介護や学業に配慮しない配置転換・転勤を命じられた場合の対処法

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会社で働いていると、職種や勤務地の変更(いわゆる配置転換・配転)は避けて通れない部分がありますが、私生活上の課題を抱えている労働者にとって負担が大きすぎる配転が命じられるケースがあります。

たとえば、親や子や親族等の介護をしている労働者がその介護が困難になる地域への転勤を命じられたり、学業その他で時間に制限のある労働者が学業に支障が出る時間帯の就労を強要させられるようなケースです。

このような私生活上の困難に直面している労働者は仕事と私生活の調和が図れなければ生活が破綻してしまいますので、いくら会社の命令であったとしても二つ返事で承諾することができないのが通常でしょう。

では、このような仕事と私生活の調和に影響を与えかねない配置転換を命じられた場合、それを拒否することはできないのでしょうか。

また、実際にそのような配転命令を受けた場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

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仕事と私生活の調和を損なう配転命令は拒否できる

先ほど述べたように、勤務先の会社から仕事と私生活の調和が乱されるような配転命令を受けるケースがあるわけですが、結論から言うとそのような仕事と私生活の調和を乱す配転命令は拒否することができます。

なぜなら、使用者には雇い入れた労働者が仕事と私生活の調和を維持しつつ就労することができるよう配慮しなければならない雇用契約上の義務が課せられていると考えられているからです(労働契約法第3条3項)。

【労働契約法第3条3項】

労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

使用者が労働者に対して部署移動や転勤といった配置転換を命じることができるのは雇用契約(労働契約)で使用者に労働者に対する配転命令権が与えられていると考えられているからですが、その雇用契約(労働契約)から導かれる配転命令権も無条件に行使できるわけではなく、労働者の仕事と私生活の調和に配慮した範囲内でのみ権限を行使できるにすぎません。

使用者がその範囲を越えて配置転換を命じることは、雇用契約(労働契約)で付与された配転命令権を濫用するものとして許容されませんから、仮に労働者が使用者から仕事と私生活の調和を乱す配転命令を受けたとしても権利の濫用を理由にその無効を主張して拒否することができるということになるのです(労働契約法第3条5項)。

【労働契約法第3条5項】

労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

仕事と私生活の調和に配慮しない配転命令の具体例

このように、使用者にはその雇い入れた労働者の仕事と私生活の調和に配慮した範囲内でのみ配転命令を強制することができるということになりますから、その配慮を欠いた配置転換を命じられたとしても労働者は自身の一存で自由にその配転命令を拒否することができるということになります。

この点、具体的にどのような配転命令が仕事と私生活の調和に配慮していないといえるという点はケースバイケースで判断するしかありませんが、分かりやすい例としては以下のようなケースが考えられます。

  • 介護が必要な親や子、親族がいる労働者が、その介護が事実上困難になる地理的場所へ転勤を命じられる場合など。
  • 子の学校に送迎が必要な労働者が、送迎が困難になる時間帯の就労への移動を命じられる場合など(たとえば登校時に子どもを学校まで送らなければならない労働者が早朝勤務が必要となる部署に異動を命じられる場合)。
  • 昼間は学校の授業に出席しなければならない夜間出勤の学生アルバイトが、昼間の時間帯に出勤が必要となる配置転換を命じられる場合。

仕事と私生活の調和に配慮しない配置転換・転勤を命じられた場合の対処法

以上で説明したように、仕事と私生活の調和に配慮しない配置転換(部署移動や職種変更、転勤など)を命じられた場合には、権利の濫用を理由にその配転命令を拒否することが可能ですが、このような法律的な考え方に理解のない経営者や役職者も多くいるのが実情ですので、実際に勤務している会社からそのような配転を命じられた場合には、具体的方法をとって対処することが求められます。

(1)仕事と私生活の調和に配慮しない配転命令が権利の濫用として無効となることを文書で通知する

勤務先の会社から仕事と私生活の調和に配慮しない配置転換(職種や勤務場所の変更、転勤など)を命じられた場合には、その仕事と私生活の調和に配慮しない配転が権利の濫用となり無効であることを書面に記載し文書という形で会社に通知するのも一つの対処法として有効です。

口頭で「仕事と私生活の調和に配慮しない配転は権利の濫用で無効だ」と抗議して相手にしてくれない会社でも、文書という形で正式に申し入れすれば事の重大性に気付いて配転命令を撤回するケースもありますから、文書の形で申し入れしてみる価値はあると思います。

なお、その場合の通知書の文面は以下のようなもので差し支えないでしょう。

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

仕事と私生活の調和に配慮しない配転命令の撤回申入書

私は、〇年〇月から貴社が展開するコンビニエンスストア「ブラックマート北大宮駅前店」でアルバイト従業員として勤務していますが、〇年〇月〇日、店長の○○から、来月から新川崎駅前店で勤務するよう配置転換(転勤)の指示を受けました。

この貴社の配転命令について私は、大宮私立大学に通学しており川崎市までの通勤は学業に支障をきたすことから配転に応じられない旨回答しておりますが、店長の○○は「社内会議で決まったことだから拒否することはできない」と一方的に新川崎駅前店への配属変更手続きを進めているようです。

しかしながら私が大学に通いながらアルバイトしていることは採用の際に貴社に説明していますから、学業に影響しない範囲でしか労働力を提供できないことは貴社も了承したうえで私を雇用しているはずです。

また、労働契約法第3条3項は使用者に労働者の仕事と生活の調和を図ることを求めていますから、その配慮を怠って労働者の私生活に支障をきたす配転命令を行うことは雇用契約(労働契約)で使用者に与えられた配転命令権を逸脱するものといえます(労働契約法第3条5項)。

したがって、貴社が新川崎駅前店への移動を命じた本件配転命令は、雇用契約(労働契約)で導かれる配転命令権を濫用した無効なものであるといえますから、直ちに当該配転命令を撤回するよう、本状をもって申入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

会社に送付する前に証拠として残すため必ずコピーを取っておき、相手方に「到達した」という客観的証拠を残しておく必要があるため、普通郵便ではなく特定記録郵便など客観的記録の残る方法を用いて郵送すること。

(2)その他の対処法

以上の通知書を送る方法を用いてもなお会社が仕事と私生活の調和に配慮しない配転命令を強要しようとする場合は、労働局で紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

(3)労働基準監督署に相談して解決できるか

なお、このように仕事と生活の調和に配慮しない配転命令を強要されるというトラブルについて労働基準監督署に相談して解決できるかという点が問題になりますが、そのようなトラブルについては労働基準監督署は積極的に介入してくれないのが通常です。

労働基準監督署は基本的に「労働基準法」という法律に違反する事業主を監督する機関ですから、労働基準法で禁止している行為を会社が行っている場合だけしか行政機関としての監督権限を行使できないからです。

「私生活との調和に配慮しない配転命令」という行為自体は労働基準法で禁止されている行為ではなく、雇用契約(労働契約)に違反する行為にすぎませんので、監督署は直接介入したくても法的な権限がないので介入することができません。

ですから、このようなトラブルについては労働基準監督署ではなく労働局の紛争解決手続や労働委員会の”あっせん”の手続を利用するのがまず考えられる適当な対処法になると考えた方がよいでしょう。