採用選考でなされる応募者の身元調査は採用差別につながるか

(1)その企業への就職を取りやめる

企業から身元調査が行われていたことが分かった場合、その会社への就職を取りやめるというのも考えてよいかもしれません。

先ほど説明したように、採用にあたって企業が応募者の身元調査をすることは採用差別(就職差別)につながるだけでなく職業安定法上の違法性をも惹起させますから、そのような問題に頓着せずに身元調査を行う企業は、倫理観の欠落した法令遵守意識の低い会社であることが十分に推認できます。

そうであれば、そのような会社から内定をもらって就職したとしても、遅かれ早かれ何らかの労働トラブルに巻き込まれる蓋然性が高いですから、その会社に就職すること自体が人生における大きなリスクと言えます。

ですから、もし就職活動中に応募先企業が身元調査をしていることが判明した場合には、将来的なリスクを避ける意味から考えても、その会社への就職を取りやめるという選択も考えてよいかもしれません。

(2)ハローワークに身元調査が行われた事実を申告(相談)してみる

就職活動中に応募先企業が身元調査をしていることが判明した場合には、その身元調査の事実をハローワークに申告(相談)してみるというのも一つの選択肢として考えられます。

前述したように、採用活動における応募者の身元調査は厚生労働省の指針でも注意喚起されていますが、その指針の指導機関はハローワークとなりますので、ハローワークに身元調査の事実を申告(相談)することで、情報提供の一つとして受理され、今後の指導などに役立ててもらえる可能性もあります。

また、先ほど説明したように、身元調査は職業安定法第5条の4の「求職者等の個人情報の取り扱い」規定に抵触する可能性がありますが、そのような企業(その他職業紹介業社や派遣事業者等も含む)の職業安定法違反行為について厚生労働大臣は、その業務の運営を改善させるために必要な措置を講ずべきことを命じることができ(職業安定法第48条の3第1項)、その厚生労働大臣の命令に企業が違反した場合には「6月以下の懲役または30万円以下の罰金」の刑事罰の対象とすることも可能です(職業安定法第65条第7号)。

職業安定法第48条の3第1項

厚生労働大臣は、職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者又は労働者供給事業者が、その業務に関しこの法律の規定又はこれに基づく命令の規定に違反した場合において、当該業務の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは、これらの者に対し、当該業務の運営を改善するために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。

職業安定法第65条第7号

次の各号のいずれかに該当する者は、これを6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
第1号∼6号(中略)
第7号 第48条の3第1項の規定による命令に違反した者

そうであれば、身元調査の事実をハローワークに申告(相談)することで厚生労働大臣からの監督権限の行使を促し、行政指導などによってその企業の採用活動における差別や違法行為を改善させることができるかもしれません。

もちろん、それで自分の不採用が覆ることはないかもしれませんが、社会から倫理観の欠落した法令遵守意識の低い会社を一つ無くすことができる可能性がありますので社会的な意義はあると言えます。

ですから、就職活動の際に応募先企業が身元調査をしていることが判明した場合には、とりあえずハローワークに申告(相談)してみるというのも考えてよいかもしれません。

(3)労働局の紛争解決援助の手続きを利用してみる

就職活動の際に応募先企業が身元調査をしていることが判明した場合において、結果的に不採用になって納得できない場合には、労働局が主催する紛争解決援助の手続きを利用してみるというのも選択肢の一つとして考えられます。

労働局では労使間で発生した紛争を処理するための紛争解決援助の手続きを整備していますが、この手続きは労働契約が成立する前の募集や採用段階に生じた紛争の解決も対象としていますので、採用活動の際に企業が行った身元調査によって不採用になったようなトラブルについても、そこに差別性や違法性があればこの紛争解決援助の手続きを利用して解決を図ることが可能です。

この紛争解決援助の手続きに法定な拘束力はありませんので企業側が手続きに応じない場合は解決は図れませんが、企業側が手続きに応じる場合には、労働局から出される助言や指導に企業側が従うことで身元調査の違法性や差別性が認められ、不当な採用差別による不採用が撤回されたり、何らかの補償等に応じてくれる可能性も期待できます。

そのため、就職活動の際に身元調査が行われていた場合には、とりあえず労働局に相談して紛争解決援助の手続きを利用できないか検討してもみるのも一つの選択肢として考えてよいと思われるのです。

なお、労働局の紛争解決援助の手続きの詳細は『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説していますので参考にして下さい。

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その他の対処法

これら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは