タイムカード押し忘れたからバイト代払わない…が違法な理由

労働者が実際に働いた時間については、タイムカードやICカード、パソコンの起動時間などで記録し管理されているのが通常です。

ですから、給料の金額についてもそのタイムカードなどに打刻された勤務時間を基準にして計算されるのが原則となるわけですが、ごく稀に労働者がタイムカードなどを押し忘れたことを理由に、会社が給料を支払わなかったり、給料の一部を減額してしまう事例が見られます。

たとえば、1週間で5日勤務のアルバイトが、勤務した中の1日でタイムカードを押し忘れたため、1週間の給料が4日分しか支払われないようなケースです。

このような場合、タイムカードを押し忘れた労働者にも責められるべき点もあるとは言えますが、そう考えても給料を減額されてしまうのはあまりにも労働者の不利益が大きすぎると言えます。

では、このようにタイムカードを押し忘れたことを理由として会社が給料を支払わなかったりその一部を減額してしまうことは法的に認められるものなのでしょうか?

また、実際にタイムカードやICカードを押し忘れたことを理由として給料の減額等がなされた場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか?

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タイムカードなどを「押し忘れた」ことを理由に給料・バイト代を支払わないのは違法

このように、ごく稀に労働者がタイムカードなどを打刻し忘れたことを理由に、給料を支払わなかったり一部を減額してしまうケースがあるわけですが、結論から言うとそのような給料の不払いや減額は違法となります。

その理由はいくつありますが、主な理由としては以下の3点があげられます。

(1)「押し”忘れた”」と会社が主張している時点で会社はその労働者が実際に働いていたことを現認していることが明らか

労働者がタイムカード等を「押し忘れた」ということを根拠に会社が賃金の不払いや減額をしているという場合、会社はその労働者がその「押し忘れた」時間について「実際には働いていたこと」を自認しているということになります。

なぜなら、「押し”忘れた”」という状況は「実際には働いたけれども”押し忘れた”」ことが前提となるからです。

その会社がその労働者が「実際には働いていなかった」と主張しているのであれば「押し忘れた」ではなく「働かなかった」と言うはずですから、「押し忘れた」と言っている時点で「労働者が実際には働いていた」ということは会社側も現認していることになるでしょう。

会社側がその労働者が「実際に働いた」ことを自認しているのであれば、その労働者がタイムカードを打刻していようとしていまいと会社がその労働時間の賃金を支払わなければならないのは当然です。

雇用契約(労働契約)は、使用者と労働者との間で「労働者が働いたことに対して賃金を支払うこと」を合意することによって成立するものですので、タイムカードなどの打刻の有無にかかわらず労働者が労働をしている限り使用者には賃金の全額を支払わなければならない雇用契約上および労働基準法上の義務が生じるからです。

【労働契約法6条】

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

【労働基準法24条】

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(以下省略)

つまり、労働者がタイムカードを「押し忘れ」たとしても、その労働者が実際に出勤して労働力を提供していることは事実であり、その事実については会社も「あなたがタイムカードを”押し忘れた”からだ」と主張している以上自認しているわけですから、会社はその「押し忘れた」時間についても賃金を支払わなければならない義務があるということになります。

ですから、タイムカードを「押し忘れた」という理由で賃金を支払わなかったり一部を減額することは違法となるのです。

(2)タイムカード等は労働時間を管理・記録するための手段にすぎない

また、そもそもタイムカードなど出勤や退勤時間を打刻する装備は、ただ単に就労時間を管理するための手段に過ぎないことも理由です。

労働基準法では、その108条と109条(及び同法施行規則54条)において、労働者の労働時間や労働日数を記入した賃金台帳を作成し保存することを義務付けていますので、その賃金台帳を作成するために労働者の労働時間を管理・記録することは労働基準法上の義務となります。

【労働基準法108条】

使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。

【労働基準法施行規則54条】

使用者は、法第108条の規定によって、次に掲げる事項を労働者各人別に賃金台帳に記入しなければならない。
第1号~3号(省略)
第4号 労働日数
第5号 労働時間数
第6号 (省略)労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合(省略)には、その延長時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数
第7号(以下省略)

【労働基準法109条】

使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない。

しかし、その労働者の労働時間の管理と記録を使用者が現認して確認することは煩雑になりすぎるため、便宜上の措置として労働者各自にタイムカード等の装置を使って労働時間を打刻させているわけです。

タイムカード等の装置は、単にその使用者が労働者の労働時間を客観的に管理・記録し保存するための手段に過ぎず、労働者が賃金を受け取るための要件ではないわけですから、仮に労働者がタイムカード等を「押し忘れた」場合であっても、その労働者が実際にその「押し忘れた」時間も働いている以上、その時間の賃金は支払われなければならないのは当然です。

