採用面接の容姿やスリーサイズ、整形の有無の質問は差別になるか

採用面接の場において、応募者の容姿に関する質問をしてくる面接担当者や人事担当者があります。

たとえば「化粧きつくない?」とか「なんでその髪型なんですか?」とか「太ってますね」とか「ガリガリですね」とか「バストは何センチですか」とか「スリーサイズどれくらいですか」とか「整形してるんですか」とかの質問が代表的な例として挙げられます。

このような質問は、人によっては心を傷つけられ大きな心理的負担を生じさせこともありますから、常識的に考えて許されるものではないような気もします。

では、このように採用面接で容姿やスリーサイズ、整形の有無等を質問することはそもそも許されるものなのでしょうか。

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容姿やスリーサイズ、整形の有無などに関する質問は採用差別(就職差別)につながるおそれを指摘できる

このように、採用面接で容姿やスリーサイズ、整形の有無など個人の外見に関わるデリケート部分を質問する企業があるわけですが、結論から言えばこのような質問は採用差別(就職差別)につながるおそれを指摘することができます。

もちろん、労働者を募集する企業には「採用の自由」が認められていますから、どのような外見の労働者を募集し採用するかという点も基本的にはその企業の自由に委ねられる部分があるといえます。

しかし、その企業の「採用の自由」も無制約なものではありません。憲法は国民の基本的人権を保障者いますから、応募者の人権を制限してまで企業の「採用の自由」を許すことは公共の福祉の観点から考えても許されないからです。

具体的には、憲法は職業選択の自由(憲法22条)や法の下の平等(憲法14条)、思想良心の自由(憲法19条)、幸福追求権(憲法13条)などを保障していますから、差別を誘発して「就職の機会均等」が損なわれるような質問や、個人の思想信条に介入したり個人のプライバシーを侵害する質問などは制限されなければなりません。

この点、容姿やスリーサイズ、整形の有無などは、常識的に考えて本人の適性や能力とは関係のない事項ですから、それらの内容が特に業務に関係するような特殊な職種でもない限り(具体的にどのような職種がそれにあたるかは分かりませんが)、差別につながるおそれを指摘できると言えます。

また、容姿やスリーサイズ、整形の有無などは個人の尊厳にもかかわるものであり幸福追求権にも関係する本来個人の自由に委ねられるべき、たとえ採用のためであってもそこに企業があるわけですが、介入すべきではありませんから、公序良俗の観点からも許されるべきではないと言えます。

ですから、容姿やスリーサイズ、整形の有無などの質問は、その情報が不可欠となる特殊な職種でもない限り、本来的に採用面接で行われてよいものではないと言えるでしょう。

容姿やスリーサイズ、整形の有無などに関する質問は「求職者の個人情報の取り扱い」の観点から違法性を指摘できる

このように、採用面接で容姿やスリーサイズ、整形の有無など個人の外見に関わるデリケート部分を質問は採用差別(就職差別)につながるおそれを指摘できますが、これとは別に求職者の個人情報の取り扱いの観点から違法性を指摘することも可能です。

職業安定法第5条の4では、求職者から収集する個人情報については「その業務の目的の達成に必要な範囲内で収集・保管し使用すること」と規定されていますので、そもそも労働者を募集する企業では、「業務の目的の達成に必要な範囲」を超えた応募者の個人情報を収集したり保管をすること自体が法的に認められていません。

職業安定法第5条の4

第1項 公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者(中略)は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(中略)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
第2項 公共職業安定所等は、求職者等の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。

そうであれば、求職者の容姿やスリーサイズ、整形の有無などに関する情報は、それが業務に関係する特殊な職種でもない限り「業務の目的の達成に必要」なものではありませんから、それを採用面接で質問し求職者の情報として記録すること自体がこの職業安定法の規定に抵触することになるでしょう。

ですから、この職業安定法の観点から考えても、そのようなプライベートな質問は採用面接の場でなされるべきではないのです。

厚生労働省の指針でも「容姿やスリーサイズ等差別的評価につながる情報」は特別な職種を除いて採用選考で収集しないよう注意喚起されている

なお、厚生労働省の指針「職業安定法第5条の4に基づく指針(平成11年労働省告示第141号)」でも、労働者の募集を行う企業や職業紹介事業者等が個人情報を収集する場合、「その目的の範囲内で求職者等の個人情報を収集すること」としたうえで、「容姿、スリーサイズ等差別的評価に繋がる情報」についても、「特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合」を除き収集してはならない、と注意喚起されていますので(※参考→公正な採用選考を目指して(平成31年度版)|厚生労働省)、それを無視してそうした質問をしている会社があるとすれば、その会社の倫理意識や法令遵守意識の低さが推認されるとも言えます。

採用面接で容姿やスリーサイズ、整形の有無などに関する質問を受けた場合の対処法

以上で説明したように、採用面接で面接担当者が応募者の容姿やスリーサイズ、整形の有無などに言及して質問することは採用差別(就職差別)につながるだけでなく求職者等の個人情報の取り扱い規定にも抵触するおそれを指摘できますから、常識的な会社であればそのような質問がなされることはないと言えます。

もっとも、実際の採用面接の場でそのような質問を受けた場合は、求職者の側で何らかの適切な対応を取らなければなりませんので、その場合に取り得る対応が問題となります。

(1)その会社への就職を考え直してみる

採用面接で容姿やスリーサイズ、整形の有無などを聴かれた場合は、その会社への就職を考え直してみるというのも選択肢として考えられます。

先ほど説明したように、そのような質問は採用差別(就職差別)につながるだけでなく職業安定法上の「求職者の個人情報の取り扱い」規定にも抵触する可能性を指摘できますが、それを無視してそうした質問をする企業は倫理意識や法令遵守意識の低さが推認されますのでそのような会社に就職してもいずれ何らかの労働トラブルに巻き込まれるのが関の山です。

将来的なリスクを考えれば他のまともな会社を探す方が無難かもしれません。

(2)容姿やスリーサイズなどの質問を受けた事実をハローワークに申告(相談)してみる

採用面接で容姿やスリーサイズ、整形の有無などを聴かれた場合は、その事実をハローワークに申告(相談)してみるというのも一つの選択肢として考えられます。

先ほど説明したように、そうした質問は採用差別(就職差別)につながるものとして厚生労働省の指針でも注意喚起されていますが、その指針の指導機関はハローワークとなりますので、ハローワークに申告(相談)することで行政からの監督権限行使に役立つかもしれません。

また、仮にその面接がハローワークから紹介を受けた企業のものである場合には、ハローワークに情報提供することで行政からの指導を促し、その企業の不当な面接が改善されることも期待できます。

加えて、このような質問は先ほど説明したように職業安定法上の違法性も指摘できますが、企業(その他職業紹介業社や派遣事業者等も含む)の職業安定法違反行為について厚生労働大臣は、その業務の運営を改善させるために必要な措置を講ずべきことを命じることができ(職業安定法第48条の3第1項)、その厚生労働大臣の命令に企業が違反した場合には「6月以下の懲役または30万円以下の罰金」の刑事罰の対象とすることも可能ですので(職業安定法第65条第7号)、ハローワークに申告(相談)することでそれが情報提供となり、厚生労働大臣の権限行使としてハローワークから行政指導などが出されることで、その違法な個人情報の収集が是正されることも期待できるかもしれません。

職業安定法第48条の3第1項

厚生労働大臣は、職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者又は労働者供給事業者が、その業務に関しこの法律の規定又はこれに基づく命令の規定に違反した場合において、当該業務の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは、これらの者に対し、当該業務の運営を改善するために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。

職業安定法第65条第7号

次の各号のいずれかに該当する者は、これを6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
第1号∼6号(中略)
第7号 第48条の3第1項の規定による命令に違反した者

ですから、採用面接で容姿やスリーサイズ、整形の有無などを聴かれて納得できない場合には、とりあえずハローワークに申告(相談)してみるというのも考えてよいのではないかと思います。

その他の対処法

これら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、労働局の紛争解決援助の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは