採用選考でのウイルス性肝炎やエイズ等の検査や質問は採用差別か

(1)他の会社を探す

採用選考でウイルス性肝炎やエイズ等の罹患の有無を聞かれたり検査結果の診断書等の提出を求められた場合には、その会社への就職を取りやめて他の会社を探すというのも選択肢の一つとして考えられます。

前述したように、採用選考でウイルス性肝炎やエイズ等の確認をすることは採用差別(就職差別)につながるものとして厚生労働省の指針で注意喚起されているだけでなく、職業安定法上の違法性をも指摘できますから、そのような問題に配慮しないままそうした採用選考を続けているということは、その会社の倫理意識の欠落や法令遵守意識の低さを推認させます。

そうであれば、たとえその会社から内定が出されて就職できたとしても、遅かれ早かれ何らかの労働トラブルに巻き込まれるだけでしょうから、その会社に就職すること自体が将来的なリスクとなり得ます。

ですから、採用選考でウイルス性肝炎やエイズ等の確認を求められた場合には、その会社に就職することを取りやめて他のまともな会社を探してみても良いかと思います。

(2)ウイルス性肝炎やエイズ等の確認が採用差別(就職差別)や職業安定法に抵触する可能性を指摘してみる

採用選考でウイルス性肝炎やエイズ等の確認を求められた場合には、それが採用差別(就職差別)や職業安定法上の違法性の問題を惹起させることを説明してみるのも一つの対処法として考えられます。

もちろんそうしてしまえば企業側の機嫌を損ねて不採用になってしまうかもしれませんが、前に挙げた厚生労働省の指針などを提示して会社にその差別性や違法性を指摘して会社がその過ちに気付くようであれば、それ以後にその企業によって病気を理由に差別を受けたり違法な個人情報を収集される求職者の被害を無くすことができます。

ですから、自分が不採用になっても構わないというのであれば、よりよい社会を構築するという社会的な意義のためにその差別性や違法性を指摘してみるのも、あってよいことだとは思います。

(3)ウイルス性肝炎やエイズ等の確認を求められた事実をハローワークに申告(相談)する

採用選考でウイルス性肝炎やエイズ等の確認を求められた場合には、その事実をハローワークに申告(相談)してみるというのも選択肢の一つとして考えられます。

前述したように、そのような行為は厚生労働省の指針でも注意喚起されていますが、その指針を指導する行政機関はハローワークとなりますので、その事実を申告(相談)することでその情報提供が行政における監督権限の行使に何らかの役に立つかもしれません。

また、ウイルス性肝炎やエイズ等の確認を求める行為は職業安定法上の違法性をも惹起させますが、企業(その他職業紹介業社や派遣事業者等も含む)の職業安定法違反行為について厚生労働大臣は、その業務の運営を改善させるために必要な措置を講ずべきことを命じることができ(職業安定法第48条の3第1項)、その厚生労働大臣の命令に企業が違反した場合には「6月以下の懲役または30万円以下の罰金」の刑事罰の対象とすることも可能ですので(職業安定法第65条第7号)、その事実をハローワークに情報提供することで厚生労働大臣からの監督権限の行使を促すことができるかもしれません。

職業安定法第48条の3第1項

厚生労働大臣は、職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者又は労働者供給事業者が、その業務に関しこの法律の規定又はこれに基づく命令の規定に違反した場合において、当該業務の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは、これらの者に対し、当該業務の運営を改善するために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。

職業安定法第65条第7号

次の各号のいずれかに該当する者は、これを6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
第1号∼6号(中略)
第7号 第48条の3第1項の規定による命令に違反した者

仮に行政から何らかの指導が行われ、それによってその企業の差別性や違法性を持つ採用活動が改善されれば、社会から採用差別や違法行為を一つ無くすことことができるので社会的な意義は大きいといえます。

ですから、採用選考でウイルス性肝炎やエイズ等の確認を求められた場合には、とりあえずハローワークに申告(相談)してみるというのも考えてよいかもしれません。

(4)労働局の紛争解決援助の手続きを利用してみる

採用選考でウイルス性肝炎やエイズ等の確認を求められ結果的に不採用になった場合には、その事実を労働局に申告(相談)して労働局の紛争解決援助の手続きを利用してみるというのも選択肢の一つとして考えられます。

労働局では労使間で発生したトラブルの解決を図るための紛争解決援助の手続きを用意していますが、この手続きは雇用契約が結ばれる前の募集や採用の段階で生じた紛争も手続きの対象としていますので、採用選考で採用差別(就職差別)や法令違反行為で不利益を受けたようなケースにも利用することが可能です。

そのため、採用選考でウイルス性肝炎やエイズ等の確認を求められて不採用になったようなケースでもこの労働局の紛争解決援助の手続きを利用することが可能ですが、労働局から出される指導や勧告に会社側が従う場合には、採用差別の不当性を改善したり不採用の判断が覆る可能性も期待できます。

ですから、採用選考でウイルス性肝炎やエイズ等の確認を求められて不採用になり、その判断に納得がいかない場合には、とりあえず労働局に相談して紛争解決援助の手続きを利用できないか検討してみることも考えてよいかもしれません。

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その他の対処法

これら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催するあっせんの手続きを利用したり、労働局の紛争解決援助の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用する方法が考えられます。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは