出向先に受け入れを拒否されたら休職・退職扱いになるか

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人事異動は配転(配置転換)・出向・転籍の3つがありますが、そのうち「出向」は、在籍している会社に従業員としての籍を置いたまま、全く別の会社でその別の会社の従業員として勤務する点に大きな特徴がみられます。

人事異動における出向命令は拒否できるか』のページでも説明したように、この出向は労働者が労務を提供する相手方の企業が全く別の企業に変更されることを意味し労働者に与える影響が大きいことから、雇用契約書(労働契約書)や就業規則等に単に「会社は出向を命じることができる」という規定があるだけでは足りず、その出向に関する基本的な規定が明確に明示されている場合でない限り労働者はその自由な意思表示で一方的に出向を拒否することができるものと考えられています。

もっとも、会社からの出向命令に労働者が個別の同意を与えた場合は会社と労働者が出向に合意したことになりますので労働者はその出向命令に従わなくてはなりません。

その場合、労働者は会社の命令に従って出向先に移動しなければなりませんが、そこで疑問が生じるのが出向先の会社に出向の受け入れを拒絶されるような場合です。

出向先の会社は出向元の会社とは全く別の会社になりますから、たとえ出向前に出向の合意が出向元の会社との間でなされていたとしても、その後の経営状況や社会環境の変化で出向先の方針が変化し新規労働力の補充の意味合いのある出向の受け入れを拒絶する可能性も否定できないでしょう。

では、実際に勤務先の会社から出向を命じられた労働者が自由な意思表示でその出向命令を承諾し出向することが決定した後になって出向先の会社が出向社員の受け入れを拒否した場合、その出向対象者となっている労働者はどのように処遇されるのでしょうか。

出向先の会社に受け入れを拒否されたら、当初予定されていた出向期間休職扱いにされたり、退職扱いにされたりしないのでしょうか?

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出向先に受け入れを拒否されても休職や退職扱いにはならない

結論から言うと、会社からの出向命令に同意した後になって出向先の会社から出向の受け入れを拒否されたとしても、休職や退職扱いになることはありません。

なぜなら、先ほども説明したように、出向は今勤務している企業に社員としての籍を残したままの状態で、出向先の会社と部分的な労働契約関係を結びその別の会社の社員として働くことが前提となっているからです。

出向を合意して出向先に移動したとしても出向元の会社との労働契約関係が消滅してしまうわけではなく、出向期間中も出向元の会社との労働契約関係は継続していることになりますから、たとえ出向先の会社に受け入れを拒否されたとしても、それによって出向元との労働契約関係が消滅するわけではなく単に出向元の会社との契約関係に戻るだけに過ぎません。

出向期間中は出向元との労働契約関係が休職状態や部分的な契約部分が休止状態になると解釈されるケースもありますが、出向先が受け入れを拒否して出向できなくなれば、出向期間自体が開始されなくなりますので、そもそも出向元の会社との労働契約関係が休止・休職という状態も開始されなくなるでしょう。

また、雇用契約(労働契約)で生じる雇用契約関係では、労働者は労務を使用者(雇い主)に提供する義務を負担すしその対価として賃金の支払いを受ける権利を有することになりますが、これに対して使用者(雇い主)は労働者に対して労務(仕事)を提供しなければならない雇用契約(労働契約)上の義務を負担することになります。

そうであれば、仮に出向先の会社が出向対象となっている社員の受け入れを拒否したとしても、労働契約関係が残るその出向対象者たる社員に労務を提供しなければならない義務は継続して負担していることになるわけですから、会社はその出向の受け入れを拒否された労働者を休職や退職扱いにすることは許されず、継続している労働契約関係に従ってその労働者に労務を提供しなければならないことになるのは当然といえます。

ですから、仮に出向先の会社からその出向の受け入れを拒否されたとしても、給食や退職扱いにされるわけではなく、元の会社に従前のままの状態で復職することになると言えるのです。

出向先に受け入れを拒否されたことを理由に休職や退職扱いにされた場合は?

以上のように、出向は出向元の会社との労働契約関係が残されるのが前提となっていますから、仮に出向先の会社から受け入れを拒否されたとしても基本的に休職や退職扱いにされることはありません。

もっとも、とは言っても出向を命じられた後に会社からその受け入れを拒否されたことを理由に休職や退職扱いにされることを強制させられた場合の対処法が問題となります。

会社によっては出向の制度を悪用し、出向先が出向の受け入れを拒否したことを利用して、労働者を休職や退職に追い込んで会社から排除しようと悪用するケースも否定できないからです。

この点、仮に休職扱いにされた場合には、会社は理由なく出向対象者に労務を提供せず休職扱いにしていることになりますので法的には「使用者側の都合による休業」という扱いになり、その休職扱いにされた期間中の賃金の請求ができるということになるでしょう。

たとえば、甲社で働くAさんが乙社へ3年間の出向を命じられ、それを承諾した後になって乙社から出向の受け入れを拒否されたところ、甲社から復職を拒否されてその後3年間休職扱いにされたようなケースでは、Aさんはその休職期間中の賃金を甲社に請求できるということになります。

また、たとえばこれが退職の扱いを受けた場合であれば、Aさんの退職は不当解雇と同じですから、Aさんは甲社に対して解雇の無効を訴えたり、解雇された後の解雇されなければ受け取っていたであろう賃金の支払いを請求できるということになるでしょう。

もっとも、これらの対処法は最終的には裁判などで解決するしかありませんので、もし仮に出向先の会社から受け入れを拒否されたうえ出向元の会社からも休職や退職扱いにされたような場合には、早めに弁護士などに相談し、示談交渉や訴訟の準備に着手する方がよいかもしれません。