ストライキに不参加だった社員は賃金や休業手当を請求できるか

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会社に勤務する労働者または労働者の所属する労働組合とその会社との間で労働者の労働条件や待遇などで意見の相違が生じた場合、労働者が一定期間就労を拒否するストライキを行うことがあります。

このストライキは憲法第28条で規定された「勤労者の団結権」という基本的人権の社会権的側面から保障されていますから、そのストライキに参加する労働者が雇用契約(労働契約)で義務付けられた労働力の提供義務を拒否し会社の業務遂行を阻害すること自体は全く問題ありません。

もっとも、そのストライキに参加した労働者はそのストライキ期間中、雇用契約(労働契約)で義務付けられた労務の提供義務を履行しないことになりますから、そのストライキ期間中の賃金を会社に対して請求することができなくなります。

そのストライキという争議行為自体は会社側が「会社の責めに帰すべき事由」によって引き起こしたものではなく「労働者の責めに帰すべき事由」によって引き起こされたものとなる結果、それによって生じた休業も「労働者の責めに帰すべき事由」によって生じたものとなり、労働者はその反対給付となる賃金支払い請求権を行使することができなくなってしまうからです(民法第536条2項)。

※ただし、個別の雇用契約(労働契約)や就業規則等で別段の合意があれば、ストライキに参加した労働者もそのストライキによって生じた休業期間中の賃金(または休業手当)の支払いを請求することができます。

しかし、ここで問題となるのが、そのストライキに参加していない労働者の給料(または休業手当)の取扱いです。

ストライキが行われると会社の業務自体が不能に陥るわけですから、労働者はそのストライキに参加するかしないかにかかわらず、就労することができなくなり休業を余儀なくされてしまいますが、ストライキに参加していない労働者までその休業期間中の賃金(または休業手当)を受けられなくなってしまうとなると、ストライキに参加していない労働者に一方的に不都合な結果となるように思えます。

では、このように勤務している会社でストライキが発生した場合、そのストライキに参加していない労働者はそのストライキ期間中の給料(または休業手当)の支払いを請求できるものなのでしょうか。

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就業規則等で規定があればストライキに参加していない労働者は「賃金」を請求できる

このように、勤務先の会社でストライキが発生した場合、その会社の業務遂行が阻害されてしまうことに起因して会社が休業になる場合がありますが、その場合にそのストライキに参加していない労働者が休業期間中の賃金(または休業手当)の支払いを求めることができるのか、という点に疑問が生じます。

たとえば、運送会社のX社で過労運転の改善を訴えてトラックドライバーの労働者らがストライキを起こした結果X社が休業した場合に、そのストライキに参加していない事務員として勤務する労働者がそのストライキ休業期間中の賃金(または休業手当)の支払いを求めることができるのかといった問題です。

この点、そのストライキに参加していない労働者がストライキ休業期間中の賃金を請求することができるかは、まずその会社の就業規則や個別の労働契約等で具体的に支払いに関する規定が合意されているかという点で判断されることになります。

つまり、そのストライキが発生した会社の就業規則などに

「ストライキ等の労働争議によって休業する場合、会社はその休業期間中の賃金を支払う」

あるいは

「天災事変などの不可抗力による休業を除き、会社はその休業期間中の賃金を支払う」

などという規定があれば、そのストライキ休業期間中の「賃金」の支払いを求めることができるということになります。

なぜそうなるかと言うと、そのような規定が存在すれば、その内容が雇用契約(労働契約)の内容となった労働者と使用者の双方を拘束することになるからです。

ですから、勤務している会社でストライキが発生し、その争議に参加していないにもかかわらず会社からスト休業中の「賃金」が支払われない場合には、そのようなストライキに関連する休業期間中の賃金の支払いに関して就業規則や個別の労働契約等で規定がされていないか確認することが必要でしょう。

なお、この場合に具体的にどのようにしてそのような規定の存在を確認すればよいかという点が問題となりますが、会社(個人事業主も含む)との間で効力を生じさせる雇用契約(労働契約)の内容は、入社する際に交付を受けた雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書あるいは会社の就業規則や労働協約に規定された内容となりますので、これらの書面を精査して確認することが必要になります(※具体的な方法等は以下のページで解説しています)。

就業規則等の規定がない場合、ストライキに参加していない労働者は「賃金」または「休業手当」を請求できるか

このように、ストライキに参加していない労働者については、その会社の就業規則やその他個別の雇用契約(労働契約)に規定がありその支払い義務が雇用契約(労働契約)の内容になっている場合には、そのストライキ休業期間中の「賃金」の支払いを請求することができますが、では、そのような規定がない場合にはどうなるでしょうか。

個別の雇用契約(労働契約)や就業規則あるいは労働協約等で「会社はストライキ休業期間中の賃金を支払う」旨の規定がなくその休業期間中の給料の支払いが雇用契約(労働契約)の内容になっていない場合に、ストライキに参加していない労働者がその休業期間中の賃金(または休業手当)の支払いを求めることができるのか、問題となります。

(1)就業規則等の規定がない場合は、ストライキに参加していない労働者が「賃金」を請求することはできない

この点、雇用契約(労働契約)も契約の一つである以上、その判断には民法の契約法の規定が適用とされますが、休業期間中の「賃金」の支払いについては民法第536条2項の危険負担の規定によって判断されることになりますので、まずこの民法第536条2項の規定を確認してみましょう。

【民法第536条2項】

(債務者の危険負担等)
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。(後段省略)

この民法第536条2項の規定は債権者の都合によって債務の履行ができなくなったことで反対給付請求権の行使もできなくなってしまう債務者を保護するため、その反対給付を受ける権利を喪失してしまう不利益(危険)を債権者に負担させて契約当事者の公平を図る規定(危険負担の規定)と考えられていますが、条文では「債権者の責めに帰すべき事由」によって債務者が債務の履行をできなくなった場合についてのみその反対給付請求権の行使を認めています。

つまり、これを雇用契約(労働契約)の場合に当てはめると、「会社の責めに帰すべき事由」によって会社が休業する場合においてのみ労働者はその反対給付請求権である賃金支払い請求権を失わない(行使できる)ということになるわけです。

しかし、先ほども述べたように、労働者が争議行為として行うストライキは、その根本的要因として会社側との間で合意形成ができなかったことにあったとしても、そのストライキという労働争議自体は労働者が「労働者の都合」によって引き起こしたものといえますから、それは「労働者の責めに帰すべき事由」によって発生したものといえ「会社の責めに帰すべき事由」によって引き起こされたものとは言えません。

そうすると、ストライキが発生したことによって生じた会社の休業は「会社の責めに帰すべき事由」によって発生した休業ではないと評価することができますから、そのような場合に民法第536条2項の規定を適用して労働者の賃金支払い請求権の行使を認めることはできないでしょう。

したがって、個別の雇用契約(労働契約)や就業規則等でストライキ休業中の賃金支払いに関する規定がない場合には、たとえそのストライキに参加していない労働者であっても、民法第536条2項の規定を根拠にして会社に対しそのスト休業中の「賃金」の支払いを求めることはできない、ということになります。

※なお、過去の判例(ノースウエスト航空事件:最高裁昭和62年7月17日|裁判所判例検索)でも、航空会社のストライキに参加しなかった地上勤務の労働者がストライキの影響で事実上就労が不可能になり会社から休業を命じられたケースで、その休業期間中の「賃金」の請求は否定されています。
※ただし、先ほども述べたように個別の雇用契約(労働契約)や就業規則等にストライキによる休業の場合における賃金の支払いが規定されている場合は請求できます。

(2)就業規則等の規定がなくても、ストライキに参加していない労働者は「休業手当」を請求できる

このように、個別の雇用契約(労働契約)や就業規則等にストライキ期間中の賃金支払いについて別段の合意がある場合にはストライキに参加していない労働者はそのスト休業期間中の「賃金」の支払いを求めることができますが、そのような規定がなく別段の合意がされていない場合には、ストライキに参加していない労働者であってもその休業期間中の「賃金」の支払いを求めることはできません。

では、「賃金」の支払いを求めることはできないにしても「休業手当」の支払いを求めることはできないでしょうか。

会社が休業した場合には、労働基準法第26条で「平均賃金の6割の休業手当」の支払いが義務付けられていますが、ストライキに参加していない労働者がその規定を根拠にスト休業中の「休業手当」の支払いを求めることはできないか問題となります。

【労働基準法第26条】

(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

この点、上に挙げた条文を見てもわかるように、労働基準法第26条は「使用者の責めに帰すべき事由」によって使用者が休業した場合に限って休業期間中の休業手当の支払いを義務付けています。

そうすると、先ほども説明したようにストライキという争議行為自体が会社が望んで起こしたものでないことを考えれば、そのストライキによって生じた会社の休業も「使用者の責めに帰すべき事由」によって行われたものではないといえますから、たとえそのストライキに参加しなかった労働者であってもこの労働基準法第26条の規定を根拠に会社に対してスト休業期間中の「休業手当」の支払いを求めることはできないように思えます。

しかし、この解釈は正しくありません。

なぜなら、労働基準法第26条の「責めに帰すべき事由」は、民法第536条2項における「責めに帰すべき事由」よりも広く解釈されており、民法第536条2項の「責めに帰すべき事由」にならないような経営上の障害も天変地異等の不可抗力に該当しない限り、労働基準法第26条の「責めに帰すべき事由」には含まれると考えられているからです(※菅野和夫著「労働法(第8版)」弘文堂232頁参照、参考判例→ノースウエスト航空事件:最高裁昭和62年7月17日|裁判所判例検索)。

先ほど説明した民法第536条2項の規定は、債権者の都合で債務の履行が不能になって反対給付請求権の行使ができなくなる債務者を保護するため、その債務者の不利益(危険)を債権者に転嫁させて債権者と債務者の公平を図るための規定ですから、ストライキに参加していない労働者のスト休業期間中における「賃金」請求権の行使を制限しても公平性を害するとはいえません。ストライキという争議行為の発生に直接的な責任のない会社に賃金の支払いを強制する方がかえって公平性を害してしまうからです。

しかし、これに対して労働基準法第26条は会社の休業によって賃金の受給ができなくなってしまう労働者の最低生活を保障するためのものですから、ストライキという争議行為に直接的な責任のない会社に対して「休業手当」の支払いを認める方が労働基準法第26条の立法趣旨に合致すると言えます。

そうであれば、たとえ民法第536条2項の「責めに帰すべき事由」に含まれないストライキという争議行為によって余儀なくされた会社の休業であっても、労働基準法第26条の「責めに帰すべき事由」があったと判断してそのスト休業期間中の「平均賃金の6割の休業手当」の支払いを義務付けるべきと言えるでしょう。

ですから、ストライキによって会社が休業した場合には、ストライキに参加していない労働者は、労働基準法第26条に基づいてそのスト休業期間中の「平均賃金の6割の休業手当」を会社に対して請求できるということになるのです。

なお、過去の判例(ノースウエスト航空事件:最高裁昭和62年7月17日|裁判所判例検索)でも、航空会社のストライキに参加しなかった地上勤務の労働者がストライキの影響で事実上就労が不可能になり会社から休業を命じられたケースで、その休業期間中の「賃金」の支払い請求は認められなかったものの「平均賃金の6割の休業手当」の支払い請求が認められています。

雇用契約書や就業規則で「休業手当」の支給割合が定められている場合はその金額を請求できる

このように、会社がストライキの影響で休業する場合であっても、ストライキに参加していない労働者は労働基準法第26条を根拠にして「平均賃金の6割の休業手当」の支払いを会社に対して求めることができます。

もっとも、その支給される休業手当の割合について別段の定めが個別の雇用契約(労働契約)や就業規則等に定められている場合はその規定に従った金額を請求できることになります。

たとえば、会社の就業規則などに

「ストライキ等の争議行為による休業の場合、平均賃金の8割の休業手当を支払う」

なとど規定されている場合には、ストライキに参加していない労働者はその規定を根拠にして「平均賃金の8割」の休業手当を支払うよう会社に対して要求することができます。

もっとも、この場合でも労働基準法第26条の基準に満たない割合で合意した場合はその不足する部分について無効と判断されますから、例えば

「天災事変などの不可抗力による休業を除き、会社は平均賃金の5割の休業手当を支払う」

なとど規定されている場合であっても、ストライキに参加していない労働者は労働基準法第26条に基づいて「平均賃金の6割」の休業手当の支払いを求めることができますし、また仮に会社から「平均賃金の5割」の休業手当しか支給されない場合は、その支給された金額と「平均賃金の6割」の金額との差額をさらに会社に対して請求することができるということになります。

なお、この場合にも具体的にどのようにしてそのような「平均賃金の〇割」という規定があるか確認すればよいかという点が問題となりますが、前述したように入社する際に交付を受けた雇用契約書(労働契約書)や労働条件通知書あるいは会社の就業規則や労働協約等の書面で確認することが必要となります。

会社が故意にストライキを起こさせた場合は「賃金の全額」の請求ができる

以上で説明したように、勤務先の会社でストライキが生じ、そのストライキの影響で事実上就労が困難になったことを理由に会社から休業を命じられた場合、そのストライキに参加しなかった労働者は、その休業期間中の「賃金」の支払いを求めることはできないのが基本ですが(ただし就業規則などに規定があれば請求できる)、その休業期間中の「平均賃金の6割(就業規則などに別段の定めがあれば6割以上)」の「休業手当」の支払いを求めることは可能です。

もっとも、会社が不当な目的をもって故意にストライキを生じさせたなどの特別の事情がある場合には、民法第536条2項の「責めに帰すべき事由」があると判断して労働者からの休業期間中の「賃金」の支払いが認められるケースもありますのでその点には注意が必要です(※参考判例→ノースウエスト航空事件:最高裁昭和62年7月17日|裁判所判例検索)。

会社がストライキをした場合の賃金や休業手当の支払いについてはケースによって判断が難しい面もありますから、会社から休業期間中の賃金や休業手当の支払いがない場合は、労働基準監督署や弁護士に相談することも検討した方がよいかもしれません。