採用延期期間中の給料や休業手当が支払われない場合の対処法

A)採用延期期間中の賃金の支払いがなされない場合

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:群馬県高崎市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 する男
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:群馬県前橋市〇町〇番〇号
名 称:株式会社 甲ホテル
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(←注1)
役 職:なし
職 種:接客業

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法第24条

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月、違反者から採用内定通知を受けて、翌〇年4月1日に違反者に入社する予定であった。
・申告者は〇年〇月、違反者から全国で○○ウイルスの感染が拡大している影響で宿泊客が極端に減少しているから入社予定日を当初の4月1日から5月1日に1か月間延期する旨の採用延期通知書を受け取った。
・申告者はこの入社時期の繰り下げに応じて4月末まで待機し5月1日から違反者で働き始めたが、違反者からは当該採用延期期間中の賃金が一切支払われない。
・この採用延期期間中の賃金の不払いに関しては直属の上司に対して再三にわたって抗議してきたが「ウイルスの影響で休業したのだから賃金を支給しないのはあたりまえ」の一点張りで何ら訂正しようとしない。
・なお、違反者が採用延期したのはウイルス感染症の感染拡大防止等の安全衛生上の措置ではなく単に宿泊者の減少という営業上の理由に過ぎないから民法第536条2項の「責めに帰すべき事由」はあるので賃金の支払い義務がある。

添付書類等
・採用内定通知書の写し……1通(←注2)
・採用延期通知書の写し……1通(←注2)

備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)

以上

※注1:パートやアルバイト、契約社員など期間の定めのある雇用契約(無期労働契約)の場合には、「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。

※注2:労働基準監督署への申告に添付書類の提出は必須ではありませんので添付する書類がない場合は添付しなくても構いません。なお、添付書類の原本は将来的に裁判になった場合に証拠として利用する可能性がありますので原本がある場合は原本ではなく必ず「写し」を添付するようにしてください。

※注3:労働基準監督署に違法行為の申告を行った場合、その報復に会社が不当な行為等(パワハラ等)を行う場合がありますので、労働基準監督署に申告したこと自体を会社に知られたくない場合は備考の欄に上記のような文章を記載してください。申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は「特になし」と記載しても構いません。

B)採用延期期間中の休業手当の支払いがなされない場合

(※省略)

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法第26条

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月、違反者から採用内定通知を受けて、翌〇年4月1日に違反者に入社する予定であった。
・申告者は〇年〇月、違反者から原材料不足で工場のラインを1か月ストップするから入社予定日を当初の4月1日から5月1日に1か月間延期する旨の採用延期通知書を受け取った。
・申告者はこの入社時期の繰り下げに応じて4月末まで待機し5月1日から違反者で働き始めたが、違反者からは当該採用延期期間中の休業手当が一切支払われない。
・この点、過去の最高裁の判例は、民法第536条2項の「使用者の責めに帰すべき事由」にならないような経営上の障害も天変地異等の不可抗力に該当しない限り、労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」には含まれると判示しているから(※菅野和夫著「労働法(第8版)」弘文堂232頁参照、参考判例→ノースウエスト航空事件:最高裁昭和62年7月17日|裁判所判例検索)、本件採用延期のようなケースでも違反者には労働基準法第26条の規定により平均賃金の6割に相当する休業手当の支払いが義務付けられる。

添付書類等
・採用内定通知書の写し……1通(←注2)
・採用延期通知書の写し……1通(←注2)

備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)

以上

なお、労働基準監督署に違法行為の申告を行う際の注意点等細かな申告方法については『労働基準監督署への労働基準法違反の相談・申告手順と注意点』のページで詳しく解説しています。

(4)労働局の紛争解決援助の手続きを利用してみる

採用延期期間中の賃金(給料)や休業手当の支払いが受けられない場合には、その事実を労働局に相談して労働局が主催する紛争解決援助の手続きを利用してみるというのも対処法の一つとして有効です。

労働局では事業主と労働者との間で生じた紛争を解決するために助言や指導、あっせん案を提示する紛争解決援助の手続きを行っていますが、採用延期期間中の賃金(給料)や休業手当の支払いがなされないというトラブルもこの手続きの対象となりえます。

この点、この労働局の紛争解決援助手続きに法的な強制力はありませんから会社側が手続きに応じない場合は解決は望めませんが、会社側が手続きに応じる場合には、労働局から出される助言や指導、あっせん案などを会社が受け入れることで未払いとなっていた採用延期期間中の賃金(給料)や休業手当の支払いが行われることも期待できます。

そのため、こうしたトラブルについても労働局に申告(相談)することで解決が図れる事案があると考えられるのです。

なお、この労働局の手続きについては『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説しています。

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専門家に依頼する場合の対処法

弁護士に相談して訴訟などを提起する

これら以外の方法としては弁護士に個別に相談して示談交渉や訴訟などを利用して支払いを求める方法が考えられます。

また、上記で紹介した(1)~(4)までの方法は労働者自身で解決を図る場合の対処法ですが、自分で対処するのが不安な場合は最初から弁護士(または司法書士)など専門家に相談した方がよいかもしれません。

法律の素人が下手に交渉してしまえばかえって不利な状況に陥ってしまう危険性もありますので、上記の方法をとるにしても、事前に弁護士に相談することを考えてもよいでしょう(なお、弁護士への相談は30分5000円程度が相場ですから、実際に事件を依頼するかどうかは別として相談だけしてみるのもよいでしょう)。

イ)その他の対処法

上記以外の方法としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは