労働基準法の89条は「常時10人以上労働者を使用する使用者」に対して就業規則を作成することを義務付けていますので、自分が働いている会社で「常時10人以上」の労働者が働いている状況がある限り、その会社には就業規則が存在する”はず”です。
【労働基準法89条】
常時10以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。(以下省略)
※この「常時10人以上」の意味については『会社に就業規則があるかないか確認する方法』のページで詳しく解説しています。
もちろん、その会社が労働基準法に違反するブラック体質を持っている場合は労働基準法の規定を遵守せず就業規則を作成していないことも考えられますので就業規則が「ない」かもしれませんが、法律に遵守していることを前提とすれば「常時10人以上」の労働者が働いている限りおそらく就業規則は「ある」といえるでしょう。
しかし、仮に就業規則が「あった」としても、必ずしもその就業規則が労働者に公開されているとは限りません。
なぜなら、ブラック体質を持った会社では、就業規則を労働者に閲覧させないことで、就業規則に規定のない労働条件で働かせたり、またその逆に就業規則で保障された労働条件を労働者に保障せず、使用者の思いのままに労働者を酷使することがあるからです。
就業規則の内容は労働者に公開(周知)されなければならない
このように、悪質なブラック体質を持った会社では、就業規則が存在しているにもかかわらず、あえてそれを労働者に公開せずに労働者を酷使する事例が見られますが、そのような行為は法律的には違法となります。
なぜなら、労働基準法では、就業規則を規定した会社はその就業規則を常時労働者が閲覧できる状態にすることでその就業規則の内容を労働者に周知させることが義務付けられているからです(労働基準法106条1項、労働基準法施行規則53条の2)。
【労働基準法106条1項】
使用者は、この法律及びこれに基づく(中略)就業規則(中略)を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
【労働基準法施行規則52条の2】
法第106条第1項の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
- 書面を労働者に交付すること。
- 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
このように、労働基準法では、就業規則を作成した使用者(雇い主)に、その就業規則を「見やすい場所に掲示」するか「見やすい場所に備え付け」るか「書面で交付」するか「会社のパソコン等で閲覧可能な状態にしておく」か、いずれかの方法で就業規則を公開することが義務付けられていますから、もし仮に自分の会社で「常時10人以上」の労働者が働いているにもかかわらず、これらの方法がとられていないということであれば、その会社は労働基準法に違反して就業規則の周知義務を怠っていることになります。
働いている会社の就業規則の内容を確認する方法
以上で説明したように、労働基準法の106条1項と労働基準法施行規則の53条の2において、就業規則の周知義務が明確に定められていますから、労働基準法の89条の規定によって「常時10人以上労働者を使用する使用者」に該当する会社である限り、その会社で作成された就業規則は、そこで働く全ての労働者(※アルバイトやパート、契約社員も当然含まれます)に公開されている「はず」といえます。
ですから、自分の会社で作成されている就業規則を確認したい場合には、以下のいずれかの方法で就業規則が公開されていないか、という点をまず確認することが必要になります。
就業規則が
- 常時各作業場の見やすい場所に掲示されているか
- 常時各作業場の見やすい場所に備え付けられているか
- 書面の形で労働者に交付されているか
- 社内のパソコンで常時閲覧可能な状態でアップロードされているか
この点、上に挙げた4つの確認方法のいずれの方法でも就業規則が公開されておらず、その内容を確認できない場合の対処法が問題となりますが、そのような場合は以下の(1)または(2)の方法を利用することが考えられます。
(1)書面で就業規則の公開を求める
上に挙げた4つの方法で確認しても就業規則の内容が公開されていないような場合は、前述したような労働基準法等の規定で就業規則の周知義務があることを説明した書面を作成し会社に送付してみるというのも一つの方法として有効かもしれません。
もちろん、口頭で「労働基準法で周知義務が規定されていますからすぐに就業規則を閲覧させてください」と伝えるだけでも構いませんが、口頭で告知しても無視されたり言いくるめられてしまうことが多いですし、書面で申入れしておけばその書面のコピーを保存することで将来的に裁判になったような場合に「公開するよう申し入れたのに無視されて就業規則を確認できなかった」ということを客観的証拠を提示することで立証することができますから、書面の形で申入れすることも意味があるといえます。
