「解雇予告」また「解雇予告手当」とは何か(具体例と適用基準)

どのような解雇が無効と判断されるかはケースバイケースで判断するしかありませんが(たとえば整理解雇の場合であれば→整理解雇の四要件とは(不況・経営不振による解雇の判断基準))、一般的には労働契約法第16条に規定されているように「客観的合理的な理由」を欠き「社会通念上相当」と判断できないような解雇は無効と判断されることになります。

【労働契約法第21条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

ですからたとえば、会社から6月10日に「6月30日をもって解雇する」と告知されて10日分の解雇予告手当が労働基準法第20条に従って適正に支払われていたとしても、その解雇自体が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」にあたるのであれば、その解雇自体の有効性を争うことで解雇を回避することができるということになります。

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解雇予告をせず解雇予告手当の支払いもないまま行われた解雇は有効か無効か

以上で説明したように、使用者が労働者を解雇する場合には、解雇日の30日前までに解雇予告を行うか、解雇予告期間が30日に満たない場合にはその不足する日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければ、その使用者は労働基準法第20条違反の責任が生じることになります。

この場合に疑問が生じるのが、仮に使用者が労働基準法第20条に違反して、30日の予告期間を置かず、かつ、解雇予告手当の支払いもないまま解雇した場合のその解雇の効力が生じるのか否かという点です。

たとえば、勤務先の会社から6月30日に「本日付けで解雇する」と告知されて即日に解雇される場合には30日分の解雇予告手当の支払いがなされなければなりませんが、30日分の解雇予告手当の支払いがないまま6月30日に即日解雇された場合に、その解雇の効力自体は有効と判断されるのか無効と判断されるのかという問題です。

この点については学説上の争いがありますので一概には言えませんが、最高裁の判例では「解雇予告をせず、解雇予告手当の支払いもしないでなされた解雇は、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後30日の期間が経過するか、通知後に解雇予告手当の支払いをするかした場合には、そのいずれかのときから解雇の効力が生じる」と判示したものがあります。

使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであつて、本件解雇の通知は30日の期間経過と共に解雇の効力を生じたものとする原判決の判断は正当である。

※出典:「細谷服飾事件」最高裁昭和35年3月11日判決|裁判所判例検索より引用

ですから、たとえば勤務先の会社から6月30日にいきなり「明日から来なくていい」と言われて即日解雇された場合には、その会社が「絶対に6月30日で解雇するんだ」という点に固執しないということが判断できる場合であれば、その6月30日から30日後の7月30日をもって解雇の効力が生じる(または30日分の平均賃金を解雇予告手当として支払えば6月30日で解雇の効力が生じる)ということになるでしょう。

ただし、この点はケースバイケースで下級審の判決も異なっているようですので(※菅野和夫著「労働法」第8版446~448頁参照)個別の事案に応じて弁護士に相談する方が無難です。

解雇予告や解雇予告手当の支払いをしない会社はどうなるのか

刑事罰の対象となる

仮に使用者がその解雇予告を怠った状態で労働者を解雇した場合には、使用者は労働基準法違反として罰則の対象となります。

ちなみに労働基準法第20条違反は労働基準法第119条で「6月以下の懲役または30万円以下の罰金」となっていますので、仮に30日前の解雇予告をすることなく使用者が労働者を解雇した場合において、労働基準監督署の調査が入り、監督署から検察に送検されて起訴されるような事案では、その使用者は「6月以下の懲役または30万円以下の罰金」の有罪判決を受けることもケースによってはあるでしょう。

【労働基準法第119条】

次の各号のいずれかに該当する者は、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
第1号 (中略)…第20条…(中略)の規定に違反した者。
(以下省略)

裁判になれば付加金も併せて労働者に支払わなければならない

解雇予告をしなければならないにも関わらず解雇予告をせず、また解雇予告手当の支払いもしないまま労働者を解雇した使用者が労働者から裁判で解雇予告手当の支払いを求められた場合、裁判所は使用者に対して解雇予告手当の支払いとは別に、解雇予告手当と同額の「付加金」の支払いを命じることができます(労働基準法第114条)。

【労働基準法第114条】

裁判所は、第20条…(中略)…の規定に違反した使用者…(中略)…に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から2年以内にしなければならない。

ですからたとえば、平均賃金が計算上「1万円」になる労働者が解雇予告なしに「明日から来なくていい」と言われて即日解雇された場合において裁判を行い、裁判所に付加金の請求も求めて勝訴した場合には、平均賃金の30日分にあたる「30万円の解雇予告手当」とは別に、それと同額の「30万円の付加金」の支払いも受けられることになりますので、合計60万円の支払いを使用者から受けられることになります。