懲戒解雇で解雇予告手当が支払われない場合の対処法

労働者を懲戒解雇する会社の中に、「懲戒解雇の場合は解雇予告手当を支払わなくてもよい」と主張して、30日の予告期間を置かず、解雇予告手当の支払いもないまま即日解雇するところがあります。

しかし、『懲戒解雇された場合であっても解雇予告手当を請求できる場合とは』のページでも解説したように、使用者が労働者を懲戒解雇する際に解雇予告をせず解雇予告手当の支払いもしない場合には、その懲戒解雇にかかる「労働者の責めに帰すべき事由」の存在について労働基準監督署の認定を受けておかなければなりませんので、その認定がない場合には懲戒解雇された労働者は使用者に対して解雇予告手当の支払いを請求することができます。

では、仮に懲戒解雇された場合に解雇予告手当の支払いがない場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

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まずその懲戒解雇が有効なのか確認する

30日の予告期間を置くことなく解雇予告手当の支払いもないまま懲戒解雇された場合に解雇予告手当の支払いを求める方法を考える前提として、そもそもその懲戒解雇自体が有効かという点を検討する必要があります。

なぜなら、そもそもその懲戒解雇が無効と判断されるのであれば、解雇予告手当の支払いを求める以前に、懲戒解雇の無効を主張して会社を辞めることなく継続して勤務し続けることができるからです。

労働者の懲戒処分および解雇については労働契約法の第15条と16条に規定がありますが、そこでは懲戒解雇について「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められていますから、仮に懲戒解雇された場合であっても、そこに「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がないのなら、その解雇の無効を主張すれば会社を退職する必要自体がなくなります。

ですから、懲戒解雇された場合には、まずその懲戒解雇が本当に有効なのか、という点を検討する必要があるのです。

なお、具体的にどのような懲戒解雇で無効と判断できるかについてはケースバイケースで判断するしかありませんので、弁護士等の専門家に相談するなどして助言を受けてください。

会社が「労働基準監督署の認定」を受けているか確認する

懲戒解雇自体に違法性はない場合(懲戒解雇が有効と判断される場合)また、懲戒解雇自体の効力は争わず懲戒解雇を受け入れる場合には、その会社が解雇する労働者に「労働者の責めに帰すべき事由」があることについて労働基準監督署の認定を受けた確認する必要があります。

なぜなら、 『懲戒解雇された場合であっても解雇予告手当を請求できる場合とは』 のページで詳しく解説したように、使用者が労働者を懲戒解雇する場合に30日の予告期間を置かず30日に不足する日数分の平均賃金(解雇予告手当)の支払いもしない場合には、その「労働者の責めに帰すべき事由」について労働基準監督署の認定を受けることが義務付けられているからです。

使用者が「労働者の責めに帰すべき事由」について労働基準監督署の認定を受けていないにもかかわらず、事前予告なく30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払いもしないまま懲戒解雇した場合には、その解雇された労働者は労働基準法第20条の規定に従って解雇予告手当の支払いを求めることができますが、そのためには当然、会社が労働基準監督署の認定を受けていないことを確認する必要があります。

そのため、事前予告なく解雇予告手当の支払いもないまま懲戒解雇された場合には、まずその会社が労働基準監督署の認定を受けいるのかいないのか、確認する必要があるのです。

なお、どのようにして会社が労働基準法第20条第3項の認定を受けたか確認するか、その具体的な方法については「天災事変その他やむを得ない事由」で解雇する場合における労働基準監督署の認定の確認方法について解説した 『災害等による解雇で労働基準監督署の認定を受けたか確認する方法』 のページを参考にしてください。

懲戒解雇で解雇予告手当が支払われない場合の対処法

会社が労働基準法第20条第3項で義務付けられた労働基準監督署の認定を受けていないことが確認できた場合は、以下の方法をとって会社に対して解雇予告手当の支払いを請求してみましょう。

ただし、先ほども説明したように、そもそも懲戒解雇が無効と判断される場合は、解雇の無効を主張すれば退職することなくその会社で勤務し続けることも可能ですが、仮にその懲戒解雇が無効であるにもかかわらず、以下で説明する方法をとって解雇予告手当の支払いを請求してしまうと「無効な解雇を追認した」と判断され、後から解雇の無効を主張することが困難になる場合がありますので、その点は注意が必要です。

(1)労働基準監督署の認定を受けていないことを

解雇予告もなく解雇予告手当の支払いもないまま懲戒解雇された場合に、その会社が労働基準監督署の認定を受けていないことが確認できる場合は、会社に対して「労働基準監督署の認定を受けない状態で解雇予告手当を支払わずに即日解雇することが労働基準法第20条に違反すること」を記載した書面を作成して、送付してみるというのも対処法の一つとして有効です。

懲戒解雇された場合であっても解雇予告手当を請求できる場合とは』のページで解説したように、会社が労働者を懲戒解雇する場合に解雇予告手当の支払いをしない場合には、あらかじめ労働基準監督署の認定を受けていなければならず、その認定がない場合には会社に対して30日の予告期間に不足する日数分の平均賃金の支払いの支払いを求めることができますが、口頭でそれを説明してもたいていの会社は無視するのが通常です。

しかし書面という形で正式に抗議すれば、将来的な裁判や行政機関への相談などを警戒して解雇予告手当の支払いに応じてもらえる可能性も期待できるので、書面で通知する方法も効果があると考えられるのです。

なお、その場合に会社に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

労働基準法第20条第3項で準用する同法第19条第2項の認定に関する申入書

私は、〇年6月30日、貴社から、事前の予告および労働基準法第20条第1項ないし2項で義務付けられた30日分の平均賃金の支払いもないまま、同日付で懲戒解雇する旨の通知を受け、即日に解雇されました。

この解雇につき、貴社からは、懲戒解雇の場合は労働基準法第20条第1項但書に該当することから予告期間を置かず、かつ30日分の平均賃金を支払うことなく即日解雇することは法的に認められている旨の説明を口頭で受けました。

しかしながら、労働基準法第20条第1項但書に基づいて解雇の予告を省略し平均賃金の支払いをしない場合には、使用者は「労働者の責めに帰すべき事由」があったことについて同条第3項が準用する同法第19条第2項の労働基準監督署の認定を受けなければなりませんが、私が確認した限り、貴社がその認定を受けた事実はありません。

したがって、貴社は労働基準法第20条第3条に違反して、行政官庁の認定を受けないまま、30日の予告期間を置かず、また30日分の平均賃金の支払いをしないまま解雇したことになりますから、ただちに労働基準法第20条所定の平均賃金を支払うよう、請求いたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※送付した事実を証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで、特定記録郵便など配達記録の残る郵送方法で郵送するようにしてください。

(2)労働基準監督署に違法行為の申告を行う

懲戒解雇された場合に、会社が労働基準監督署の認定を受けていないにもかかわらず、解雇予告手当の支払いにも応じない場合には、労働基準監督署に違法行為の申告を行うというのも対処法として有効です。

先ほど説明したように、使用者が懲戒解雇する際に30日の解雇予告期間を置かず、かつ解雇予告手当を支払わない場合には、必ず労働基準監督署の認定を受けなければなりませんから、その認定を受けずに解雇予告手当を支払わずに懲戒解雇したというのであれば、それは労働基準法第20条に違反する行為と言えます。

この点、労働基準法第104条は、労働基準法に違反する使用者があった場合に労働者に労働基準監督署への申告を認めていますが、労働者がその違反行為を監督署に申告することで監督署からの指導や監督権限の行使を促すことができれば、監督署の指導に従って会社が解雇予告手当の支払いに応じることも期待できますので、労働基準監督署への申告を検討してみるのも、対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載例は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:群馬県高崎市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 花子
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:埼玉県さいたま市〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社 X
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(正社員)←※註1
役 職:特になし
職 種:配送ドライバー

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法20条第1項、同条第2項、同条第3項、同法第19条第2項

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は、違反者から、社内で重大なセクハラ行為があったことを理由に、同年〇月〇日付で懲戒解雇された。
・違反者はこの懲戒解雇にかかる「労働者の責めに帰すべき事由」の存在について労働基準法第20条第3項が準用する同法第19条第2項の行政官庁の認定を受けていない。
・違反者は、申告者を懲戒解雇する際に労働基準法第20条第1項ないし2項で義務付けられた30日前の解雇予告を行うか、30日分の平均賃金を支払わなければならないが、違反者は30日分の平均賃金を支払うことなく即日解雇している。
・30日の予告期間を置かず、また30日分の平均賃金を支払わずに申告者を懲戒解雇した違反者の行為は労働基準法第20条に違反している。

添付書類等
・解雇通知書の写し……1通(←注2)

備考
特になし(←注3)

以上

※註1:アルバイトやパートなどの場合は「期間の定めのある雇用契約」などと記載してください。

※註2:労働基準監督署への申告に証拠書類は必須ではありませんので必ずしも添付する必要はありません。なお、書類を添付する場合、原本は後日裁判などで使用する可能性がありますので添付する場合は必ず「写し(コピー)」を添付するようにしてください。

※註3:会社から嫌がらせを受ける恐れがある場合は備考欄に「違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(元上司が申告者の自宅に押し掛けて恫喝するなどが過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。」などと記載してください。

(3)労働局に個別紛争解決援助(またはあっせん)の申し立てを行う

労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行っても解雇予告手当が支払われない場合は、労働局に個別労働関係紛争解決援助または”あっせん”の申し立てをしてみるのも解決方法の一つとして有効です。

労働局では事業者とそこに勤務する労働者との間で生じた紛争の解決を図るため、個別紛争解決援助の手続きを行っており、そこではあっせん委員によるあっせん手続きも利用できますから、この労働局の紛争解決手続きを利用することで労働局の関与の下で未払い(不払い)分の解雇予告手当に関するトラブルの解決を図ることも期待できます。

なお、この労働局の手続きについては『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説しています。

(4)その他の対処法

以上の外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは