流通トラブルによる資材不足で休業しても休業手当はもらえるか

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流通トラブルや交通麻痺など、人の移動や物資の輸送に何らかの障害が発生した場合に会社が休業して労働者を休ませる場合があります。

たとえば、流通機関に何らかの障害が発生して原材料等の物資の搬入が滞ったことを理由として工場が操業を停止し労働者が一定期間休みを言い渡されたり、イベントに出席するタレントが交通渋滞で巻き込まれて出演できなくなったためイベントが中止になりイベント会場で雇われたバイトが時間より早く帰宅させられるようなケースです。

このような流通トラブルや交通マヒ(交通渋滞)などの影響で資材や原材料等が入手できなくなったために仕事が休みになった場合、労働者はその時間に働かなくてもよくなりますが、その休業期間中の賃金(または休業手当)を支払ってもらわなければ生活に支障をきたしてしまいます。

しかし、休業した会社(個人事業主も含む)の方にしてみればその休業の原因になった交通渋滞や流通トラブルは会社に責任があるわけではありませんから、会社に責任がない事由で休業せざるを得なくなった場合にまで労働者に賃金や休業手当を支払わなければならないのは一方的に会社側に不利益となり公平でないような気もするのが実情でしょう。

では、このように交通渋滞や流通トラブルの影響で資材や原材料等が入手できなくなったために会社が休業になった場合、労働者はその休業期間中の賃金や休業手当を支払ってもらうことができるのでしょうか。

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雇用契約や就業規則等で個別の合意があれば、交通渋滞や流通トラブルの影響で資材・原材料の入手難が生じたことを理由とした休業であっても「賃金の全額」を請求できる

このように、交通渋滞や流通トラブルなどの影響で資材や原材料等が入手できなくなったために会社が休業になった場合に、労働者が休業期間中の賃金や休業手当を支払ってもらうことができるかという点が問題となりますが、その判断は使用者と労働者の間でなされた合意の有無によってまず行われます。

つまり、使用者と労働者の間で交通渋滞や流通トラブルなどの影響で資材や原材料等が入手できなくなったことを理由として休業する場合でも賃金の支払いがなされることについて合意があれば、労働者はその休業期間中の賃金の支払いを求めることができるということになります。

具体的に言うと、たとえば会社の就業規則に

「交通渋滞や流通トラブル等によって資材・原材料等の不足が生じて休業する場合、会社は休業期間中の賃金を支払う」

あるいは

「天災事変などの不可抗力の場合を除き会社が休業する場合はその休業期間中の賃金を支払う」

などといった規定がなされていれば、労働者はたとえ会社が交通渋滞や流通トラブルの影響で資材や原材料等が入手できなくなったために休業する場合であっても、その休業期間中の賃金の支払いを求めることができるということになります。

これは、使用者と労働者の間で合意した内容はその内容が雇用契約(労働契約)の内容となって契約当事者を拘束することになるからです。

後述するように会社が休業した場合の休業期間中の賃金の支払いについては民法第536条2項の規定によって判断されますが、民法の規定は強行法規ではないので民法の規定とは異なる合意を契約当事者間で合意することは許容されています。

ですから、会社(個人事業主も含む)と労働者の間で個別に「交通渋滞や流通トラブルの影響で資材や原材料等が入手できなくなったために休業する場合も賃金を支払う」旨の合意がある場合には、労働者はその合意を根拠にして休業期間中の「賃金の全額」の支払いを求めることができるということになるのです。

この場合、会社との間でその合意がなされているか否かどのようにして確認すればよいかという点が問題となりますが、労働者と使用者との間で結ばれている雇用契約(労働契約)の内容は入社する際に会社から交付された雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書あるいは会社の就業規則や労働協約の内容によって定まります。

ですから、仮に会社が交通渋滞や流通トラブルの影響で資材や原材料等が入手できなくなったために休業を決定した場合は、これらの書面を確認して賃金支払いの規定が明記されていないか確認することがまず必要になると言えるでしょう。

なお、その場合の具体的な確認方法は以下を参考にしてください。

雇用契約や就業規則等で個別の合意がなければ、交通渋滞や流通トラブルによる資材・原材料の入手難を理由にした休業で「賃金」を請求することはできない

このように、雇用契約書や就業規則等に「交通渋滞や流通トラブルの影響で資材や原材料等が入手できなくなったために休業する場合でも賃金を支払う」あるいは「天災事変などの不可抗力を除く休業の場合は賃金を支払う」などといったの規定がある場合にはその規定が雇用契約(労働契約)の内容となって当事者を拘束することになりますので、そのような規定がある場合は労働者は会社に対して交通渋滞や流通トラブルで休業がなされた休業期間中の「賃金の全額」の支払いを求めることができます。

では、そのような規定がない場合にはどうなるかというと当然、法律の規定によって判断されることになります。

この点、会社が休業した場合の賃金の支払いについては民法第536条2項の適用に判断されることになりますが、民法第536条2項では以下に挙げるように「債権者の責めに帰すべき事由」の場合に限って債務者の反対給付請求権の行使を保障しています。

【民法第536条2項】

(債務者の危険負担等)
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。(後段省略)

これを雇用契約の場合に民法第536条2項を適用すると、

「会社の責めに帰すべき事由で休業する場合は、労働者は反対給付である賃金の支払いを受ける権利を失わない」

という解釈ができますが、「交通渋滞や流通トラブル」という休業の原因は会社が自らの責任で生じさせたものではなく、交通機構の障害や流通機構の問題によって生じた外部要因と言えますので、「会社の責めに帰すべき事由」によって休業したとは言えません。

そうであれば「交通渋滞や流通トラブル」の影響で会社が休業する場合には、民法第536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」という要件を満たさないことになりますので、民法第536条2項を適用して労働者からの賃金の請求を認めることはできなくなります。

ですから、会社が交通渋滞や流通トラブルによって資材や原材料等が入手できなくなったことを理由として休業する場合、労働者は民法第536条2項の適用を根拠として会社に対し休業期間中の「賃金」の支払いを請求することはできないということになります。

交通渋滞や流通トラブルによる資材・原材料の入手難を理由に休業で「休業手当」の支払いを求めることはできる

以上で説明したように、会社が交通渋滞や流通トラブルの影響で資材や原材料等が入手できなくなったことを理由に休業した場合には、労働者は民法第536条2項の規定を適用して会社に対しその休業期間中の「賃金」の支払いを求めることはできません。

では、休業期間中の「賃金」の支払いを求めることができないにしても「休業手当」の支給を求めることはできるのでしょうか。

会社が休業した場合に支給される「休業手当」については民法ではなく労働基準法第26条の規定にされていますが、労働者がその規定を根拠に会社に対して「休業手当」の支払いを求めることができるのか、問題となります。

【労働基準法第26条】

(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

この点、上記に挙げた条文を見てもわかるように、労働基準法第26条は「使用者の責めに帰すべき事由」による休業の場合に休業手当の支払いを義務付けていますから、仮に会社が「会社の責めに帰すべき事由でない事由」で休業することになった場合には、休業手当の支払いを義務付けられていないということになるでしょう。

そうすると、先ほども述べたように「交通渋滞や流通トラブル」は会社が引き起こしたものではなく、交通機構の障害や流通機構の問題によって生じた外部要因と言えることを考えると、仮に会社が交通渋滞や流通トラブルによって原材料や資材の入手に問題が生じたことを理由に休業した場合であっても「使用者の責めに帰すべき事由」によって休業したとは言えませんから、このような場合は労働基準法第26条の規定を根拠にその休業期間中の「休業手当」の支払いを求めることはできないとも思えます。

しかし、このような解釈は誤りです。

なぜなら、労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」は、民法第536条2項における「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く解釈されており、民法第536条2項の「使用者の責めに帰すべき事由」にならないような経営上の障害も天変地異等の不可抗力に該当しない限り、労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」には含まれると考えられているからです(※菅野和夫著「労働法(第8版)」弘文堂232頁参照、参考判例→ノースウエスト航空事件:最高裁昭和62年7月17日|裁判所判例検索)。

民法第536条2項の規定は、債権者の都合で債務者が反対給付を受ける権利を行使できなくなってしまう危険を債権者に負担させて当事者間の公平性の調整を図る規定に過ぎませんので「交通渋滞や流通トラブル」といった使用者が引き起こしたものではない障害については「責めに帰すべき事由」にはあたらないと判断して、民法第536条2項の適用を排除し労働者からの賃金請求を認めないとしても労働者に酷な結果とはなりません。民法第536条2項の適用を肯定して賃金の支払い義務を認める方が使用者に一方的な不利益を与えることになり公平性を害してしまうからです。

しかし、労働基準法第26条は、使用者が休業する場合に平均賃金の6割の休業手当の支払いを使用者に義務付けることで労働者の最低生活を保障する趣旨で制定された規定と考えられていますから、労働基準法第26条の「責めに帰すべき事由」は民法第536条2項の「責めに帰すべき事由」よりも広く解釈して労働基準法第26条の「休業手当」の支払いを許容する方が労働者の保護という本来の趣旨に合致します。

そうであれば、たとえ民法第536条2項の「責めに帰すべき事由」にあたらない事由であっても、天災事変などの不可抗力にあたらない限り労働基準法第26条の「責めに帰すべき事由」にはあたるものと判断して使用者に休業手当の支払いを義務付ける方が妥当でしょう。

この点、交通渋滞や流通トラブルの影響で原材料や資材の確保に支障が生じたことを理由に行われる休業は、天災事変などの不可抗力ではなく「経営上の障害」と呼べるべきものですから、労働基準法第26条の「責めに帰すべき事由」は「ある」と判断すべきと言えます。

このような理由から、たとえ会社が交通渋滞や流通トラブルの影響で原材料や資材の確保に困難が生じたことを理由に休業する場合であっても、労働者は労働基準法第26条の規定に基づいて会社に対して休業期間中の「平均賃金の6割の休業手当」の支払いを求めることができるということになるのです(昭和23年6月11日基収1998号、菅野和夫著「労働法(第8版)弘文堂242頁参照)。

雇用契約書や就業規則等で休業手当について別段の割合が定められている場合はその金額の「休業手当」を請求できる

以上で説明したように、交通渋滞や流通トラブルの影響で原材料や資材の確保に支障が生じたことを理由に会社が休業した場合には、その休業期間中の「賃金」を支払いを求めることはできませんが「平均賃金の6割」の支払いを求めることはできるということになります。

もっとも、この「平均賃金の6割」の支払いを求める場合のその割合については、雇用契約(労働契約)で別段の定めがなされている場合はその割合によって計算した金額の「休業手当」の支払いを請求することができます。

たとえば、会社の就業規則や労働協約に

「交通渋滞や流通トラブルの影響で原材料その他資機材等に不足が生じ休業する場合、会社は平均賃金の8割の休業手当を支払う」

あるいは

「天災事変などの不可抗力を除いて会社が休業する場合、平均賃金の8割の休業手当を支払う」

などと規定されている場合には、その「平均賃金の8割」の休業手当が支払われることで使用者と労働者が合意していることになりますから、そのような規定がある場合は労働者は休業期間中の「平均賃金の8割の休業手当」を支払うよう会社に対して求めることができます。

もっとも、その場合も労働基準法第26条の規定に違反することはできませんので、たとえば

「…休業する場合、会社は平均賃金の5割の休業手当を支払う」

などと規定されている場合は、その合意自体が「平均賃金の6割」と規定した労働基準法第26条に違反し無効となりますので、仮にその場合に会社が「平均賃金の5割の休業手当」しか支払わない場合は、労働者は「平均賃金の6割の休業手当」の金額からすでに受け取った「平均賃金の5割の休業手当」の差額をさらに会社に対して請求することができるということになります。

なお、このように「平均賃金の〇割」といった合意が雇用契約(労働契約)になされているかどのようにして確認すればよいかという点が問題となりますが、前述したように会社に入社する際に交付を受けた雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書あるいは会社の就業規則や労働協約の内容からそのような規定がないか確認することになるでしょう。