B)労働者が「解雇の事実」のみの証明を求めた場合における「解雇の理由」
前述の(6)で説明したように、退職の事由が「解雇」の場合には、使用者は「就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、就業規則の当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係」を具体的に記載することが求められますが、「労働者が”解雇の事実”だけの証明を求めた場合」には、その「解雇の事実」だけを記載しなければならず「解雇の理由」を記載してはなりません(平成11年1月29日基発45号)。
この場合、労働者が「解雇の事実」だけの証明を求めているにもかかわらず、会社が「就業規則の当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係」などその解雇の内容まで証明書に記載した場合には、その会社は厚生労働省の通達違反となりますし、労働者は会社に対して「解雇の事実だけを記載しろ」と証明書の訂正や再交付を求めることができます。
ただし、あくまでも解雇された労働者が「解雇の事実だけの証明を求めた」場合にのみ、使用者側は「解雇の事実だけが記載された証明書」の交付が義務付けられますので、労働者からそのような要求がない限り、使用者には「解雇の具体的な内容」を記載した証明書の交付が義務付けられます。
ですから、労働者が「解雇」された際に解雇理由証明書の交付を求める場合において、証明書に「解雇の具体的な内容」を記載してほしくない場合(次の就職先などに解雇の具体的内容を知られたくない場合)には、会社に解雇理由証明書の交付を求める際に「解雇の事実だけ記載された証明書」を交付するよう能動的に求める必要がありますので注意してください。
C)秘密の記号
使用者が解雇理由証明書や退職理由証明書を作成する際に、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する事項などに関して「秘密の記号」を記載することも禁止されます。
これは、労働者の国籍や社会的身分、思想信条などを秘密の記号を用いて記載することを認めてしまえば、労働者の再就職において差別的取扱いを受ける危険があるため、それを防止するために禁止されているものです。
例えば、在日外国人や部落出身者、特定政党の支持者、労働組合員などであることを示す何らかの記号が記載されているような場合には、その証明書は法律違反ということになるでしょう。
解雇理由証明書や退職理由証明書を受け取った際に注意すべきこと
以上で説明したように、使用者に公布が義務付けられる解雇理由証明書や退職理由証明書には、必ず記載されていなければならない事項と、絶対に記載されてはいけない事項がありますので、使用者からその発行を受けた労働者は、その証明書が法律に従った内容を満たしているか十分に確認することが必要になります。
具体的には、証明書を受け取った場合には以下の事項を十分にチェックするよう心がけてください。
①「退職の事由」は記載されているか
前述したように、解雇理由証明書や退職理由証明書には「退職の事由」が記載されていなければなりませんので、それが記載されているか、確認するようにしてください。
②「解雇の理由」は具体的に記載されているか
「退職の事由」が「解雇」の場合には「解雇の理由」の記載が必要となります。また「就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、就業規則の当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係」の記載も必要となりますので、その点が具体的に記載されているか確認することが必要です。
また、前述したように「整理解雇」や「普通解雇」の場合はその具体的事情や内容が、「懲戒解雇」の場合または「就業規則の規定で普通解雇」される場合には、「就業規則の条項やその条項に該当するに至った具体的事情や事実関係等」も記載されている必要がありますので、その点の過不足なく記載されているか十分にチェックする必要があります。
③「請求していない事項」が記載されていないか
労働者が請求していない事項が記載されていないかもチェックするようにします。
自分が請求していない事項まで記載されている場合には、その訂正や削除を求めるようにしましょう。
特に、先ほどの「B」で説明したように、解雇された労働者が「解雇の事実」だけの証明を求めた場合には、使用者は「解雇の事実」だけしか証明書に記載してはならず、「解雇の内容」については記載することはできませんので、「解雇の事実」だけの証明を求めた場合には「解雇の内容」について記載されていないか十分に確認する必要があるでしょう。
④「不自然な記号等」が記載されていないか
解雇理由証明書や退職理由証明書を受け取ったら、その文面に不自然・不必要な単語や句読点、記号等が記載されていないか確認するようにしましょう。
前述したように、労働者の再就職を妨げる意図をもって特定の人種や思想信条を特定する「秘密の記号」を記載することは禁じられますが、必ずしもそれは記号であるわけではなく、たとえば「。」で文章を終わらせるところをあえて「。。」などとするようなケースも考えられますので、文面に不自然な点がないか十分にチェックする必要があります。
解雇理由証明書や退職理由証明書に足らないまたは余計な部分があれば訂正または再発行を求める
以上のように、解雇理由理由証明書や退職理由証明書には、記載されるべき内容、または記載されるべきでない内容が細かく定められていますので、そのような内容に合致しない証明書が発行された場合には、会社に対して文面の訂正や再作成を求めるようにしてください。
なお、会社が労働基準法第22条や厚生労働省の通達を遵守しない証明書を発行しその訂正に応じない場合の対処法についてはこちらのページを参考にしてください。
なお、そもそも退職理由証明書や解雇理由証明書を交付してくれない場合の対処法についてはこちらのページを参考にしてください。
解雇理由証明書や退職理由証明書は労働者が「請求しないと」発行されない
なお、労働基準法第22条に規定された退職または解雇の証明書は、労働者の方で発行するように「請求」しなければなりません。
労働者の請求がなければ使用者はそれを発行しなくても構いませんので、退職または解雇された時は必ず発行を求めるようにしましょう。