説明や事前協議なしに経営不振を理由に内定を取り消された場合

スポンサーリンク

内定先の企業から不況や経営不振を理由に内定を取り消されてしまう事案が稀に見受けられますが、その場合に最も問題となるのが事前の説明や事前協議なしにいきなり内定を取り消されてしまうようなケースです。

企業は数年先の経営状況を見越して採用活動を行うのが普通ですから、採用内定を出して半年程度の間に内定を取り消さなければならないほどの経営不振に陥るなどということは常識的に考えてあり得ません。

そのため、学生の側からしてみれば経営不振を理由に内定が取り消されるなど到底是認できるわけもないのが普通でしょう。

もちろん、経営判断の誤りでどうしても人員削減が必要になり新規採用を停止しなければ会社の経営自体が行き詰まるというほど深刻な状態であれば、入社してもいずれ会社自体が破綻して職を失うことになるのがオチですから、事実上入社ができない状況であれば学生側も仕方なく内定取消を受け入れざるを得ない場合もあります。

しかし、仮にそのような場合であっても、事前の説明や事前協議なしにいきなり内定を取り消されてしまうような場合は話が別です。

採用内定が取り消される時期によっては既に企業の採用活動は終了し、その年に新卒というブランドで就職する機会を喪失してしまうことになるわけですから、その甚大な不利益を内定者に与えてもなお内定を取り消すというのであれば、真摯な説明と内定取消によって生じる不利益に対する代替策(たとえば代わりの就職先をあっせんするなど)や補償(解決金を支払うなど)の提案など協議の場があってしかるべきだからです。

では、そのように事前の説明や事前協議なしに(またはその説明や協議が不十分なまま)いきなり内定を取り消されてしまった場合、内定を取り消された学生は具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

スポンサーリンク

事前説明・事前協議のない内定取消は無効

結論から言うと、事前説明や事前の協議なくいきなり行われた内定取消は「無効」ととなります。

たとえば、採用内定を受けた後、いきなり自宅に内定取消通知書が送付されてきてり、事前の説明などなくいきなり会社から電話が来て内定を取り消されたようなケースでは、その内定取り消しは無効と判断して差し支えないということになります。

ではなぜ、このような結論になるかというと、内定の取り消しは法律上「解雇」と同様に扱われるためその効力は労働契約法第16条によって判断されますが、事前の説明や事前協議のない内定取消は労働契約法第16条に規定された「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の要件を満たさないものと評価される結果、権利の濫用として無効と判断されるからです。

(1)採用内定の取り消しは法律上「解雇」と同様に扱われる

不況や経営不振を理由とした採用内定の取り消しに際して事前の説明や事前協議がなされなかった(または不十分な)場合の内定取消の効力を考える前提として、「内定の取消」が法律上どのように扱われるのか、その法的性質を理解する必要がありますが、過去の最高裁の判例における判断では、内定の取り消しは「解雇」と同様に扱うものとされています (※大日本印刷事件:最高裁昭54.7.20|裁判所判例検索) 。

なぜそのように解釈されるかと言うと、採用内定が意思表示の問題となるからです。企業が採用活動において新卒者を募集する行為は法律上「労働契約の申込みの誘因」と解釈されます。

そうすると、それに学生が応募した場合のその応募行為は「労働契約の申込みの意思表示」となりますが、その学生の申込みに企業が内定の通知を出す行為は「労働契約の申込みに対する承諾の意思表示」ということになるでしょう。

そしてこの場合、意思表示はその相手方に到達した時点で効力を生じることになりますから(民法97条)、企業が出した内定の通知が内定者に到達した時点で有効に労働契約(雇用契約)が成立するということになります。

そうであれば、その内定通知が内定者に到達した時点より後に企業側が内定を取り消す行為は、いったん有効に効力が生じた労働契約(雇用契約)を一方的に解除(解約)する行為となりますが、それはすなわち「解雇」と同じです。

このような理屈から、「採用内定の取り消し」は「解雇」と同じように扱われるのです。

なお、この点は先ほど挙げた過去の最高裁の判例でも、採用内定の法的性質は「入社予定日を就労開始日とする始期付きの解約権留保付き労働契約」であると判断し、入社予定日は就労を開始する日に過ぎず内定通知が到達した日から労働契約が有効に生じている結論付けていますので、法律的な対処法もこの考え方に従う解釈が定着していると言えます(※大日本印刷事件:最高裁昭54.7.20|裁判所判例検索) 。

(2)「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」のない内定取消は無効

このように、採用内定の取り消しは解雇と同様に扱われますが、解雇の有効性は労働契約法第16条に規定が置かれていますので内定取消の有効性も労働契約法第16条の規定の要件を満たすかという点で判断されます。

【労働契約法第16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

この点、労働契約法第16条では上記のように「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を満たす場合にだけ解雇を有効としていますので、「内定の取り消し」の場合もこの2つの要件を満たす場合にだけ有効と判断されることになります。

この場合、具体的にどのような判断基準でこの「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの有無を判断するかという点が問題となりますが、解雇の中でも不況や経営不振を理由とした「整理解雇」のケースでは過去の裁判例の積み重ねによって「整理解雇の四要件」を基準に判断する考え方が定着しています。つまり、

  • ①人員削減の必要性があったか(人員削減の必要性)
  • ②解雇回避のための努力は行われたか(解雇回避努力義務)
  • ③人選に合理性はあるか(人選の合理性)
  • ④対象者への協議や説明は尽くされているか(説明協議義務)

という4つの要件を満たす事情がある場合にだけ労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」があると判断し、この4つのうち一つでも欠けている場合には、その「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がないと判断する基準が確立されているわけです。

この点、上に挙げた4要件を見てもわかるように、「説明協議義務」が要件の一つとして挙げられていますから、会社が事前の説明や事前協議なしにいきなり労働者を解雇した場合はこの「整理解雇の四要件」を満たさないものとして労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が存在しないと評価することができます。

そうすると、「内定の取り消し」も解雇と同様に扱われるのですから、不況や経営不振を理由に事前の説明や事前協議なしにいきなり内定を取り消されてしまった場合にも、今の理屈と同じ解釈で判断することで労働契約法第16条の要件を満たさないということが言えます。

たとえ不況や経営不振を理由に内定を取り消さなければならないにしても、受ける不利益の大きさを考えれば内定者に対して事前の説明や事前協議をしてその理由や補償等の協議の場を設けて労働者の受ける不利益を最小限に抑えるべきであり、それをしないで一方的に内定を取り消してしまうことに「客観的合理的な理由」はなく「社会通念上の相当性」もないと言えるからです。

このような考え方から、不況や経営不振を理由に事前説明や事前協議なしにいきなり内定を取り消された場合には、その内定取消の無効を主張してその撤回を求めることもできるということになるのです。

事前の説明、協議とは具体的にどのような説明・協議を言うのか

このように、事前の説明や事前協議なしに行われた内定取消は「無効」と判断できますが、具体的にどのようなケースで事前の説明や協議が行われていないと言えるのかという点はケースバイケースで判断するしかありません。

もっとも、以下のようなケースでは「説明協議義務が尽くされていない」と考えて差し支えないと思います。

(ア)事前の説明が全くない(または不十分な)状態で内定取消通知書が送られてきた場合

「事前の説明や事前協議が行われていない」ケースの典型例は、内定先の会社から何の前触れもなくいきなり採用内定取消通知書が郵送されてきたり、メールで送信されてきたり、あるいは電話でいきなり通知されるようなケースです。

このようなケースではその通知の時点ですでに内定取消が決定されており、その取消通知が「書面・メール・電話」の方法で内定者に到達した時点で効力が生じてしまうので、それを受けた時点で会社との間の労働契約(雇用契約)が解約されることになります。

ですから、このようなケースでは「事前の説明や事前協議なしにいきなり内定を取り消された」ということでその無効を主張できると考えられます。

(イ)内定取消の前に行われた説明が具体性に欠けている場合

仮に(ア)の通知を受ける前に会社から内定取消に至った理由などの説明があったとしても、その理由や事情の内容が具体的なものではなく、抽象的な説明に終始している場合には、その内定取消は「説明協議義務」を充足していないといえます。

内定取り消しに至った理由などの説明が事前に行われていたとしても、その中身が伴わないのであれば説明を行っていないのと同じだからです。

ですから、たとえば事前に会社が内定取消に関する説明会を開催していたとしても、その会場で行われた内定取消に至った事情の説明に関して、具体的なデータが提示されて具体的にどの程度の経営不振が生じ、具体的にどの程度の人員削減の必要性が生じ、具体的にどの程度の内定取消を回避するための努力が行われてきたのかなどの点について、具体的に説明がなされなかった場合には、その内定取消の無効を主張できるものと考えられます。

(ウ)内定取消に代わる代替策や補償内容が不十分な場合

内定取消の通知が来る前に会社が取消対象者と協議の場を設けていたとしても、その協議内容が不十分である場合には、やはりその内定取消は無効と判断して差し支えありません。

協議が行われていても、その協議の内容が中途半端な内容で内定者が常識的に考えて納得できないようなものである場合には、その中途半端な協議に基づいて内定を取り消してしまうことに「社会通念上の相当性」は「ない」と判断できるからです。

ですから、たとえば内定取消の対象者に対して他の就職先をあっせんするなど代替え策が提示されていたとしても、その会社の仕事内容や待遇等があまりにもその会社の労働条件と乖離しているようなケースでは協議の内容が十分でないと判断できる場合もあるかもしれませんし、また内定取消の代償として金銭補償が行われる場合にその金額が常識的な範囲をあまりにも下回るようなケースでも、やはりその内定取消は無効と判断されることがあると思います。

もっとも、この協議内容の充足という点は個別の案件ごとに判断するしかありませんので、実際に会社と交渉する場合は事前に弁護士に相談するなどして助言を受ける方がよいかもしれません。

もっとも、 これはあくまでも代表的な例に過ぎず、これら以外にも「説明協議義務が尽くされていない」と判断されるケースはあると思いますので、具体的な案件では弁護士に相談するなどして助言を受けることも必要でしょう。

厚生労働省のガイドラインでも経営不振等を理由とした内定取消をしないよう指導していること

このように、事前の説明協議義務が尽くされていない内定取消は無効と判断されるのが通常ですが、仮に事前の説明や事前協議が行われていた場合であったとしても、そもそも企業が採用内定を取り消すことは自体が厚生労働省のガイドラインで基本的に禁止されていることも考慮する必要があります。

厚生労働省が作成した「新規学校卒業者の採用に関する指針」では、「事業主は、採用内定を取り消さないものとする」 「事業主は、採用内定取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずるものとする」と採用内定を取り消さないよう求めていますので、それに反して取り消すことはよほど突発的な事情でも生じない限り通常は認められないでしょう。

なぜなら、このページの冒頭でも述べたように、そもそも企業は将来の経営状況を考えて数年先の採用活動を考えるのが通常ですから、採用内定を出してからわずか半年程度が経過した時点でその内定を取り消さなければならないほど経営環境が悪化すること常識的に考えてあり得ないからです。

将来の経営状況を見越して採用活動を行ったにもかかわらず採用内定を出してわずか半年程度で内定を取り消さなければならない状況に会社が追い込まれたというのであれば、それは経営判断を誤った会社の経営陣が責任を取るべきものであって、その経営判断の誤りによって生じた不利益を内定者に転嫁すること自体、不当です。

このような理由があるので、厚生労働省は採用内定の取り消しを原則として認めない方向でガイドラインを作成しているのです。

ですから、その面を考えても採用内定の取り消しを無効と判断できるケースは多いものと考えられます。

経営不振等を理由に説明や事前協議が不十分なまま内定を取り消された場合の対処法

以上で説明したように、経営不振などを理由に内定を取り消されてしまった場合において、事前に説明や協議が行われなかったり行われてもそれが不十分な場合には、その内定取消の無効を主張してその撤回を求めることも可能です。

