採用選考における健康診断の義務付けは採用差別にあたらないのか

(1)健康診断が必要とされる業種や職種であるかを十分に検討する

採用選考の際に健康診断の受診や健康診断書の提出を義務付けられた場合は、その企業の職種や業務にその健康診断の内容が直接的に関係し、その健康診断を受信することに合理性があるかという点を十分に検討する方が良いでしょう。

もしそこに合理的な理由が見当たらないのであれば、その企業は合理的な理由なく採用選考の際に個人の健康状態で差別的な取り扱いをする会社だということになりますので、その会社の倫理意識や法令遵守意識を推し量ることができます。

倫理意識や法令遵守意識の欠落した会社から内定をもらって就職してもロクなことはありませんので、将来的なリスクを避ける意味からも、その健康診断に合理的な理由があるかという点をチェックするのは必要不可欠だと考えた方が良いかもしれません。

(2)合理的な理由のない健康診断が行われている事実をハローワークに申告(相談)してみる

採用選考の際に健康診断の受診や健康診断書の提出を義務付けられた場合において、その健康診断に合理的な理由がないと考えられる場合には、その事実をハローワークに申告(相談)してみるというのも選択肢の一つとして考えられます。

前述したように、採用選考の際に健康診断の受診や健康診断書の提出を義務付ける行為は採用差別(就職差別)にあたりますが、これは厚生労働省の指針(公正な採用選考を目指して|厚生労働省)でも注意喚起されていますので、その強制は行政の監督権限の範囲に含まれることになります。

この点、労働者の募集や採用に関する厚生労働省の指針の指導機関はハローワークとなりますが、ハローワークに申告(相談)することで情報提供の一つとして受理されれば以後の指導などに役立つ可能性もあるかもしれません。

また、合理的な理由のない健康診断は前述したように職業安定法上の違法性を指摘するすることもできますが、企業(その他職業紹介業社や派遣事業者等も含む)の職業安定法違反行為について厚生労働大臣は、その業務の運営を改善させるために必要な措置を講ずべきことを命じることができ(職業安定法第48条の3第1項)、その厚生労働大臣の命令に企業が違反した場合には「6月以下の懲役または30万円以下の罰金」の刑事罰の対象とすることも可能ですから(職業安定法第65条第7号)、ハローワークに申告(相談)することで厚生労働大臣の監督権限の行使を促し、行政から指導などが出されることでその企業の不当な健康診断の強制が改善されることもできるかもしれません。

職業安定法第48条の3第1項

厚生労働大臣は、職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者又は労働者供給事業者が、その業務に関しこの法律の規定又はこれに基づく命令の規定に違反した場合において、当該業務の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは、これらの者に対し、当該業務の運営を改善するために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。

職業安定法第65条第7号

次の各号のいずれかに該当する者は、これを6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
第1号∼6号(中略)
第7号 第48条の3第1項の規定による命令に違反した者

もちろん、それで自分になされた不採用の判断が覆ることはないかもしれませんが、仮にそうなれば社会から採用差別や違法行為を一つ除去することに寄与することができますので、社会的な意義はあると言えます。

ですから、仮に採用選考で健康診断の受診や健康診断書の提出を義務付けられてそれに納得できない場合には、とりあえずハローワークに申告(相談)してみるというのも選択肢の一つとして考えてよいのではないかと思います。

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その他の対処法

これら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、労働局が主催する紛争解決援助の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは