アルバイトやパート、契約社員などいわゆる非正規労働者として働く場合、会社との間で結ばれる雇用契約は「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」となるのが一般的です。
この「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」とは、正社員など終身雇用が前提となる「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」と異なり、文字通り契約期間に定めがある契約で、働く期間が「〇年〇月から〇年〇月まで」というように一定の期間に限定される雇用契約をいいます。
ところで、この「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」として働く労働者が一番不安に感じるのが、その契約期間が満了した時点で雇用契約が打ち切られてしまうこと、すなわち「雇い止め」されてしまう可能性があるという点です。
正社員など「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」で働く場合には懲戒処分に該当したり会社が倒産したりするなど特殊な事情が生じない限り定年まで働き続けられるのが原則となりますから、60歳~65歳の定年が到来するまでに「雇い止め」されてしまうような危険は生じません。
しかし、アルバイトや契約社員など「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」は法律で最長でも3年(専門職または60歳以上の場合は5年)までしか認められていませんから(労働基準法14条)、その3年(または5年)の契約期間が満了すれば、使用者(雇い主)が契約を更新してくれない限り契約は打ち切られ「雇い止め」されてしまうのが原則となってしまうでしょう。
ですから、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者にとっては、契約の更新が受けられるか否かという点が働くうえで最も重要な要素となるわけです。
バイト・契約社員の「雇い止め」が必ずしも有効になるわけではない
このように、アルバイトやパート、契約社員など「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者にとっては、契約期間が満了する際に契約の更新が受けられず「雇い止め」されてしまうのが一番困るわけですが、仮に契約の更新が受けられず「雇い止め」された場合であっても必ずしも会社を辞めなければならないというわけでもありません。
なぜなら、使用者(雇い主)が契約を「更新しない」と決める権利が無制限に許されるわけではなく、その権利を濫用して「更新しない」とすることは労働契約上また法律上に認められていないからです(労働契約法3条5項)。
【労働契約法3条5項】
労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。
先ほど説明したように、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」では契約期間が満了した時点で使用者(雇い主)に「契約を更新するかしないか」の決定権があるわけですが、その権利を無制限に行使できるわけではなく、あくまでも「権利の濫用にならない範囲」で「契約を更新しない」とすることができるにすぎません。
つまり、たとえ契約期間が満了した場合であっても、「契約を更新しない」ということが「権利の濫用」と判断できる場合には、その「契約を更新しない」という行為自体が「無効」と判断されるわけです。
ですから、たとえ「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者の契約期間が満了した場合であっても、使用者(雇い主)が契約更新を拒絶し雇い止めすることが「権利の濫用」と判断できるようなケースでは、その雇い止めの「権利の濫用」を主張することで雇い止め自体を無効にし、同じ職場で働き続けることができる可能性もあるということになるのです。
バイト・契約社員の「雇い止め」が無効になる場合とは?
このように、たとえ契約期間の満了を理由に「雇い止め」されるような場合であっても、その雇い止めが「権利の濫用」と判断できるようなケースでは、その無効を主張して契約の更新を強制できる場合があるといえます。
この点、具体的にどのようなケースで契約期間満了時点での「雇い止め」が無効と判断できるかはケースバイケースで考えるしかありませんが、例えば過去に反復継続して契約の更新がなされていた場合であったり、使用者の言動から契約の更新が受けられる合理的期待があったりして正社員(無期労働契約)と実質的に差異がないようなケースが代表的な例としてあげられます。
このようなケースでは、形式的には「有期労働契約」の体裁を整えて契約されていたとしても実質的にはその雇用契約は「無期労働契約」と異なりませんので、「契約期間が満了した」という理由で雇い止めしてしまうことは「解雇」と何ら変わりないといえます。
ですから、そのように労働者において契約更新の期待が顕在化している案件では、雇い止め自体が権利の濫用として無効と判断される場合があるのです。
バイト・契約社員が雇い止めされた時にとっておきたい3つの行動
このように「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働くアルバイトパート、契約社員などが契約期間が満了した際にその更新が受けられず「雇い止め」されてしまった場合であっても、『雇い止めされても契約が更新されたとみなされる2つのケース』のページで解説しているように、労働者の側で契約の更新が受けられると期待するような事情があるケースでは、その雇い止めの無効を主張して退職を回避することも不可能ではありません。
この点、そのような無効の主張ができるとしても、実際に「雇い止め」を受けた場合に具体的にどのように行動すればよいか、という点が問題となります。
(1)本当に「有期労働契約」なのか確認する
使用者(雇い主)から雇い止めされた場合にまずしなければならないのが、自分が本当に「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」として雇われているかという点を、入社する際に会社から交付された雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書を確認してチェックすることです。
なぜなら、アルバイトやパート、契約社員として採用された場合であっても「契約期間」が定められていないケースでは正社員と同じ「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」となるからです。
先ほども説明したように、アルバイトやパート、契約社員などで働く場合は契約期間が「〇年〇月から〇年〇月まで」というように一定の期間に限定される「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」として雇われるのが一般的ですが、使用者(雇い主)によってはアルバイトや契約社員であっても「〇年〇月から〇年〇月まで」というように働く期間を限定しないケースも多くあります。
仮にそのように契約期間が定めていない場合、たとえ「アルバイト」や「パート」「契約社員」として雇われていたとしても、その雇用契約は「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」ではなく「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」となりますので、その法律上の雇用契約は正社員と全く変わらないことになります。
そうすると、そのようなケースではそもそも最初から契約期間が設定されていないわけですから、使用者(雇い主)から「雇い止め」されたとしても、それは雇い止めではなく「解雇」ということになるでしょう。
たとえば、「アルバイト募集」という求人を見て応募した労働者が、入社する際に「〇年〇月から〇年〇月まで」というように働く期間が限定されなかった場合には、その雇用契約は「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」ではなく「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」となり、定年に達するまで契約の更新を受けずに働き続けることが認められますので、定年が到来するまで(普通の会社では60~65歳まで)は会社はそのアルバイトを「雇い止め」する契約上の権限を有していないということになります。
つまり、このようなケースでは会社が「契約期間が満了したから雇い止めだ」と主張しているとしてもそれは「有期労働契約」で働く労働者の「雇い止め」ではなく、単に無期労働契約で働く労働者を「解雇」しているのと同じになるのです。
会社が行った「雇い止め」が実質的に「解雇」となるのであれば、解雇の効力問題となりますが、解雇については「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」を主張立証しない限り、権利の濫用として「無効」と判断されるのが原則です。
【労働契約法16条】
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
そうであれば、「雇い止め」を受けた場合でも「それは解雇だから無効だ!」と主張してその撤回と「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」として働くことを強制させることもできるということになるでしょう。
ですから、「雇い止め」を受けた場合はまず自分が本当に雇用契約上「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」として雇われているかという点を確認するために、就職する際に使用者(雇い主)から交付を受けた「雇用契約書(労働契約書)の控え」または「労働条件通知書」を確認し、そこに「契約期間」が定められているかという点をチェックする必要があるのです。
(2)雇い止めに対する異議を通知しておく
(1)の手順に従って雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書を確認して自分の雇用契約が間違いなく「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」であることが確認できた場合は、その「雇い止め」に異議を述べる通知を行っておくのが賢明です。
なぜなら、「雇い止め」に対して異議を述べずにそのまま放置したのでは、雇い止めを「黙認した」と認識される恐れもありますし、後述の(3)で述べるような労働契約法19条の適用を求める場合にも、雇い止めに異議を出しておくことが最低限必要になるからです。
なお、この「異議」は口頭で「雇い止めは納得できません」と告知するだけでも有効といえば有効ですが、後に裁判などに発展した場合にそれを客観的証拠として提示することができませんので、できる限り「書面」の形で作成し、会社に郵送で送付するなどする方が無難です。
通知書の文面はその事案にもよりますが、以下のようなもので差し支えないと思います。
ア)過去に反復継続して更新されているような場合
株式会社○○
代表取締役 ○○ 殿
雇い止めの無効確認通知書
私は、貴社から、◆年◆月◆日付けで貴社との間で締結している有期労働契約の契約期間が満了することを理由に、その契約期間満了日となる△年△月△日をもって契約を解除する旨の通知(いわゆる雇い止めの通知)を受けております。
しかしながら、私と貴社の間に◆年◆月◆日付けで結ばれた当該有期労働契約はそれ以前にも複数回にわたって契約の更新が繰り返されたものであり、その実質は無期労働契約と何ら変わりありませんから、貴社の雇い止めは事実上無期労働契約の労働者に対する解雇といえます。
