内部告発者(公益通報者)に対する解雇が無効になる3つのケース

(3)「マスコミへの告発やインターネットなどへの投稿」の場合で「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、一定の要件に該当する場合」

労働者が、そのマスコミや動画投稿サイト、ブログ等に対して行った内部告発に対する解雇においては、その内部告発が「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、一定の要件に該当する場合」にのみ、その解雇が公益通報者保護法第3条で無効と判断されることになります(公益通報者保護法第3条第3号)。

「一定の要件に該当する場合」の「一定の要件」とは、公益通報者保護法第3条第3号で「イ~ホ」として挙げられている5つの要件(要素)を言い、これらのうち一つでも該当する事情があれあ、その解雇は無効と判断されることになります。

公益通報者保護法第3条

公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。
第1号 (省略)
第2号 (以下省略)
第3号 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
 前2号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
 第1号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
 労務提供先から前2号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
 書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第9条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から20日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

前述したように、公益通報(内部告発)は「① その企業のコンプライアンス室など企業に対して直接その違法行為を申告する内部告発」と「② 監督官庁や警察など行政機関等にその違法を申告する内部告発」と「③ メディアや動画投稿サイト、ブログなど不特定多数の第三者に対して公表する内部告発」の3つの手段に分かれますが、この公益通報者保護法第3条第3号の規定は、このうちの「③ メディアや動画投稿サイト、ブログなど不特定多数の第三者に対して公表する内部告発」の場合の解雇無効を規定したものになります。

すなわち、公益通報者保護法第3条第3号は「③ メディアや動画投稿サイト、ブログなど不特定多数の第三者に対して公表する内部告発」が行われた場合において、その内部告発が「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ一定の要件(公益通報者保護法第3条第3号イ~ホ)に該当する場合」に限って、その内部告発を行った労働者に対する解雇を無条件で無効と判断することを規定しているわけです。

ですから、例えば前述の例で、和歌山県産の南高梅を原料とした「南高梅の梅干し」を製造している漬物業者が、原材料の不足から外国産の梅を輸入しているにもかかわらず原料を従前のまま「南高梅」と表記してその梅干しを販売している状況の中で、労働者がその原材料の虚偽表示を、「メディアや動画投稿サイト、ブログなど」に内部告発して改善を求めたところ、その企業からマスコミやネット上への公表への報復として解雇されたようなケースであれば、その「外国産の梅を”和歌山産(国産)”と表示して出荷されている事実が現実に生じている」か、または「外国産の梅を”和歌山産(国産)”と表示して出荷されようとしていると労働者が信ずるに足る正当な理由あり、かつ、公益通報者保護法第3条第3号イ~ホに該当する事情」がある場合であれば、その労働者に対する解雇は公益通報者保護法第3条で無効と判断されることになります。

つまり、前述した「行政機関等への通報(②の内部告発)」の場合には、「実際に違法行為が行われている事実がある」場合、または「違法行為が行われていると労働者が信じたことに正当な理由」がある場合はその解雇は無効と判断されたわけですが、

この「③ メディアや動画投稿サイト、ブログなど不特定多数の第三者に対して公表する内部告発」の場合には、「実際に違法行為が行われている事実がある」場合に解雇が無効と判断される点と、労働者が「違法行為が行われていると思った」だけでは足りず「違法行為が行われている」と労働者が「信じたことに正当な理由があること」が必要な点は「行政機関等への通報(②の内部告発)」の場合と同じなわけですが、その「信じたことに相当な理由があること」に加えて、「公益通報者保護法第3条第3号イ~ホに該当する事情」がある場合に限って、その労働者に対する解雇を無効と判断することにしているわけです。

ではなぜ、このように「③ メディアや動画投稿サイト、ブログなど不特定多数の第三者に対して公表する内部告発」の場合の解雇無効の要件が「行政機関等への通報(②の内部告発)」の場合とで異なるかと言うと、それはメディアやインターネットへの内部告発の方がはるかに会社に与えるダメージが大きいからです。

前述の(2)で述べたような「行政機関等への通報(②の内部告発)」の場合には、会社が受ける不利益は監督官庁である行政機関との範囲で限定的に抑えられますから、仮に労働者の間違いで内部告発されたとしても、それによって生じる会社の不利益も限定的なものにとどまりますので、内部告発した労働者において違法な行為が行われていると「信ずるに足りる相当な理由」があれば、たとえそれが労働者の勘違いであったとしても、その内部告発した労働者を解雇から保護することで会社に酷な結果になるとは言えません。

しかし、マスコミやネット上への暴露の場合には、その内容が社会全体に爆発的に拡散され会社の存続自体(倒産するなど)が危ぶまれる恐れも生じてしまいますので、労働者に「信ずるに足りる相当な理由があるだけ」で内部告発することを許容してしまえば、不確かな内部告発の乱発で企業活動全体が阻害される危険性も生じてしまいます。

そのため「③ メディアや動画投稿サイト、ブログなど不特定多数の第三者に対して公表する内部告発」の場合には、その「信じたことに相当な理由があること」に加えて、「公益通報者保護法第3条第3号イ~ホに該当する事情」がある場合に限って解雇を無効にすることにし、労働者が保護されるケースを一定の範囲に制限して不確かな内部告発の乱発を抑制することにしているのです。

なお、公益通報者保護法第3条第3号イ~ホで規定された5つの要件は以下のとおりです。

イ)企業内通報や行政機関への通報をすれば解雇その他不利益な取り扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合

労働者が「① その企業のコンプライアンス室など企業に対して直接その違法行為を申告する内部告発」や「② 監督官庁や警察など行政機関等にその違法を申告する内部告発」をすると「解雇その他不利益な取り扱いを受けてしまうと信ずるに足りる相当の理由がある」場合には、マスコミやネット上への内部告発を行ったことを理由として解雇されたとしても、その解雇は無効と判断されます(公益通報者保護法第3条第3号イ)。

ですから、たとえば先ほどの南高梅の例で、会社が産地偽装していると労働者が「信じたことに相当な理由」がある場合において、会社内部のコンプライアンス室に相談したり行政機関等への通報をしたりすれば会社から解雇されたり転勤させられたりしてしまうと「信ずるに足りる相当の理由がある場合」には、仮にその会社で産地偽装が行われなかったとしても(その内部告発が労働者の勘違いであったとしても)、その労働者がマスコミへの告発やネット上への書き込みで広く社会にそれを暴露したことを理由に解雇された場合には、その解雇は無効と判断されることになります。

一方、このケースで労働者に会社内部のコンプライアンス室に相談したり行政機関等への通報をしたりすれば会社から解雇されたり転勤させられたりしてしまうと「信ずるに足りる相当の理由」が「ない」場合には、その労働者に対する解雇は公益通報者保護法第3条では無効にはならないということになります(※ただし、この場合でも公益通報者保護法第3条3号イ~ホのうち他のいずれかの要件を満たす場合や、後述するように他に労働契約法第16条にあたる事情があればその解雇が無効と判断される余地はあります)。

ロ)企業内通報をすれば証拠隠滅などがなされてしまうおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合

労働者が「① その企業のコンプライアンス室など企業に対して直接その違法行為を申告する内部告発」をするとその会社に「証拠隠滅や証拠の偽造又は変造をされてしまうおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある」場合には、マスコミやネット上への内部告発を行ったことを理由として解雇されたとしても、その解雇は無効と判断されます(公益通報者保護法第3条第3号ロ)。

ですから、たとえば先ほどの南高梅の例で、会社が産地偽装していると労働者が「信じたことに相当な理由」がある場合において、会社内部のコンプライアンス室に相談したりしてしまうと会社が「証拠隠滅をしたりするおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合」には、仮にその会社で産地偽装が行われなかったとしても(その内部告発が労働者の勘違いであったとしても)、その労働者がマスコミへの告発やネット上への書き込みで広く社会にそれを暴露したことを理由に解雇された場合には、その解雇は無効と判断されることになります。

一方、このケースで労働者に会社内部のコンプライアンス室に相談したりしてしまうと会社が「証拠隠滅をしたりするおそれがあると信ずるに足りる相当の理由」が「ない」場合には、その労働者に対する解雇は公益通報者保護法第3条では無効にはならないということになります(※ただし、この場合でも公益通報者保護法第3条3号イ~ホのうち他のいずれかの要件を満たす場合や、後述するように他に労働契約法第16条にあたる事情があればその解雇が無効と判断される余地はあります)。