有期労働契約で会社から更新しないと言われたら更新できないか

アルバイトやパート、契約社員などいわゆる非正規労働者として働く場合には、使用者(雇い主)との間で結ばれる雇用契約は「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」となるのが一般的です。

「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」とは、働く期間が「〇年〇月から〇年〇月まで」というように一定の期間に限定されている雇用契約で、契約期間が満了する際に使用者が「更新してもよい」と判断した場合に限って契約が更新され労働者が引き続き就労できることになります。

なぜ使用者(雇い主)がアルバイトやパート、契約社員などを雇う際にこの「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で契約することが多いかというと、いざ労働力の削減が必要になった場合に、その契約の方が労働力の調整が容易になるからです。

いわゆる正社員など正規労働者として働く場合に結ばれる「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」の場合には、使用者(雇い主)はいったん労働者(正社員)を雇用すれば定年が到来するまで自由に雇用契約を解除(解雇)することが難しくなります(※注1)。

しかし、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」として契約を結んでおけば契約期間が満了する際に契約を更新せず「雇い止め」することで自由に労働力の調整が可能になるのが基本です。

ですから、労働力を自由に削減する余地を残しておきたい会社では、正社員ではなくアルバイトやパート、契約社員などを「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」として雇用する場合が多いのです。

ところで、労働者がこの「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で雇い入れられた場合、契約期間が満了する際に契約の更新が受けられなければ労働者は仕事を失うことになるため、労働者にとっては契約更新が受けられるか否かという点が一番の関心ごととなりますが、ごく稀にその有期労働契約の契約期間中に、使用者から「契約は更新しない」と一方的に告げられる場合があります。

有期労働契約の契約期間中、つまり有期労働契約で雇用され働き始めて契約期間が満了するまでの間に、使用者(雇い主)が有期労働契約を契約期間が満了する時点で確実に終了させるために、一方的に「契約期間が満了しても契約は更新しないよ」と告知するわけですが、このように一方的に使用者から「契約を更新しない」と宣告された場合、契約の更新は一切受けられないものなのでしょうか?

「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者は、契約期間が定められているとはいっても「契約の更新があるかもしれない」と期待するのが通常ですが、使用者側で一方的に労働者の期待を否定して雇い止めできるのか、という点が問題となります。

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使用者から一方的に更新しないと告知されても、労働者に「契約更新の期待」がある限り契約の更新は受けられるのが原則

今述べたように、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」では、使用者が有期労働契約で働く労働者を契約期間が満了した時点で確実に退職させることを目的として、労働者に対して一方的に「契約期間が満了しても契約更新しない」と告知し、実際に契約期間が満了した時点で更新をせずに雇い止めしてしまうケースがあるわけですが、結論から言うと使用者が一方的に「更新しない」と告知した場合であっても、必ずしも契約の更新ができなくなるわけではありません。

なぜなら、労働契約法の19条では、一定の事情があるケースに限り使用者が有期労働契約の更新を拒否した場合であっても強制的に使用者に契約更新に承諾させるみなし規定が置かれていますので、労働契約法19条に該当する事情(契約の更新がなされると期待するような事情)がある限り、使用者が一方的に「更新しない」と告知したとしても労働者の側で使用者に対して契約の更新を強制させることができるからです。

労働契約法19条では、「有期労働契約が過去に反復して更新された事実があり雇い止めが正社員の解雇と社会通念上同視できるような場合(労働契約法19条1号)」と、契約期間が満了するまでの期間に使用者(雇い主)から契約の更新がなされることを期待させる言動を受けているなど「契約期間の満了時に契約更新がなされるものと期待することについて合理的な理由がある場合(労働契約法19条2号)」の2つの場合に使用者に契約の更新を強制させる旨規定されています。

【労働契約法19条】

有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

1号 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

2号 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

ですから、この労働契約法19条の1号または2号に該当する事情が存在する限り、たとえ使用者(雇い主)が一方的に「更新しない」と告知してきたとしても、労働契約法19条が適用されることによって契約は強制的に更新されることになりますので、会社からそのような告知を受けたとしても契約期間の満了後に引き続き同じく労働条件で勤務し続けることは可能といえるのです。

労働契約法19条は”強行法規”と考えられるため、いったん労働者の側に「契約更新に関する合理的な期待」が生じれば同条に反する当事者間の合意は無効になる

このように、労働契約法19条の1号と2号では労働者の側に一定の「契約更新に関する期待」が存在する場合に使用者(雇い主)に契約更新を強制させ労働者の保護を図っているわけですが、これは仮に使用者(雇い主)が契約期間中に労働者に対して「契約は更新しない」と告知し、それに対して労働者が合意ないし承諾していたとしても結論に変わりありません。

なぜなら、労働契約法19条は「労働者の保護を図りつつ個別の労働関係の安定に資すること」を目的として制定された強行法規と解釈されているからです。

【労働契約法1条】

この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。

労働契約法19条は、使用者(雇い主)との関係で弱い立場に陥りがちな労働者を保護し、もって労働者の生活の安定を図ることを目的とした法律ですから(労働契約法1条参照)、それは憲法の生存権(日本国憲法第25条)の要請から求められるものといえます。

