早めに法的な手段を取って対処する方がよいでしょう。

具体的には、労働局に紛争解決援助の申し立てを行ったり、自治体や労働委員会の”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士や司法書士に依頼して裁判を行うなどする必要があると思いますが、その場合の具体的な相談先はこちらのページでまとめていますので参考にしてください。

▶ 労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

(3)労働基準監督署で対処してもらえるか?

なお、このような会社側の雇い止め(実質的な解雇)のトラブルに関して労働基準監督署に相談することで何らかの行政的な対処をしてもらえるかという点が問題となりますが、労働基準監督署は労働基準法に関係する法律に違反している事業主を「労働基準法違反」として監督する権限があるにすぎず、本件のような労働契約法違反行為には監督権限がありませんので、このよう黙示の更新後の雇い止めに関するトラブルに関しては労働基準監督署は積極的に関与してくれないものと考えられます。

先ほども説明したように、有期労働契約における黙示の更新後の雇い止めは実質的には「解雇」であり、その解雇の有効性は労働契約法16条の問題となりますから、それに違反しても「労働基準法違反」になるわけではありません。

ですから、このような雇い止めや解雇に関するトラブルについては、労働基準監督署ではなく労働局やその他のあっせん手続き、または弁護士法人や司法書士に依頼する裁判手続きを利用して解決を図るしかないのではないかと思います。