職種や勤務地を限定して採用されたのに配転を命じられた場合

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就職に際して職種や勤務地が限定されて採用を受けているにもかかわらず、勤務先の会社から配置転換を命じられてしまうトラブルがまれに見受けられます。

たとえば、居酒屋のアルバイトで「ホール係」として採用されているにもかかわらず、人手不足を理由にホールから「キッチン」の調理補助の仕事に回されたり、「技術職」として就職したにもかかわらず「営業職」に配属部署を変えられてしまったり、「東京」を勤務地と限定して採用されたにもかかわらず「大阪」支店に転勤を命じられてしまうようなケースです。

このように「職種」や「勤務地」が限定されて採用されている場合には、会社の配転命令権はその限定された範囲内でしか雇用契約(労働契約)上の拘束力を生じさせませんので、その範囲を超えた配転命令については労働者の側に従わなければならない雇用契約(労働契約)上の義務はなく、労働者の自由な一方的意思表示によって拒否することが可能となります。

今の例でいえば「ホール係」として採用されたアルバイトであれば「配膳」業務から「案内・レジ打ち」への配置転換についてはその職種限定の範囲内として配転命令は許容されますが「キッチン」での「調理補助」への配置転換については職種限定の範囲を越えた配転命令となりますので労働者は拒否することができると考えられます。

また、「プログラミング職」に限定して採用された会社員であれば「ソフトウェア制作」から「ソフトウェア設計」への職種変更については認められるでしょうが「営業職」への配置転換は職種限定の範囲を超えた配転として労働者は拒否することができるでしょう。

「東京」を勤務地として限定された会社員も「品川本社」から「八王子支店」への転勤であれば従わなければなりませんが、「東京以外」へのたとえば「大宮支店」への転勤については勤務地の限定範囲を超える配転命令として拒否することができるということになるわけです。

もっとも、このように「職種」や「勤務地」が限定されて採用された労働者に対してその限定された範囲内でしか配置転換を命じることができないという法律的な考え方をすべての使用者(雇い主)が理解しているわけではありませんから、会社によってはその限定された範囲を超えて配置転換を命じてくる場合もあるのが実情です。

では、勤務先の会社から実際にそのような「職種」や「勤務地」の限定の範囲を超えて配置転換を命じられた場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

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「職種」や「勤務地」が間違いなく限定されているか確認する

「職種」や「勤務地」が限定されているにもかかわらず勤務先の会社から配置転換を命じられた場合には、まず間違いなく「職種」や「勤務地」が限定されたものであるのか、今一度確認することが必要です。

自分の認識では職種や勤務地が限定されていると思っていても、契約上限定されていなかったというケースもありますから、間違いなく職種や勤務地が限定されているということを確認することは非常に重要です。

なお、職種や勤務地が限定されているか確認する方法としては以下の方法があげられます。

ア)雇用契約書(労働契約書)を確認する

会社から配置転換を命じられた場合には、まず就職する際に会社から交付を受けた雇用契約書(労働契約書)を確認し「職種」や「勤務地」が一定の範囲に限定されていることを確認する作業をする必要があります。

先ほど説明したように「職種」や「勤務地」が限定されている場合には会社からその限定の範囲を超えた配転を命じられたとしてもそれを拒否することができますが、その限定が本当に存在していることを確認することが前提条件として必要になるからです。

この点、その職種や勤務地が限定されているか否かは雇用契約書(労働契約書)に規定されているのが一般的ですから、まず最初に雇用契約書(労働契約書)を確認するようにしなければならないのです。

雇用契約書(労働契約書)については労働者を雇い入れた使用者は必ず作成して労働者に書面で交付することが義務付けられていますから、アルバイトか正社員化にかかわらず雇用関係で働いている労働者であれば必ず雇い主から交付を受けているはずです(※ただし後述するように雇用契約書(労働契約書)の代わりに労働条件通知書を交付する会社もあります)。

もし雇用契約書(労働契約書)の交付を受けていないという場合は『雇用契約書または労働条件通知書を作ってくれない会社の対処法』の記事を参考に会社に対してその交付を要請するようにしてください。

イ)労働条件通知書を確認する

「ア)」で説明したように、雇用関係で働く場合には使用者(雇い主)から雇用契約書(労働契約書)の交付が受けられるのが通常ですが、会社によっては雇用契約書(労働契約書)の代わりに「労働条件通知書」を作成し労働者に交付するところもありますので、会社から雇用契約書(労働契約書)ではなく労働条件通知書が交付されている場合はその交付を受けた労働条件通知書を確認してください。

その労働条件通知書に「職種」や「勤務地」が一定の範囲で限定されている規定があれば、その範囲を超えた配転命令を拒否することができるということになります。

なお雇用契約書(労働契約書)と労働条件通知書の違いについては『雇用契約書(労働契約書)と労働条件通知書は何がどう違う?』のページを、また会社が労働条件通知書を交付してくれない場合の対処法については『雇用契約書または労働条件通知書を作ってくれない会社の対処法』のページを参考にしてください。

ウ)就業規則を確認する

ア)とイ)のように、職種や勤務地が限定されているか確認する方法としては会社から交付された雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書の記述を確認するのが基本ですが、仮にそれらに職種や勤務地の限定に関する記述がない場合であっても会社の就業規則に職種や勤務地の限定が規定されている場合がありますので、就業規則の規定も確認するようにしてください。

なお、常時10人以上就労している会社では必ず就業規則を作成し労働基準監督署に届け出ること、また作成した就業規則は労働者が常時閲覧できる環境に備え置くことが法律で義務付けられていますので、会社が就業規則を見せてくれないなど就業規則の確認が困難な場合は以下のページを参考に会社に対して就業規則を公開するよう要求する必要があります。

エ)労働協約を確認する

雇用契約書(労働契約書)または労働条件通知書に職種や勤務地の限定が規定されておらず、就業規則にもその限定に関する規定が存在しない場合であっても、労働協約に職種や勤務地の限定が規定されている場合もありますので、契約書(労働条件通知書)や就業規則を確認して職種や勤務地の限定が確認できない場合は労働協約についても併せて確認する必要があります。

労働協約とは労働組合が会社との間で結ぶ協約のことで労働組合がある会社であれば労働組合で確認することができますので、労働組合のある会社に勤務している場合には労働協約を確認確認することも忘れないようにしてください。

オ)「職種」や「勤務地」が限定されていない場合であっても使用者の配転命令権が雇用契約(労働契約)の内容となっていない場合は配転命令を拒否できる

なお以上の要領で職種や勤務地の限定があるか確認し、その限定がされていなかったとしても使用者の配転命令権が雇用契約(労働契約)の内容となっていない場合にはそもそも会社が労働者に対して配置転換を命じること自体ができませんので職種や勤務地の限定の有無にかかわらず配置転換を拒否することが可能です。

この点については『人事異動における配転命令(配置転換・転勤)は拒否できるか』または『雇用契約の根拠のない配置転換(移動・転勤)を拒否する方法』のページで解説していますのでそちらを参考にしてください。

「職種」や「勤務地」が限定されているのに配転を命じられた場合の対処法

上に挙げた「ア~エ」の要領で職種や勤務地の限定がなされていることが確認できたにもかかわらず勤務先の会社から職種や勤務地の限定された範囲を越えた配置転換を命じられている場合には、雇用契約(労働契約)において従わなければならない義務のない配転命令を受けているということができますので、具体的な方法をとって会社に対処する必要があります。

(1)職種や勤務地の限定の範囲を超えた配転命令が無効であることを通知する文書を作成し送付してみる

会社との間で職種や勤務地に限定がなされているにもかかわらず、その限定された範囲を超えて配置転換を命じられた場合には、その限定された範囲を超えた配置転換を止めるよう求める文書を作成し会社に対して送付してみるというのも一つの対処法として有効です。

人事異動における配転命令(配置転換・転勤)は拒否できるか』のページでも説明したように、職種や勤務地の限定を超えた範囲の配転命令は雇用契約(労働契約)上の拘束力がありませんので労働者は正当な理由の有無にかかわらずその一方的な意思で自由に拒否することができます。

にもかかわらず会社が配置転換を強要している場合には、会社は雇用契約(労働契約)上の根拠なく労働者に配転命令を強要していることになりますが、口頭でと抗議しても会社がおとなしく引き下がる可能性は低いでしょう。

しかし、文書を作成し通知書等の形で正式に会社側に申し入れすれば会社側も対応に変化が生じる場合もありますので、文書という形で改めて会社の不当性を通知することも解決方法の一手段として有効に機能すると思われます。

なお、その場合に会社に送付する文書の文面は以下のようなもので差し支えないでしょう。

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

職種(または勤務地)の限定された範囲を超える配転命令の撤回申入書

私は、貴社の経営するファミリーレストラン△△渋谷駅前店においてホール係として勤務しておりますが、〇年〇月〇日、直属の上司である店長の○○から、来月から厨房での調理補助業務に配置転換が行われる旨の打診を受けました。

この配転命令に関して私は、ホール係の勤務を希望してアルバイトの採用を受けており今後もホール係の職種を希望しているため拒否いたしましたが、○○からは「社内会議で決まったことだから拒否することはできない」「アルバイトなんだからそのようなわがままは通らない」と説明され、事実上、来月から厨房での調理補助業務への配置転換が決定されているものと認識しております。

しかしながら、私が貴社に入社する際に合意した雇用契約(労働契約)書には、「職種」の欄に「ホール係」「接客」と限定して規定されていますから、貴社の私に対する配転命令権はその限定された職種の範囲内においてのみ雇用契約(労働契約)上の拘束力を有するものと解されます。

そうであれば、貴社が私に対して「ホール係」「接客」と限定された職種の範囲を超えて「厨房」における「調理補助」業務に配置転換する命令は、雇用契約(労働契約)で合意された配転命令権を超えた配転命令となり、私の同意がない限り貴社は私に対して厨房における調理補助業務への配置転換を命じることはできないはずです。

したがって、貴社が私に対して厨房における調理補助業務への配転を強制している現状は雇用契約(労働契約)上の根拠のない無効なものといえますから、当該配転命令を直ちに撤回するよう、本状をもって申入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

会社に送付する前に証拠として残すため必ずコピーを取っておき、相手方に「到達した」という客観的証拠を残しておく必要があるため、普通郵便ではなく特定記録郵便など客観的記録の残る方法を用いて郵送すること。

(2)その他の対処法

以上の通知書を送る方法を用いても会社がなお配転命令を強要しようとする場合は、労働局の紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

(3)労働基準監督署に相談して解決できるか

なお、このように雇用契約(労働契約)上の根拠のない配転命令を拒否できる場合において会社がその配転を強要するというようなトラブルについて労働基準監督署に相談して解決できるかという点が問題になりますが、そのようなトラブルについては労働基準監督署は積極的に介入してくれないのが通常です。

労働基準監督署は基本的に「労働基準法」という法律に違反する事業主を監督する機関ですから、労働基準法で禁止している行為を会社が行っている場合だけしか行政機関としての監督権限を行使できないからです。

「雇用契約(労働契約)で合意した職種または勤務地の範囲を越えた配転命令の強制」という行為自体は労働基準法で禁止されている行為ではなく、雇用契約(労働契約)に違反する行為にすぎませんので、監督署は直接介入したくても法的な権限がないので介入することができません。

ですから、このようなトラブルについては労働基準監督署ではなく労働局の紛争解決手続や労働委員会の”あっせん”の手続を利用するのがまず考えられる適当な対処法になると考えた方がよいでしょう。