求人詐欺(実際の賃金等が求人票や求人広告と違う)の対処法

(4)労働基準監督署に違法行為の是正申告をしてみる

実際の労働条件が求人広告や求人票に表示された労働条件と異なることで不利益を受けている場合には、その事実を労働基準監督署に申告してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられます。

求人広告・求人票と実際の労働条件(賃金等)が違う場合の考え方』のページでも解説したように、労働者を採用する使用者に対しては、労働基準法第15条1項において労働契約の締結に際して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない義務が課せられていますから、労働条件が求人広告や求人票に表示された労働条件と異なると感じている労働者があるという事実は、その使用者が労働基準法第15条1項に違反して労働条件の明示義務を怠っていたことを十分に推測させます。

仮にその使用者が労働基準法第15条1項を遵守して賃金や労働時間などの労働条件を明確に明示していたのなら、入社した労働者が「労働条件が求人広告や求人票に表示されたものと違う」などという不満を持つはずがないからです。

そのため、こうしたトラブルが生じている会社は労働基準法第15条1項に違反する事実があったということが言えますが、労働基準法に違反する事実があった使用者については、その使用者に勤務する労働者が労働基準監督署にその違法行為の申告をすることが認められています(労働基準法第104条1項)。

【労働基準法第104条1項】

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

この点、この違法行為の申告が行われた場合に労働基準監督署が臨検や調査を行うか否かはもっぱら監督署の裁量にゆだねられますが、仮に監督署がその違法性を確認するために臨検や調査を行う場合には、監督署から会社に対して監督権限(調査や臨検、行政指導など)が行使されることで会社の不当な労働条件の変更が改善されることも期待できます。

ですから、こうしたトラブルの場合には、とりあえずその実際の労働条件が求人広告や求人票に表示された労働条件と異なる事実を労働基準監督署に相談(申告)してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、その場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載例は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:佐賀県唐津市○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 唐男
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:福岡市博多区〇町〇番〇号
名 称:株式会社 甲
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのある雇用契約(←注1)
役 職:なし
職 種:接客業(アルバイト)

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法第15条1項

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は〇年〇月、求人サイト「○○ドットコム」に掲載されていた「時給1000円」「有給休暇年20日間付与」の労働条件でアルバイトの求人を行っていた違反者の求人広告を見つけ、同年〇月〇日に違反者の採用面接を受けて同年〇月〇日違反者に入社した。
・申告者は同年〇月1日から違反者での勤務を開始したが、同月〇日に違反者から「時給800円」「有給休暇年10日間」と記載された労働条件通知書の交付を受けた。
・同月〇日、申告者は直属の上司に対して賃金と有給休暇日数が求人広告に記載されていた内容と異なる旨抗議したが、「面接のときに説明しているはずだ」の一点張りで何ら訂正しようとしない。
・なお、同年〇月〇日に違反者の事務所で行われた採用面接では時給や有給休暇の日数が求人広告と異なる旨の説明は一切なされていない。
・同年〇月〇日、入社後最初の給料が申告者の預金口座に振り込まれたが、給与額は時給800円で計算されている。

添付書類等
・求人サイトの求人広告画面のスクリーンショットのプリントアウト……1通(←注2)
・給与明細書の写し……1通(←注2)

備考
違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)

以上

※注1:正社員など期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)の場合には、「期間の定めのない雇用契約」と記載してください。

※注2:労働基準監督署への申告に添付書類の提出は必須ではありませんので添付する書類がない場合は添付しなくても構いません。なお、添付書類の原本は将来的に裁判になった場合に証拠として利用する可能性がありますので原本がある場合は原本ではなく必ず「写し」を添付するようにしてください。

※注3:労働基準監督署に違法行為の申告を行った場合、その報復に会社が不当な行為等(パワハラ等)を行う場合がありますので、労働基準監督署に申告したこと自体を会社に知られたくない場合は備考の欄に上記のような文章を記載してください。申告したことを会社に知られても構わない場合は備考の欄は「特になし」と記載しても構いません。

なお、労働基準監督署に違法行為の申告を行う際の注意点等細かな申告方法については『労働基準監督署への労働基準法違反の相談・申告手順と注意点』のページで詳しく解説しています。

(5)労働局に紛争解決援助の手続きを利用する

実際の労働条件が求人広告や求人票に表示された労働条件と異なることで不利益を受けている場合には、その事実を労働局に申告し労働局が主催する紛争解決援助の手続きを利用してみると言うのも対処法の一つとして有効です。

労働局では労働者と事業主の間に発生した紛争を解決するための手続きとして紛争解決援助の手続きが用意されていますので、賃金や労働時間、休日など実際の労働条件が求人広告や求人票に表示された労働条件と異なることで不利益を受けている労働者がある場合には、その労働条件の相違によって生じている会社との紛争を解決するためにこの紛争解決援助の手続きを利用することが可能です。

この点、この労働局の紛争解決援助の手続きに法的な強制力はありませんので、会社側が手続きに応じない場合には解決は望めませんが、仮に会社側が手続きに応じる場合には、労働局から出される助言や指導、あっせん案などに会社が従うことで不当な労働条件の変更が改善されることもあるかもしれません。

ですから、実際の労働条件が求人広告や求人票に表示されたものと異なる場合には、とりあえず労働局にその事実を相談(申告)し、紛争解決援助の手続きを利用できないか確認してみるのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、この労働局の手続きについては『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説しています。

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専門家に依頼する場合の対処法

ア)弁護士に相談して訴訟などを提起する

上記で紹介した(1)~(5)までの方法は労働者自身で解決を図る場合の対処法ですが、自分で対処するのが不安な場合は最初から弁護士(または司法書士)など専門家に相談することも考えるべきでしょう。

実際の労働条件が求人広告や求人票に表示された労働条件と異なることで不利益を受けている場合には、弁護士に相談して示談交渉や訴訟を提起し労働条件の変更を求めるという方法も対処法の一つとして考えられます。

また、法律の素人が下手に交渉してしまえばかえって不利な状況に陥ってしまう危険性もありますので、上記(1)~(5)の方法をとるにしても、事前に弁護士に相談することを考えてもよいかもしれません(なお、弁護士への相談は30分5000円程度が相場ですから、実際に事件を依頼するかどうかは別として相談だけしてみるのもよいでしょう)。

イ)その他の対処法

上記以外の方法としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは