採用面接で親の職種や学歴等を聞かれたら就職差別と言えるか

採用面接の際、面接官や人事担当者から家族の職種や職歴、あるいは家族の学歴などを聞かれることがあります。

たとえば面接官から親の職業を聞かれたり、親の役職を聞かれたり、親や兄弟姉妹の職業を聞かれたり、あるいは親や兄弟姉妹の学歴を尋ねられるようなケースです。

しかし、家族の職種や職歴、学歴などは求職者本人の能力や適性とは全く関係がありませんから、そのような本人に関係のない事項を聴取され、それが採否の判断に用いられるのは納得できません。

では、このように採用面接で家族の職種や職歴、学歴などを尋ねることはそもそも許されるものなのでしょうか。

また、実際に採用面接で家族の職種や学歴などを聞かれた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

採用面接で家族の職種や学歴を尋ねることは採用差別（就職差別）につながる

このように、採用面接で家族の職種や学歴を聞いてしまう企業があるわけですが、結論から言えばこのような質問は採用差別（就職差別）につながるものと考えられます。

なぜなら、本人の能力や適性に関係ない事項を聴取し採否の判断材料にすることは、本人に責任のない属性で採否の判断をする差別に他ならず、それによって求職者の「就職の機会均等」が侵されることになるからです。

もちろん労働者を採用する企業には「採用の自由」がありますから、企業がどの様な属性の労働者を募集し採用するかという判断は、本来的にその企業の自由意思に委ねられるべきものです。

しかしその「採用の自由」も無制約に求められるものではありません。憲法で職業選択の自由（憲法22条）や法の下の平等（憲法14条）が保障されている以上、その基本的人権を侵害してまで企業側の「採用の自由」が認められてよいわけではないからです（※参考→国籍や人種を理由に面接の応募や採用を拒否された場合の対処法）。

企業に保障される「採用の自由」は公共の福祉の範囲で、国民の基本的人権の保障の枠内で許されるものですから、それを超えた「採用の自由」はおのずと制限を受けるのは当然です。

そうであれば、求職者の家族の職種や学歴を採用の判断材料にすることはできません。家族の職種や学歴などは求職者本人の能力や適性に全く関係がありませんので、それを判断材料にしてしまえば、本人に責任ない事情でその求職者を差別し、その求職者の「就職の機会均等」を侵害することになるからです。

ですから、採用面接で家族の職種や学歴を尋ねることは、本来的に考えれば決して許容されてよいことではないのです。

企業側に差別する意図がなくても採用面接で家族の職種や学歴を尋ねることは採用差別（就職差別）につながる

この点、企業側に差別の意図がないのであれば、家族の職種や学歴を尋ねることも許されるのではないかとの意見がありますが、企業側に差別の意図がなくても結論は変わりません。

企業側に差別の意図がなかったとしても、面接官や人事担当者が応募者から家族の職種や学歴などを聴取すれば、採否の判断に影響に少なからず及んでしまうからです。

いったん応募者の親の職業や学歴等を聞いてしまえば、面接官や人事担当者はその情報が嫌でも意識に残りますから、それを全く排除して採否の判断を決定するのは本人がそう意識しても事実上できなくなってしまうでしょう。

また、仮にその求職者が家族の職種や学歴を聞かれることに抵抗を持っている場合には（たとえば家族と死別していたり、関係性に問題があるなど）、家族の職種や学歴を聞かれること自体が大きなストレスとなり得ますから、それを聞かれたことで本来の力を発揮できず、面接で負の印象を与えてしまわないとも限りません。

ですから、たとえ企業側にそれを採否の判断基準としたり差別する意図がなかったとしても、採用差別（就職差別）につながるものである以上、そのような質問はすべきではないと言えるのです。

なお、この点については厚生労働省の指針（※参考→https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo.htm）が参考になりますので念のため引用しておきましょう。

そもそも、両親のいる家庭であるかとか、親などの家族がどんな仕事についているか、会社の中でどんな役職か、どれほどお金持ちかなどによって、本人の就職が左右されてよいはずがありません。また、親などの家族の状況から本人の適性・能力などを推しはかろうとする考え方も、家柄を重んじるなどの前近代的な因習に基づく多くの予断と偏見が作用したものということができます。
「面接において家族について尋ねたのは、応募者をリラックスするために、答えやすい身近な話題として出しただけであり、何かを差別するつもりはなかった」などという場合もあります。しかし、ひとたび訪ねて把握してしまえば、それは知らないうちに偏見や予断を招き、本人に対する評価・見方にフィルターがかかります。はじめは差別するつもりはなかったということでも、結果として、把握したことが採否決定に影響を与え、就職差別につながる恐れがあるのです。
※出典：公正な採用選考を目指して｜厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/saiyo-01.pdfより引用