妊娠中の女性労働者に対する解雇は有効か無効か、その判断基準

ただし、使用者が「天災事変その他やむを得ない事由で事業継続が不可能になった場合」において「労働基準監督署の認定を受けた」場合には、「6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の産休期間中の解雇」という事実だけで無効と判断することはできない

以上で説明したように、妊娠した女性労働者に対する解雇は「無効」と判断されるのが基本ですが、その解雇が「雇用機会均等法第9条3項に規定された事由による解雇でないこと」を事業主が証明した場合にはその解雇が無効と判断されないこともある反面、その解雇が「6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の産休期間中の解雇」である場合には、「違法な解雇」として無効と判断されるということが言えます。

ただし、これにはさらに例外があります。「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」において使用者が「労働基準監督署の認定を受けた」場合です。

先ほど説明したように、労働基準法第19条は1項で「6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の産休を取得し休業している女性労働者の解雇を禁止」していますが、その但書と同条2項で「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」において「労働基準監督署の認定を受けた」場合にその解雇制限を解除していますので、「天災事変その他やむを得ない事由」について労働基準監督署の認定を受けていた場合には、その「6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の産休期間中の女性労働者に対する解雇」も例外的に「違法にはならない」ということになります。

この点、この場合の解雇が労働基準監督署の認定によって「違法な解雇にならない」ケースなら、その解雇に必ずしも労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「ない」とは言えませんので、他の事由で労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」がないと判断されたり「社会通念上の相当性」がないと判断されない限り、その解雇が有効と判断される余地はあることになります。

ですから、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の産休期間中に女性労働者が解雇された場合には基本的には無効と考えて差し支えありませんが、「天災事変その他やむを得ない事由で事業継続が不可能になった」事情がある場合において、その「天災事変その他やむを得ない事由」について使用者が「労働基準監督署の認定を受けた」事実がある場合には、その解雇は必ずしも無効と言えなくなってしまいますので、その点には注意が必要です。

例えば先ほどの例で、出産予定日が12月末と診断されている女性労働者が11月中旬から(双子以上の妊娠の場合は9月末から)産休を取得して休業している状況にある中で会社から何らかの理由で解雇された場合、その解雇は基本的に無効と判断と判断されることになりますが、その解雇が「大地震で会社の事業継続が不可能となった」ことを理由とするものであり、会社がその「大地震があったこと」について労働基準監督署の認定を受けている場合には、その「6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の産休中に解雇された」という事実だけをもってその効力が無効だと判断することはできないということになります。

なお、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の産休期間中の女性労働者が解雇された場合において、仮に会社側に「天災事変その他やむを得ない事由で事業継続が不可能になった」ような事情があったとしても、その会社が「天災事変その他やむを得ない事由」について労働基準監督署の認定を受けていない場合には、原則どおり労働基準法第19条1項に従ってその解雇は違法な解雇となり、無効と判断されることになります。

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いずれにしても「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を満たさない解雇は無効

以上で説明したように、妊娠した女性労働者に対する解雇は基本的には無効と言えますが、特定の事情の下では必ずしも無効とはいえないケースも存在します。

もっとも、先ほども少し述べたように、解雇は労働契約法第16条で規定された基準でその有効性が判断されますので、労働契約法第16条で規定された「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を満たさない限り、その解雇は無効と判断されます。

労働契約法第16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、たとえ妊娠した女性労働者がこれまで説明してきた内容で無効と判断されないような解雇を受けた場合であったとしても、他の事情を検討して「客観的合理的な理由」が「ない」と認められる事実があればその解雇は無効と判断されますし、仮に「客観的合理的な理由」が「ある」と認定できる事案であったとしても、その「客観的合理的な理由」に基づいて解雇することが「社会通念上相当」と言えない事情が認められるなら、その解雇はやはり無効と判断されることになるわけです。

ですから、妊娠した女性労働者が解雇された場合には、このページで説明してきた内容を検討するのは当然ですが、それを検討して「無効」と判断できないケースであっても、それで諦める必要はなく、労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」や「社会通念上の相当性」があるのかといった点まで詳細に検討し、その後の対処を考えていく必要があります。

妊娠した女性労働者に対する解雇の判断基準のまとめ

以上で説明したように、妊娠した女性労働者に対する解雇は「無効」と判断されるのが基本ですが、その解雇が「雇用機会均等法第9条3項に規定された事由による解雇でないこと」を事業主が証明した場合にはその解雇が無効と判断されないこともある反面、その解雇が「6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の産休期間中の解雇」である場合には、「違法な解雇」として無効と判断されるということが言えますが、「天災事変その他やむを得ない事由によって事業の継続が不可能となった場合」においてその「天災事変その他やむを得ない事由」について会社が「労働基準監督署の認定を受けた」場合には、その「6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の産休期間中の女性労働者に対する解雇」を必ずしも無効と判断することはできないということになるものの、労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を検討してその要件を満たさなければ、その解雇は解雇権を濫用した無効なものと判断されることもあるということになります。

もっとも、このように文章でつらつら述べてみても分かりにくいと思いますので、最後にもう少し分かりやすくこれをまとめてみましょう。

妊娠した女性労働者に対する解雇

  • 原則その1:解雇の理由にかかわらず無効(雇用機会均等法第9条4項)
  • 「原則その1」の例外:ただし、事業主が「雇用機会均等法第9条3項で規定された事由を理由とする解雇でないことを証明した場合」は無効とはならない(雇用契約法第9条4項但書)。
  • 原則その2:事業主が「雇用機会均等法第9条3項で規定された事由を理由とする解雇でないことを証明した場合」であっても、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の産休中にある女性労働者に対する解雇はその解雇が違法となるので無効となる(労働基準法第19条1項)。
  • 「原則その2」の例外:ただしその解雇が事業主において「雇用機会均等法第9条3項で規定された事由を理由とする解雇でないことを証明した」うえでの「6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の産休中にある女性労働者に対する解雇」であったとしても、その解雇が天災事変その他やむを得ない事由で事業継続が不可能になったことを理由としたもので、使用者が「天災事変その他やむを得ない事由」について労働基準監督署の認定を受けた場合は、その解雇は違法とはならないので、必ずしもその解雇があったことだけを以て無効ということは言えない。
  • 「原則その3」:「原則その1」「原則その2」にかかわらず、解雇事由に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」のいずれか一方でも欠く場合はその解雇は無効となる。