会社で取った資格・免許を退職時に返してくれないときの対処法

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勤務している会社が専門的な技能や技術を必要とする業種である場合、会社の費用負担で免許や資格を取得したり、会社が勧める社外機関の研修を受講することがあります。

このようにして免許や資格を取得したり研修を受けた場合、免許については免許証(免許状)が、資格については資格証が、研修については修了証などが発行されますが、会社によってはその交付された免許証(免許状)や資格証、修了証などを会社の事務方で受領してそのまま預かり保管し、労働者に渡さないケースもあるようです。

もちろん、その労働者が退職する際には、ほとんどの会社がその免許証(免許状)や資格証、修了証を返還していますので、勤務先の会社に退職を申し出ればその返還を受けられるのが普通です。

しかし、労働者が退職するに至ってもそれらの免状や修了証を交付してくれなかったり、労働者が返還請求を行ってもそれに応じてくれないといったトラブルも少なからず発生しているようです。

では、会社に勤務していた期間中に会社の指示で取得した免許や資格、修了した外部機関の研修(技能講習等)等にかかる免許証・資格証・修了証などが、自身が退職するに至っても会社から返還されない場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか?

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勤務期間中に取得した免許・資格・技能講習等の免許証・資格証・修了証は誰のものか

会社で勤務した期間中に取得した免許証・資格証・修了証などが返還されないトラブルの解決法を考える前提として、まずその免許や資格、講習などを受けた際に交付された免許証、資格証、修了証などの権利が誰に帰属するかという点を考える必要があります。

つまり、その免許証、資格証、修了証などの有体物が「会社」のものになるのか、それとも「労働者」のものとなるのか、という問題です。

仮にその免許証、資格証、修了証などの有体物が「会社」のものである場合には、退職する際に会社に対して「返せ!」とは言えませんが、その逆に「労働者」のものであれば当然「私の取った免許証(または資格証、修了証)を返してください!」とその返還を求めることができるからです。

(1)免許証・資格証・修了証はそれを「取得した人」に与えられるもの

この点、「会社の指示で取得した免許や資格なら会社のものだろう」とか「会社で勤務中に受けた技能講習なら会社のものだろう」などと思う人も意外と多いようですが、それは間違いです。

このような免許や資格、技能講習の修了証などは、それを受験ないし受講した労働者個人のものとなります。

なぜかというと、それらの免許証・資格証・技能講習修了証などは全て、免許や資格であればその試験に合格したその「個人」に、技能講習の修了証もその技能講習を受講したその「個人」に与えられるものだからです。

手元にある免許証や資格証、技能講習の修了証等を確認してみれば一目瞭然ですが、たとえそれらが勤務中に取得したものであったとしても、その名義人(名宛人)はそれを取得した個人の氏名が記載されているはずで、勤務先の会社ではないはずです。

ですから、それらの免許証・資格証・技能講習修了証などは全てそれを取得した労働者個人のものであり、その個人のみがその免許証・資格証・技能講習修了証の所有者(所有権者)ということになります。

仮にそれを会社が保管していたとしても、それはただ単に会社が寄託されていただけ、つまり会社は無償で預かっていただけということになりますので、その所有権者である労働者が退職する場合は、速やかにその労働者に対して返還しなければならない義務を負っているということになるのです。

(2)費用を会社が負担しても「取得した人」のもの

(1)の理屈は、たとえその対象となる免許や資格、技能講習等の費用を会社が負担していたとしても変わりません。

その免許や資格の受験料や、技能講習など外部機関における研修費用を勤務先の会社がすべて支払っていたとしても、その試験や受講後に交付される免許証・資格証・技能講習修了証は、その試験を受けた労働者個人、その研修を受けた労働者個人が権利者(所有権者)となります。

その免許や資格、研修の「費用を誰が払うか」という問題と、その「試験・研修を誰が受けたか」という問題は全く別ですから、たとえその費用を会社が支払ったとしても、それによって交付される免許証・資格証・技能講習修了証はその労働者個人の所有物となるのは変わらないのです。

ですから、仮に会社がその費用を全額支払っていて自分は1円も支払っていなかったとしても、それを保管している会社に対して「退職するから返してください」と請求できることは当然ですし、会社側はたとえそう労働者から頼まれなかったとしてもその労働者が退職する際は免許証・資格証・技能講習修了証を返還しなければならないということになります。

労働者が退職する際は、その労働者の権利に属する金品は遅滞なく返還しなければならない

以上のように、免許や資格、技能講習等はすべてそれを受験ないし受講する「個人」を対象とするものになりますから、それを受験ないし受講した結果として交付される免許証・資格証・技能講習修了証の権利(所有権)は全てそれを取得した「労働者個人」に帰属するということになります。

この点、その交付を受けた免許証・資格証・技能講習修了証を勤務先の会社が保管している場合にその返還を求めることができるかという点が問題となりますが、先ほど述べたように、その免許証・資格証・技能講習修了証の権利(所有権)は労働者個人にあるわけですから、その返還請求も当然に認められます。

特に、退職する場合の返還請求については労働基準法23条1項で労働者の請求があった日から7日以内に返還しなければならないと規定されていますので、退職する労働者がその免許証・資格証・技能講習修了証の返還を求めた場合は、それを7日以内に会社が返還しない限り、その会社は労働基準法違反ということになります。

【労働基準法23条1項】

使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い.積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

労働基準法23条に違反する場合は同法120条の規定によって30万円以下の罰金という刑事罰の対象となりますから、もし退職する際にその返還がなされなかったとすると、その会社は前科一犯ということになるでしょう。

【労働基準法120条】

次の各号の一に該当する者は、30万円以下の罰金に処する。

第1号 (省略)第23条(省略)の規定に違反した者(以下省略)

なお、その免許証・資格証・技能講習修了証の所有権は労働者個人にあるわけですから、仮にその労働者が「退職しない」場合であっても労働者が免許証・資格証・技能講習修了証の返還を請求した場合は会社はそれを遅滞なく返還しなければならないのは上記と同じです(※会社が保管しなければならない合理的理由(例えば行政手続きに必要がある等)があれば別です)。

ただし、退職を申し出ていない労働者の場合における金品の返還請求についてはこのような労働基準法の規定がなく、仮に会社が遅滞なくその免許証・資格証・技能講習修了証の返還をしなかったとしても労働基準法違反にはなりませんので、労働基準監督署に告発して刑事罰の対象とすることはできないことになります。

【労働者が退職する際に免許・資格等の返還を求めた場合】

会社は7日以内に労働者に返還しなければならない。

※返還しない場合は会社は労基法違反として刑事罰の対象となる。

【労働者が勤務している期間中に免許・資格等の返還を求めた場合】

会社は遅滞なく労働者に返還しなければならない(※会社が保管しなければならない合理的な理由がある場合を除く)。

※返還しない場合でも会社は労基法違反にはならないので刑事事件として労働基準監督署に告発することはできない。

会社で取得した免許・資格・技能講習の修了証を会社が返還してくれない場合の対処法

以上で説明したように、たとえ会社がその費用を全額負担したものであったとしても、労働者が勤務中に取得した免許証・資格証・技能講習の修了証は労働者個人が権利者ということになりますから、それを保管している会社は当然その返還義務を負うということになります。

もっとも、そのような法解釈があるとしても、実際に会社がその返還を拒否するような場合には、具体的方法を用いて対処しなければなりませんので、その具体的な方法が問題となります。

(1)通知書を送付して免許・資格・技能講習の修了証の返還を求める

勤務中に取得した免許証・資格証・技能講習の修了証などを使用者(雇い主)が返還してくれない場合には、その返還を求める通知書等を書面で作成し、使用者(雇い主)に郵送で送付するというのも対処法の一つとして有効です。

口頭で「返せ!」と請求してももちろん構いませんが、後で裁判などに発展した場合に「会社に返還請求したけど返還してくれなかった」という事実を客観的証拠を提出して立証する必要がある場合もありますから、書面という有体物が残る形で請求しておいた方が無難です。

なお、この場合における通知書等の文面は以下のような文面で差し支えないと思います。

ア)会社を退職する際に免許・資格・技能講習の修了証の返還を求める場合

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

勤務中に取得した資格証の返還請求通知書

私は、〇年〇月〇日、同年○月末日をもって退職する旨記載した退職届を提出する方法によって退職の意思表示を行い、同月末日をもって退職いたしましたが、その退職届を提出する際に、貴社での勤務期間中に取得した○○の資格証(以下「本件資格証」という)の返還を求めていたにもかかわらず、未だその返還を受けておりません。

この本件資格証は、私が貴社で就労していた〇年〇月に貴社から指示を受けたことを理由として取得したものであり、その費用も貴社がその全額を負担しているものと記憶しておりますが、かかる資格のごときはそれを受験した個人に与えられる性質のものであり、その費用の支払い主体に関わらずその交付を受けた資格証の名義人にその処分権限が与えられるものでございます。

また、労働基準法23条1項では、使用者は退職した労働者からその権利に属する金品の返還請求があった場合は7日以内に返還することが義務付けられていますので、本件資格証の権利が私にある以上、貴社がその返還を怠っている現状は労働基準法に違反する違法なものと言えます。

よって、私は、改めて、本状をもって本件資格証の速やかな返還を請求いたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※実際に会社に送付する場合は、会社に送付したという客観的証拠が残されるように、コピーを取ったうえで普通郵便ではなく特定記録郵便など配達記録の残る方法で郵送してください。

イ)勤務している状態(退職の予定がない状態)で返還を求める場合

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

勤務中に取得した技能講習修了証の返還申入書

私は、〇年〇月、上司である◇◇の指示に従って車両系建設用機械運転の技能講習を受講しその技能講習修了証(以下「本件技能講習修了証」という)の交付を受けましたが、本年〇月ごろから繰り返し貴社に対して当該技能講習修了証の交付を求めているにもかかわらず、貴社からは本件技能講習修了証の返還をいただいておりません。

この本件技能講習修了証の返還について貴社は、その技能講習の費用を貴社が全額負担していることを理由にその返還を拒んでいるようですが、仮にその費用を貴社が負担していたとしても、かかる技能講習の修了証はそれを受講した個人に与えられる性質のものであり、その費用の支払い主体に関わらずその交付を受けた技能講習修了証の名義人にその処分権限が与えられるものでございます。

したがって貴社は、法律上及び雇用契約上の根拠なく私に権利の属する本件技能講習修了証を占有しその返還を拒否している状況にありますので、直ちに本件技能講習修了証を返還していただくよう、本状をもって申入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※実際に会社に送付する場合は、会社に送付したという客観的証拠が残されるように、コピーを取ったうえで普通郵便ではなく特定記録郵便など配達記録の残る方法で郵送してください。

(2)労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行う

上記のような通知書を送付しても免許・資格・技能講習の修了証などの返還がなされない場合は労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行うことも考えた方がよいかもしれません。

先ほども説明したように、労働基準法23条1項では、退職する労働者が請求した場合はその労働者の権利にかかる金品を労働者の請求があった日から7日以内に返還することを義務付けていますので、仮に会社がその7日以内の返還を怠ったというような場合は、労働基準法違反を理由として労働基準監督署に告発することが可能です(労働基準法104条)。

【労働基準法第104条1項】

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

仮に労働基準監督署が監督権限を行使し指導や是正勧告を出すような場合には、会社側が態度を改めて免許・資格・技能講習の修了証をすることも期待できますので、労働基準監督署への申告手続きを利用するという方法も解決方法の一つとして有効に機能すると思います。

なお、その場合の申告書の記載例は以下のような文面で差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:東京都〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:東京都〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社○○
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:03-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約※注1
役 職:特になし
職 種:一般事務

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法第23条1項

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は、〇年〇月〇日付で同年〇月末日をもって退職する旨記載した退職届を違反者に提出し同月末日をもって違反者を退職したが、その退職届を提出する際に就業期間中に取得した技能講習の修了証の返還を求めたものの、それから7日以上が経過した現在においても未だその返還がなされていない。

添付書類等
1.〇年〇月〇日付けで違反者に送付した返還請求通知書の写し 1通

備考
特になし。

以上

※注1:アルバイトやパート、契約社員など「期間の定めのある雇用契約」の場合は「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。

ただし、先ほども説明したように、労働基準法23条1項はあくまでも「退職を申し出た」労働者がその権利に属する金品の返還請求をした場合に限られますので、退職を申し出たわけではなく引き続きその会社で就労を継続するというようなケースでは、会社に対して免許・資格・技能講習の修了証の返還請求を行うことはできても、このように労働基準監督署に違法行為の申告を行うことはできませんのでその違いを十分に認識するようにしてください。

(3)その他の対処法

以上の(1)(2)の方法を用いても解決しない場合は、労働局の紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。

弁護士・司法書士に依頼して裁判をする方法

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは