バイト・パート・契約社員が解雇予告手当を貰えない場合の対処法

(イ)バイト、パート、契約社員の契約が季節的労働で契約期間が4か月未満の場合

不払太郎 農場

不払 太郎 殿

労働基準法第20条に基づく平均賃金の支払いを求める申入書

私は、〇年6月15日、貴殿から、口頭で同日付で解雇する旨の通知を受け、同日付で貴殿の農場を解雇されましたが(以下この解雇を「本件解雇」という)、この解雇に際し、労働基準法第20条第1項ないし2項で義務付けられた30日分の平均賃金(以下「解雇予告手当」という)の支払いを受けておりません。

この解雇予告手当の不払いについては、先日から口頭で再三、貴殿に支払うよう要請していますが、貴殿は、パートには解雇予告手当を支払わなくてもよい、と回答するのみで未だ支払いがなされていない状態です。

しかしながら、確かに労働基準法第21条第3号で「季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者」については同法第20条の適用を除外していますが、同条但し書きで「所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合」にはその適用除外を排除しています。

この点、私が貴殿との間で締結した労働契約は〇年2月1日に「契約期間3か月」の有期労働契約が結ばれたあと、最初の契約が満了する4月30日までに契約が更新されていますから、本件解雇があった時点ですでに「4か月の期間を超えて引き続き使用されるに至った」状態にあったと言えます。

したがって、本件解雇において同法第21条3号の適用はなく、貴社は労働基準法第20条第1項ないし2項に基づいて、30日分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払わなければならない法的な義務がありますから、直ちに当該解雇予告手当の支払いを行うよう、申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

(2)労働基準監督署に違法行為の申告を行う

使用者が解雇予告手当の支払わなければならないにもかかわらずその支払いに応じない場合には、労働基準監督署に違法行為の申告を行うのも対処法として有効です。

「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働くアルバイトやパート、契約社員などのうち、契約期間が「2か月(季節的労働の場合は4か月)」を超える場合、また「2か月(季節的労働の場合は4か月)の期間を超えて引き続き使用されるに至った」場合にあてはまる労働者が、事前予告なく、かつ解雇予告手当の支払いも受けられないまま解雇された場合には、その会社は労働基準法第20条に違反する状態にあると言えますが、使用者が労働基準法に違反する場合には、労働者がその違法行為の事実を労働基準監督署に申告し、監督署の監督権限の行使を促すことを労働基準法第104条が認めています。

【労働基準法第104条1項】

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

労働者が労働基準監督署に違法行為の申告を行い監督署から調査や勧告などが出されれば、会社がそれまでの違法状態を改善して解雇予告手当の支払い応じることも期待できますので、この労働基準監督署への申告手続きを選択するのも、解決方法の一つとして有効な場合と考えられるのです。

なお、この場合に監督署に提出する申告書の記載例は以下のようなもので差し支えないと思います。

(ウ)バイト、パート、契約社員の契約期間が2か月未満の場合

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:長野県上田市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:長野県上田市〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社 X
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:****-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのある雇用契約(契約期間1か月)
役 職:特になし
職 種:一般事務

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法20条

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は契約期間1か月の約定で〇年5月1日から違反者の下で働き始め、5月31日までに1回目の、6月30日までに2回目の契約更新を受けた。
・申告者は〇年7月15日、違反者から同日付で解雇する旨の解雇通知を受け、同日付で解雇された。
・この解雇について違反者は、事前の解雇予告を一切しておらず、解雇予告手当も全く支払っていない。
・申告者と違反者の間で結ばれた労働契約は契約期間が1か月間であるため、申告者は労働基準法第21条第2号の「2箇月以内の期間を定めて使用される者」にあたるが、契約が2回更新されてその通算期間が2か月を超えているので同条但し書きの「所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合」にあたる。
・したがって、違反者には同法第20条第1項ないし2項が適用されるが、違反者は事前予告なく30日分の平均賃金も支払わないまま即日解雇しているから、違反者は同法第20条に違反していると言える。

添付書類等
・解雇通知書の写し……1通(←注1)

備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(元上司が申告者の自宅に押し掛けて恫喝するなどが過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注2)

以上

※註1:労働基準監督署への申告に証拠書類は必須ではありませんので必ずしも添付する必要はありません。なお、書類を添付する場合、原本は後日裁判などで使用する可能性がありますので添付する場合は必ず「写し(コピー)」を添付するようにしてください。

※註2:労働基準監督署に違法行為の申告を行った場合、その報復に会社が不当な行為をしてくる場合がありますので、労働基準監督署に申告したこと自体を会社に知られたくない場合は備考の欄に上記のような文章を記載してください。申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は「特になし」と記載しても構いません。

(エ)バイト、パート、契約社員の契約が季節的労働で契約期間が4か月未満の場合

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:山梨県甲州市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:山梨県甲州市〇丁目〇番〇号
名 称:不払太郎農場
代表者:不払太郎
電 話:****-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(契約期間3か月)
役 職:特になし
職 種:収穫作業員

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法20条

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は契約期間3か月の約定で〇年2月1日から違反者の下で働き始め、4月30日までに1回目の契約更新を受けた。
・申告者は〇年6月15日、違反者から同日付で解雇する旨の解雇通知を受け、同日付で解雇された。
・この解雇について違反者は、事前の解雇予告を一切しておらず、解雇予告手当も全く支払っていない。
・申告者と違反者の間で結ばれた労働契約は季節的業務で契約期間が3か月間であるため、申告者は労働基準法第21条第3号の「季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者」にあたるが、契約が更新されてその通算期間が4か月を超えているので同条但し書きの「所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合」にあたる。
・したがって、違反者には同法第20条第1項ないし2項が適用されるが、違反者は事前予告なく30日分の平均賃金も支払わないまま即日解雇しているから、違反者は同法第20条に違反していると言える。

(※以下は前述した(ウ)と同じです)

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アルバイトやパート、契約社員が解雇予告手当の支払いを受けられない場合のその他の対処法

上記以外の対処法としては、以下のようなものが考えられます。

(1)労働局に個別紛争解決援助(またはあっせん)の申し立てを行う

労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行っても解雇予告手当が支払われない場合は、労働局に個別労働関係紛争解決援助または”あっせん”の申し立てをしてみるのも解決方法の一つとして有効です。

労働局では事業者とそこに勤務する労働者との間で生じた紛争の解決を図るため、個別紛争解決援助の手続きを行っており、そこではあっせん委員によるあっせん手続きも利用できますから、この労働局の紛争解決手続きを利用することで労働局の関与の下で未払い(不払い)分の解雇予告手当に関するトラブルの解決を図ることも期待できます。

なお、この労働局の手続きについては『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説しています。

(2)その他の対処法

以上の外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは