人選に合理的な理由のないリストラで整理解雇された場合

しかし、その場合であっても、その勤務成績や査定評価の基準自体があいまいでその合理性を説明できないような場合(たとえば「協調性がない」とか「上司に対する態度が悪い」などといった抽象的な基準で査定評価が行われている場合にはその査定評価自体に合理性がないといえるでしょう)には、その評価基準自体が「合理性がない」と判断できる場合もあるかもしれません。

ですから、たとえ会社側が合理性のある人選方法を用いていたとしても、その基準や評価方法を具体的客観的に説明できないようなケースでは、その整理解雇は無効と判断できる場合もあると思われますので、その点の説明を求めることも整理解雇を受けた場合には重要になると言えます。

もっとも、以上はあくまでも代表的な例に過ぎず、これら以外にも「人選に合理性がない」と判断されるケースはあると思いますので、具体的な案件ごとに弁護士に相談するなどして助言を受けることも必要です。
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人選に合理性がない整理解雇を受けた場合の対処法

以上で説明したように、人選に合理性がない整理解雇は権利の濫用として無効と判断することができますので、会社に残りたいと思えばその撤回を求めることもできますし、金銭的な補償を求めたいというのであれば解雇の無効を主張して解雇された日以降もその会社の労働者としての地位があることを主張してその解雇日以降の賃金の支払いを求めることも可能と言えます。

もっとも、実際に整理解雇された場合には具体的な方法をとって対処しなければなりませんので、その具体的な対応方法が問題となります。

(1)人選に合理性がない整理解雇が権利の濫用として無効であることを書面で通知する

勤務している会社から人選に合理性がない整理解雇を言い渡された場合は、その整理解雇が権利の濫用として無効になることを説明した書面を作成し会社に送付してみるというのも一つの対処法として有効な場合があります。

先ほど説明したように人選に合理性がない整理解雇は労働契約法第16条の規定の「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」を満たさないものとして無効と判断できますが、そのように合理的な人選を行わずに恣意的に労働者を解雇するような会社がまともな会社であるわけがありませんので、口頭で無効を主張しても話し合いに応じてくれる可能性は低いでしょう。

しかし、書面という形で改めてその無効を主張すれば、会社側としても将来的な裁判への発展などを警戒して話し合いに応じてくる場合もありますので、文書の形で通知する方法をとる異議はあると思います。

なお、この場合に会社に通知する書面の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

株式会社 ○○

代表取締役 ○○ ○○ 殿

人選に合理性のない整理解雇の無効確認および撤回申入書

私は、〇年〇月〇日、貴社から、同月末日をもって解雇する旨記載された解雇予告通知書の交付を受けました。

この解雇に関して上司の○○に説明を求めたところ、主力商品の○○の販売が今年に入って急速に落ち込み売り上げが半減したことから財務状況の改善のためコストカットの必要が生じリストラの一環として人員削減が必要になったこと、また、その人員削減の人選は貴社の役員会議で適切な議論のうえ行われた旨の回答がなされております。

しかしながら、仮に貴社の経営上の問題として人員削減の必要性があったとしても、整理解雇を行う場合の人選については合理性のある基準をもって行わなければならないはずであり(労働契約法第16条参照)、合理的な基準を説明できない密室における役員会議という人選方法によって解雇対象者を選定しその労働者を解雇することに客観的合理的な理由はなく、社会通念上の相当性もないと言えます。

したがって、本件整理解雇は労働契約法第16条の規定から権利の濫用として無効と判断されますから、直ちに当該解雇を撤回するよう申し入れいたします

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※実際に送付する場合は会社に通知が到達した証拠を残しておくため、コピーを取ったうえで普通郵便ではなく特定記録郵便など配達記録の残される郵送方法を用いて送付するようにしてください。

(2)その他の対処法

このような書面を通知しても会社が整理解雇を撤回しないような場合は、労働局の紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

(3)労働基準監督署に相談して解決できるか

なお、このような人選に合理性のない整理解雇が行われた場合に労働基準監督署に相談することで解決を図ることができるかという点が問題となりますが、このような案件に関しては労働基準監督署は積極的に介入しないのが普通です。

労働基準監督署は「労働基準法」やそれに関連する命令等に違反する事業主を監督する機関に過ぎず、労働基準法に規定のない違法行為や契約違反行為に関しては行政権限を行使することができないからです。

人選に合理性のない整理解雇に関しては先ほど説明したように労働契約法第16条に違反するものとしてその無効を主張できますが、それは「労働契約法」に違反する行為に過ぎず「労働基準法」に違反する行為ではありませんので、解雇に関するトラブルは労働基準監督署に相談しても対処は望めないのが一般的です。

ですから、このような案件に関しては、弁護士に相談して示談交渉や訴訟を利用するか、労働局の紛争解決手続きや都道府県労働委員会のあっせん手続きを利用して解決を図るしかないと思います。