採用選考で障害者への合理的配慮が除かれる「過重な負担」とは

(5)企業の財務状況

厚生労働省の指針は、「過重な負担」の考慮要素として「企業の財務状況」も挙げており、その程度については「当該企業の財務状況に応じた負担の程度をいう」と説明しています。

ですから、障害者が企業の採用選考に応募して障害に配慮した必要な措置を求めた場合において、業績の堅調な企業であればその措置が受け入れられるものであったとしても、その企業の業績がよろしくない状況にある場合には、その求めた措置が受け入れられないこともあるかもしれません。

(6)公的支援の有無

厚生労働省の指針は、「過重な負担」の考慮要素として「公的支援の有無」も挙げており、その程度については「当該措置に係る公的支援を利用できる場合は、その利用を前提としたうえで判断することとなる」と説明しています。

ですから、障害者が企業の採用選考に応募し障害に配慮した必要な措置を求めた場合において、その求めた措置がその企業にとって費用的に「過重な負担」と判断されるケースであったとしても、行政から障害者の雇用促進のための補助金等が出される状況があり、それを考慮に入れれば「過重な負担」と判断されないような事情があるケースでは、通常であれば費用的に「過重な負担」と判断されてるケースであったとしても、行政からの補助金等が支給されることを考慮してその措置が受けられるケースがあるかもしれません。

たとえば、車いすを利用する障害者が企業の採用選考に応募した際に面接場所となっているその企業の事業所の階段にスロープを付けてほしい旨要請した場合において、そのスロープを付けることが費用的にその企業に「過重な負担」と判断されるものであったとしても、行政から支給される補助金を使えばスロープを付けることが「過重な負担」と判断されないようなケースでは、障害者が申し入れたスロープを付けてほしいという措置は認められるケースがあるかもしれません。

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「過重な負担」となる場合であっても、障害者と話し合いをしたえで「過重な負担」とならない程度の措置を取ることは義務付けられている。

以上で説明したように、厚生労働省の指針は「過重な負担」の考慮要素について6つの要素を挙げて総合的に勘案することを求めていますので、上記で挙げた(1)~(6)を総合的に勘案して「過重な負担」と判断されないケースであれば、障害者が採用選考の際に求めた措置が受けられますが、その逆にその6つの要素を総合的に勘案して「過重な負担」と判断される場合には、その障害者が申し出た措置を受けられないこともあると言えます。

もっとも、厚生労働省の指針があげた(1)~(6)の6つの要素を総合的に勘案して「過重な負担」にあたると判断される措置であったとしても、企業側が障害に配慮した必要な措置を全く講じなくてもよいというわけではありません。

なぜなら、仮に障害者が申し出た障害に配慮した必要な措置が上記の(1)~(6)の要素を総合的に勘案して障害者雇用促進法第36条の2の「過重な負担」にあたり、企業側にその障害者から求められた措置の実施が義務付けられないばあいであっても、企業側で合理的配慮の実施義務が免れるわけではなく、企業側においては、合理的配慮の選択肢が複数ある場合は当該障害者話し合いをしたうえでより提供しやすい別の措置を講じたり、当該障害者の意向を十分に尊重したうえで、過重な負担とならない範囲で別の合理的配慮に係る措置を講ずる義務があるからです(※厚生労働省の指針(「合理的配慮指針(厚生労働省告示第117号)」)の「第3 合理的配慮の手続1(3)」および「第5 過重な負担 2」参照。※この点の詳細は『障害者が企業の採用選考や面接に応募する際に注意すべきこと』のページで詳しく解説しています)。

2過重な負担に当たると判断した場合
事業主は、障害者から申出があった具体的な措置が過重な負担に当たると判断した場合には、当該措置を実施できないことを当該障害者に伝えるとともに、当該障害差からの下絵に応じて、当該措置が過重な負担に当たると判断した理由を説明すること。また、事業主は、障害者との話し合いの下、その意向を十分に尊重したうえで、過重な負担にならない範囲で合理的配慮に係る措置を講ずること。

※出典:「合理的配慮指針(厚生労働省告示第117号)「第5 過重な負担」より引用

ですから、仮に障害者が企業側に求めた障害に配慮した必要な措置が上記の(1)~(6)の要素を総合的に考慮して「過重な負担」と判断されるようなケースであっても、それ以外の措置を求めることは可能ですので、障害者の側はその点を十分に検討したうえで採用選考を行う企業と納得のいく話し合いをしていくことが必要です。