ですから、タイムカードを「押し忘れた」という理由で賃金を支払わなかったり一部を減額することは違法となるのです。

なお、使用者における労働者の労働時間の管理・記録義務については『タイムカード等で出勤/退社/労働時間を記録しない会社の対処法』のページで詳しく解説しています。

(3)タイムカード等の打刻時間と実労働時間に乖離がある場合、使用者には実態調査を行いそれを補正すべき義務がある

さらに、使用者にはタイムカードなどの打刻時間と実際の労働時間の乖離が生じた場合にそれを補正することが義務付けられている点も、「押し忘れた」ことを理由として賃金の不払いを犯してはならない理由として挙げられるでしょう。

厚生労働省のガイドライン(平成29年1月20日付基発0120第3号)では、タイムカードなどに打刻された時間と労働者が自己申告した労働時間に乖離がある場合には、使用者はその時間の乖離について実態調査を行い、必要な労働時間の補正をしなければならないことが義務付けられています。

「自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。 特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。 」

出典:厚生労働省ガイドライン(平成29年1月20日付基発0120第3号)4(3)ウより引用

この点、仮に労働者がタイムカードを「押し忘れた」というのであれば、それはその労働者が実際には就労している時間がタイムカードに正確に打刻されていないということを意味しますから、その状況自体がタイムードなどに記録された労働時間のデータとその労働者が実際に働いた時間の間に乖離が生じている状態ということになるでしょう。

そうであれば、使用者はこのガイドラインの規定にしたがって、その乖離が生じた部分の時間について実態調査ってその乖離した時間の補正を行い賃金を支払わなければならない義務があるのは当然です。

にもかかわらず、その実態調査を行ってその乖離した労働時間の補正をせずに、会社の一方的な「押し忘れたから」という判断で賃金の不払いや減額をしているわけですから、それ自体が厚労省のガイドラインに違反した違法な行為と言えます。

ですから、労働者が「押し忘れたから」という理由で賃金の支払いを拒否したり、その乖離した時間分だけ賃金を減額したりすることはこの厚労省のガイドラインから考えても許されないと言えます。

タイムカード等を「押し忘れた」ことを理由に会社が給料・バイト代を支払わない場合の対処法

以上のように、労働者がタイムカードを「押し忘れた」ことを理由として給料やバイト代を支払わなかったり一部を減額する行為は明らかに違法ですから、そのように「押し忘れた」ことを根拠に給料の未払いを受けている労働者は会社に対して「押し忘れた時間分の賃金も支払え」と請求できることになります。

もっとも、悪質なブラック体質を持った会社では「タイムカードを押し忘れた」という労働者の事情は端なる方便として利用しているにすぎず、以上のような違法性は十分に認識したうえで賃金の不払いや減額をしているのが普通ですので、そのようなケースで具体的にどのような方法を用いて対処するかという点が問題となります。

(1)タイムカード等を「押し忘れた」ことを理由とする賃金不払の違法性を指摘する通知書等を送付する

タイムカード等を「押し忘れた」ことを理由に会社が賃金を支払わなかったりその一部を減額しているような場合には、その「押し忘れた」ことを理由とする賃金の不払いが違法であることを記載した通知書等を作成し、会社に郵送で送付するというのも対処方法の一つとして有効です。

もちろん口頭で「厚労省のガイドラインに違反してるから違法だ」とか「実際に働いたことは会社側も認めてるんだから支払え」などと抗議することも差し支えありませんが、「押し忘れた」ことを理由として賃金の不払いを起こす会社のほとんどはそれが違法であることは十分に承知したうえで人件費を削減することを目的としてそう主張しているにすぎませんので、交渉に応じて賃金を支払ってくれるのはごく稀です。

また、書面の形で抗議しその書面のコピーを保存しておけば、後に裁判になった場合に「会社に違法なことを説明しても支払ってくれなかった」という点を客観的な証拠として提出することで会社側の違法性の認識を立証することが可能になりますので、裁判を有利に進める武器を作っておくという意味でも書面で通知するのは意味があります。

ですからまずは書面の形でその違法性を指摘しておくことを考えてみた方がいいのではないかと思います。

なお、その場合に会社に送付する通知書(申入書)の文面は以下のようなもので差し支えないでしょう。

株式会社○○

代表取締役 ○○ ○○ 殿

賃金の一部不払いに関する是正申入書

私は、〇年9月、アルバイト従業員として8時から17時まで都合20日間にわたり貴社に出社し就労いたしましたが、10月に振り込みを受けた9月分の給料では出勤日数を18日として計算された金額しか支給がなされておりませんでした。

この賃金の減額について上司の◇◇に確認したところ、9月の出勤日のうち1日については出勤時刻が、他の1日については退社時刻がそれぞれタイムカードに打刻されていなかったことから、その2日の出勤がなかったものとして計算されたものである旨の説明を受けております。

しかしながら、確かに私が9月においてタイムカードの出勤時刻と退社時刻をそれぞれ打刻し忘れた日が1日ずつあることは事実ですが、私がその両日に有給休暇を取得したり無断欠勤した事実はなく、上司の◇◇においても私が出社していたことは現認しているわけですから、私が同月に20日間出社し就労したことは貴社においても明らかであるはずです。

また、使用者にはタイムカード等を利用して労働者の労働時間を管理・記録する義務があることは労働基準法明らかであり、そのタイムカード等の利用において、労働者からの自己申告により把握した労働時間とタイムカード等に打刻された就労時間との間に著しい乖離が生じているときには実態調査を実施し所要の労働時間の補正をすることも厚生労働省のガイドラインで義務付けられていますから(平成29年1月20日付基発0120第3号4(3)ウ参照)、貴社がその実態調査と補正作業を行わず単に「押し忘れたから」という理由で賃金を減額することはガイドラインに違反する違法性のある行為であると言えます。

従って、貴社が9月分の給与から2日間の出勤日に相当する賃金を減額した行為は、本来支払わなければならない賃金を、賃金の支払いを規定した労働基準法に違反して支払わない違法な行為と言えますから、直ちにその減額した部分の賃金を支払うよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※なお、実際に送付する際は客観的証拠として保存しておくためコピーを取ったうえで、会社に送付されたという記録が残るよう普通郵便ではなく特定記録郵便などを利用するようにしてください。

(2)労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行う

(1)の申入書等を送付しても会社がタイムカード等の打ち忘れを理由に賃金の不払いや減額を是正しない場合は、労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行うというのも対処方法の一つとして有効です。

先ほども説明したように、使用者が労働者の出退勤時間や労働時間をタイムカードなど客観的証拠の残される形で管理・記録しなければならないことは労働基準法当然の義務であり、厚生労働省のガイドラインでもその労働時間に乖離がある場合には調査や補正をしなければならないことも明らかですから、それを怠っているということ自体が労働基準法の趣旨に違反していると言えます。

また、労働者がタイムカードを「押すのを忘れていた」ということを賃金の不払いや減額の根拠としていること自体、会社がその労働者が「”本当は出社したけど”押すのを忘れた」ということを自認していることになるわけですから、会社がその労働者の出勤を認識している以上、その賃金を支払わないという行為も賃金の支払いを定めた労働基準法24条に違反すると言えるでしょう。

この点、このように使用者が労働基準法に違反している場合、労働者は労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行うことが認められていますから(労働基準法104条1項)、労働者が労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行うことによって、監督署による監督権限を行使を促すことも可能と言えます。

【労働基準法第104条1項】
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

仮に監督署が監督権限を行使して是正勧告や指導を行うようなことがあれば、会社がその違反状態を改めて厚労省のガイドラインに沿った形で労働時間を補正し、タイムカードの打刻を忘れた時間についても賃金の支払いに応じることも期待できますから監督署に違法行為の申告をするというのも解決手段の一つとして有効に機能するものと考えられるのです。

なお、その場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載例は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:東京都〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:東京都〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社○○
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:03-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのある雇用契約←注1
役 職:特になし
職 種:一般事務

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法24条および108条及び109条、同法施行規則54条、平成29年1月20日付基発0120第3号

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年9月、タイムカードに押印すべき出勤時刻および退社時刻をそれぞれ1回ずつ、計2日、打刻することを失念した。
・違反者はこのタイムカードの打ち忘れがあったことを理由に、申告者が9月に2日間出勤していないものとして給与の計算を行い、実際には申告者が20日間出勤し就労したにもかかわらず、18日間分の給与しか支給していない。
・このタイムカードの「打ち忘れ」について違反者は、申告者にタイムカードの単なる「打ち忘れ」があったことを把握しながら、厚生労働省のガイドライン(平成29年1月20日付基発0120第3号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインについて 」)に違反して、そのタイムカードに打刻された労働時間と申告者が実際に就労した時間との間で2日間の乖離が生じているにもかかわらず、その実態調査や補正を一切しようとしない。

添付書類等

・特になし。←注2

備考
本件申告をしたことが違反者に知れるとハラスメント等の被害を受ける恐れがあるため違反者には申告者の氏名等を公表しないよう求める。

以上

※注1:正社員など「期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)」の場合には、「期間の定めのない雇用契約」と記載してください。

※注2:会社が労働時間を記録していない証拠(例えば打ち忘れのあったタイムカードのコピーなど)があれば添付してください。

※労働基準監督署に申告したことが会社にバレても構わない場合は、「備考」の欄の一文は削除しても構いません。

(3)その他の対処法

上記(1)(2)の方法を用いても解決しない場合は、労働局の紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは