政治・思想信条を理由に試用期間後に本採用されない場合の対処法

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企業(個人事業主も含む)から採用を受けて働く際に、一定期間の試用期間が設定されるケースがあります。

たとえば、正社員として採用された際に「試用期間3カ月」と設定されたり、アルバイトやパートで採用された際に「試用期間2週間」などと設定されたりして、その「3か月」または「2週間」の試用期間が満了するまでに勤務態度や能力等をチェックされて試用期間満了時に本採用されれば正式採用となって継続して勤務することが認められる一方、本採用を拒否されれば事実上の解雇となって退職させられてしまうような労働契約がそれです。

このように試用期間が設定された場合、試用期間が満了したときに採用されるか否かは使用者側の判断にゆだねられることになりますが、企業によっては理不尽な理由で本採用を拒否する事例もみられます。

たとえば、支持政党や政治信条を理由に試用期間後の本採用が受けられないようなケースです。

具体的には、政府を批判するデモに参加したところがたまたまテレビニュースで報道されてしまい、それを視聴した自民党を支持する採用先の社長が憤慨して試用期間経過後に本採用を拒否するようなケースが代表的です。

しかし、いくら試用期間が設定された労働契約であったとしても、仕事とは全く関係のない支持政党や政治信条を理由に本採用を拒否されてしまうのは納得できないような気もします。

では、このように支持政党や政治信条を理由に本採用を拒否されてしまった場合、その本採用の拒否は有効となってしまうのでしょうか。

また、そのような政治信条を理由に本採用を拒否された場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

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政治信条を理由にした試用期間後の本採用拒否は無効

前述したように、試用期間が設定された労働契約において、支持政党や政治信条を理由に本採用が拒否されてしまうケースがあるわけですが、結論から言うと、そのような本採用の拒否は基本的に「無効」と判断して差し支えないものと思われます。

その理由としては、次の2つがあげられます。

(1)支持政党や政治信条は「解約権留保の趣旨・目的」と関係ない

支持政党や政治信条を理由にした試用期間経過後の本採用拒否が無効と判断される理由としてまず挙げられるのが、「解雇権留保の趣旨・目的と関係ない」という点です。

試用期間のある労働契約の本採用拒否はどんな基準で判断されるか』のページで詳しく解説したように、試用期間が設定された労働契約の法的性質については「解雇権留保付労働契約」と解釈されており、試用期間後における本採用の拒否は「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」という基準が最高裁の判例で採用され、また労働契約法第16条にも規定されていました。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、試用期間経過後の本採用の拒否は、「解雇権留保の趣旨、目的」に合致した場合で、その理由で本採用をしないことに「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が存在する場合にのみ認められるわけです。

しかし試用期間は、採用した労働者の能力や適格性などを判断するためにあるわけですから、仕事とは関係のない支持政党や政治信条を理由に本採用を拒否することは「解雇権留保の趣旨・目的」とはかけ離れていると言えます。

ですから、仮に試用期間が設定されていたとしても、会社側が支持政党や政治信条を理由に本採用を拒否することは、「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がないとして無効と判断されると考えられるわけです。

(2)労基法の「均等待遇」に反する

もう一つの理由は、労働基準法第3条で規定された「均等待遇」の要請に違反するという点です。

労働基準法第3条では「労働者の…信条…を理由として…労働条件に付いて、差別的取扱をしてはならない」と規定されていますので、使用者が労働者の支持政党や政治信条などを理由に採否の基準に差異を付けてはいけません。支持政党や政治信条を理由に採用を拒否することは、その労働者を「信条で差別」することに他ならないからです。

【労働基準法第3条】

使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

ですから、この労働基準法第3条の規定の存在から考えても、支持政党や政治信条を理由に試用期間経過後の本採用拒否は「無効」と考えられるのです。

(3)ただし、最終的にはケースバイケースで判断するしかない

以上のように、支持政党や政治信条を理由に試用期間満了時の本採用を拒否された場合は、本採用拒否の要件となる「客観的合理的な理由」や「社会通念上の相当性」がないことや、労働基準法第3条に違反することを理由にその無効を主張することができるものと考えられますが、事案によってはケースでは判断が難しいものもありますので、すべての事案で上記のように無効を主張できると言えるものではありません。

ですから、実際に支持政党や政治信条を理由に試用期間後の本採用を拒否された場合には、念のため弁護士など専門家に相談することも考えた方が良いかもしれません。

政治信条を理由に試用期間後の本採用を拒否された場合の対処法

以上で説明したように、支持政党や政治信条を理由に試用期間後の本採用を拒否された場合には、その無効を主張することができるものと考えられます。

もっとも、実際に本採用を拒否された場合には、労働者の側で何らかの対処をしなければなりません。その場合の対処法としては、以下のようなものが考えられます。

(1)解雇理由証明書の交付を求めておく

試用期間満了時の本採用を拒否された場合にまずやっておきたいのが、解雇理由の証明書の発行を受けておくことです。

労働基準法の第22条第1項では、労働者が退職する場合に退職の事由(解雇の理由も含む)等を記載した証明書の交付を請求した場合には、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならないとされていますが、これは試用期間満了時の本採用を拒否された場合にも適用されますので、本採用を拒否された場合もその証明書の交付を求めることができます。

【労働基準法第22条第1項】

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

なぜ、この証明書が必要になるかと言うと、後になって会社側が本採用拒否の理由を勝手に変えてしまうことがあるからです。

当初は労働者の政治信条を理由に本採用を拒否したにもかかわらず、裁判になった途端、他の理由をこじつけて本採用拒否を正当化する会社もありますから、後になって本採用拒否の理由を変更させないために、証明書の発行を求めておく必要があるのです。

ただし、政治信条を理由に本採用を拒否する場合には、会社の方もそれが違法であることを認識している場合が多く、それをそのまま証明書に記載することはないかもしれませんので(おそらく他の適当な理由を書いてくると思います)、実際のケースでは弁護士など専門家に相談する必要があるかもしれません。

なお、使用者に対して解雇理由証明書の交付を求める際の注意点についてはこちらのページを参考にしてください。