妊娠・出産したことを理由に内定を取り消されたときの対処法

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企業から採用内定を受けた後は4月の入社を待つだけですが、春頃に内定または内々定が出される会社であった場合、入社するまでに半年以上の時間を自由に過ごすことになります。

その長い期間、卒論や不足する単位の取得、バイトやサークルに明け暮れるだけなら特に問題もありませんが、問題になるのが入社するまでの期間に女子学生が妊娠や出産してしまう場合です。

もちろん、学生が妊娠や出産をしていけないことはありませんので本人が望んでいれば妊娠自体は結構なことなのですが、採用内定を出した会社にとっては入社を控えた女子学生が妊娠したり出産してしまうことは想定外のことになるのは避けられません。入社を控えた女子学生が妊娠や出産をしてしまうと入社早々に産休や育休を与えなければならず、新人研修を予定していた会社の人材育成プランも変更を余儀なくされてしまうからです。

このような事情もあって、入社早々の産休や育休の付与を嫌う会社から一方的に内定を取り消されてトラブルになるという問題も生じているのが実情です。

では、採用内定を受けた後に妊娠や出産が発覚した場合、会社から内定を取り消されても受け入れるしかないのでしょうか。

また、実際に妊娠や出産を理由に内定を取り消されてしまった場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

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妊娠や出産を理由とした内定の取り消しは無効

このように、内定を受けた会社から妊娠や出産したことを理由に内定を取り消されてしまうケースがありますが、結論から言うと、そのような妊娠や出産を理由とした内定は無効と考えて差し支えありません。

なぜなら、内定の取り消しは法律上「解雇」と同様に扱われますが、妊娠や出産したことを理由に労働者を解雇することは認められていないからです。

(1)内定によって雇用契約(労働契約)が成立すること

内定の法的性質には解釈に争いがありますが、過去の判例では「入社予定日を就労開始日とする始期付きの解約権留保付き労働契約」であると判断されています(大日本印刷事件:最高裁昭54.7.20)。

会社と学生の間で結ばれる内定に関する契約を法律的に解釈すると、会社が労働者を募集する行為は「労働契約の申し込みの誘因」に、またそれに対して学生が採用試験にエントリーする行為は「その誘因に対する労働契約の申込み」に、そしてその申し込みに対して会社が内定を出す行為が「労働契約の申し込みに対する承諾の意思表示」ということになります。

そうすると、会社が出した採用内定の通知が内定者である学生に到達した時点(たとえば採用内定通知書が内定者の自宅に郵送された時点)で、労働契約の申し込みに対する承諾の意思表示が完了したということになりますから、その時点で労働契約(雇用契約)自体が有効に成立したということが言えるでしょう。

もっとも、採用内定では入社予定日が到来するまでの期間に内定者に何らかの不祥事や問題が生じた場合(例えば内定者が逮捕されたり単位不足で卒業できなかった場合など)には会社の方で一方的に内定を取り消すことが当事者間で合意されるのが通常ですから、その意味で内定は「解約権が留保された契約」であるといえます。

このような理由から、採用内定は「入社予定日を就労開始日とする始期付きの解約権留保付き労働契約」であると考えられているのです。

(2)内定の取り消しは解雇と同じ

採用内定にこのような性質があると理解した場合、内定通知を内定者が会社から受け取った時点でその会社との労働契約(雇用契約)は有効に成立していることになります。

そうすると、それ以降に会社が内定を取り消す場合には、それは「有効に成立した労働契約(雇用契約)を一方的に解除する」ことと同じということが言えるでしょう。

そうであれば、内定者にとって「内定の取り消し」は内定によって有効に効力が生じた労働契約(雇用契約)を解除されるのと同じですから、それはすなわち「解雇」と同じように扱われることになるのです(※詳細は→「内定の取り消し」が「解雇」と同様に扱われるのはなぜか)。

(3)妊娠したことを理由とした解雇は無効

以上のように「内定の取り消し」は法律的には「解雇」に準じて扱われることになりますから、その「内定の取り消し」の有効性も「解雇」に関する法律の規定によって判断されることになります。

この点、解雇に関しては労働契約法第16条は使用者が労働者を解雇する場合、その解雇に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を求めていますから、仮に内定先企業が内定者の内定を取り消す場合にも、その内定取り消しの原因とされた事情に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がない限り、その内定取り消しは無効と判断されることになるでしょう。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

しかし、内定者が妊娠や出産したことによって入社予定日から就労することが困難になったとしても、産前産後の休暇が明ければ出社して勤務することはできますし、他の新入社員に遅れることはあっても新人研修を受講して会社の戦力になることは可能ですから、妊娠や出産したことだけを理由に内定を取り消してしまうことに「客観的合理的な理由」は存在しないと言えます。

また、会社側にその客観的合理的な理由が存在したとしても、内定取消という職を失わせる重い処分を下すことに「社会通念上の相当性」があるとは言えません。

更に、そもそも労働者が結婚や妊娠、出産したこと、あるいはその出産等のために休業を申請したりしたことを理由として不利益な取り扱いをしたり解雇することは男女雇用機会均等法で明確に禁止されています。

【男女雇用機会均等法第9条3項及び4項】

第3項 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(中略)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
第4項 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

そうであれば、「内定の取り消し」が解雇と同様に扱われる以上、内定先の企業が内定者が妊娠や出産したことだけをもって、あるいは出産のため入社予定日から勤務することができず新人研修を受講できないことだけを理由としてその内定者の内定を取り消してしまう行為も、この男女雇用機会均等法の第9条3項ないし4項の規定から、無効と判断されることになるのは当然と言えます。

このような理由から、内定者が妊娠や出産したことを理由にその内定を取り消すことは認められず、仮に内定先の企業から妊娠したことを理由に内定を取り消されたとしても、その無効を主張してその撤回を求めることもできると考えられているのです。

妊娠を理由に内定を取り消された場合の対処法

以上で説明したように、妊娠や出産を理由に解雇することに客観的合理的な理由や社会通念上の相当性はなく、男女雇用機会均等法でも妊娠を理由に労働者を解雇することは禁止されているところ、過去の判例の見解によれば内定の取り消しは解雇と同様に扱われることになるわけですから、内定者が妊娠や出産したことを理由に内定先企業が内定を取り消すことは認められず、仮に内定を取り消されたとしてもその無効を主張して内定取り消しの撤回を求めることができるということになります。

もっとも、法律上はそのような結論になるとは言っても、すべての会社が法令を遵守して企業運営を行っているわけではありませんので、内定者が妊娠や出産したことを理由に内定を取り消してしまう会社も存在しているのが現実です。

では、実際に採用内定を受けた内定者が妊娠や出産したことを理由に内定を取り消されてしまった場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

(1)妊娠や出産したことを理由とする内定取り消しが無効であることを記載した書面を通知する

内定者が妊娠や出産したことを理由に内定先企業から採用内定を取り消されてしまった場合、その内定取り消しが男女雇用機会均等法の規定に違反し権利の濫用にあたることを記載した書面を作成し会社に通知するというのも一つの対処法として有効です。

先ほどから述べているように、妊娠や出産したことを理由に労働者を解雇することは男女雇用機会均等法第9条で禁止されており、内定取り消しは解雇と同様に扱われるわけですから、妊娠や出産を理由に内定を取り消すことは明らかに法令違反であって無効な行為と言えます。

ですから、内定を取り消された内定者はその無効を主張してその撤回を求めることができるわけですが、そのような法律の規定を無視して内定を取り消すような法令順守意識の低い会社にいくら口頭でその撤回を求めたとしても、おとなしく撤回に応じる会社は極めてまれです。

しかし、書面という形で正式にその違法性を指摘すれば、将来的な際弁への発展や行政機関への相談等を警戒して態度を改め、内定取り消しの撤回に応じる会社も少なからずありますので、書面の形で抗議してみるのも有効な対処法の一つとして考えられるのです。

なお、その場合に会社に送付する通知書の記載は、以下のようなもので差し支えないと思います。

株式会社 ○○

代表取締役 ○○ ○○ 殿

妊娠を理由とした内定取消の無効確認および撤回申入書

私は、〇年7月10日、同日付の採用内定通知書の送付を受ける方法により貴社から採用内定を受けましたが、同年9月10日、貴社から採用内定取消通知書の送付を受ける方法で採用内定を取り消されました。

この採用内定の取り消しについて貴社は、当該採用内定取消通知書には「経営上の判断により」としか記載しておりませんが、貴社の人事部に電話で確認したところ、私が同年8月10日に妊娠3か月であることが判明したことから同年8月17日、貴社の人事部に電話で入社予定日である来年4月1日から3か月間程度の産前及び産後休暇の取得に関する相談を申し入れたことから、入社直後に産休育休を認めると新人教育をその後に一人だけ別に行わなければならず業務に支障をきたすためやむを得ず内定を取り消すに至った旨の説明を受けております。

しかしながら、内定が「入社予定日を就労開始日とする始期付きの解約権留保付き労働契約」であると判断されていることを考えれば(大日本印刷事件:最高裁昭54.7.20)、内定の取り消しは解雇と同様に扱われるものと解されますが、男女雇用機会均等法第9条3項及び4項では労働者が妊娠または出産したことを理由に解雇することは禁じられていますから、本件のように私が妊娠したことを理由に貴社が内定を取り消すことは同条の趣旨からも認められるものではありません。

また、使用者が労働者を解雇する場合には客観的合理的な理由と社会通念上の相当性が必要となりますが(労働契約法第16条)、入社予定日から産前産後休暇を取得するうことによって新人研修を受講できなくなり貴社の新人育成スケジュールに少なからぬ影響を与えることがあったとしても、中途採用者と同じ教育を受けさせたり、翌年の新人研修で教育させるなど代替え手段を取ることも可能なはずですから、単に妊娠したことだけを理由に内定取り消しという解雇と同じ処分を行うことに客観的合理的な理由は存在せず社会通念上の相当性があるとも思えません。

したがって、貴社の行った採用内定の取り消しは法令に違反する無効なものと言えますから、直ちに当該内定の取り消しを撤回するよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※実際に送付する場合は会社に通知が到達した証拠を残しておくため、コピーを取ったうえで普通郵便ではなく特定記録郵便など配達記録の残される郵送方法を用いて送付するようにしてください。

(2)その他の対処法

以上の方法を用いても妊娠や出産したことを理由とした内定取消が撤回されない場合は、労働局の紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

(3)労働基準監督署に相談して解決できるか

なお、本件のように妊娠や出産したことを理由に内定を取り消されたようなトラブルを労働基準監督署に相談することで解決できるかという点が問題となりますが、労働基準監督署は基本的に「労働基準法」やそれに関連する命令等に違反する事業主を監督する機関になりますので、労働基準監督署はあまり積極的に対処しないのではないかと思われます。

先ほどから述べているように、妊娠や出産したことを理由に内定を取り消すことは解雇と同じ扱いを受けることで男女雇用機会均等法第9条や労働契約法第16条違反という問題を生じさせますが、それは「労働基準法」に違反するわけではなく労働基準監督署に法律上の権限が与えられていませんので介入したくてもすることができないからです。

ですから、このような案件については弁護士に相談するか労働局や労働委員会のあっせん手続きなどを利用して解決を図るほかないのではないかと思われます。