採用面接で不採用になったら履歴書は返してもらえるか

企業の採用選考に応募する場合、まずエントリーシートや履歴書を企業側に提出して採用面接に臨むことになると思いますが、その際気になるのが不採用になった場合に履歴書がどのように扱われるのかという点です。

履歴書には住所や電話番号、顔写真だけでなく、過去の学歴や職歴、資格や趣味嗜好などまで記載することもありますから、それはさながら個人情報の塊みたいなものです。

その個人情報の塊が不採用になった後、企業側から流出し第三者に渡ってしまえば私生活上の大きなリスクになり得ます。

そのため応募者のほとんどは、不採用にされたのであれば履歴書の返還を求めるのが普通の感覚だと思われますが、では企業の採用選考で不採用になった場合、既に提出した履歴書の返還を求めることは可能なのでしょうか。

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厚生労働省の告示では個人情報の破棄や削除の措置をとることを義務付けている

このように、企業の採用選考で不採用になった場合において、応募する際に提出した履歴書がどのように扱われるかという点に疑問が生じるわけですが、厚生労働省はこのような個人情報の取扱いについて指針を出しています。

「職業安定法第5条の4に基づく指針(平成11年労働省告示第141号)」がそれにあたりますが、その指針の「第四の二」では、その業務の目的の範囲内で収集した求職者等の個人情報の取り扱いについて以下のように述べられています。

二 個人情報の適正な管理
(一)職業紹介事業者等は、その保管又は使用に係る個人情報に関し、次の事項に係る措置を講ずるとともに、求職者等からの求めに応じ、当該措置の内容を説明しなければならないこと。
イ~ハ(省略)
二 収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報を破棄または削除するための措置

※出典:職業安定法第5条の4に基づく指針(平成11年労働省告示第141号)|厚生労働省 を基に作成 ※「(省略)」部分は便宜上省略しています。※「職業紹介事業者等」には労働者を募集する企業自体も含まれます(同指針第一「趣旨」参照)

このように、指針ではまず「収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報を破棄または削除するための措置」を整備しておくことを求めていますので、企業は採用選考で不採用の判断を下した応募者の履歴書については、それを返却するのか、あるいはシュレッダー等で破棄するのか、あらかじめその措置を定めておかなければならないことになっています。

また、その措置をあらかじめ講じておくのと共に「求職者等からの求めに応じ、当該措置の内容を説明しなければならない」とされていますので、不採用にされた求職者から求められた場合には、その措置の内容を具体的に説明することも義務付けられていることになっています。

ですから、採用選考を受けた企業が厚生労働省の指針を遵守している企業である限り、不採用になった求職者が履歴書の返還を求めた場合には、不採用の判断をした求職者の履歴書を企業の措置として「返却することになっているのか破棄することになっているのか」という点の説明がなされることはもちろん、その履歴書を返却することにしている企業では遅滞なく「履歴書の返還」がなされるでしょうし、その履歴書を破棄することにしている企業では「具体的にいつどのような方法で破棄(削除)したのかその”措置の内容”についての説明」がなされるものと考えられます。

厚生労働省の冊子でも履歴書等の応募書類の取り扱いについて求職者に周知を確実にするよう求められている

なお、企業が採用選考で収集した履歴書等の個人情報については、厚生労働省が毎年作成している冊子「公正な採用選考をめざして」でも以下のように注意喚起されていますので念のため引用しておきましょう。

応募者は、履歴書などの応募用紙に記載された個人情報がどのように取り扱われるのかとても心配なものであり、特に不採用や応募辞退者の場合は、できれば返却して欲しいと考える人が多いようです。
万が一、それが不正な目的で使用されたり、朗詠されたり、第三者が入手したりすれば、本人が大きく傷つけられるばかりでなく、企業も社会的な信頼を失いかねません。
職業安定法第5条の4に基づく指針(平成11年労働省告示第141号)第4の2(1)二においては、労働者の募集を行う者等は、収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報を破棄又は削除するための措置を講ずるとともに、応募者からの求めに応じその措置の内容を説明しなければならないこととされております。
このため、応募者から提出された応募書類の取扱い方(返却は破棄など)については、あらかじめ企業としての対応方法を定め、それを応募者に周知するとともに確実に実行することが必要です。

※出典:公正な採用選考を目指して|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/saiyo-01.pdfより引用

採用面接で不採用になった後の履歴書の取り扱いが気になる場合の対処法

このように、厚生労働省の指針(告示)では、すべての企業に採用活動で収集した履歴書等の個人情報について、その必要がなくなった時点で破棄または削除するための措置を講じることを、また求職者からの求めに応じてその措置の内容を説明することを求めています。

そのため、仮に求職者が不採用になった場合には、企業に提出していた履歴書の取り扱いについて返還を求めたり具体的な破棄等の措置の説明を求めることが可能です。

(1)履歴書の返却を口頭で求めてみる

採用面接を受けて不採用になり、既に提出した履歴書等の個人情報の取り扱いが不安になる場合は、その企業に対して電話や口頭で履歴書等の返還を求めてください。

先ほども説明したように、厚生労働省の指針では求職者から収集した個人情報については保管する必要がなくなった時点で「破棄又は削除するための措置」を講じていなければなりませんので、常識的な会社であれば、不採用になった求職者の履歴書等については本人に「返却」するかシュレッダー等で「破棄」するか、あらかじめその措置が定められているはずです。

そうであれば、仮にその企業がその措置として履歴書を「返却」することにしている場合には、不採用になった求職者が請求すれば遅滞なく履歴書の返却を受けられるはずです。

ですから、履歴書を返却してほしいと思うのであれば、まず口頭で返却するよう求めてみる必要があります。

(2)履歴書の返却をしない会社に対しては、具体的にどのような方法で破棄(削除)されたのか説明を求めてみる(書面で回答するよう求める方が良い)

不採用にされた企業に対して履歴書の返却を求めたとしても、必ずしも返却がなされるわけではありません。

先ほども説明したように、厚生労働省の指針は求職者から収集した個人情報については保管する必要がなくなった時点でその履歴書等の個人情報の「破棄又は削除するための措置」を講じることとその説明をすべきことを求めていますので、その措置として「返却」ではなく「破棄又は削除」を選択している企業では、必ずしも返却に応じなくても「破棄又は削除」していれば問題ないからです。

しかし、その措置として「破棄又は削除」を選択している企業であっても、求職者から求めがあればその「措置の内容」を説明すべきことが求められていますから、仮に企業が履歴書の返却をしない場合であっても、その履歴書を具体的にどのような方法・手段で「破棄又は削除」したのかという点は、求職者からの求めに応じて開示しなければなりません。

ですから、仮に不採用になった求職者が履歴書の返却を求めた企業から「返却はしない」と回答された場合には、「具体的にどのような措置に基づいて破棄又は削除されたのか」という点、より具体的に言えばシュレッダー等で破棄されたのか、またその破棄(または削除)されたのはいつなのかという点について、回答するよう求めても良いと思います。

なお、この場合、企業からの回答は「書面」で出してもらうようにした方が無難です。口頭で「〇月〇日にシュレッダーで破棄した」などと確認を取っていたとしても、個人情報の流出などで後になって裁判などに発展した場合に「言った言わない」の水掛け論になってしまうからです。

ですから、仮に履歴書の返却がなされない場合は、「いつどのような方法で破棄されたのか書面で回答してください」と求める方が良いかもしれません。