試用期間のある労働契約の本採用拒否はどんな基準で判断されるか

労働者が使用者から採用された場合において、その労働契約(雇用契約)に「試用期間」が設定されるケースがあります。

たとえば、正社員として採用を受けた際に「1か月間」の試用期間が設定され、1か月間勤務したときに審査でOKが出て初めて「本採用」となるようなケースであったり、契約期間1年間のアルバイトで採用を受けた際に「2週間」の試用期間が設定され、2週間勤務したときに審査でOKが出て初めて「本採用」となるようなケースです。

このような「試用期間」が設定される労働契約では、試用期間の途中で、またはその期間が満了した時点で使用者側が再審査を行い、本採用するのかしないのか判断しますから、使用者から本採用が受けられない場合は労働契約自体が解除されて退職しなければなりません。

では、このような「試用期間」が設定された労働契約では、具体的にどのような基準で本採用の可否が判断されるのでしょうか。

また、「試用期間」が設定された労働契約の場合、使用者において無制限に本採用の拒否が認められるものなのでしょうか。

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試用期間とは(試用期間の法的性質)

「試用期間」が設定された労働契約について考える前提として、そもそもその「試用期間」が設定された労働契約が具体的にどのような法的な性質を持つのかという点を考えなければなりません。

つまり、試用期間中の労働契約と本採用後の労働契約が別個の労働契約として成立するのか、という点や、試用期間中の労働契約が本採用後の労働契約の「予約」として締結されるのか、それとも「解除条件」として締結されるのかなどといった点の学説上の争いです。

もっとも、これを細かく説明していくと難しくなってしまいますのでここでは省略しますが、一般的には「試用期間の設定された労働契約について、試用期間も当初から期間の定めのない通常の労働契約であって、試用期間中は使用者に労働者の不適格性を理由とする解約権が大幅に留保されている」ような契約が試用期間における労働契約の性質だと理解されています。

つまり、試用期間が設定されたからと言って、その試用期間が本採用後の労働契約と別個の契約として成立するわけではなく、採用によってあくまでも一連の1個の労働契約が締結されると考えたうえで(※本採用前であっても本採用後の労働契約と同一の労働契約が成立しているということ)、試用期間が満了するまでの期間に限って、使用者に労働者の能力や適格性を判断する余地を与え、採用した労働者を継続して雇用することができないと判断した場合に使用者がその労働者を解雇または本採用の拒否という手段で解約する権利を認めたものが「試用期間」付きの労働契約であると解釈されているわけです。

最高裁判所の判例もこの立場に立っており、三菱樹脂事件の最高裁判例(最高裁昭和48年12月12日|裁判所判例検索)でも「…留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当…」と判示して、試用期間が付いた労働契約を解約権留保付労働契約説に立って解釈しています。

試用期間中だからと言って無制限に本採用の拒否(または解雇)が許されるわけではない

このように、試用期間の付けられた労働契約は「解雇権留保付労働契約」と解釈されていますから、試用期間中に労働者の能力や適性がその企業にふさわしくないと判断された場合には、使用者の側で一方的に労働契約を解除(本採用の拒否・解雇)することが認められている契約であると言えます。

試用期間をこのように考えた場合、試用期間が満了する前であれば使用者の側で自由に無制限に採否の判断ができると考えられそうですが、そうではありません。

試用期間は、採用した労働者の能力や適格性などを判断するためにあるわけですから、その採否の決定も、試用期間中の勤務状態等を観察することによって、採用当時(面接や書類選考)知ることができず、また知ることが期待できないような事実に限られるべきであると考えられるからです。

ですから、先ほど挙げた最高裁の判例も「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」と判示して、その本採用の拒否(解雇)が認められるケースを限定的に判断しているのです。

試用期間が満了した後の本採用拒否の基準は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つを満たすか否かで判断される

このように、試用期間が満了した後の本採用拒否は無制限に認められるわけではなく、「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」にのみ許される、と判例上は考えられていますが、これは「解雇」の場合と同じです。

解雇については労働契約法第16条に規定がありますが、そこでも解雇については「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件が求められていますので、基本的には「試用期間満了時の本採用の拒否」と「解雇」の判断基準は同じとも言えます。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

ただし、「試用期間」には労働者の適性や能力を判断する実験観察期間としての性格がありますから、試用期間満了後の本採用拒否の場合については解雇の場合と異なり、職務能力や適格性の判断に基づくより広い留保解約権の行使が認められるものと考えられています(菅野和夫著「労働法第8版)」167頁)。

ですから、使用者にとっては、労働者を「解雇」する場合よりも、「試用期間満了後の本作用拒否」をする方が、「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」は認められやすくなりますので、裁判になった場合には、通常の解雇の場合よりも試用期間満了後の本採用拒否の方が認められやすい傾向があるということも言えます。

もっとも、実際の裁判では、ケースバイケースで判断されますので、「試用期間満了後の本採用拒否」が認められなかったケース(会社側の敗訴)もありますし、それが認められたケース(労働者側の敗訴)ももちろんあります。

たとえば、試用期間中であることを理由に解雇(本採用拒否)が有効と判断された事例として「ブレーンベース事件(東京地裁平成13年12月25日労経速1789号22頁)」など、また解雇(本採用拒否)が無効と判断された事例として「デーダブルジェー事件(東京地裁平成13年2月27日労判809号74頁)」「オープンタイドジャパン事件(東京地裁平成14年8月9日労判836号94頁)」などがあるようです(※前掲、菅野「労働法」168頁)。

具体的にどのようなケースで「試用期間満了後の本採用拒否」が認められ、又は認められないか

以上で説明したように、試用期間が満了した後の本採用拒否は無制限に認められるわけではなく、

「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」

にのみ許される、というのが判例の基準ですが、先ほど挙げた最高裁の判例(三菱樹脂事件:最高裁昭和48年12月12日|裁判所判例検索) は、これをより具体的に以下のように定義しています。

企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。

※出典: 最高裁昭和48年12月12日|裁判所判例検索 より引用

では、このような基準の下で具体的にどのようなケースで試用期間満了後の本採用拒否が有効または無効と判断されるのか、という点が問題となりますが、過去の裁判例では本採用拒否が「政治信条」を理由とする本採用拒否が無効と判断されるものが多い反面、「経歴・学歴詐称」や「業務の適正、勤務成績等」を理由とする本採用拒否についてはケースバイケースでその有効と判断の判断が分かれる傾向にあるようです(日本労働弁護団著「労働相談実践マニュアルVer7」29頁)。

試用期間の満了後に本採用の拒否を受けた場合の対処法

以上で説明したように、試用期間が設けられた労働契約であっても、採用を受けた時点で労働解約自体は成立しているので、試用期間満了後の本採用拒否は「解雇(労働契約法第16条)」の場合に準じて

「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」

にのみ許されるのであって、その具体的な判断は

「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められるか否か」

という基準で判断されることになります。

もっとも、この判断は素人には難しい面がありますので、実際に試用期間が満了する際に本採用の拒否を受けて解雇された場合には、弁護士など専門家の助言を受けて適切な対処を取ることを心掛けた方が良いかもしれません。