この点、解雇については労働契約法16条で客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要となりますが、貴社の行った雇い止め(実質的な解雇)にはそのいずれも見当たりません。
したがって、貴社の行った本件雇い止めは解雇権を濫用するものといえますから、本状をもってその無効を確認し通知いたします。
以上
〇年〇月〇日
〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号〇〇マンション〇号室
○○ ○○ ㊞
イ)使用者(雇い主)から契約更新を期待させるような言動があった場合
株式会社○○
代表取締役 ○○ 殿
雇い止めの無効確認通知書
私は、貴社から、◆年◆月◆日付けで貴社との間で締結している有期労働契約の契約期間が満了することを理由に、その契約期間満了日となる△年△月△日をもって契約を解除する旨の通知(いわゆる雇い止めの通知)を受けております。
しかしながら、私は、貴社との間に結ばれた当該有期労働契約期間中、上司の◇◇から「次の契約更新も受けられるはずだよ」「バイトだけど正社員と同じように長く勤務してもらうから」などと契約更新が将来にわたって繰り返し受けられることを期待させる言動を受けていましたので、当該期待に反して一方的に貴社が雇い止めすることは事実上、無期労働契約の労働者を解雇するのと何ら変わりません。
この点、解雇については労働契約法16条で客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要となりますが、貴社の行った雇い止め(実質的な解雇)は、私の受けた契約更新への期待を一方的に反故にするものであり、客観的合理的理由および社会通念上の相当性満たすものであるとは到底言えません。
したがって、貴社の行った本件雇い止めは解雇権を濫用する違法なものといえますから、本状をもってその無効を確認し通知いたします。
以上
〇年〇月〇日
〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号〇〇マンション〇号室
○○ ○○ ㊞
(3)労働契約法19条で求められる「反対の意思表示」を行っておく
アルバイトやパート、契約社員など「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者が会社から「雇い止め」を受けた場合、基本的には、契約期間が満了する「前」に速やかに「契約更新の申込み」を行うか、契約期間が満了した「後」に遅滞なく「契約締結の申込み」を行う必要があります。
なぜなら、労働契約法19条では、雇い止めを受けた場合であっても「過去に反復継続して契約が更新され実質的に無期労働契約と変わらない場合」または「契約が更新されると期待する合理的理由がある場合」の2つのケースで使用者(雇い主)に契約更新を強制させる規定を置いていますが、この労働契約法19条の適用を受けるためには、契約期間が満了する「前」に「契約更新の申込み」を行うか、期間が満了した「後」に遅滞なく「契約締結の申込み」を行うことが要件として規定されているからです。
もっとも、この労働契約法19条における「更新の申込み」や「締結の申込み」は厚生労働省の見解では”要式行為”ではなく、使用者が行った雇い止めに対して何らかの「反対の意思表示」をすれば足り、具体的な「更新の申込み」や「締結の申込み」は必要ない、と解釈されていますので(※厚生労働省基発0810第2号「労働契約法の施行について」33~34頁参照)、会社から雇い止めの通知(告知)を受けた後に遅滞なく「雇い止めに承諾できないこと」を意思表示するだけでも労働契約法19条の規定を使って契約の更新を強制させることができることになります。
ただし、その「雇い止めに反対の意思表示を行った」ということの立証責任は労働者側にありますから、その事実を概括的に立証できる状態にしておかなければなりません。
そのため、「雇い止めに反対の意思表示を行った事実を立証するための行動」の具体的な方法が問題となりますが、前述した厚生労働省の通達では「訴訟の提起」や「紛争調整機関への申し立て」「団体交渉等により使用者に直接または間接に雇い止めに反対する意思表示を行ったこと」などがあれば足りると説明されています(※厚生労働省基発0810第2号「労働契約法の施行について」34頁参照)。
ですから、勤務している会社で雇い止めされた場合には、以下の4つのうちいずれかの方法を用いて具体的に「雇い止めの無効(ないし撤回)」を求めて対処することが最低限必要となります。
- 弁護士や司法書士に依頼して雇い止めの撤回を求める訴訟を裁判所に提起する。
詳細は→弁護士・司法書士に依頼して裁判をする方法 - 労働局の紛争解決援助の申し立てを行い使用者に対して雇い止めの撤回を求める。
詳細は→労働局の紛争解決援助手続を利用する方法 - 都道府県の労働委員会や自治体の”あっせん”を利用して雇い止めの撤回を求める。
詳細は→都道府県自治体の相談・あっせんを利用する方法
詳細は→労働委員会の相談・あっせんを利用する方法 - 労働組合に相談して組合から雇い止めの撤回に関する団体交渉を行ってもらう。
詳細は→労働組合に解決を任せる方法
この点、先ほどの(2)で説明したように通知書を送付することで「反対の意思表示」を行ったことにもなりますが、厚生労働省の見解では通知書を送付するだけではなく、上記4つの行動かそれに準ずる第三者機関への申し立てを要求していますので、労働契約法19条の規定を利用して契約の更新を求める場合は、上記4つのいずれかの方法を取ることが求められるといえます。
なお、この労働契約法19条の規定を用いた雇い止めの対処法については『「雇い止め」を受けた場合に必ずやっておくべきこと』でも詳しく解説していますので、より深くその内容を理解したい場合はそちらも参考にしてください。