そうであれば、労働契約法19条の潜脱が可能となるような当事者間の合意は認めるべきではありませんから、労働契約法19条は当事者間の合意によっても排除することができない強行法規と考えるべきでしょう。

したがって、仮に有期労働契約の期間中に使用者(雇い主)が「契約は更新しない」と労働者に告知し労働者がそれに承諾ないし合意した場合であってもその合意は無効であり、労働契約法19条1号または2号に該当するような「契約が更新されるという合理的な期待」を持つべき事実がある限り、労働者は契約期間が満了した時点で使用者(雇い主)に対し契約更新への承諾を強制させることができることになるものと考えられます。

なお、この点については厚生労働省の通達でも(厚生労働省通達:厚生労働省基発0810第2号「労働契約法の施行について」33頁ウ参照)、「いったん労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いたにもかかわらず当該有期労働契約の契約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならない」と解釈されていますので、労働契約法19条1号または2号に該当するような「契約が更新されるという合理的な期待」が存する限り、使用者から告知された「契約は更新しない」という主張は無視して労働契約法19条の規定の適用を主張し、使用者に対して契約期間満了時における契約の更新への承諾を強制できるものと考えられます。

(中略)…『なお、法第19条第2号の「満了時に」は、雇止めに関する裁判例に おける判断と同様、「満了時」における合理的期待の有無は、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間 におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものであること。したがって、いったん、労働者が雇用継続 への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず、当該有期労働契約の契 約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定さ れることにはならないと解されるものであること。』

(※出典:厚生労働省基発0810第2号「労働契約法の施行について」33頁、第5-5-(2)ウより引用)

有期労働契約の期間中に使用者から「契約は更新しない」と言われた場合の対処法

以上で説明したように、労働契約法ではその19条に「有期労働契約が過去に反復して更新された事実があり雇い止めが正社員の解雇と社会通念上同視できるような場合(労働契約法19条1号)」と、契約期間が満了するまでの期間に使用者(雇い主)から契約の更新がなされることを期待させる言動を受けているなど「契約期間の満了時に契約更新がなされるものと期待することについて合理的な理由がある場合(労働契約法19条2号)」の2つの場合に使用者に契約の更新を強制させる規定を置いていますから、仮に有期労働契約の期間中に使用者から「契約は更新しない」と告知されたとしても、労働契約法19条1号または2号に該当するような「契約の更新がなされる合理的な期待」がある限り、会社に対して契約の更新を強制させることができるものと考えられます。

ですから、もし仮に有期労働契約の期間中に使用者から「契約は更新しない」と告知された場合には、まず自分が使用者との間で有期労働契約を結んだ時点から現在までの間に、使用者から契約の更新が受けられると期待するような言動を受けていないかという点を精査することが先決であり、そのような事実があり労働契約法19条1号または2号の要件を満たす事情があると考えられる場合には、以下のような方法を用いて具体的に使用者に対して契約期間が満了したという理由で契約の更新を拒否し雇い止めすることがむこうであることを説明していくことが必要になるといえます。

(1)通知書を送付して雇い止めの無効を主張しておく

有期労働契約の期間中に使用者から「契約は更新しない」と告知され、契約期間が満了した際に期間満了を理由に雇い止めを受ようとしていたり、実際に雇い止めを受けたような場合には、使用者に対してその雇い止めの無効を主張する通知書を作成して送付するのも一つの対処方法として有効です。

会社に対して雇い止めの無効を主張する場合、口頭で「無効だ!」と告知するだけでも構いませんが、後日訴訟などになった場合に「厚生労働省の通達などを挙げて会社の違法性を説明したのに無理やり雇い止めされた」という事実を客観的証拠として提出し手続きを有利に運ぶ意味合いもありますので、書面を作成し郵送しておく方がよいでしょう。

なお、その場合の通知書は以下のようなもので差し支えないと思います。

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

雇い止めの無効確認通知書

私は、〇年〇月〇日、貴社との間で契約期間1年間の有期労働契約(期間の定めのある雇用契約)を締結し現在まで就労してきましたが、〇年〇月〇日、上司である◇◇から、契約期間が満了する〇月〇日をもって契約を解除する旨(いわゆる雇い止め)の告知を受けました。

この雇い止めに関し、私は、貴社から当該有期労働で採用を受ける際、採用面接において担当者から「10年でも20年でも頑張って働いてほしい」「他の非正規社員もみんな更新してるから契約期間が満了した時点で雇い止めすることはないと思うよ」などという説明を受けていた事情があったことから、労働契約法19条2号にいう「有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由」が存在するものとして契約の更新を上司の◇◇に求めましたが、貴社は当該有期労働の期間中である〇年〇月ごろから、上司の◇◇が私に対して度々「契約の更新はしない」と告知していた事実があることをもって、私においても契約の更新がなされないことをあらかじめ承知の上で就労を継続していた事情があるという理由で、契約の更新を拒否しています。

