内部告発者(公益通報者)に対する解雇が無効になる3つのケース

ハ)勤務先の企業から企業内通報や行政機関等への通報をしないよう正当な理由なく要求された場合

労働者が「① その企業のコンプライアンス室など企業に対して直接その違法行為を申告する内部告発」や「② 監督官庁や警察など行政機関等にその違法を申告する内部告発」を「しないこと、を勤務先の企業から正当な理由なく要求された」場合には、マスコミやネット上への内部告発を行ったことを理由として解雇されたとしても、その解雇は無効と判断されます(公益通報者保護法第3条第3号ハ)。

ですから、たとえば先ほどの南高梅の例で、会社が産地偽装していると労働者が「信じたことに相当な理由」がある場合において、会社から正当な理由なく「会社内部のコンプライアンス室に相談するな」とか「行政機関等への通報するな」と指示された事情がある場合には、仮にその会社で産地偽装が行われなかったとしても(その内部告発が労働者の勘違いであったとしても)、その労働者がマスコミへの告発やネット上への書き込みで広く社会にそれを暴露したことを理由に解雇された場合には、その解雇は無効と判断されることになります。

一方、このケースで労働者に会社から正当な理由なく「会社内部のコンプライアンス室に相談するな」とか「行政機関等への通報するな」と指示された事情が「ない」場合には、その労働者に対する解雇は公益通報者保護法第3条では無効にはならないということになります(※ただし、この場合でも公益通報者保護法第3条3号イ~ホのうち他のいずれかの要件を満たす場合や、後述するように他に労働契約法第16条にあたる事情があればその解雇が無効と判断される余地はあります)。

二)書面(またはメール等)で企業内通報をして20日経過しても会社から調査を行う旨の通知がない又は会社が正当な理由なく調査を行わない場合

労働者が「① その企業のコンプライアンス室など企業に対して直接その違法行為を申告する内部告発」を「書面(メールなどでもよい)」で行った場合において、その内部告発をしてから20日が経過したにもかかわらず、「会社から調査を行う旨の通知がなかった」り「正当な理由なく調査が行われない」ような場合には、マスコミやネット上への内部告発を行ったことを理由として解雇されたとしても、その解雇は無効と判断されます(公益通報者保護法第3条第3号二)。

この解雇無効の要件を満たすためには、前提としてまず企業内通報を「書面(メールなどでもよい)」をしておくことが必要で、口頭でコンプライアンス室に内部告発しただけではこの保護は受けられませんので注意が必要です。

ですから、たとえば先ほどの南高梅の例で、会社が産地偽装していると労働者が「信じたことに相当な理由」がある場合において、会社のコンプライアンス室などに「書面(メール)」で内部告発したにもかかわらず、20日が経過しても会社から「調査をする旨の通知がなされなかった」り、「正当な理由なく会社が調査をしない」ようなケースでは、仮にその会社で産地偽装が行われなかったとしても(その内部告発が労働者の勘違いであったとしても)、その労働者がマスコミへの告発やネット上への書き込みで広く社会にそれを暴露したことを理由に解雇された場合には、その解雇は無効と判断されることになります。

一方、このケースで労働者がマスコミやネット上に暴露する前に企業内通報をしていなかったり、会社のコンプライアンス室などに企業内通報をしていたとしても書面(メール)でしていたことを立証できない場合には、その労働者に対する解雇は公益通報者保護法第3条では無効にはならないということになります(※ただし、この場合でも公益通報者保護法第3条3号イ~ホのうち他のいずれかの要件を満たす場合や、後述するように他に労働契約法第16条にあたる事情があればその解雇が無効と判断される余地はあります)。

ホ)個人の生命または身体に危害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

労働者がマスコミやネット上に会社の違法行為を暴露(内部告発)した場合において、その会社の違法行為の内容が「個人の生命または身体に危害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合」には、マスコミやネット上への内部告発を行ったことを理由として解雇されたとしても、その解雇は無効と判断されます(公益通報者保護法第3条第3号ホ)。

ですから、たとえば先ほどの南高梅の例で、会社が産地偽装していると労働者が「信じたことに相当な理由」がある場合において、その輸入された外国産の梅が有害物質に汚染されているなど、労働者が「個人の生命または身体に危害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合」には、仮にその会社で産地偽装が行われなかったとしても(その内部告発が労働者の勘違いであったとしても)、その労働者がマスコミへの告発やネット上への書き込みで広く社会にそれを暴露したことを理由に解雇された場合には、その解雇は無効と判断されることになります。

一方、このケースで労働者が、その輸入された外国産の梅が有害物質に汚染されているなど、労働者が「個人の生命または身体に危害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由」が「ない」場合には、その労働者に対する解雇は公益通報者保護法第3条では無効にはならないということになります(※ただし、この場合でも公益通報者保護法第3条3号イ~ホのうち他のいずれかの要件を満たす場合や、後述するように他に労働契約法第16条にあたる事情があればその解雇が無効と判断される余地はあります)。

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公益通報者保護法第3条で解雇が無効にならないケースでも解雇が無効になるケースはある

以上で説明したように、公益通報者保護法第3条には内部告発した労働者に対する解雇が無効になるケースを大きく分けて3つ(※そのうち1つのケースはイ~ホまで5つのケースに分けられますので全部で7つ)挙げていますので、これらのケースに当てはまる解雇は無効と判断することができますが、これらに当てはまらないからといってその解雇が有効になるわけではありません。

解雇は労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がない限り無効と判断されるからです。

労働契約法第16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

公益通報者保護法第3条はあくまでも公益通報者保護法の枠内で労働者の解雇が無効と判断されるケースを列挙したものに過ぎませんから、他の法令で無効と判断されたり、労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」や「社会通念上の相当性」が認められないケースでは当然その解雇は無効と判断されることになります。

ですから、公益通報者保護法第3条に当てはまらないケースであっても、必ずしもその解雇が有効と判断されるわけではありませんので、公益通報者保護法第3条の規定だけを検討して解雇を受け入れてしまわないように注意が必要です。

内部告発をしたことを理由に解雇された場合の対処法

このように、公益通報者保護法第3条は内部告発した労働者が解雇されてしまうケースを想定してその保護を明記していますから、内部告発した労働者が解雇されたとしても、必ずしもその解雇を受け入れる必要はなく、解雇の無効を主張して復職を求めたり解雇日以降に得られるはずであった賃金の支払いを求めることが可能です。

もっとも、内部告発した労働者の解雇の無効を主張して争う場合には公益通報者保護法第3条に当てはまるケースに該当するか否かなど、法律的に難しい判断を迫られますので、そのようなトラブルの解決は内部告発事案に精通した弁護士の助言が不可欠となります。

また、内部告発をするにしても、会社からの不利益取扱いに備えてあらかじめ労働者が保護されるよう証拠の確保も必要となるケースが多くありますので(例えば前述した「信ずるに足りる相当の理由」を証明する証拠を残しておくなど)、その点でも弁護士の協力は不可欠となります。

ですから、内部告発をして解雇された場合だけでなく、内部告発をする場合には、その前の段階からなるべく早めに弁護士に相談しその助言を受けておくよう心がけるようにしてください。