原材料の欠乏で会社が休業しても賃金や休業手当をもらえるか

勤務先の会社が原材料の不足で休業する場合があります。

たとえば、天候不順でジャガイモの生産量が不足したことでポテチ工場が一定期間製造ラインを停止して従業員を休ませたり、タコの水揚げ量不足でタコの仕入れが不足したこ焼き屋さんが営業時間を短縮しバイトの学生を通常の勤務時間より早く帰宅させるようなケースです。

このような原材料の不足は、その会社(個人事業主も含む)の故意や過失によって生じたものではなく会社側としても休業したくてしているわけではありませんので、会社に対してその休業期間中の賃金や休業手当の支払いを求めるのは少し会社に申し訳ないような気もします。

しかし、労働者はその会社から受け取る給料によって生活を維持していますので、たとえ会社に直接的な責任のない原材料の不足という理由であっても、労働者としてはその休業期間中の賃金もしくは休業手当を保障してもらいたいと考えるのが普通です。

では、このように原材料の不足で使用者(雇い主)が休業した場合、労働者はその休業期間中の賃金(または休業手当・休業補償)の支払いを受けることができるのでしょうか。

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雇用契約で個別の合意があれば、原材料の不足による休業であっても「賃金の全額」を請求できる

このように、原材料の不足が原因で会社が休業したり営業時間を短縮して労働者を休ませる場合に、労働者がその休業期間中の「賃金」の支払いを受けることができるのかという点が問題となりますが、この点については一義的にはその会社(個人事業主も含む)と労働者の間でどのような合意が結ばれているかといった点によって判断されることになります。

つまり、労働者が会社との間で結んだ雇用契約(労働契約)で

「原材料の不足による休業の場合、会社はその休業期間中の賃金を支払う」

あるいは

「天災事変などの不可抗力による場合を除き会社が休業する場合はその休業期間中の賃金を支払う」

などという内容で合意が結ばれている場合には、労働者はたとえ原材料の不足で会社が休業する場合であってもその休業期間中の「賃金の全額」の支払いを求めることができるということになります。

なぜそうなるかと言うと、後述するように会社が休業した場合における休業期間中の「賃金」の支払いについては民法第536条2項の危険負担の規定が適用されますが、民法の規定は強行法規ではないので当事者間の合意があればその合意によって権利関係が処理されるからです。

使用者と労働者の間で上記のような合意があればその合意が雇用契約(労働契約)の内容となって当事者間を拘束することになりますので、たとえ原材料の不足で会社が休業する場合であっても、その合意に従って労働者は会社に対して休業期間中の「賃金の全額」の支払いを求めることができるということになります。

なお、そのような当事者間の合意がなされているかどのようにして確認すればよいかという点が問題となりますが、雇用契約(労働契約)の内容は労働者が入社する際に使用者から交付を受けた雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書、あるいは会社の就業規則や労働協約等に記載されていますので、以下に挙げる方法を参考にしてその書面等の内容を確認することで判断することができると思います。

ですから、勤務先の会社が原材料の不足で休業した場合には、まずこれらの書面に原材料の不足で休業した場合でも休業期間中の賃金を支払う旨の合意が規定されていないか確認することがまず必要となります。

そして、その確認ができた場合には、会社に対してその合意を根拠に休業期間中の「賃金の全額」の支払いを請求してみるとよいでしょう。

労働契約で合意がない場合、原材料の不足による休業ではその休業期間中の「賃金」の支払いを求めることはできない

このように、会社との間で結ばれた雇用契約(労働契約)の内容に「原材料の不足による休業でも賃金を支払う」旨の合意がなされていれば、労働者は休業したその会社に対してその休業期間中の「賃金の全額」の支払いを請求することができます。

では、そのような合意がない場合にはどうなるでしょうか。当事者間の合意がなされていない場合には法律によって判断するしかありませんが、法律を根拠にして原材料の欠乏を理由に休業した会社に対して休業期間中の「賃金」の支払いを求めることができるのか、問題となります。

この点、会社と労働者の間で結ばれる雇用契約(労働契約)はそれが契約の一種である以上、民法の契約法の規定が適用されますが、会社が休業した場合に労働者が休業期間中の賃金の支払いを求める場合に適用される条文は民法第536条2項となりますので、原材料の不足による休業の場合もその民法第536条2項を適用することができるのか、検討してみましょう。

【民法第536条2項】

(債務者の危険負担等)
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。(後段省略)

この民法第536条2項の規定は債権者の都合で債務者が債務の履行をできなくなった場合に反対給付を受ける権利が行使できなくなってしまう危険を債権者に転嫁させて債務者の不利益を回避し債権者と債務者の公平を図るための条文ですが、これに雇用契約(労働契約)における会社の休業のケースを当てはめると以下のような文章になります。

「会社の責めに帰すべき事由によって会社が休業した場合には、労働者は反対給付である賃金の支払いを受ける権利を失わない」

この点、会社が「原材料の不足」を理由に休業することが会社の「責めに帰すべき事由」に該当すると言えるのであれば労働者はその休業期間中の賃金の支払いを求めることができることになります。

しかし、「原材料の不足」自体は会社が望んで引き起こしたものではなく、会社に故意や過失はありませんので、「原材料の不足」を理由に会社が休業することは「会社の責めに帰すべき事由」とは言えないでしょう。

そうすると、「原材料の不足」によって会社が休業する場合には民法第536条2項の適用要件を満たさないことになりますから、労働者は民法第536条2項の規定を根拠にして会社に対して休業期間中の賃金の支払いを求めることはできないということになります。

原材料の不足による休業の場合に労働者は「休業手当」の支払いを求めることはできる

このように、原材料の不足による休業は民法第536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」には該当しないと考えられますので、労働者は休業期間中の「賃金」の支払いを求めることはできないということになります。

では、原材料の不足による休業があった場合に、その休業期間中の「休業手当」の支払いを求めることは可能でしょうか。

この点、会社が休業した場合の休業手当の支給については労働基準法第26条に規定がありますが、労働基準法第26条は以下に挙げるように「使用者の責めに帰すべき事由」の場合においてのみ休業手当の支払いを使用者に義務付けています。

【労働基準法第26条】

(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

そうすると、先ほど説明したように「原材料の不足」自体は会社が望んで引き起こしたものではなく、会社に故意や過失はありませんので「原材料の不足」を理由に会社が休業すること自体に「使用者の責めに帰すべき事由」はないと考えられますから、労働者はこの労働基準法第26条を根拠にして休業手当の支払いを求めることができないようにも思います。

しかし、この解釈は正しくありません。

なぜなら、労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」は、民法第536条2項における「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く解釈されており、民法第536条2項の「使用者の責めに帰すべき事由」にならないような経営上の障害も天変地異等の不可抗力に該当しない限り、労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」には含まれると考えられているからです(※菅野和夫著「労働法(第8版)」弘文堂232頁参照、参考判例→ノースウエスト航空事件:最高裁昭和62年7月17日|裁判所判例検索)。

民法第536条2項の規定は、先ほども述べたように債権者の都合によって債務者における債務の履行が困難になった場合に債務者の反対給付請求権の行使ができなくなってしまうという危険を債権者と債務者のどちらが負担するかその公平性の調整を図る規定に過ぎません。

しかし、労働基準法の第26条は使用者が休業する場合の休業期間中の賃金の最低60%の支払いを「休業手当」として使用者に義務付けることで労働者の賃金を確保させ生活を安定させる趣旨で規定されたものと考えられていますから、労働基準法第26条における「責めに帰すべき事由」は民法第536条2項の「責めに帰すべき事由」よりもその適用範囲を広く解釈する方が労働者の生活の保障という労働基準法第26条の趣旨に合致します。

そうすると、労働基準法第26条の「責めに帰すべき事由」には民法第536条2項の「責めに帰すべき事由」に含まれない「経営上の障害」も天災事変などの不可抗力に該当しない限り、広くそれに含まれると解釈するのが妥当です。

この点、「原材料の不足」は会社に直接的に責任のある事由とまでは言えませんが、天災事変などの不可抗力ではありませんし、原材料が不足したことで営業利益が減少することを考えれば「経営上の障害」ということもできます。

このように考えれば、原材料の不足による休業も労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」に該当するものと言えますので、労働者は「原材料の不足」による休業の場合には、その休業期間中の「平均賃金の6割の休業手当」の支払いを会社に対して求めることができるということになるのです(昭和23年6月11日基収1998号、菅野和夫著「労働法(第8版)弘文堂242頁参照)。

雇用契約書や就業規則等で休業手当について別段の割合が定められている場合はその金額の「休業手当」を請求できる

以上で説明したように、原材料の不足による休業も「使用者の責めに帰すべき事由」による休業として労働基準法第26条の適用が認められますから、労働者は原材料の不足で休業した会社に対してその休業期間中の「平均賃金の6割の休業手当」の支払いを会社に対して求めることができます。

もっとも、これは法律で法律でそのように義務付けられるというだけの話ですので、会社と労働者との間でその支給される休業手当の割合に別段の合意があればその合意に従って休業手当は支払われることになります。

たとえば、雇用契約書や就業規則に

「原材料の不足によって休業する場合、会社は平均賃金の8割の休業手当を支払う」

というような規定があった場合には、労働者はその規定を根拠にして会社に対し「平均賃金の8割」の休業手当の支払いを求めることができるということになります。

もっとも、この場合も労働基準法第26条の規定に反することはできませんので、たとえば

「原材料の不足によって休業する場合、会社は平均賃金の5割の休業手当を支払う」

などと規定されている場合には、その「平均賃金の5割」という部分が労働基準法第26条の規定に反することになり無効と判断されることになりますので、このような規定がある場合には、会社に対して「平均賃金の6割」の休業手当の支払いを求めることができますし、仮に会社が「平均賃金の5割」の休業手当しか支払わない場合は「平均賃金の6割」との差額の支払いを会社に対して求めることができるということになります。