就業規則の変更が労働基準監督署に届出されたか確認する方法

就業規則が設置されている会社では、会社側が一方的に就業規則の規定を変更することによって労働者の労働条件を引き下げてしまうトラブルが稀に見られます。

たとえば、有給休暇が1年で「20日間」与えられるものと定められていた就業規則の規定が「10日間」に変更されて労働者の有給休暇の取得期間が10日間削減されるようなケースです。

このように就業規則の規定が変更が行われた場合、その就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更された労働者が対処する方法としては、まずその就業規則の変更が労働法所定の手続きを遵守されて行われたものなのか、という点を確認する作業が必要になります。

会社側が労働基準法等で定められた手順を経ずに就業規則を変更しているとなれば、その変更後の就業規則の手続き上の瑕疵を指摘して、その変更の効力自体を否定する主張を展開することができるからです。

この点、労働契約法11条および労働基準法89条では、就業規則の変更に際してはその変更した事項について監督官庁である労働基準監督署に「届け出」を行うことを義務付けていますから、「就業規則の変更が手続き的に正しく行われたのか」という点を確認するための方法も、その「労働基準監督署への届出がなされているか」という点を確認するのが最も手っ取り早い確認方法となります。

【労働契約法11条】

就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法第89条及び第90条の定めるところによる。

【労働基準法89条】

常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。(以下省略)

しかし、一般の労働者は、会社が労働基準監督署に変更した就業規則の届け出を行ったか否かという事実を知りようはずがありませんから、具体的にどのようにしてその事実の有無を確認すればよいかという点が問題となってきます。

では、実際に勤務先の会社で就業規則の変更が行われた場合において、使用者(雇い主)が変更した就業規則を労働基準監督署に届出したかしていないか確認したい場合、具体的にどのような方法を取ればよいのでしょうか?

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就業規則を変更する際に必ず「届出書」を労基署に提出しているはず

先ほども述べたように、使用者(雇い主)が就業規則を変更する場合にはその変更した就業規則の規定を労働基準監督署に届け出することが労働基準法で義務付けられていますから(労働契約法11条、労働基準法89条)、仮に会社が「法律を遵守して就業規則を変更した」と主張するのであれば、必ずその変更された就業規則の規定も労働基準監督署に届け出られているはずです。

ですから、変更された就業規則の規定の違法性を主張して争う場合には、まずその会社が就業規則の変更に際して労働基準監督署に届け出を行ったのか、という点を確認する必要があります。

労基署に提出した届出書の「控え(写し)」の交付を受けているはず

この点、仮に使用者(雇い主)側が「労働基準監督署に届け出を行った」と言うのであれば、その使用者(雇い主)は当然、労働基準監督署から交付を受けた届出書の控えを受領しているはずです。

なぜなら、労働基準監督署では、使用者(雇い主)から就業規則の変更に関する届け出があった場合、その日付入りの受領印を押印した「届出書の控え(写し)」を交付することになっているからです。

この届出書の控え(写し)は、その後に労働基準監督署からの臨検や調査の際「労働基準監督署に届け出を行った」ということを立証する証拠となりますから、まともな会社であれば必ず保管されているはずです。

ですから、使用者(雇い主)が就業規則を変更する際に労働基準監督署に届け出を行ったか行っていないかを確認する場合には、その使用者(雇い主)に対してその届け出時に労働基準監督署から受領した届出書の「控え(写し)」があるか否かを確認するのが最も手っ取り早い確認方法になるといえます。

労基署から交付を受けた「届出書の控え」の写しの交付を求めてみる

このように、労働基準法では使用者(雇い主)が就業規則を変更(ないし新設)する場合にはその変更した箇所について労働基準監督署に届け出を行うことを義務付けており、その届け出を行った場合は必ず労働基準監督署からその届出書の控え(写し)が交付されることになるわけですから、使用者(雇い主)が「就業規則の変更は正当だ!」というのであれば、その会社にその届け出を行ったときに受領した「控え(写し)」が存在するはずです。

ですから、その就業規則の変更に疑義がある労働者としては、まずその会社に対してその「届出書の控え(写し)」があるか否か確認し、その「控え(写し)のコピー」を交付するよう要請してみることも必要になるでしょう。

この場合、口頭でその交付を求めても構いませんが、仮に会社側がその交付の求めに応じずに後日裁判になった場合には、その「交付を求めたのに応じなかった」ということ自体が会社が労働基準監督署に届け出を行っていないことを立証する証拠の一つとなりますので、有体物としての客観的証拠を保存しておく意味でも、その交付を求める申入書等を作成して書面という形で会社に申し入れを行う方がよいと思います。

なお、その場合の文面は以下のようなもので差し支えないでしょう。

株式会社○○

代表取締役 ○○ ○○ 殿

就業規則変更に係る労働基準監督署への届出書の控えの写し交付申入書

貴社は、〇月〇日付けで就業規則第〇条(〇項)につき変更を行い労働条件を変更しておりますが、かかる就業規則の変更に際して労働契約法11条、労働基準法89条その他労働法所定の手続きを遵守されているのか、いささか疑義があります。

つきましては、貴社が労働法所定の手続きを遵守していることを確認するため、貴社が労働契約法11条及び労働基準法89条に従って労働基準監督署に提出した際に同署から交付を受けた届出書の控えの写しを交付くださいますよう申し入れいたします。

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

以上のような申入書を送付してもその届出書の控え(写し)を交付しないようであれば、その会社は就業規則の変更を労働基準監督署に届け出ていない、ということが高い確率で推定できるということになります。