会社からの免許・資格の取得命令を拒否できる3つのケース

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会社で働いていると、上司などから特定の免許や資格の取得を指示されたり外部機関が実施する技能講習などの研修を受講するよう命じられることがあります。

たとえば、運送会社で働いている正社員が会社から大型免許の取得を指示される場合であったり、ゲーム会社で働く契約社員が上司からJavaプログラミング能力認定試験の受験を勧められる場合であったり、植木屋で働くアルバイトが”玉掛け”の技能講習を受講するよう命令されるような場合です。

このような免許や資格や技能講習は専門的な技能や知識を与えるものであり労働者のスキル向上に役立つものですから、受験・受講しないよりもする方がよいのは当然といえば当然です。

しかし、労働者にとって「持ってないよりは持っていた方がよい」のが当然とは言っても、どのような免許・資格を取得し、何の技能講習を受講して自己の能力を向上させるかという自己研鑽の方法は本来、労働者個人の自己選択によって決められるべきものですから、そのような個人の自由な選択に委ねられるべき免許・資格・技能講習の取得を使用者(雇い主)から強制させられるのはやりすぎのような気もします。

では、このように会社や上司から「免許・資格を取得しろ!」とか「研修を受講しろ!」と指示された場合、その命令を拒否することはできないのでしょうか?

また、拒否できるとすれば具体的にどのようなケースで拒否できるのでしょうか?

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免許・資格・技能講習等の取得を会社から指示されれば拒否できないのが原則

このように、使用者(雇い主)からの指示で免許や資格、あるいは外部機関が実施する講習等を受講するよう命令された場合に、その命令を拒否できるかという点が問題となりますが、原則として、労働者がその命令を拒否することはできないものと考えられます。

なぜなら、使用者(雇い主)が労働者に対して免許や資格の取得を命じたり外部機関の講習や研修を受講するよう命じる行為は、雇用契約(労働契約)に内在する教育訓練権(教育訓練を命じる権利)の一部として当然に認められると考えられているからです。

使用者(雇い主)が労働者を雇用する目的はその雇い入れた労働者の技能・技術を最大限利用して使用者の利益を最大化することにありますから、その雇用する労働者に教育訓練を施してその生産性を向上させることは不可欠となります。

そうであれば当然、使用者が労働者に教育訓練を命じる権利(教育訓練権)も雇用契約(労働契約)に内在するものと考えなければなりませんが、労働者はその雇用契約(労働契約)に同意して就労を開始している以上、その雇用契約(労働契約)に内在する教育訓練権(教育訓練を命じる権利)にあらかじめ同意を与えたものと理解できますので、労働者はその雇用契約(労働契約)に内在する使用者の教育訓練権に拘束されることになるでしょう。

この点、業務に直接的に関係する免許や資格の取得あるいは研修等の受講は、それを受験ないし受講する労働者の技能・技術を向上させその労働力の質を高めるために用いられる性質の教育訓練となりますから、その免許・資格・技能講習等の取得という行為は、雇用契約(労働契約)に内在する教育訓練権に含まれる性質のものと理解することができます。

そうであれば、使用者(雇い主)が労働者に対して免許や資格の取得あるいは研修の受講を命じた場合には、それは雇用契約に内在する教育訓練権に基づく命令ということになりますから、労働者がその雇用契約(労働契約)に同意して就労を開始している以上、その労働者はその教育訓練権に基づいてなされる命令に拘束されることになるでしょう。

したがって、労働者が使用者(雇い主)から免許や資格の取得あるいは研修の受講を命じられた場合には、その免許・資格・技能講習等が業務に直接的に関係するものである限り、その命令を拒否することはできないということになるのです。

ただし、その免許・資格・技能講習等の取得命令が権利の濫用にあたる場合は例外的に拒否できる

このように、使用者(雇い主)が労働者に対して特定の免許や資格を取得させたり、技能講習等の研修を受講させるための命令は、その免許・資格・技能講習等が業務と直接的に関係するものである限り、雇用契約(労働契約)に内在する教育訓練権(教育訓練を命じる権利)に基づく業務上の命令と解釈されますので、労働者はその命令を拒否できないのが原則となります。

もっとも、だからと言ってどのような免許や資格、技能講習等の取得であっても労働者が従わなければならないかというと、そうでもありません。

労働契約法4条の4項及び5項では、労働契約において使用者が権利を行使する場合は信義に従って誠実にその権利を行使することが求められており権利を濫用することが禁止されていますから、使用者が取得を命じる免許や資格、技能講習等の研修が、その雇用契約(労働契約)に内在する教育訓練権を逸脱し濫用するものである場合には、たとえ使用者(雇い主)の命令であっても労働者は拒否することができると考えられるからです。

【労働契約法4条】

第1項~3項(省略)
第4項 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
第5項 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

ですから、会社や上司から免許や資格の取得あるいは研修等の受講を命じられた場合には、その免許・資格・技能講習等が使用者の教育訓練権として認められるものなのか、権利の濫用にあたる命令ではないのかという点を十分に確認することが必要となります。

免許・資格・技能講習等の取得を会社から命令されても例外的に拒否できる3つのケース

以上で説明したように、使用者(雇い主)が労働者に対して「免許・資格を取得しろ!」「研修を受講しろ!」と指示命令する行為は雇用契約(労働契約)に内在する教育訓練権に基づくものと解釈されますので原則として労働者は拒否することができませんが、その免許・資格・技能講習等の取得が雇用契約(労働契約)によって使用者に与えられた教育訓練権を濫用するものと認められる場合には、労働者はその無効を主張してその免許・資格・技能講習等の取得を拒否することができるものと考えられます。

この点、具体的にどのような免許や資格の取得あるいは研修等の受講が権利の濫用と判断されるかという点が問題となりますが、一般的にはその免許・資格・技能講習等の取得が次の(1)「業務と直接的に関係しない場合」、(2)「過度な精神的・肉体的苦痛を伴うものである場合」、(3)「法令に抵触する場合」にあげる3つのようなケースでは、たとえ使用者(雇い主)から免許・資格・技能講習の取得を命じられたとしても、権利の濫用を理由に拒否できるものと考えられます(※菅野和夫著「労働法(第8版)」法律学講座双書 弘文堂404頁参照)。

(1)業務と直接的に関係しない免許・資格・技能講習等である場合

会社から免許や資格の取得あるいは研修等の受講を命じられた場合であっても、その免許・資格・技能講習等が「業務と直接的に関係するものでない場合(※注1)」には、労働者はその命令を拒否することができます。

なぜなら、先ほども説明したように、会社から免許や資格、技能講習等の研修を命じることができるのは雇用契約(労働契約)に内在する教育訓練権に含まれることがその根拠となりますから、その取得を命じることができる免許・資格・技能講習等も、その雇用契約(労働契約)で合意した内容のもの、つまり「業務と直接的に関係する免許・資格・技能講習等」に限られることになるのが当然だからです。

先ほども述べたように、使用者の教育訓練権に基づく命令が強制力を持つのは、その命令が労働者の労働力の質を上げて生産性を向上させるという雇用契約に内在する使用者の目的に求められるわけですから、その労働者の生産性向上とは全く関係ない免許・資格・技能講習の取得に関する命令は、雇用契約に内在する教育訓練権からは導かれるものではありません。

使用者が免許・資格・技能講習などの取得を命じたとしても、それが業務と直接的に関係ない性質のものである場合には、雇用契約に内在する教育訓練権に基づく命令とは解釈されませんので、労働者はそれを拒否しても雇用契約違反の責任は問われないということになるのです。

具体的には、一般教養に類する研修であったり、経営者の趣味嗜好に関する教育であったり、思想や信条あるいは宗教に類するような教育などの資格や講習の受講が命じられるような場合がこれにあたるでしょう。

