(1)解雇予告手当の支払いを求める通知書を作成して会社に送付する
日雇い契約で働く労働者が「1か月を超えて引き続き使用されるに至った」にもかかわらず、事前の解雇予告もなく解雇予告手当の支払いもないまま解雇された場合には、その場合に解雇予告手当を支払わないことが労働基準法第20条に違反することを記載した書面を作成して会社に通知するというのも一つの方法として有効です。
ただし、そのようなケースで口頭で「解雇予告手当を支払え」と請求して「はいそうですか」と支払いに応じる会社はほとんどありません。
しかし、書面で正式に抗議すれば、弁護士や行政機関の介入を警戒して支払いに応じることもありますので、書面という形で請求しておくことも対処法として有効な場合があるのです。
なお、この場合に会社に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。
甲 株式会社
代表取締役 ○○ ○○ 殿
労働基準法第20条に基づく平均賃金の支払いを求める申入書
私は、〇年10月1日、貴社から、口頭で同日付で解雇する旨の通知を受け、同日の勤務終了をもって貴社を解雇されましたが(以下この解雇を「本件解雇」という)、この解雇に際し、労働基準法第20条第1項ないし2項で義務付けられた30日分の平均賃金(以下「解雇予告手当」という)の支払いを受けておりません。
この解雇予告手当の不払いについては、先日から口頭で再三、貴社の担当者に支払うよう要請していますが、貴社は、日雇い契約の労働者は一日ごとに雇用契約が結ばれるから解雇予告手当は支払わなくてもよい、と回答するのみで未だ支払いがなされていない状態です。
しかしながら、確かに労働基準法第21条は第1号で「日日雇い入れられる者」については同法第20条の適用を除外していますが、同条但し書きで「1か月を超えて引き続き使用されるに至った場合」にはその適用除外を排除しています。
この点、私が貴社との間で締結した労働契約は〇年9月1日に最初の日雇い契約が結ばれ、以降同年10月1日までその日雇い契約が繰り返し継続されていますから、本件解雇が行われた時点において、貴社と私の間で締結された日雇いの労働契約は「1か月を超えて引き続き使用されるに至った」状態にあったと言えます。
したがって、本件解雇において同法第21条1号の適用はなく、貴社は労働基準法第20条第1項ないし2項に基づいて、30日分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払わなければならない法的な義務がありますから、直ちに当該解雇予告手当の支払いを行うよう、申し入れいたします。
以上
〇年〇月〇日
〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室
○○ ○○ ㊞
※送付した事実を証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで、特定記録郵便など配達記録の残る郵送方法で郵送するようにしてください。
(2)労働基準監督署に違法行為の申告を行う
(1)のような通知書を送付しても会社が解雇予告手当の支払いに応じない場合は、労働基準監督署に違法行為の申告をするというのも解決方法の一つとして有効です。
前述したように、使用者が「1か月を超えて引き続き使用されるに至った」日雇い労働者を解雇する場合には労働基準法第21条は適用されませんから、原則に立ち戻って労働基準法第20条に基づいて、30日の予告期間を置かなければならず、その予告期間を置かない場合または予告期間を省略する場合には、予告期間が30日に不足する日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。
そうすると、その場合の日雇い労働者が解雇予告手当の支払いを受けていない状態で即日解雇された場合、その会社は労働基準法第20条に違反している状態にあるということになりますが、使用者が労働基準法に違反する場合には、労働基準法第104条に基づいて労働者は労働基準監督署に違法行為の申告を行うことが認められていますので、労働基準監督署にその事実を申告することで監督署の調査や指導を促すことができます。
仮に監督署から調査や指導が行われ、会社がその指導に従う場合には、解雇予告手当の支払いに応じることもできますから、監督署に申告する方法をとることも解決方法の一つとして有効と考えられるのです。
なお、その場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載は以下のようなもので差し支えないと思います。
労働基準法違反に関する申告書
(労働基準法第104条1項に基づく)
○年〇月〇日
○○ 労働基準監督署長 殿
申告者
郵便〒:***-****
住 所:神奈川県川崎市○○区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 ヨシコ
電 話:080-****-****
違反者
郵便〒:***-****
所在地:神奈川県横浜市〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社 X
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:***-****-****
申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのある雇用契約(日雇い)
役 職:特になし
職 種:作業員
労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。
記
関係する労働基準法等の条項等
労働基準法20条第1項、同条第2項。
違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は、〇年9月1日、違反者との間で契約期間1日のいわゆる日雇い契約を締結し、同日の勤務を終了した。
・申告者は、同年9月2日、前日に違反者の担当者から2日以降も引き続き違反者で勤務するよう告知を受けていたことから、同日も違反者と日雇い契約を締結し、以降同年10月1日まで、土日祝を除いた平日に継続して違反者と日雇い契約を繰り返した。
・申告者は同年10月1日、違反者から事前予告なく「明日から来なくていい」と口頭で告知を受け、同日付で解雇されたが、違反者からは30日分の平均賃金の支払いを受けていない。
・申告者は違反者の下で「1か月を超えて引き続き使用されるに至った」ことになるため労働基準法第21条但書にあたるから、解雇の予告をせず、30日分の平均賃金を支払うことなく申告者を即日解雇した違反者は労働基準法第20条1項ないし2項に違反している。
添付書類等
・解雇通知書の写し……1通(←注1)
備考
特になし(←注2)
以上
※註1:労働基準監督署への申告に証拠書類は必須ではありませんので必ずしも添付する必要はありません。なお、書類を添付する場合、原本は後日裁判などで使用する可能性がありますので添付する場合は必ず「写し(コピー)」を添付するようにしてください。
※註2:会社から嫌がらせを受ける恐れがある場合は備考欄に「違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(元上司が申告者の自宅に押し掛けて恫喝するなどが過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。」などと記載してください。
日雇い労働者が解雇された場合に解雇予告手当の支払いを受けられない場合のその他の対処法
上記以外の対処法としては、以下のようなものが考えられます。
(1)労働局に個別紛争解決援助(またはあっせん)の申し立てを行う
労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行っても解雇予告手当が支払われない場合は、労働局に個別労働関係紛争解決援助または”あっせん”の申し立てをしてみるのも解決方法の一つとして有効です。
労働局では事業者とそこに勤務する労働者との間で生じた紛争の解決を図るため、個別紛争解決援助の手続きを行っており、そこではあっせん委員によるあっせん手続きも利用できますから、この労働局の紛争解決手続きを利用することで労働局の関与の下で未払い(不払い)分の解雇予告手当に関するトラブルの解決を図ることも期待できます。
なお、この労働局の手続きについては『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説しています。
(2)その他の対処法
以上の外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。
なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。