なお、その場合の文面は以下のようなもので差し支えないでしょう。
株式会社○○
代表取締役 ○○ ○○ 殿
就業規則の公開および周知申入書
私は、貴社に対し、就業規則の公開を申し入れておりますが、いまだに就業規則を閲覧することができません。
しかしながら、労働基準法106条1項および労働基準法施行規則53条の2では、就業規則を労働者に周知することが義務付けられていますから、貴社の対応は同法及び同法施行規則に違反する違法なものといえます。
つきましては、同法及び同法施行規則を遵守し、直ちに就業規則を公開ないし周知するよう申し入れいたします。
〇年〇月〇日
〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室
○○ ○○ ㊞
※なお、実際に送付する際は客観的証拠として保存しておくためコピーを取ったうえで、会社に送付されたという記録が残るよう普通郵便ではなく特定記録郵便などを利用するようにしてください。
(2)労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行う
(1)のような書面を送付する方法以外の対処法として一番手っ取り早いのが、労働基準監督署に労働基準法違反の申告をする方法です。
労働基準法では、使用者(雇い主)が労働基準法に違反している場合に、そこで働く労働者が労働基準監督署にその労基法違反行為を申告することで監督署からの監督権限の行使を促す違法行為の是正申告の制度を設けています(労働基準法104条1項)。
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
ですから、先ほども説明したように労働基準法の106条1項と労働基準法施行規則の53条の2において就業規則の周知義務が明確に規定されている以上、その規定に反して周知義務を行っているという状況は労働基準法に違反しているということになりますので、その会社で働く労働者は労働基準監督署に労働基準法違反の申告ができるということになるでしょう。
仮に労働基準監督署に労基法違反の申告を行うことで労働基準監督署が監督権限を行使し、指導や是正勧告を行うようであれば、会社側がその指導や勧告に従って上記4つの方法のいずれかの手段で就業規則を常時閲覧可能な状態で公開することも期待できますので、労働基準監督署に申告する方法を利用することで就業規則の内容を確認することできるということになります。
なお、この場合に具体的にどのような手順で労働基準監督署に申告を行えばよいかという点が問題となりますが、労働基準監督署への申告は労働基準監督署がその申告内容を正確に把握する意味でも書面の形で行うのが一般的ですので、申告書など書面を作成し申告を行う方が良いと思います。
その場合の申告書の文面は、以下のようなもので差し支えないでしょう。
労働基準法違反に関する申告書
(労働基準法第104条1項に基づく)
○年〇月〇日
○○ 労働基準監督署長 殿
申告者
郵便〒:***-****
住 所:東京都〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****
違反者
郵便〒:***-****
所在地:東京都〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社○○
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:03-****-****
申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのある雇用契約(アルバイト)
役 職:特になし
職 種:製造補助
労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。
記
関係する労働基準法等の条項等
労働基準法106条1項および同法施行規則53条の2
違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・違反者では、正社員とフルタイムのアルバイトを含めて常時20人の労働者が就労しているため労働基準法89条の規定から就業規則の作成が義務付けられた事業所と考えられるが、違反者ではその就業規則を「見やすい場所に掲示」することも「見やすい場所に備え付け」ることも「書面で交付」することも「会社のパソコン等で閲覧可能な状態にしておく」こともしておらず、その内容を確認することが一切できない。
添付書類等
特になし
備考
本件申告をしたことが違反者に知れるとハラスメント等の被害を受ける恐れがあるため違反者には申告者の氏名等を公表しないよう求める。
以上
※備考の欄に上記の記載例のように記入しておくことで、労働基準監督署に申告したことを会社の経営者や役員に知られることなく安全に監督署からの権限行使を求めることが可能となります。