しかしながら、労働契約法19条は有期労働契約で働く労働者の保護を図りつつ個別の労働関係の安定に資することを目的とするものであり(労働契約法1条)、当事者間の合意で排除できない強行法規と解釈すべきものですから、仮に貴社が契約期間中から「契約は更新しない」と告知していたとしても労働契約法19条2号(または1号)に該当する事情がある限り同条の規定に従って契約の更新はなされるべきものと考えます(厚生労働省通達:厚生労働省基発0810第2号「労働契約法の施行について」第5-5-(2)ウに同旨)。

従って、貴社が有期労働契約の期間中に「契約は更新しない」と度々告知したことを理由に労働契約法19条の適用を排除し契約の更新を認めない行為は、同条を誤って解釈した違法な行為といえ無効ですから、当該有期労働契約が満了した場合には同条に基づき、従前と同一条件による労働契約が貴社との間に継続されるものであることを、本状によって確認し通知いたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

会社に送付する前に証拠として残すため必ずコピーを取っておくこと。また、郵送する場合は相手方に「到達した」という客観的証拠を残しておく必要があるため、普通郵便ではなく特定記録郵便などの郵送方法を用いて郵送しておくこと。

(2)その他の対処法

以上のような書面を送付しても会社側が雇い止めを撤回しなかったり、契約期間が満了した時点で雇い止めしようとしている場合には、労働者の側で具体的な行動をとって労働契約法19条の適用を主張し契約の更新を強制させる必要があります。

ただし、労働契約法19条では「有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある(労働契約法19条2号)」と認定できる事実が存在することに加えて、「契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込み」を行うか、または「契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込み」を行うことが要件となっていますので、雇い止めの通知を受ける前に「契約更新の申込み」を行うか、雇い止めを受けた後に遅滞なく「契約締結の申込み」を行う必要があります。

【労働契約法19条本文】

有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

もっとも、この労働契約法19条本文の「契約の更新の申込み」「契約の締結の申込み」は、いずれも要式行為ではないと解釈されていますので、単に雇い止めに反対する意思表示をするだけでも差し支えありません(厚生労働省通達:厚生労働省基発0810第2号「労働契約法の施行について」33~34頁参照)。

つまり、有期労働契約の最初の更新の際に契約の更新が受けられず雇い止めされた場合であっても、会社側との間に「契約の更新が受けられると期待する合理的な理由」のある事情がある場合には、単に雇い止めに反対する意思表示を行うだけで、労働契約法19条を適用して会社側に契約更新の承諾を強制させて引き続き勤務することができるということになります。

ただし、その「雇い止めに反対する意思表示を行った」事実の立証責任は雇い止めを受けた労働者の側にありますので、裁判になった場合は雇い止めを受けた労働者の側で「雇い止めに反対の意思表示を行った」ということを客観的証拠を提出して主張立証しなければならなくなります。

この場合、具体的にどのような客観的証拠を証拠を確保しておくことが必要かという点が問題となりますが、厚生労働省の通達では「訴訟の提起」や「紛争調整機関への申し立て」「団体交渉等によって使用者に直接または間接に伝えられたこと」などによって概括的に主張立証すれば足りると解釈されていますから(厚生労働省通達:厚生労働省基発0810第2号「労働契約法の施行について」33~34頁参照)、実際に最初の更新で雇い止めを受けた場合には以下のような手続きを取って雇い止めに反対する意思表示を行っておくことが最低限必要になると思われます。

① 弁護士や司法書士に依頼して雇い止めの撤回を求める訴訟を裁判所に提起する。

② 労働局の紛争解決援助の申し立てを行い使用者に対して雇い止めの撤回を求める。

③ 都道府県の労働委員会や自治体の”あっせん”の手続きを利用して雇い止めの撤回を求める。

④ 労働組合に相談して組合から雇い止めの撤回に関する団体交渉を行ってもらう。

なお、上記の①~④の方法をとる場合には①~④の手続きを執り行う関係機関に相談ないし依頼する必要がありますが、その場合の具体的な手順等については以下のページを参考にしてください。

① 弁護士や司法書士に依頼して雇い止めの撤回を求める訴訟を裁判所に提起する場合
→ 弁護士・司法書士に依頼して裁判をする方法

② 労働局の紛争解決援助の申し立てを行い使用者に対して雇い止めの撤回を求める場合
→ 労働局の紛争解決援助手続を利用する方法

③ 都道府県の労働委員会や自治体の”あっせん”の手続を利用して雇い止めの撤回を求める場合
→ 都道府県自治体の相談・あっせんを利用する方法
→ 労働委員会の相談・あっせんを利用する方法

④ 労働組合に相談して組合から雇い止めの撤回に関する団体交渉を行ってもらう場合
→ 労働組合に解決を任せる方法