ですから、たとえば会社の経営者が「漢字好き」であったことから漢字検定の受験を命じられたり、上司がスキューバダイビングが趣味であったことからスキューバの免許を取らされたり、新興宗教の教団が経営する会社で教会の集会への出席を求められたようなケースでは、それらは業務と直接的に関係するものではなく雇用契約に内在する教育訓練権に基づいた命令とは言えませんので、権利の濫用を理由に労働者はその命令を拒否できるものと考えられます。

なお、この点については『会社から仕事と関係ない免許・資格の取得を命じられた場合』のページでも詳しく解説しています。

(2)その受験・受講が過度な精神的・肉体的苦痛を伴うものである場合

会社から取得を命じられる免許や資格あるいは研修等が過度な精神的または肉体的苦痛を伴うものである場合には、その命令自体を権利の濫用として拒否できるものと考えられます。

たとえば、幼少期の交通事故のトラウマを持つ労働者に強いて運転免許の取得を命じるような場合であったり、喘息の持病のため医者から激しい運動を禁じられている労働者に”新人研修”と称して自衛隊の一日体験を受講させるような場合が代表的な例として挙げられます。

使用者には労働者の生命・身体の安全を確保し必要な配慮をしたうえで就労させることが義務付けられていますから、そのような安全配慮義務に違反するような精神的または肉体的苦痛を及ぼす免許・資格・技能講習等の取得を命じることは権利の濫用として否定されるからです。

【労働契約法5条】

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

このように過度な精神的・肉体的苦痛を与えるような免許・資格・技能講習等については、たとえそれが前述した「業務と直接的に関係するもの」であったとしても、労働者の安全配慮義務に違反する権利の濫用にあたる命令として、労働者は拒否できると考えて差し支えないでしょう。

(3)その受験・受講が法令に抵触する場合

上記以外にも、その免許・資格・技能講習等の取得が、法令に違反する行為に繋がるものである場合にも、労働者はその命令を拒否できるものと考えられます。

たとえば、労働基準法その他の労働法規で定められた勤務時間の上限を超えて免許や資格の取得あるいは研修等の受講を命じるようなケースが代表的です。

具体的には、たとえば法定休日(毎週1日以上かつ4周で4日以上)の定めを無視して、労働者に休日返上で研修への出席を強制するような場合がこれにあたるでしょう。

【労働基準法35条】

第1項 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

第2項 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

このような命令については、たとえそれが前述した「業務と直接的に関係するもの」であったとしても、労働法令に違反するものとして権利の濫用を理由に労働者は拒否できるものと考えられます。

免許・資格・技能講習等の取得を拒否する場合の具体的な対処法

以上で説明したように、会社から特定の免許や資格の取得あるいは技能講習等の研修の受講を命じられた場合には、その命令が雇用契約に内在する教育訓練権に基づくものと認められるものである限り労働者は拒否することができませんが、その免許・資格・技能講習等の取得が「業務と直接的に関係しない場合」「過度な精神的・肉体的苦痛を伴うものである場合」「法令に抵触する場合」にあたるような3つのようなケースでは、権利の濫用を理由に拒否できるものと考えられます。

なお、そのようにして会社の命令を拒否できる場合があったとしても、実際に会社からその免許・資格・技能講習等の取得を命じられた場合に、具体的にどのように対処してそれを拒否すればよいかが問題となりますが、一般的には以下のような方法を用いて対処するのが適当と考えられます。

(ア)通知書で拒否を通知する

勤務先の会社や上司から特定の免許や資格を取るよう指示されたり、技能講習等の研修を受講するよう命じられた場合に、それを前述した(1)~(3)の権利の濫用を理由に拒否する場合には、その旨を記載した通知書等を書面で作成し、使用者(雇い主)に郵送で送付するというのも対処法の一つとして有効です。

もちろん、口頭で「業務と直接に関係しない免許の取得を強要するな!」とか「過度な精神的苦痛を与える研修を強制するな!」などと抗議してももちろん構いませんが、後で裁判などに発展した場合に「会社に権利の濫用に当たることを説明しても止めてくれなかった」という事実を客観的証拠を提出して立証する必要がある場合もありますから、書面という有体物が残る形で拒否の意思表示をしておいた方が無難です。

なお、この場合における通知書等の文面は以下のような文面で差し支えないと思います。

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

業務と直接関係のない研修受講の強要に関する即時中止申入書

私は、〇年〇月ごろから、上司である貴社の◇◇より、宗教法人○○(以下「同宗教法人」という)の主催するセミナー(以下「本件セミナー」という)を受講するよう繰り返し指示されております。

この本件セミナーについては、それを主宰する同宗教法人が貴社の発行株式の過半数を取得していることから、貴社の従業員に対して同宗教法人の教義等を紹介する目的で開催しているものと伺っておりますが、私は貴社においてドーナツの製造業務に従事しておりますので、そのセミナーで得られる知識や教養は、たとえそれが教養教育や人格形成に有意義であったとしても、私が従事する業務に直接的に関係するものであるとは言えません。

この点、使用者が労働者に対して特定の免許や資格の取得を命じたり、研修への参加を支持する行為は、雇用契約に内在する教育訓練権から当然に派生される使用者の権利と考えられますが、本件セミナーで得られる知識や教養が私が従事する業務に直接的に関係するものでないのであれば、その出席を指示すること自体、雇用契約に内在する教育訓練権を逸脱した不当な命令であると言えます。

したがって、貴社が私の上司である◇◇を介して、私に対して本件セミナーへの出席を強要する行為は、雇用契約上認められた教育訓練権を濫用する無効なものと言えますから、直ちに本件セミナーへの出席を強要する行為を止めるよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※実際に会社に送付する場合は、会社に送付したという客観的証拠が残されるように、コピーを取ったうえで普通郵便ではなく特定記録郵便など配達記録の残る方法で郵送してください。

なお、業務に直接的に関係しない免許資格等の取得を拒否する場合の通知書については『会社から仕事と関係ない免許・資格の取得を命じられた場合』のページにも掲載しています。

(イ)その他の対処法

以上の通知書を送る方法を用いても解決しない場合は、労働局の紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

(ウ)労働基準監督署に相談して解決できるか

なお、このように免許・資格・技能講習等の取得を拒否できる場合において会社がその取得や受講を強要するというようなトラブルについて労働基準監督署に相談して解決できるかという点が気になる人も多いかもしれませんが、このような問題については労働基準監督署は積極的に介入してくれないのが通常です。

労働基準監督署は基本的に「労働基準法」という法律に違反する事業主を監督する機関ですが、「教育訓練権を濫用して免許・資格・技能講習等の取得を強要する」という行為自体は労働基準法で禁止されている行為ではなく、雇用契約(労働契約)に違反する行為にすぎませんので、監督署は直接介入したくても法的な権限がないので介入することができません。

ですから、このようなトラブルについては労働基準監督署ではなく労働局の紛争解決手続や労働委員会の”あっせん”の手続を利用するのがまず考えられる適当な対処法になると思います。

ただし、先ほどの(3)で述べたようにその免許・資格・技能講習等の取得を強要する行為が労働基準法に違反する行為を伴うケースである場合には、その免許や資格の取得に関する権利の濫用ではなく、その労働基準法に違反する事実を労働基準監督署に申告することで、間接的に免許や資格の取得強要行為が止むことはあります。

たとえば、会社が労働者の休日を返上させる形で毎週土日の休日に「業務と直接的に関係しない研修」に出席させているようなケースでは、法定休日を定めた労働基準法35条に違反することになりますので、その「業務と直接的に関係しない研修」の権利の濫用性ではなく「労基法35条に違反して休日が与えられていないこと」を労基法違反として労働基準監督署に申告することによって監督署の権限行使を促し、監督署から指導や是正勧告が出されることで間接的に「業務と直接的に関係しない研修」の受講を止めさせることができる場合はあると思います。