もっとも、実際に内定を取り消された場合には、会社側と具体的な交渉等を通じて自分の主張を伝えなければなりませんので、その場合の手段等が問題となります。

(1)説明協議義務が尽くされていない内定取消が無効であることを書面で通知する

説明協議義務が尽くされていない状態で内定を取り消されてしまった場合には、その内定取消が労働契約法第16条の要件を満たさなず権利の濫用として無効と判断されることを記載した書面を作成し、会社に送付するというのも一つの対処法として有効な場合があります。

事前の説明や事前協議を行わず、または不十分なまま一方的に内定を取り消してしまうような会社は、たとえその際に経営不振という正当な理由があったとしてもまともとは言えませんし、先ほど述べたように経営判断の誤りによって生じる不利益を内定取消という方法で内定者に転嫁させる点を考えれば常識的とも思えません。

そのため、そのようなまともとは言えない会社にいくら口頭でその内定取消の無効を主張したとしても撤回してくれる可能性は低いと言えますが、書面という形で正式に抗議すれば将来的な裁判への発展などを警戒して態度を改めてくる会社も少なからずあるので書面で通知する方法も試してみる価値はあると言えます。

なお、この場合に送付する書面の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

株式会社 ○○

代表取締役 ○○ ○○ 殿

事前の説明協議が不十分な内定取消の無効確認および撤回申入書

私は、〇年7月〇日、同日付の採用内定通知書の送付を受ける方法により貴社から採用内定を受けましたが、同年12月、貴社から採用内定取消通知書の送付を受ける方法で当該採用内定を取り消されました。

この採用内定について貴社に問い合わせしたところ人事部の○○氏からは、今年に入って買収した子会社の隠れ負債が発覚しその穴埋めのため人員削減の必要性が生じたことから今季の新卒採用を取り止めることした旨の説明を受けました。

しかしながら、当該内定の取り消しが決定され私に通知されるまでの間に貴社からはその内定取消に至った理由について説明は行われていませんし、内定取消に代わる他の就職先の紹介や新卒採用として就職する機会を失うことになった不利益に対する補償等についての協議も一切行われていません。

この点、採用内定の法的性質は「入社予定日を就労開始日とする始期付きの解約権留保付き労働契約」と解釈されており(大日本印刷事件:最高裁昭54.7.20)、その取消も解雇と同様に労働契約法第16条によって判断されるものと考えられますが、貴社のように事前の説明や協議が尽くさないまま我儘勝手に内定を取り消すことに、同条に言う社会通念上の相当性はありません。

したがって、当該内定の取り消しは採用内定契約で与えられた内定取消権を濫用した無効なものと評価できますから、直ちに当該内定の取り消しを撤回するよう申し入れいたします。

なお、厚生労働省のガイドライン(新規学校卒業者の採用に関する指針)においても、企業が経営不振等を理由に採用内定を取り消すことがないように指導されていますので念のため申し添えます。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※実際に送付する場合は会社に通知が到達した証拠を残しておくため、コピーを取ったうえで普通郵便ではなく特定記録郵便など配達記録の残される郵送方法を用いて送付するようにしてください。

(2)その他の対処法

上記のような書面を通知しても会社が採用内定の取り消しを撤回しないような場合、または最初から他の方法で対処したいという場合は、労働局の紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

(3)労働基準監督署で解決できるか

なお、このように事前の説明や事前協議が不十分なまま内定を取り消されるトラブルを労働基準監督署で解決できるかという点が問題となりますが、内定取消に関する案件は労働基準監督署は積極的に介入しないのが普通です。

労働基準監督署は”労働基準法”とそれに関連する命令等に違反する事業主を監督する機関に過ぎず、”労働基準法”以外の法律違反行為や契約違反行為については行政権限を行使することができないからです。

内定の取り消しは先ほど説明したように”労働契約法”に禁止規定(※ただし類推適用)が置かれていますが、内定を取り消す行為自体が「労働基準法」で禁止されているわけではありませんので、この件に関しては労働基準監督署に相談しても対処は望めないでしょう。

ですから、このような案件に関しては、弁護士に相談して示談交渉や訴訟を利用するか、労働局の紛争解決手続きや都道府県労働委員会のあっせん手続きを利用して解決を図るしかないと思います。