障害者雇用促進法の第36条の2は、採用選考に応募した障害者が申し出た場合に、その応募を受けた企業がその障害に配慮した必要な措置をとることを義務付けていますが、その措置をとることが企業側に「過重な負担」となる場合には、その申し出のあった措置を取る義務を免除しています(※詳細は→障害者は採用選考で企業にどのような配慮を求めることができるか)。
【障害者雇用促進法第36条の2】
事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となつている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。
もっとも、どのような措置が「過重な負担」となるかはその障害の程度や企業の態様によっても異なるでしょうから、どのような措置が「過重な負担」と判断できるかという点は判然としません。
では、具体的にどのような措置を障害者が申し出た場合に、それがその企業で「過重な負担」と判断されることがあるのでしょうか。どのような基準で障害者雇用促進法の「過重な負担」が判断されるのかという点が問題となります。
障害への合理的配慮に係る措置が「過重な負担」となるのは具体的にどのような措置か
このように、障害者雇用促進法第36条の2は労働者を募集及び採用する企業に対して、応募してきた障害者の障害に配慮した必要な措置をとることが義務付けられていますが、同条但し書きで「過重な負担」となる場合にはその措置の義務が除かれています。
そのため、具体的にどのような措置を障害者が求めた場合にその措置がその企業において「過重な負担」と判断されるのかという点が問題となるわけですが、この点について厚生労働大臣は指針(「合理的配慮指針(厚生労働省告示第117号)」)の中で以下で引用するように(1)~(6)まで6つの要素を挙げたうえで「その要素を総合的に勘案しながら、個別に判断すること」としています。
1 過重な負担の考慮要素
※出典:「合理的配慮指針(厚生労働省告示第117号)「第5 過重な負担」より引用
事業主は、合理的配慮に係る措置が過重な負担にあたるか否かについて、次に掲げる要素を総合的に勘案しながら、個別に判断すること。
(1)事業活動への影響の程度
当該措置を講ずることによる事業所における生産活動やサービス提供への影響その他の事業活動への影響の程度をいう。
(2)実現困難度
事業所の立地状況や施設の所有形態等による当該措置を講ずるための機器や人材の確保、設備の整備等の困難度をいう。
(3)費用・負担の程度
当該措置を講ずることによる費用・負担の程度をいう。
ただし、複数の障害者から合理的配慮に関する要望があった場合、それらの複数の障害者に係る措置に要する費用・負担も勘案して判断することとなること。
(4)企業の規模
当該企業の規模に応じた負担をいう。
(5)企業の財務状況
当該企業の財務状況に応じた負担の程度をいう。
(6)公的支援の有無
当該措置に係る公的支援を利用できる場合は、その利用を前提としたうえで判断することとなること。
(1)事業活動への影響の程度
厚生労働省の指針(以下単に「指針」)は、障害者雇用促進法第36条の2の「過重な負担」となる措置の考慮要素について、「事業活動への影響の程度」を挙げており、その程度については「当該措置を講ずることによる事業所における生産活動やサービス提供への影響その他の事業活動への影響の程度をいう。」と説明しています。
ですから、企業の採用選考に応募した障害者が採用面接や採用試験を受けるに際して、その企業に障害に配慮した必要な措置を求めた場合であっても、その求めた措置が「その企業の生産活動やサービス提供など事業活動に過度な影響を及ぼすことになる事情がある場合」には、企業側からその障害者が申し出た措置の実施が受けられない可能性もあるかもしれません。
たとえば、車イスを利用する障害者が面接会場での移動に支障が出ないようエレベーターやスロープのある会場での面接を「障害に配慮した必要な措置」として求めた場合において、その企業が当初面接会場として利用を予定していた会場と別の会場で面接をすることで事業活動に過度な影響を及ぼすような事情がある場合には、その障害者の申し出た措置が「過重な負担」と判断されて受け入れられないケースもあるかもしれません。
(2)実現困難度
厚生労働省の指針は、「過重な負担」の考慮要素として「実現困難度」も挙げており、その程度については「事業所の立地状況や施設の所有形態等による当該措置を講ずるための機器や人材の確保、設備の整備等の困難度をいう。」と説明しています。
ですから、企業の採用選考に応募した障害者が採用面接や採用試験を受けるに際して、その企業に障害に配慮した必要な措置を求めた場合であっても、その求めた措置が「その企業の立地状況や施設の所有形態等の事情で機器の設置や人材の確保、設備の整備等が困難」な事情がある場合には、その障害者が求めた措置の実施が受けられない可能性もあるかもしれません。
たとえば、車イスを利用する障害者が面接の際に簡易的なスロープを付けてほしいと申し入れた場合においてその企業の事業所が賃貸物件で所有者から簡易的なスロープの設置を禁止されていたような場合には「過重な負担」と判断されてその措置が受け入れられないことがあるかもしれませんし、視覚障害者が点字での採用試験の受験を申し出た場合において当該企業で試験日までに試験問題を点字に変換できる人材の確保が困難な事情があるケースなどでは障害者が求めた措置が受け入れられないこともあるかもしれません。
(3)費用・負担の程度
厚生労働省の指針は、「過重な負担」の考慮要素として「費用・負担の程度」も挙げており、その程度については「当該措置を講ずることによる費用・負担の程度をいう」と説明しています。
ですから、障害者が採用面接や採用試験を受ける際に障害に配慮した必要な措置を求めたとしても、その求めた措置がその企業にとって過度な費用負担となると判断されるケースでは、その措置が受け入れられないこともあると言えます。
ただし、同指針は「複数の障害者から合理的配慮に関する要望があった場合、それらの複数の障害者に係る措置に要する費用・負担も勘案して判断することとなる」としていますので、一人の障害者に対する措置としては費用・負担の程度が「過重な負担とならない」と判断できるものであったとしても、複数の障害者の応募があるケースではその措置の費用負担が「過重な負担」と判断されることもあるかもしれません。
たとえば、聴覚障害者が採用面接や採用試験を受ける際に手話通訳の同席を求める措置を求めた場合において、その企業が手話通訳士を手配することが費用的に「過重な負担」と判断されなかったとしても、そのケースで仮に複数の聴覚障害者が受験することになっていて複数の手話通訳士の確保が必要になった結果、その費用負担が企業にとって大きすぎるケースでは「過重な負担」と判断されてその措置が受け入れられないこともあるかもしれません。
(4)企業の規模
厚生労働省の指針は、「過重な負担」の考慮要素として「企業の規模」も挙げており、その程度については「当該企業の規模に応じた負担をいう」と説明しています。
ですから、障害者が企業の採用選考に応募して障害に配慮した必要な措置を求めた場合において、大企業であればその措置が受け入れられるものであったとしても、その企業の規模から考慮してその求めた措置が「過重な負担」と判断されるケースでは、その求めた措置が受けられないこともあるかもしれません。