会社から支給される給料は、月給制の正社員であれば毎月25日に、週給制のバイトであれば毎週木曜日に、などというように一定の指定された期日に定期的に支払われるのが普通ですが、ごく稀に一定の支払い日が設定されておらず、経営者の判断で任意の日に支払いがなされる会社も存在しているようです。
たとえば、月給制なのに給料日が「毎月〇日」などと定められておらず「なんとなく月末頃」までに毎月の給料が振り込まれたり、「先月は25日だったのに今月は31日に」振り込まれたりするようなケースです。
しかし、このように給料日が定められておらず経営者側が任意に決めた日にバラバラに支給されてしまうと、労働者は毎月の生活費の支払いなどの予定を立てることができなくなってしまい不都合な面も生じてきます。
では、もし仮に自分が勤務している会社がこのように給料日が一定の支払い日として定められていなかった場合、何らかの方法を用いて給料日を一定の日に決めさせることはできないのでしょうか?
給料日を定めない会社は労働基準法違反
このように、給料日が定められておらず経営者の都合のいい日に賃金を支払う会社が存在するわけですが、そのような会社はそもそも法律違反にならないのか、という点が問題となります。
仮に給料日を定めないことが法律に違反するのであれば、その法律違反行為を告発することで会社に改善を促し、給料日を一定の期日に定めさせることができると考えられるからです。
この点、給料の支払については労働基準法の第三章に定められていますが、労働基準法24条2項では、賃金は「毎月一回以上」「一定の期日を定めて」支払わなければならないと規定されています。
【労働基準法24条2項】
賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(省略)については、この限りでない。
ですから、先ほど挙げたような給料の支払い日を定めずに、経営者が適宜な日にちを選んで給料を支給しているような会社は、端的に言って「労働基準法に違反している」ということになります。
給料日を定めないということ自体が「犯罪」
このように、労働者を雇用した使用者(雇い主)が給料日を定めていない場合、その「給料日を定めない」ということ自体が労働基準法違反ということになりますが、この労働基準法24条に違反する行為については「30万円以下の罰金」に処せられることも労働基準法で定められています。
【労働基準法120条】
次の各号の一に該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
第1号 (省略)第23条から27条まで(省略)の規定に違反した者(以下省略)
この「罰金」の罰則は法的には「刑罰」の一種に含まれますので、法律上は「犯罪」行為ということになります。
ですから、もし勤務している会社が「給料日を定めない」という場合には、その会社は「犯罪行為」を犯しているということになりますので、その責任は非常に思いということが言えるでしょう。
給料日が決められていない会社に給料日を定めさせる方法
以上の点を踏まえたうえで、給料日が定められていない会社に給料日を定めさせる方法を考えてみましょう。
(1)給料日を定めるよう求める申入書を作成し郵送する
給料日が定められていない会社において給料日を定めさせたい場合、まず給料日を定めるよう求める申入書等を作成し、会社に送付することを考えたほうがよいと思います。
もちろん、最初は口頭で「給料日を一定の日に決めてください」と申告することも必要ですが、そのような会社の経営者や上司に口頭で「給料日を決めろ」と言ったところでそれに従うとは思えませんし、仮に後で何らかの労働トラブルに巻き込まれ裁判になったような場合には、会社の違法性を証拠を提示して立証することも必要になりますので、有体物として証拠を残すことのできる「書面」という形で申入れしておいた方がよいでしょう。
送付した書面をコピーして保存し、特例記録郵便など送付記録の残る郵送方法で通知しておけば、後でそのコピーと送付記録を添付することで「給料日を設定するよう求めたけど定めてくれなかった」という事実を客観的証拠を提示して立証できるようになりますので口頭だけでなく書面という形でも申入れしておいた方がよいと思います。
なお、その場合に送付する書面の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。
株式会社○○
代表取締役 ○○ ○○ 殿
給料日を一定の期日に定めるよう求める申入書
私は、貴社において月給制として賃金の支給を受けておりますが、貴社はその賃金の支払い日について一定の期日を設定しておりません。
しかしながら、労働基準法24条2項で使用者は「毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」規定されておりますので、貴社は労働基準法に違反する状態にあります。
つきましては、同法を遵守し、直ちに賃金の支払い日を一定の期日をもって定めるよう申し入れいたします。
以上
〇年〇月〇日
〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室
○○ ○○ ㊞
※なお、実際に送付する際は客観的証拠として保存しておくためコピーを取ったうえで、会社に送付されたという記録が残るよう普通郵便ではなく特定記録郵便などを利用するようにしてください。
(2)労働基準監督署に労働基準法違反の申告をする
(1)の申入書等を送付しても会社が給料日を一定の期日に定めない場合は、労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行うというのも対処方法の一つとして有効です。
先ほども説明したように、使用者(雇い主)が賃金を「毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」ということは労働基準法の24条に明確に定められていますので、その定めをしていない会社は「労働基準法違反」ということになりますが、使用者が労働基準法に違反している場合には労働者は労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行うことが認められています(労働基準法104条1項)。
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
ですから、仮に労働者が労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行い、監督署が監督権限を行使して是正勧告や指導を行えば、会社がその違反状態を改めて給料日を一定の期日に定めることも期待できますので、監督署に違法行為の申告をするというのも解決手段の一つとして有効に機能するものと考えられます。
なお、その場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載例は以下のようなもので差し支えないと思います。
労働基準法違反に関する申告書
(労働基準法第104条1項に基づく)
○年〇月〇日
○○ 労働基準監督署長 殿
申告者
郵便〒:***-****
住 所:東京都〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****
違反者
郵便〒:***-****
所在地:東京都〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社○○
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:03-****-****
申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのある雇用契約(アルバイト)←注1
役 職:特になし
職 種:製造補助
労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。
記
関係する労働基準法等の条項等
労働基準法24条2項
違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・違反者はその雇用する労働者の賃金を毎月1回支払っているが、その支払いは一定の期日が定められておらず、違反者の経営者の恣意的な判断によって毎月異なる日付けで支給されている。
添付書類等
・〇年〇月から〇年〇月までの給与明細書の写し 各1通←※注2
備考
本件申告をしたことが違反者に知れるとハラスメント等の被害を受ける恐れがあるため違反者には申告者の氏名等を公表しないよう求める。
以上
※注1:正社員など「期間の定めのない雇用契約」の場合は「期間の定めのない雇用契約」と記載してください。
※注2:添付書類は必ずしも添付が必要なものではありませんのでなければ削除しても構いません。
※労働基準監督署に申告したことが会社にバレても構わない場合は、「備考」の欄の一文は削除しても構いません。
(3)その他の対処法
上記(1)(2)の方法を用いても解決しない場合は、労働局の紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。