労働基準監督署に相談したことを理由に解雇された場合の対処法

なお、この場合に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

労働基準監督署への相談を理由とした解雇の無効確認及び撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から解雇する旨の通知を受け、同月末日をもって貴社を解雇されました(以下、この解雇を「本件解雇」と言います)。

本件解雇については同年〇月〇日、その理由を上司であった○○氏に確認したところ、貴社が休日の付与に関して労働基準法に違反した事実を、私が同年〇月、労働基準監督署に申告したことが直接の理由であると聞いております。

しかしながら、労働者が労働基準法違反の事実を労働基準監督署に相談(申告)したころを理由に解雇することは労働基準法第104条第2項で禁止されておりますので、私が〇年〇月に貴社の違法行為を労働基準監督署に申告したことを理由とした本件解雇は明らかに違法です。

したがって、本件違法な解雇の解雇事由に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」は存在せず、本件解雇は解雇権を濫用した無効なものと言えますから、直ちに本件解雇を撤回するよう、申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで配達した記録の残る特定記録郵便などの郵送方法で送付するようにしてください。

(3)労働基準監督署に相談(申告)したことを理由に解雇された事実を労働基準監督署に改めて相談(申告)する

使用者の労働基準法違反行為について労働基準監督署に相談(申告)したことを理由に解雇された場合には、その解雇された事実を、前の相談(申告)とは別の件として改めて労働基準監督署に相談(申告)してみるのも対処法の一つとして有効です。

前述したように、労働基準監督署に違法行為の相談(申告)したことを理由に解雇することは労働基準法第104条第2項違反となりますから、その違法な解雇の事実についても更に労働基準監督署に相談(申告)することが可能です。

そしてその相談(申告)したことによって労働基準監督署が臨検や調査を行い、その違法性が確認されて監督署から是正勧告などが出されれば、その違法な解雇の撤回に会社側が応じたり解雇日以降の賃金の支払いに応じるケースもあると思われますので、その解雇の事実を改めて労働基準監督署に申告するというのも解決方法として有効に機能する場合があると考えられるのです。

なお、その場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:奈良県奈良市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:解雇 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:奈良県香芝市〇町〇番〇号
名 称:株式会社 甲
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(←注1)
役 職:なし
職 種:一般事務

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法104条第2項

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月〇日、違反者から解雇する旨の告知を受け、同月30日付で解雇された。
・この解雇理由について違反者は、申告者が〇年〇月、違反者の休日付与違反関する労働基準法違反行為について○○労働基準監督署に申告(相談)し、監督署からの調査が行われたことをもって社内風紀を乱したと説明している。
・しかしながら労働基準法第104条第2項は労働基準監督署に申告したことを理由とした解雇を禁じているから、当該解雇は同条同項に違反する。

添付書類等
・解雇(予告)通知書の写し……1通(←注2)
・違反者から交付された解雇理由証明書の写し……1通(←注2)

備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(他の労働者が別件で労基署に申告した際、違反者の役員が自宅に押し掛けて恫喝するなどの事例が過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)

以上

※注1:契約社員やアルバイトなど期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)の場合には、「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。

※注2:労働基準監督署への申告に添付書類の提出は必須ではありませんので添付する書類がない場合は添付しなくても構いません。なお、添付書類の原本は将来的に裁判になった場合に証拠として利用する可能性がありますので必ず「写し」を添付するようにしてください。

※注3:労働基準監督署に違法行為の申告を行った場合、その報復に会社が不当な行為をしてくる場合がありますので、労働基準監督署に申告したこと自体を会社に知られたくない場合は備考の欄に上記のような文章を記載してください。申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は「特になし」と記載しても構いません。

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労働基準監督署に申告したことを理由に解雇された場合のその他の対処法

労働基準監督署に相談(申告)したことを理由に解雇された場合におけるこれら以外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、労働局の紛争解決援助の手続きや調停の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

解雇予告手当や退職金など解雇を前提とした金品は受け取らない方が良い

以上のように、労働基準監督署に相談(申告)したことを理由に解雇されたとしても様々な対処法を取ることができますが、解雇の無効を主張してその効力を争う場合には、解雇予告手当や退職金など解雇を前提とする金品を受け取らないようにした方が無難です。

解雇予告手当や退職金など「解雇(退職)の事実が発生したこと」が前提となって支給される金品を受け取ってしまうと「無効な解雇を追認した」と認定されて後に裁判や示談交渉で解雇の無効を主張することが困難になる場合があるからです。

ですから、解雇の効力を争う場合には、仮に解雇予告手当や退職金などが支払われたとしてもそれを受け取るのは控えた方が良いでしょう (※参考→解雇されたときにしてはいけない2つの行動とは)。

解雇のトラブルはなるべく早めに弁護士に相談した方が良い

なお、解雇された場合の個別の対応は、解雇の撤回を求めて復職を求めるのか、それとも解雇の撤回を求めつつも解雇は受け入れる方向で解雇日以降の賃金の支払いを求めるのか、また解雇を争うにしても示談交渉で処理するのか裁判までやるのか、裁判をやるにしても調停や労働審判を使うのか通常訴訟手続を利用するのかによって個別の対応も変わってくる場合があります。

労働トラブルを自分で対処してしまうとかえってトラブル解決を困難にする場合もありますので、弁護士に依頼してでも権利を実現したいと思う場合は最初から弁護士に相談する方が良いかもしれません。その点は十分に注意して下さい。